上海モーターショー2023/NEVの注目車種レポート【01】日米欧メーカー編

今年の上海モーターショーは、今や世界最大の自動車市場である中国で電気自動車を中心としたNEVの台頭と、中国メーカーの技術的躍進を示す場となりました。中国車研究家の加藤ヒロト氏による注目車種レポートを、シリーズ企画でお届けします。

上海モーターショー2023/NEVの注目車種レポート【01】日米欧メーカー編

国家プロジェクトとしての全方位戦略

2023年4月18日〜27日、上海モーターショー2023が4年ぶりのフルスケールで開催されました。上海モーターショーは中国最大規模のモーターショーとして北京モーターショーと1年ごとに交代で開催されていますが、2021年は新型コロナウィルス感染症の影響で規模を縮小して開催された経緯があります。2023年は中国自体の入国も大幅緩和されて海外からの参加も容易になり、筆者も4年ぶりに上海の地に訪れました。

上海モーターショー2023は4年の間で新たに誕生したブランドで埋め尽くされていました。いくつか例を挙げるならば、「ヴォヤー(嵐図、Voyah)」「ディーパル(深藍、Deepal)」「ジーカー(極氪、Zeekr)」「HiPhi(高合)」「タンク(坦克、Tank)」「ライジング(飛凡、Rising)」「IM(智己)」など、どれもここ数年の間に誕生したブランドとなります。

また、燃料電池車(FCEV)の台頭も目立ちました。中国では国家プロジェクトとして燃料電池車を中心とした水素社会にも力を入れています。今まで再生可能エネルギーで電気を作るも、それを十分に生かしきれていないことが社会問題となっていました。そのポテンシャルを最大限に引き出すための手段として水素エネルギーに着目、そして中国の各自動車メーカーも燃料電池車の開発を表明しています。

さらに、最近顕著な傾向が中国各メーカーによる新たなエンジンの開発です。中国は「電気自動車一辺倒」ともよく思われていますが、実はそういうわけでもないようです。ハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)も依然として人気が高く、各社は揃って効率の良さを実現すべく、熱効率が50%に近い新エンジンを続々とローンチしています。

まさに国家を挙げての「全方位戦略」が展開されている中国から、今回は上海モーターショーでお披露目された注目のNEV(BEV 、PHEV、FCEVの総称)をご紹介します。

日米欧メーカーの注目車種

<ホンダ> e:NS2/e:NP2/e:N SUV 序/アコードPHEV

e:NS2

まずは我らが日本の自動車メーカー、ホンダです。ホンダは中国で東風汽車との「東風ホンダ」、そして広汽汽車との「広汽ホンダ」の2つの合弁会社を設立しています。そして2021年10月には両者からそれぞれヴェゼルをベースとする「e:NS1」「e:NP1」という純電動SUVが発売されました。今回の上海モーターショーでは、ホンダがグローバルで展開する電動サブブランド「e:N」の中から、中国向け新車種となる「e:NS2」「e:NP2」のプロトタイプがお披露目となりました。

e:NP2

東風ホンダが製造・販売を行う「e:NS2」、そして広汽ホンダが製造・販売を行う「e:NP2」はデザインと名前の異なる姉妹車です。中国国外のメーカーが中国で複数の合弁会社を有するとき、同じモデルを名前とデザインの異なる姉妹車としてリリースする傾向が一般的です。例として、ホンダでは他に「インスパイア/アコード」「シビック/インテグラ」「エンヴィクス/クライダー」「CR-V/ブリーズ」「UR-V/アヴァンシア」「ライフ/フィット」「エリシオン/オデッセイ」などを、それぞれ東風ホンダと広汽ホンダで姉妹車として展開しています。

すでに販売されている「e:NS1」「e:NP1」はヴェゼルをベースとした純電動プラットフォームを採用していますが、今回お披露目された「e:NS2」「e:NP2」はベースとしている車種がない独自車種となります。プラットフォームは「e:NS1」「e:NP1」と同様のもので、ボディも独特なクーペ風SUVのシルエットが特徴的です。姉妹車であるために基本的な骨格は同じであるものの、前後の灯火類やバンパーの意匠は差別化されており、それぞれの会社が想定する購買層に向けたデザインがなされています。

e:N SUV 序

また、ホンダは他にも中国向け「e:N」シリーズ第3弾モデルのコンセプト「e:N SUV 序」も発表しました。こちらはEV専用の「e:N Architecture W」を採用する純電動SUVとなり、すでに発表されている「e:N」シリーズ車種同様に、東風ホンダと広汽ホンダから姉妹車としてリリースされることが予想できます。

アコードPHEV

BEV以外にも、ホンダはPHEVとして新型アコードのPHEVモデルを発表しました。このアコードは2022年11月に先行してアメリカで発表され、その時に日本を含むグローバル市場で展開することも明かされていました。アコードは特にアメリカと中国では不動の売れ筋車種として認識されており、北米に次いで中国でも正式に発表となりました。そして中国市場では通常のガソリンモデルに加え、独自のPHEVモデルが投入される形となります。ホンダはCR-Vと姉妹車のブリーズでもPHEVモデルを投入しており、これを足がかりに、中国で2030年以降に新投入する四輪車をすべて電動車にする計画をホンダは進めていきます。

日本メーカーではホンダ以外にも、トヨタが中国向けにコンセプトモデル「bZ Sport Crossover Concept」「bZ FlexSpace Concept」の2台を発表(関連記事)しました。

<日産> アリゾン

アリゾン

日産は2日間にわけてプレス発表を行い、1日目はグローバル向けの発表、2日目は中国市場向けの発表となりました。その中でも、日産は新たな純電動SUVのコンセプト「アリゾン」を1日目、アシュワニ・グプタCOO進行のもとで発表しました。

アリゾンは中国市場を想定し、中国にある日産のデザインセンターを主体にデザインがなされました。そのため、デザインの各所には中国、ことに上海をイメージした要素が散りばめられており、例えば、内装には上海を流れる川「黄浦江」の流れや、中国の伝統工芸品からも着想を得ているとのこと。

アリアでは日本が世界に誇る「禅の精神」のもと、組子細工や木目調パネルなどの「和」を感じさせる内装が一つの特徴でした。それに対し、アリゾンでは「中国特有の美」を主題としたデザインを目指している形です。

<ゼネラルモーターズ> ビュイック エレクトラE5

エレクトラ E5

アメリカのゼネラルモーターズが展開するブランド「ビュイック」も今回、新たなBEVを発表しました。ビュイックはアメリカ発祥のブランドではありますが、セダンやSUVの選択肢の多さに加え、中国独自のミニバン車種を豊富に取り揃えていることから、いまや中国の方が本国よりも人気のある市場となっている状態にあります。

ビュイックは、上海モーターショー2023で純電動SUV「エレクトラ E5」を発表しました。「エレクトラ」は1959年から1990年までビュイックが販売していたフルサイズ高級セダンの名前で、今回、その名前がこの純電動のSUVとして復活した形となります。ゼネラルモーターズが展開するキャデラック リリックやシボレー エキノックスEV、ブレイザーEVと同じ「GM BEV3」プラットフォームを強要している車種で、このプラットフォームは2022年に発表されたホンダとGMの共同開発BEVにも使われる予定です。

<フォルクスワーゲン> ID.7

欧州勢メーカーのEVでは、フォルクスワーゲン ID.7の発表が話題を呼びました。ID.7は純電動サブブランド「ID」における6番目のモデルとなり、また、初のセダン(厳密には5ドアファストバックセダン)車種でもあります。

他のIDモデル同様にEV用プラットフォーム「MEB」を採用しており、航続距離はWLTP方式で700 kmを目指すとしています。エクステリアデザインはノーズが短くて分厚いため、全体で見ると若干の不格好さは否めません。特に、同じクラスのフォルクスワーゲン車種と比較すると、その腰高感はより顕著になるでしょう。製造はドイツ本国に加え、中国向けには第一汽車との合弁「一汽フォルクスワーゲン」が中国で生産する予定です。2023年秋ごろに欧州と中国で販売開始、そして翌年2024年には北米に上陸するとしています。

<メルセデス・ベンツ> EQS SUVマイバッハモデル

また、同じドイツメーカーのメルセデス・ベンツからは、純電動SUV「EQS SUV」のマイバッハモデルがお披露目となりました。最高級ブランド「メルセデスマイバッハ」の名前を冠する「EQS 680 SUV」はメルセデス・ベンツのBEVにおける最高峰に位置するモデルで、単に装備が豪華なだけでなく、スペックも向上されています。

通常モデルにおける上位グレード「EQS 580 SUV」が出力400 kW(536 hp)のトルク633 lb-ftなのに対し、EQS 680 SUVは484 kW(649 hp)の700 lb-ftとなり、4MATICシステムから駆り出される0-60 mph 4.1秒の驚異的な加速力を体感することができます。

<BMW> MINI コンセプト エースマン/クーパー SE コンバーチブル

MINI コンセプト エースマン

BMW傘下のイギリスブランド「ミニ」からは2023年2月に公開された純電動SUV「コンセプト エースマン」の展示に加え、ミニ初の純電動コンバーチブル「クーパー SE コンバーチブル」がワールドプレミアとなりました。航続距離(WLTP)201 kmを誇るこのコンパクトカーは999台限定で欧州市場にて販売されます。

日米欧は中国メーカーの勢いに押され気味の印象も

日米欧のメーカーも多くのNEVを発表したものの、全体として中国メーカーの勢いに押されているという印象ではありました。そもそも、出展した中国ブランドの数が「43」に対して中国国外ブランドは「35」と、母数から明確な差が存在します。ことに日本メーカーの出展は発売間近のプロトタイプやコンセプトカーが中心でしたが、今年後半に開催されるモーターショーなどでの市販車公開を期待します。

次回は、中国メーカーの注目車種をレポートします。

取材・文/加藤 ヒロト(中国車研究家)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. 日米欧メーカー編と中国メーカー編の両方を見ると、車のデザインがBEVでも違う。中国の方が、テスラっぽいというか、新しい感じ。発想も新しいのか、違うのか?

  2. 日本のメディアではBEV以外は時代遅れあつかいでHEV(笑)水素(笑)FCV(笑)
    こんなことしてるから日本は遅れるんだ!中国を見習え!てわめき散らしているけど
    その中国がBEV以外もしっかり力入れてるというね
    ほんともうね
    やっぱり日本のメディアは駄目だわ

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この記事の著者


					加藤 博人

加藤 博人

下関生まれ、横浜在住。現在は慶應義塾大学環境情報学部にて学ぶ傍ら、さまざまな自動車メディアにて主に中国の自動車事情関連を執筆している。くるまのニュースでは中国車研究家として記事執筆の他に、英文記事への翻訳も担当(https://kuruma-news.jp/en/)。FRIDAY誌では時々、カメラマンとしても活動している。ミニカー研究家としてのメディア出演も多数。小6の時、番組史上初の小学生ゲストとして「マツコの知らない世界」に出演。愛車はトヨタ カレンとホンダ モトコンポ。

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