9月26日から3日間、ベルサール秋葉原(東京)で「Xiaomi EXPO 2025」が開催されている。会場には、日本初上陸となる「Xiaomi SU7 Ultra」が展示されるとのことで、初日の記者発表会に参加し、日本導入はあるのか? を聞いてみた。
シャオミがスマートフォンの発表にSU7を持ち込んだ理由
今回イベントのメインは26日に日本で発売開始となったスマートフォン「Xiaomi 15T/Pro」など、シャオミ製品の発表・展示・販売だが、2024年に中国で発売された電気自動車「SU7」を展示するという。EVSmartブログとして気になるのは、もちろんSU7だ。
持ち込まれたのはニュルブルクリンクサーキットでポルシェタイカンやリマックEVよりも速いラップタイム(7分04秒957)を記録した「SU7 Ultra」だった。このタイムを出したのは、SU7に「Track Package」(中国で購入可能なサーキット走行用チューニングオプション)を装着した市販モデル。会場に展示される車両は、フェンダーリム、ミラー、ルーフのカーボンパーツ、セミスリックタイヤ(ピレリ PZERO TROFEO RS:265/35 ZR21)などからTrack Package装着車両と思われる。
SU7にはスマートフォンのようにモデルやスペックを表すサフィックス(称号のような呼び名)がついている。サフィックスがなにもつかないSU7はRWDの標準モデル。SU7 Proは標準モデルから搭載バッテリーを増やしたロングレンジモデル。SU7 Maxはスポーツタイプで駆動方式はAWDとなる。SU7 Ultraは、さらに3モーターAWDとなり、空力パーツ、ブレーキ、加速性能などが強化される。
日本での最新車両展示は苦労があったとの説明があったものの、シャオミが掲げる「Human×Car×Home」というスマートエコシステムを表現するために、同社の大ヒットEVであるSU7が展示された。
シャオミ(スマートフォン)の日本参入は2019年。これまではドコモやauなど主要通信事業者のショップや量販店での販売がメインだったが、今回のイベントは国内の「シャオミショップ」強化、カスタマーサービスの強化を発表した。
日本市場を勉強中で発売には「もう少し時間がかかる」
シャオミは中国本土ではスマートフォン、タブレットやスマートウォッチなどのガジェット製品だけでなく、チューナーレステレビ、ロボット掃除機、見守りカメラ、ヘルスケア家電なども手掛けている。そして、これらのシャオミ製品は、同社のXiaomi HyperOS(Androidベース)によって統合される予定だ。もちろんこの中にSU7や今後シャオミが出してくるEVも含まれる。
つまり、Human×Car×Homeという同社のグローバル商品戦略の中で、EVの展示が不可欠だったというわけだ。

鄭彦氏のプレゼンテーション。
ならば、当然EV(SU7)も日本市場投入を考えているはずだ。記者発表会でもその質問が投げかけられた。日本発売に向けて意欲的なコメントを期待したが、シャオミジャパンの鄭彦氏(小米技術日本 取締役副社長)の言葉はやや慎重なものだった。
「SU7を展示したのは、ことば(Human×Car×Home)だけでは伝わりにくいコンセプトを、製品の実物展示、体験をしてもらうことで世界観やエコシステムを理解してもらうため。車両の日本発売については、まだ確定した計画などはない。日本はEVの浸透率、認知度も中国とは異なり、充電環境も違う。とくに車両保安基準は厳しいので、調査、学習にもう少し時間がかかるだろう」
日本発売の可能性を考察

シャオミのEVは、SU7、YU7ともに大ヒット。
以下は筆者の考察となるが、シャオミEVの日本発売はそれほど非現実的なことではないと考える。
SU7はEVの中でもプレミアムモデルに分類できる。欲しい人、刺さる人に向けたターゲティング戦略との親和性が高いはずだ。BYDのような日本的なエコシステムを取り入れたディーラー展開ができなくても、ヒョンデのように少数拠点で「手売り」のように顧客をつかんでいく方法がとれる。
シャオミは、2027年に欧州にEVを投入する計画を発表済みである。これも日本導入の足掛かりとなるだろう。EUの主要国と日本はジュネーブ条約に加盟しており、国連の枠組みで各国の車両規格や安全性、自動運転の基準や標準を作っている。EUの基準を満たした車両をベースにすれば、日本市場のハードルをひとつ超えたとみなすことができる。
家電メーカーとしてシャオミを見た場合でも、EVを扱う積極的な理由がある。サムスン、LG、ハイアール、ハイセンス、TCLといった中国・韓国系家電メーカーは、現在AIによるインテリジェント化と家電の統合制御を可能とするスマートホーム化をグローバルで進めている。スマートホーム化では、単に家電をアプリ制御できる時代は終わり、エアコンや太陽光パネルなどエネルギーマネジメントが必須技術となっている。この中にEV充電器、V2Hを組み込んだソリューションを各社が持っている。
SU7(EV)はシャオミのグローバル戦略の切り札

先進的なライフスタイルの一部にEVが組み込まれる。
前述の中国・韓国系家電メーカーは、欧州や日本の老舗ブランドを買収し、白物(洗濯機・冷蔵庫など)から黒物(テレビやオーディオ製品)までフルラインナップをそろえている。ここに得意のAIやIT技術、ヒートポンプ技術を統合する戦略をとっている。
シャオミはスマートフォンやガジェット系に強く、ロボット家電やヘルスケアに強いが、ハイアールやサムスンほど全領域をカバーしているわけではない。だが、シャオミにはEVという他の家電メーカーに先行する領域がある(EVメーカーとしては新参だが)。シャオミ関係者は「まさかSU7があれほどヒットするとは思っていなかった」というが、同社にとってEVは、老舗家電メーカーにはない差別化プロダクツとして重要なポジションを占めているはずだ。
ただし、最終的に日本にEVを展開するかどうかは、日本の市場マインドやインフラ整備状況しだいでもある。自動車は日本の基幹産業のひとつでもある。その技術や市場を盛り上げる意味で、シャオミのEV販売に期待したい。
取材・文/中尾 真二
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