2022年ニューヨーク国際オートショーで垣間見えた「中国EV」の立ち位置

コロナ禍による2年の休止を経て、2022年4月中旬にマンハッタンのジャビッツセンターで開催されたニューヨーク国際オートショーに出展した中国メーカーは1つもありませんでした。

2022年ニューヨーク国際オートショーで垣間見えた「中国EV」の立ち位置

だからと言って、中国勢が話題に上らなかったわけではありません。

世界のこちら側、ニューヨークにも3時間の運転で着くアメリカ東海岸にいる私にとって、イベントは無視するには近すぎました。よって4月13日のプレスデー初日を、自分の目で見ることにしたのです。

自動車とEVが大好物な私は、実際のオートショーに再び訪れることを心待ちにしていました。新しい車を近くで見て触り、エグゼクティブや業界通とショー会場で話せるのに勝ることはありません。また単純に業界の最新トレンドを学び、屋内EV試乗トラックでいくつかの最新EVを運転するチャンスでもありました。

1900年に始まったニューヨーク自動車ショーは北米で最も長い歴史のあるオートショーですが、比較的大きく国際的なデトロイトやLAのショーに比べて、そのスケールは地域的なものになり1ランク下がります。また中国の北京、上海、広州、成都で毎年開催されるプレミアオートショーと比べても見劣りします。

中国ブランドのEVへの注目度

それでも、私は中国EVが話題に上るのは時間の問題だと考えていました。ワールド・カー・アワードの発表中、ベトナムのスマートEVスタートアップであるVinFastの米国進出に関する新しい発表があり、中国のスマートEVスタートアップトリオであるNIO、Xpeng、Li Autoはすべてニューヨーク証券取引所の取扱銘柄です。

そして何と、午前のショーが始まる前、ワールド・カー・アワードが始まって30分も経たないうちに、中国の『ビッグ3』が現在進行形の世界的なEV革命の話題の中でとり上げられました。私達と同じテーブルにいたニュージャージーのフォード・マスタング・クラブ代表の3人の会話が、最近純電気コンセプトカーが登場したマッハ-Eのマスタングブランドの話題から、米国を抜いてリンカーンの最大市場となった中国の話題へ、あっという間に移りました。

私は彼らにマッハ-Eが中国で現地生産されている事を含め、『ビッグ3』がけん引する中国スマートEV市場で何が起きているのかも話しました。彼らは、中国ブランドにはここ米国の電気自動車市場で多くのチャンスがあると話してくれました。

ヒョンデ『IONIQ 5』はニューヨーク自動車ショーの圧倒的な勝者で、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー、ワールド・デザイン・オブ・ザ・イヤー、ワールド・EV・オブ・ザ・イヤーでハットトリックを決めました。実のところ、全部で6つあるアワードの中でEVではないモデルは1つだけ(トヨタ『ヤリスクロス』がアーバン・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得)でした。ワールド・ラグジュアリー・オブ・ザ・イヤーはメルセデス『EQS』、ワールド・パフォーマンス・オブ・ザ・イヤーはアウディ『e-tron GT』に渡りました。2年続けてワールド・カー・オブ・ザ・イヤーはEVに与えられ(昨年はフォルクスワーゲン『ID.4』が獲得)たのです。ここからも新しい兆候と時代が見られますし、EVへの転換点は通り過ぎ、世界が中国に気付いたと個人的には考えました。この先ICEモデルがいずれの賞を取ることも想像できないですし、中国のスマートEVスタートアップが賞を獲得するのも時間の問題で、20年代の半ばには起こると予想しています。

アメリカのEVベンチャーも中国EVの動向を注視

この日、試乗用トラックで VinFast『VF8』、INDI『ONE』、キア『EV6』、ボルボ『C40 Recharge』を含む複数のEVを試乗しました。また IONIQ 5 とフォード『F-150ライトニング』にも各ブース脇に設置された小型トラックで乗ることができました。VinFast VF8 は作りもインテリアを含めたクオリティも驚くほど良いものでした。4月26日にディアボーンのルージュ工場で第一陣の生産が始まるF-150ライトニングは、ICEの兄弟車としてモンスターのようです。IONIQ 5 はサイズの割に驚くほど空間が広く、ピクセルデザインを用いたレトロな見た目で、タッチスクリーンと物理的なボタン両方を使ったバランスの良いHMIを備えています。ワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した理由はこのあたりにあると思います。

しかし最も面白く奇抜なEVは INDI ONE EV でした。私が試した他の自動車はみなプロダクションモデルかそれに近いものでしたが、これだけはまだ完全なるプロトタイプでした。スクリーン下にWindowsアイコンバーが表示されており、パーツが見える穴がいくつも空いていて、載っていても揺れが大きかったです。あれで車を展示してメディアを含め試乗をさせるとは根性があるなと思いましたが、これがスタートアップの心意気というものなのでしょう。

INDI EV Press Conference.

心意気と言えば、記者会見のすぐ後にカリフォルニア発のスタートアップ(INDI EV)のデザインチームを率いる Andre Hudson氏と話すことができました。INDI EV エグゼクティブの多くは中国人で、彼らの影響は大きいと見られます。彼には中国EVスタートアップ勢が米国内に進出することによって起こる競争の可能性について聞いてみました。

「確実にすべての企業と競争になります。素晴らしい商品がありますし、これから2、3年で素晴らしい景色が広がるでしょう。市場に大量に出てくるEVで、何もかもが変わります。自動車のデザイナーとして、4、5年前は中国で何が起きているのか気にしていませんでしたが、今では最もイノベーティブで最新のデザインが見られます。中国の商品に何が起こっているのか、いつ来るのかには常に注意を払っていますよ」

Hudson氏によれば、INDIの戦略は多くのパートナーと協業して開発時間を減らすというもので、展示ブースに設置されたスケートボード・ドライブトレインの前後モーターが、中国の有名な e-モーターサプライヤーである Jing-Jin だったことからも見て取れます。今回のモーターショーに中国ブランドはいなかったと言ったのは誰でしたかね?

VinFast のブースでは、自動車セールス及びマーケティング用のクラウドベースビジュアライゼーション『Zerolight』が、大きなLCDスクリーンで VF8 用に作ったものを展示していました。そのCSOである Barry Hoffman氏は私との短い会話の間で、中国のEVスタートアップや自動車メーカーと協業する道を探っていると話してくれました。中国でベースを固めているスタッフがすでにいるようです。

以上がニューヨーク国際オートショーで出てきた中国(EV)に関する会話です。9月のデトロイトモーターショー、11月のLAオートショーが復活した際には、話題に上った中国スマートEVブランドも実際に出展するかもしれません。

【元記事】 Chinese (EV) narrative at the 2022 New York Auto Show

(翻訳/杉田 明子)

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					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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