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テスラが「マスタープラン4」発表/持続可能な豊かさを目指すビジョンやプロダクトとは?

テスラが「マスタープラン4」発表/持続可能な豊かさを目指すビジョンやプロダクトとは?

「持続可能なエネルギーへ世界のシフトを加速すること」をミッションとしてきたテスラが、基本的なビジョンを示す「マスタープラン4」を発表しました。アップデートされたミッションは「持続可能な豊かさを目指す」こと。元テスラの中の人でコンサルタント、前田謙一郎氏の解説レポートをお届けします。

目次

マスタープラン4が示す「持続可能な豊かさ」とは?

テスラが提示した最新エコシステム(テスラIR資料より)
※冒頭写真はテスラ公式サイトから引用。

先週テスラは「マスタープラン パート4」を発表、同社のビジョンは新しいフェーズに入った。テスラはこれまで、EVや自動運転のパイオニアとしてだけでなく、再生可能エネルギー、AI・ロボティクス分野で革新的な事業を展開してきた。最新マスタープランでは、これまでの計画を踏襲しながら、テスラのミッションを「持続可能な豊かさ(Sustainable Abundance)」へ進化させるものだ。

私自身も2016年にマスタープラン パート2 に共感しテスラに入社したが、今回の記事ではテスラのマスタープラン4の全体像を紹介したい。具体的にはテスラが公開したマスタープラン4に関するブログ記事、マスタープラン1~3の内容、そしてプロダクトの現在地を通して、テスラの未来像を考えたい。

持続可能な豊かさ | マスタープラン パートIV(YouTube公式チャンネル)

マスタープラン4はテスラのこれまでのミッションであった「持続可能なエネルギーへ社会の移行を加速する」からさらに進化し、「持続可能な豊かさ(Sustainable Abundance)」を目指すと言うもの。これはAIとロボティクスの統合が鍵となり、人類全体が豊かで安全な生活を送れる世界を実現するという壮大なミッションだ。発表はアメリカ時間の9月1日に行われ、テスラのXアカウントからブログ記事として投稿されている。

この計画の核心は電気自動車の生産やエネルギー製品を中心としつつ、AI駆動のプロダクトやサービスを拡大し、ハードウェアとソフトウェアの統一を図ること。結果としてロボティクスを通じて人類に「豊かさ」を提供し、経済的・環境的な制約から解放された社会を構築する。

具体的には、FSD完全自律運転を備えた電気自動車と自律型人型ロボットの生産を行いながら、エネルギー生成、蓄電池、輸送をシームレスに繋ぎ、ロボタクシーによって共有経済を拡大する。オプティマスは人間労働を代替し、人々が普遍的に高所得、物質的に豊かになり、好きなことができる世界を作ることで、持続可能な豊かさを実現するということだ。マスタープランとはテスラ創業以来の目標を示す北極星(North Star)であり、全てのプランにおいて妥協のない持続可能性を追求している。

マスタープラン1から3を振り返る

マスタープラン1~3 (テスラ公式記事から参照)

マスタープラン4を理解するためにも、これまでのマスタープランについて振り返るとテスラが目指す道がわかりやすい。テスラのマスタープランは、約20年前の2006年、パート1から始まり、それぞれ前回プランが掲げた目標の達成を基に進化している。

最初のマスタープラン パート1(2006年)はテスラの創業ビジョンを示している。この計画では、高級スポーツカー(初代ロードスター)を製造し、その利益で手頃な電気自動車(モデルSとX)の開発、さらに安価な車(モデル3やY)を生産し普及、そしてゼロエミッションの電力生成(ソーラーパネルやパワーウォール)を提供することであった。

パート2(2016年)は、パート1の成功を受けて、地上のゼロエミッション輸送手段をさらに拡大し、エネルギー生産と貯蔵を統合する計画であった。すべての自動車セグメントをカバーできるようEVの製品ラインナップを増やし(サイバートラックやセミトラック)、ソーラールーフとバッテリー貯蔵を美しく統合する。

テスラの車は世界中の実走行から学び、人々が運転するよりも10倍安全ともされるセルフドライビングを開発、車を使っていない間は、その車でオーナーが収入を得ることのできる共有経済を作る。このパート2は私が入社時に共感したポイントであるが、10年近く経ち、改めて2025年の今、FSD開発とフリート共有が実現しそうであることを考えると当時のプランの精度の高さと先見の明には驚くばかりだ。

パート3(2023年)では、世界のエネルギーを化石燃料から完全に切り離し、電気を使ってすべてを動かす方法を技術的に説明している。EV、太陽光や風力による再生可能エネルギー、そして電力を貯めることで、地球全体をクリーンで持続可能なエネルギー社会にする道筋は技術的に可能であり、現在の化石燃料ベースの経済を継続するよりも、少ない投資と資源抽出で可能となる。そしてこの計画はパート4につながり、「持続可能な豊かさ」の実現となる。

マスタープラン4実現への戦略

テスラの次の注力製品オプティマス(提供元:Tesla, Inc. )

テスラがマスタープラン4に提示した制約のない持続可能性は、昨今のAIの影響力、そしてテスラがこれまで証明してきたハードウェアの製造能力によって、現実味を帯びてきたように思う。テスラがこれまで示してきたように、資源の不足は技術革新で解決可能であり、イノベーションは制約をも除去する。

馬から内燃機関車への移行のように、テスラはバッテリー技術とEVで化石燃料依存を打破しつつある。太陽光発電とバッテリー貯蔵はクリーン電力の可用性を高めているし、最近のFSDの進化や世界での展開、そしてロボタクシーは、自律走行が安全性と効率を向上させることを今まさに証明しようとしている。

未開拓市場や小型セグメントへの進出

電気自動車については、現在もテスラの収益の大半を占める重要な事業であるが、今後はFSDによる完全自律運転やロボタクシーの展開にも注力していくことが予測される。これまでテスラは順調に販売と生産台数を伸ばしてきたが、2023年は約180万台、2024年は約178万台と台数は頭打ちになった。モデルYはガソリン車、電気自動車に関わらず、2年連続、世界で一番売れた車種となったが、ブランド全体の台数という観点からは、現在の製品ラインナップのリフレッシュだけでは180万台前後を大幅に上回ることはなく、台数の成長には未開拓市場や小型セグメントへのアクセスが必要になってくる。

実際にテスラは今年から念願のインド市場へ参入を果たしたし、中東での販売も拡大している。特にインドは第二の中国とも言われるポテンシャルの高いマーケットであり、エネルギー事業と合わせて期待が掛かる。今年の第2四半期に発表予定とされていた廉価版モデルは、第3四半期もしくは今年中には発売になるだろう。このモデルによってテスラが従来アクセスできていないセグメントに参入できることになり、200万台以上の販売が見込まれてくる。

FSDによる自動運転とロボタクシー開発

世界展開が進むFSD自動運転(テスラIR資料より)

この廉価モデルやセミトラックの量産開始、中国のモデルY 6人乗り、もちろん次期型ロードスターなども、プロダクトラインナップは確実に増え、ほとんどのセグメントをカバーできるようになった。このような経緯から、テスラはFSDによる自動運転とロボタクシー開発にシフトするだろう。特に最近は監視付きFSDの展開が世界で加速している。

これまでは左ハンドルの米国、カナダ、中国、メキシコなどで認可が下り展開が進んできたが、先日からは初の右ハンドルマーケットのオーストラリア・ニュージーランドで解禁となった。さらに、日本でもみなとみらいでFSDの評価・テストされている動画も公開された。

そして、このFSDによる自律運転の安全性の証明は、今週からのテキサス州でのロボタクシー専用アプリの一般公開にも繋がっている。これまで、テキサスで3回以上のサービスエリア拡大を行い、現在は州全体のライドシェア認可を取得している。一般公開後はフリート台数も増えていくだろうし、今月末以降にリリースされるFSD V14の投入により、さらに人間らしい運転が可能になっていくだろう。

そして、テスラは全国拡大へ向けて、オートパイロット車両技術者(Autopilot Vehicle Operators)の雇用を加速しており、今後はテキサス、カリフォルニア、ニューヨーク、フロリダ、アリゾナ、ネバダなどで展開を予定している。テスラは今年中に全米のほとんどの都市をカバーしながら、来年には北米でのサービス開始を目指している。この完全自律運転を成し遂げた後は、サイバーキャブやロボバンによって自動化がスケールされ、より安全で効率的、そして低価格な交通社会を実現していくだろう。

自動化を加速するロボバンとサイバーキャブ(提供元:Tesla, Inc. )

自律型ヒューマノイドロボット「オプティマス」

地上のほとんどの移動がゼロエミッション化、そして自動化された次のステップは、自律型ヒューマノイドロボット「オプティマス」の本格稼働となる。人間が行う必要のない単調または危険な労働を代替し、人々により創造的な活動の時間を生み出してくれる。

現状では、テスラの工場で意味のあるタスクを行なっており、最新世代(Gen 3)のデザインアップデートも進んでいる。2025年末までに5000台程度のユニットが製造され、5年以内に年間100万ユニットに達する計画だ。イーロン・マスクは、テスラの価値の80%がオプティマスから来ると宣言し、収益ポテンシャルを10兆ドル規模と見込んでいる。将来的な労働力不足の解決は、持続可能な豊かさの鍵となるはずだ。

地球の豊かさから、他惑星化へ

世界で同時中継された3月のテスラ全社員ミーティングにおいても、イーロン・マスクはロボットが労働を代替すれば、普遍的な高所得が生まれ、医療・食料・住宅がすべての人に提供されると語った。イーロン・マスクのビジョンは、時にユートピア的と批判されることがあるが、マスタープラン4の実現は、現在我々が抱える地球温暖化、少子化、貧困など多くの問題を解決してくれる可能性がある。

そして、地球の持続可能な豊かさが達成された次は、マスタープラン5で火星への移住と他惑星化の実現を説いてくれるに違いない。

量産化が進むオプティマス(テスラIR資料より)

文/前田 謙一郎Youtube / x.com

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この記事を書いた人

テスラ、ポルシェなど外資系自動車メーカーで執行役員などを経験後、2023年Undertones Consulting株式会社を設立。自動車会社を中心に電動化やブランディングのコンサルティングを行いながら、世界の自動車業界動向、EVやAI、マーケティング等に関してメディア登壇や講演、執筆を行う。上智大学経済学部を卒業、オランダの現地企業でインターン、ベルギーで富士通とトヨタの合弁会社である富士通テンに入社。2008年に帰国後、複数の自動車会社に勤務。2016年からテスラでシニア・マーケティングマネージャー、2020年よりポルシェ・ジャパン マーケティング&CRM部 執行役員。テスラではModel 3の国内立ち上げ、ポルシェではEVタイカンの日本導入やMLB大谷翔平選手とのアンバサダー契約を結ぶなど、日本の自動車業界において電動化やマーケティングで実績を残す。

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