2025年5月21日〜23日の3日間、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で『自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展YOKOHAMA』が開催され、取材に訪れました。主催は公益社団法人自動車技術会で、1992年に横浜にて第1回を開催、2014年から愛知県名古屋市でも開催されています。EVシフトの動向を知るポイントをレポートします。
※この記事はAIによるポッドキャストでもお楽しみいただけます!
スズキがEV軽トラックの実証実験を開始
ジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)が一般来場者も楽しめるイベントであるのに対し、「人とくるまのテクノロジー展」は、技術者が技術者の展示を見るB2B色の強いイベントです。そのため完成車メーカーだけでなく、サプライヤーや研究試作をおこなう企業などの出展も多く、未来の技術に出会える機会が増える興味深い展示会となっています。

エリーパワー社のプレスリリースより引用。
今回の「人とくるまのテクノロジー展」で私がもっとも注目したのは、スズキブースに展示されていたキャリーベースのEV軽トラックです。このEV軽トラは実証実験のために作られたモデルです。私は機会あるたびに「軽トラックこそEVであるべきだ」と言ってきました。農家で使われる軽トラックのなかには走行距離の短いものも多く、また地方ではガソリンスタンドが減少し、給油に行くために多くのガソリンが必要という不便さがあるからです。私は普通充電だけ、車両価格を抑えられるなら100V対応だけでも十分だと考えていましたが、スズキは斜め上を行きました。
充電ポートはCHAdeMO規格の急速(対応出力など詳細は未公表)のみです。これは農家の自宅や倉庫に設置された太陽光パネルの発電エネルギーをEV軽トラに活用して動く蓄電池としての機能も持たせたうえで日々の農作業や生活の足に使ってもらい、そのデータを収集するのが目的だからとのこと。実証実験をおこなう農家には太陽光パネル、マルチパワコン、コンバータ、家庭用蓄電池、V2Hスタンドが備えられます。
一方、軽トラックはエンジンに代えてモーター&バッテリーを搭載した、いわゆるコンバートEVです。バッテリーはエリーパワー製のリチウムイオン製、バッテリーの容量、航続距離、モータースペックなどは実証実験中のため公表されていませんが、出力は軽トラのガソリンエンジン相当、トルクはもっと高くなる設定です。バッテリーは荷台下に吊されるように搭載されていて、5mmだけ荷台が高くなっています。ベースのキャリーは4WDでトランスファーなどはベース車のものをそのまま流用しています。

スズキBEVソリューション本部の後藤裕太氏。
スズキBEVソリューション本部の後藤裕太氏によれば「農家様なので、ぬかるみなどからの脱出性能も必要と考え4WDとしました。まずは使い勝手が変わらないようにという形で作ってみて、実証実験を進めていきます。電池についてもこれで容量が足りるのか、足りないのかというところも含めて、実証実験です。全部で6台作り、これから各農家さんに配って1年間使っていただきます。車両に通信機器を取り付けて、各種データを常にリモートでモニタリングできるようになっています」とのことでした。

荷台下に搭載された駆動用バッテリー。
このEVキャリーは実際に農家さんに渡された後に農家さんの取材も可能なので、実際に使われている様子もレポートしたいと思っています。
分解されたBYD『U8』のパーツ展示にも注目
次に注目したのが自動車産業調査会社「マークラインズ」がおこなっていたBYD U8の分解されたパーツの展示です。マークラインズが販売台数など各種の「数字」について調査、発表、販売をしているのは知っていましたが、実車を分解までして、そのデータなどを販売するケースが増えているように感じるのも、EVシフトの影響といえるかもしれません。
工業製品のメーカーがライバル車を購入してネジ1本まで分解して研究するのは「リバースエンジニアリング」と呼ばれてよくあることで、それこそ自動車産業の黎明期にはよくおこなわれてきた手法ですが、最近は調査会社が分解、解析作業を代行して販売する商材をしばしば見かけるようになってきました。詳細は多額の料金を支払わないと見られませんが、PRのためとはいえ分解された主要パーツを展示していたのは少し驚きました。
ギガキャスト関連の展示が増えたのもEVシフトの影響か?
次に目に付いたのがギガキャスト関連の展示です。ギガキャストについては製造メーカーが展示しているというより、試作メーカーの展示が目立ちました。クルマはサプライヤーがパーツを作って、自動車メーカーが組み立てるという印象が強いですが、フロアパネルなどクルマの基礎となる部分は最終組立工場で製造されることがほとんどです。もし、ギガキャストという製造方法が採用されるようになったら、その工程は最終組立工場でおこなわれるでしょう。
試作メーカーは以前から鋳造(キャスト)を手がけてきた経験を生かして、ギガキャストの試作にチャレンジしています。話を聞くと、どこも技術的にさほど難しいという印象は持っておらず、自信を持ってギガキャストの試作品を展示していました。
今後、EVシフトが進むのに合わせて、ギガキャストの必要性は増してくるというのが多くの試作メーカーの考え方です。とはいえ、試作メーカーであっても一部にはギガキャストに懐疑的な試作メーカーもいて、「あまり大きくしすぎると生産時はよくても補修性が悪くなるので、やがては使われなくなる可能性もある。どのサイズのものを、どの部位に使用していくかは非常に重要」といった意見も聞かれました。ギガキャストはEVの進化における1つのキーテクノロジーですが、その可能性はまだはっきりしていない印象も受けました。
計測関係に関しても多くの展示がおこなわれていましたが、そのなかからEVに関連のある興味深いものを2つ紹介しましょう。1つ目は東洋電機製造が展示していたインタイヤハウスダイナモと呼ばれる製品です。最初、見かけたときは大型のインホイールモーターかと思ったのですが、それにしては大きすぎます。話を聞いたところ、こちらは計測をするために取り付けるダイナモモーターでした。
一般的なシャシダイナモは床面に設置されたローラーをクルマのタイヤで回してトルクなどを計測しますが、インタイヤハウスダイナモではタイヤの代わりとしてインタイヤハウスダイナモを取り付けて計測するため、設備が大がかりにならないという利点があり、またステアリング操舵も可能なので、ADASや自動運転のシミュレーションも可能だといいます。
次に注目したのは菊水電子工業の充放電試験機。EVやその周辺機器の設計や開発には、充電と放電という作業は切っても切れない関係にあります。とくに放電については、走行して減らすのでは手間、時間、環境負荷のすべてにおいていいことがありません。菊水電子工業の充放電試験機は、1台で充電と放電の両方が可能なほか、放電した電力を再利用できるエコな仕様です。
沖縄県限定の超小型EVはもうすぐ発売
さて、最後に紹介しておきたいのがAIMのEVMという超小型モビリティ。全長×全幅×全高は2490×1295×1560(mm)で、乗車定員は2名。搭載されるバッテリーは9.98kWhのリン酸鉄リチウムイオンで、モーターは14kW/70Nmのスペック。200Vで5時間の普通充電によって120kmの走行が可能となっています。価格はもっともベーシックなモデルで190万円となっています。
なんともキュートなデザインは沖縄のシーサーをモチーフとしています。このデザインは、かつていすゞでビークロスをデザインし、日産の専務執行役員も務めた中村史郎氏が代表のSN DESIGN PLATFORMが手がけています。
AIM EVMは2025年夏から沖縄県限定で発売が始まります。最高速度は60km/hで、高速道路の走行はできない仕様ですが、とくに沖縄のような島しょ部では十分な実用性を発揮するでしょう。最初に紹介したキャリーのEV同様に必要最小限の性能を持たせたクルマといえるでしょう。
人とくるまのテクノロジー展YOKOHAMAはすでに終了していますが、7月16日(水)〜18日(金)の3日間、愛知県名古屋市のAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)にて開催されます。入場は無料ですが、事前登録が必要(当日受け付けなし)ですので、ご来場の際は公式サイトより事前登録をおこなってください。
取材・文/諸星 陽一
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