【上海モーターショー】トヨタが bZ シリーズとして2024年に発売予定2台のEVを世界初披露

2023年4月18日から27日まで開催された上海モーターショー。発表された新型車のほとんどが電気自動車で、中国を中心とした世界のEVシフトがいよいよ明確になってきた印象です。トヨタもbZシリーズの次期モデルとしてBYDなどと共同開発中の2車種を世界で初めて披露しました。

【上海モーターショー】トヨタが bZ シリーズとして2024年に発売予定2台のEVを世界初披露

上海モーターショーには多数の新型EVが登場!

2022年、中国では前年比8割増となる536万台ものNEV新エネルギー車(BEV/PHEV/FCV)が販売されました。この数字は同年販売された新車全体の2割程度となっています。2022年に日本で販売された新車の台数(420万台)を大きく上回るもので、自動車全体の販売台数も2686万台と2009年にアメリカを抜いて世界トップを走り続けています。政府の後押しもあってNEVの販売台数も急増。現在、中国の新車販売台数の約2割がNEVとなっています。

2022年に536万台ものNEVが売れた理由には中国特有の事情もあります。それは2022年末で中国政府による「購入補助金」が完全に打ち切られたことによる駆け込み需要です。現在は政府による購入補助金は完全になくなりましたが、NEVへの優遇として取得税の免除とナンバープレート発給などはまだ続いています。中国ではガソリン車に対するナンバープレートの発給に上海、北京、杭州などの大都市ではとくに厳しい制限をかけています。クルマを買えばナンバーがついてくるのが当たり前の日本では到底考えられませんが、中国では排ガスを出すクルマの台数を増やしたくない&新エネルギー車の普及を進めるという目的もあってNEVに対する優遇措置をとっているのです。

中国乗用車協会が公表したデータによると、2023年3 月に中国で販売された新車乗用車の約 3 分の 1がNEVとなっています。2022年の1年間合計では5分の1でしたので、補助金がなくなったとしてもそれほど大きな影響はないと言えるでしょう。

世界でもっとも電動化が急速に進む中国ですが、このような中、4年ぶりのフルスケール(上海と北京が1年ごとの開催。2021年はCOVID-19の影響で縮小開催)開催となった上海モーターショー2023にも多数のNEVがお披露目されました。

日本メーカーも日産アリゾンやホンダ「e:N(イーエヌ)」シリーズなどの新車種、そしてトヨタ自動車も市販を前提とした2車種のBEVを世界初公開しました。

bZシリーズ2台のニューモデルをお披露目

bZ Sport Crossover Concept
bZ FlexSpace Concept

2021年の上海モーターショーでは、トヨタ初のグローバルBEV「bZ4X」が発表されましたが、今回発表されたのは、「bZ Sport Crossover Concept」「bZ FlexSpace Concept」と名付けられた2台です。新たに発表された2モデルは2024年中に中国での発売を目指しているとのこと。

トヨタのプレスカンファレンスは上海モーターショー開催初日の18日朝9時にスタートしました。2023年4月1日付で新たに代表取締役社長として就任した佐藤恒治氏はビデオメッセージにて登場。継続して中国現地の企業と提携し電動化にコミットしていくことを表明しています。

トヨタは昨年10月に中国でbZ3(BYDと共同開発したセダンタイプのBEV)を発表し、今年4月から受注を開始しました。販売開始からすでに5000台の注文が入っているそうです。中国市場ではBEVの値下げが相次いでいますが、bZ3も発表時には18万9800元だったのが、今年4月の発売時には16万9800元と2万元(約40万円)の値下げを行っています。

一汽トヨタがシリーズモデルとして生産・販売する「bZ Sport Crossover Concept」は「若い Z 世代の顧客」にアピールする「パーソナル スペース」を提供するConceptで、広汽トヨタが生産・販売する電動SUV「bZ FlexSpace Concept」は実用性に重点を置いたファミリー向け車両となります。

実はプレスリリースにおいてこれら2車種のコンセプトカーはBEVであること以外、車両のスペックなど詳細が明らかにされていません。

どんな電気自動車なのか?

明らかになっていることはbZ Sport Crossover Conceptがトヨタ、一汽トヨタ、トヨタ モーター エンジニアリング & マニュファクチャリング チャイナ (TEMC)、および BYD トヨタ EV テクノロジー (BTET) によって共同開発されていることです。BYDが開発に大きく関わっていることから、先に発売されているbZ3同様、 BYD の ブレードバッテリー技術が採用されている可能性は高いと思われます。

また、トヨタ、GAC(広州汽車)、GAC-Toyota、TEMC が共同開発中の bZ FlexSpace Conceptは、GAC またはその子会社である GAC Aion の EV 技術に基づいている可能性も大きいと考えられます。

現在発表されている2車種について公開されている情報を整理しておきたいと思います。

bZ Sport Crossover Concept

PHEVとBEVの販売で世界を席巻しつつある中国のBYDと共同開発する車種となります。2020年に稼働を開始したトヨタとBYDの合弁会社「BYD TOYOTA EV TECHNOLOGY」主導のもと、若者を想定したスタイリッシュでアクティブなデザインに仕上げられています。実際の市販車は第一汽車との合弁会社「一汽トヨタ」が製造・販売を行います。モデルのコンセプトは「Reboot」であり、乗り込んだ瞬間に気分が変わるという考えを取り入れているといいます。

若いユーザーをターゲットにしており、パーソナルスペースを提供する機能を強調。ドライバー アシスタンスなどのインテリジェント機能を含め、購入後もその機能がアップデートできるように開発されています。BEV含めてこれまでの日本車では少し手薄だったこれらの分野もbZ Sport Crossover Conceptでは充実をはかりました。

ちなみにトヨタがBYDと電気自動車を共同開発するのはこれが初めてではありません。この2つの会社の協力関係は2022年10月に発表されたbZ3ですでに形になっており、今回のbZ Sport Crossover Conceptはそれに次ぐ車種となります。BYDはもともとバッテリー会社として誕生した経緯もあり、リチウムイオンバッテリーに関連する卓越した技術を持っています。そのBYDと、世界的自動車メーカーであるトヨタがタッグを組むことで、より中国市場、中国の購買層に根ざした商品開発を行なっていくという狙いがあります。

2022年12月に中国で予約受注が始まったbZ3。バッテリー容量49.9kWhと65.3kWhの2タイプで価格は16万9800元(約331万円)〜。今のところ日本での発売予定はありません。

bZ FlexSpace Concept

こちらは広州に本拠地を置く中国の自動車メーカー「広州汽車」との共同開発によって誕生したモデルです。

トヨタは広州汽車との合弁会社「広汽トヨタ」を設立しており、現地でのトヨタ車種の製造と販売を行っています。近年では広州汽車がトヨタの名前が入らない自社ブランドで販売するハイブリッドモデルに、トヨタが開発した「トヨタハイブリッドシステム」を搭載する例が見られ、2社は電動化の時代になっても密に連携し、市場の声に耳を傾けた商品開発を行なっています。

bZ FlexSpace Conceptは実用性重視、ファミリー向けのSUVであることを念頭に置いて開発されたとのこと。トヨタはこのモデルのコンセプトを「Cozy Home」(心地よい家)とし、家族が安心して快適に、自由に使える空間をつくることを目指しています。広い室内空間、使いやすさ、先進の安全性、信頼できる航続距離のほか、さまざまなインテリジェント機能を提供しています。家族、友人、カップルが毎日の生活をさらに楽しくするのに理想的な車として開発を進めてきました。なお、サイズ感はbZ4Xと同等かこちらが少し大きめといったところですが、車高が低く設定されているためとてもスタイリッシュな印象を与えます。

bZ Sport Crossover Conceptでは若い世代を中心に昨今の中国で流行りを見せているクーペスタイルSUVで流行に敏感な若者がユーザーになってくれることを想定。一方、bZ FlexSpace Conceptでは大空間かつ居心地の良さを念頭に置いたファミリー層を想定と、2車種の間には明確なターゲットの違いがあります。

若者向けクーペスタイルSUV、ファミリー向け実用的なSUVは、どちらも現代の中国では加熱している重要なマーケットとなっています。

編集部注/EVsmartブログでは原則として発売されるかどうかもわからないハリボテのコンセプトカーは紹介しない方針ですが、今回は2024年には中国で発売すると明言されていること。また、トヨタのBEV戦略が中国市場を軸に構想されていることを感じ取れる内容でもあったので、取り上げることにしました)

2023年4月の新体制発表会にてトヨタは 2026 年までに合計10 モデルの新しい BEV 市場投入を計画していることを明らかにしました。今回発表された2台もその中に含まれています。すでに発売されているbZ3を含めて、トヨタのBEV戦略はおもに中国市場を見据えたもの? という印象でもあります。

同じく2026年までに年間150万台のBEV販売目標を発表しており、新世代のBEVは「はるかに効率的なバッテリーを使用することで航続距離を2倍にすると同時に、心臓を鼓動させるデザインと走行性能を提供する」ことを示しています。日本市場で発売するEVは「はるかに効率的なバッテリー」が完成してからということなのでしょうか。日本市場のEVラインナップがどうなるのか。また、中国を含めた世界で「2026年に150万台」販売できるトヨタのEVの全貌について、さらに新たな情報を期待したいところです。

2022年11月のロサンゼルスオートショーでは、 bZ Compact SUV Concept が出展されました。

今回発表された中国市場向けモデル以外にも、グローバルで展開予定のBEVを何モデルか中国にも投入する予定もあります。電動化における先鋒として知られる中国市場において、BEV、PHEV、HEV、そして中国政府が国策として開発を推進しているFCEV(水素)も含めた「全方位戦略」を展開するトヨタは今後も注目されることでしょう。今回の上海モーターショーでは「2024年、日本国外で水素燃料システム専用の最初の工場が北京で生産を開始する」ことも発表しました。

取材・文/加藤 久美子
写真/加藤 ヒロト

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この記事の著者


					加藤 久美子

加藤 久美子

山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。 一財)日本交通安全教育普及協会認定チャイルドシート指導員の資格を取得し、育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。 愛車は1998年5月に新車で購入したアルファスパイダー(26.5万キロ走行)

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