ギネス:台湾で107台ほどのテスラ車がオートパイロットでコンボイ走行に成功

台湾のテスラ・オーナーズクラブは、テスラ車でお馴染みの自動運転機能(オートパイロット:AP)を使って、107台ほどがコンボイ(隊列)走行する実験を行い、見事に成功しました。これでギネス記録が更新されました。記録を目指したイベントに見えますが、じつは将来を見すえた大きな意味があります。

ギネス:台湾で107台ほどのテスラ車がオートパイロットでコンボイ走行に成功

台湾のマスコミが大々的に伝えています。大手のTVBSは「罕見!百輛特斯拉國道接龍 同步自駕超壯觀(珍しい光景!100台のテスラが国道を「尻取り」走行。自動運転でつながって走る光景はじつに壮観。」くらいの意味ですね)」と題して伝えています。それ以外のメディアでは、CleanTechnicaなどいくつか伝えているものがありました。2019年9月29日のことです。107台ほどのテスラのモデルS・モデルX・モデル3が参加しました。これまでのギネス記録は55台ですから、56台以上であれば記録更新でした。

せっかく連絡が付いたので、詳しい情報を「テスラ・オーナーズクラブ台湾」のMichael Hsuさんにお聞きしてみました。10日ほど経ってしまいましたが、他では公開されていない画像なども含めて、詳しくお伝えします。なお、記事中の画像・動画は、特に断り書きが無いものは、Michaelさんから頂いたものです。

実験には当日キャンセルが9台出たそうです。ところが、当日飛び入り参加が10台程度あり、合計で107台ほどがコンボイ走行を成功させました。「10台程度」と書いたのは、Michaelさんによると、当日の忙しいなか、飛び入り参加組の人たちと接触する時間が無く、またモデルや色を確認する余裕も無かったからです。記録写真・動画などから、どうやら10台ほどらしい、と考えているそうです。それはそうですよね、主催側は当日はおそろしく忙しいはずです。

モデルは、参加予定者が少し変わったのと、飛び入り参加組の存在から、実数は分かりませんが、モデルSが34台程度、モデルXが最も多く61台、そして発売早々のモデル3が12台ほどです。色は黒と白が最も多く30台ほどずつ、次いで青、赤と続きます。

今回の実験の舞台

今回、コンボイ走行を行ったのは、台湾の北西岸にある苗栗(Miaoli:ミャオリー)県の中心都市「苗栗市」中心部から南に少し行った「銅鑼(Tongluo:トンルォ)郷」です。ここにはテスラの苗栗スーパーチャージャー(台湾華語では「特斯拉苗栗超級充電」と表記します)があります。

台湾の地図。今回のコンボイ走行が行われた苗栗県は、西岸の「台中市」のすぐ上の辺り。台湾の西岸だ。なお、右の海中に沖縄県の石垣島と宮古島が見える。台湾は沖縄の「お隣さん」だ。
台湾の地図。今回のコンボイ走行が行われた苗栗県は、西岸の「台中市」のすぐ上の辺り。台湾の西岸だ。なお、右の海中に沖縄県の石垣島と宮古島が見える。台湾は沖縄の「お隣さん」だ。

お気づきでしょうが、「テスラ」は台湾華語表記では「特斯拉」です。大陸中国語(北京普通話)でもそうです。老婆心ながら、オートパイロットは「自駕」尻取りが「接龍」ですから、「同步自駕」だとオートパイロットで連動して隊列走行(コンボイ走行)という意味になります。

今回の現場は、台湾の首都「台北市」からは120kmほど南に行ったところ。東京からだと静岡県三島市くらいの距離ですね。台湾の新幹線「台湾高鉄」を使えば、郊外にある高鉄苗栗駅で在来線に乗り換えて、苗栗市中心部までは1時間半ほどです。東京駅から新幹線で三島まで行って、私鉄に乗り換えて、温泉で有名な「修善寺」に行くような距離感です。

台湾北西岸の拡大図。右上に首都の台北が見える。実験の現場は、この地図の左下、「13」と「72」の道路番号が見えるが、「13」の辺りが現場だ。台湾北西岸の拡大図。右上に首都の台北が見える。実験の現場は、この地図の左下、「13」と「72」の道路番号が見えるが、「13」の辺りが現場だ。
台湾北西岸の拡大図。右上に首都の台北が見える。実験の現場は、この地図の左下、「13」と「72」の道路番号が見えるが、「13」の辺りが現場だ。

苗栗県は、台湾のシリコンバレーとして知られる「新竹(シンチュー)市」や、台湾中部の中心都市「台中(タイチュン)市」などに隣接しています。

中央上に「苗栗市」が見える。左下のクルマのマークがテスラの苗栗スーパーチャージャーだ。
中央上に「苗栗市」が見える。左下のクルマのマークがテスラの苗栗スーパーチャージャーだ。

台中市といえば、昨今人気のタピオカミルクティー発祥の店「春水堂(日本語サイト)」があることでも有名ですね。私にとっては、台湾銘菓の「太陽餅(台湾華語・中国語サイト)」のほうが印象的ですが……。(台湾の在来線「台鉄」に乗ると、前客が太陽餅を食べたらしい座席がすぐ分かります。粉がいっぱい床に落ちているからです(笑))

客家料理(現地語で「客家菜」)。後からその土地に入る場合が多かった客家の人たちは、痩せた土地か山間地に住まざるを得なかった。そこで、塩漬けや保存食、山菜を使った独特の料理が工夫された。著者も客家料理は好きで、何度か食べに行っているが、炒め物にミントの葉が入っていて、これが案外美味しかったりする。一度ご賞味あれ!台湾政府下のHakka Councilのサイトより転載。
客家料理(現地語で「客家菜」)。後からその土地に入る場合が多かった客家の人たちは、痩せた土地か山間地に住まざるを得なかった。そこで、塩漬けや保存食、山菜を使った独特の料理が工夫された。著者も客家料理は好きで、何度か食べに行っているが、炒め物にミントの葉が入っていて、これが案外美味しかったりする。一度ご賞味あれ!台湾政府下のHakka Councilのサイトより転載。

また苗栗地方は、「客家(ハッカ)」系の人たちが多く住む地域としても知られ、地元の台湾料理はもとより、上海料理や四川料理、湖南料理や海南料理などとは異なった、独特の「客家料理」を求めて訪れる人も少なくありません。

今回のスーパーチャージャーのすぐ近くにも、客家の文化を紹介する博物館「台湾客家文化館(日本語サイト)」があるほどです。(ここまで書くと、筆者が台湾に通っていたことがバレバレですね。筆者はAPECの仕事だけでなく、個人的な繋がりを以て、台湾には10回ほど行っています。新竹地区で実験に参加している三菱i-MiEVを見に行ったりもしています。)

今回の実験の概要

当初、参加を表明して登録したテスラ車は106台でした。当日になって会場に現れたのは、うち97台でした。そこに「飛び入り参加」の10台ほどが参加して、合計「107台」の陣容となりました。前述のように、当日飛び入り参加の方々には詳しい事情が聞けず、10台ほどは確認できましたが、それ以上だった可能性もあるようです。こうしたイベントの運営側の大変さと、飛び入り参加する側の気楽さが差になって現れていますね。

いよいよコンボイ走行ですが、その前に、近くのスーパーチャージャーで、まずは「腹ごしらえ」です。会場の辺りは、「○○科技」と名乗る、コンピューターやICT関連の企業が多く集まる「ミニ・シリコンバレー」の様相を呈しています。

当日の動画もご覧ください。事前の統計どおり、白と黒が目立ちますね。

ということで、無事、ギネス記録の更新に成功しました。でも、台湾のテスラ・オーナーズクラブの皆さんが望んでいたことは、「台湾のテスラ・オーナーが仲良く集まっていることを全世界に見ていただくこと」と、「テスラへの愛を全世界と共有すること」、そして「台湾のテスラ・オーナーも全世界と一体であることを示すこと」でした。大成功でしたね♪

さらに、アメリカをはじめとして、テスラやCEOのイーロン・マスク氏が旧来のマスコミで話題になる時って、「否定的」なニュースが大半ですよね。既得権益の石油利権が蠢動していることは、誰もが見抜いています。そうした「悪意ある逆風」のなかで、「明るくて肯定的」な情報も出したい、と言う意図もあったそうです。成功して良かったです。日本のテスラ、そしてBEVユーザーと連帯して、BEVや再生可能エネルギーを使って「持続可能な社会」の実現に向けて「悪意」をはね返して行きましょう!

コンボイ走行の意味

今回の実験は、一見「ギネス記録を目指した、物好きな人たちの挑戦」に見えなくもありませんが、そう捉えるのは早計です。じつは、車両のコンボイ走行には大きな意味と可能性があります。

自転車レースなどで「スリップ・ストリーム」という言葉を聞いたことがありませんか? 車両が1列になって車間距離を詰めて走ると、全体での空気抵抗を減らせることはよく知られています。自転車では、チームの自転車が1列になって走り、「空気を切り裂く」ために、他の自転車よりも疲労が溜まりやすい「先頭」をローテーションで替えて、チーム全体で疲労を平準化しますよね。じつは、先頭の車両も、単独で走るよりは空気抵抗が減らせることが判っています。

とは言っても、手動で効率の良いコンボイ走行を実現するには、かなりの腕のあるドライバーが台数分必要です。そうしたスキルのあるドライバーでも、何時間もコンボイ走行の緊張に耐えるのはキツいものです。ところが、「機械」なら平気でこなしてしまうのです。しかも、GPSとコンピュータ・ネットワークでつながっている自動運転ならば、たとえば100台の車両を「あたかも1台のように」安全に制御できますよね。

つまり、APはコンボイ走行ととても相性が良いのです。さらに、速度とトルクをごく短時間に正確に制御できる電気自動車であれば、「燃料をシリンダー内に多めに噴くと、回転数が上がってきて、変速ギア装置等にトルクが伝わり、やっと車速が増す」といった緩慢な動作を避けられない内燃車より、はるかに正確な制御が、ごく短い時間内に行われるので、さらに相性が良い、という事実は、当ブログの読者の皆さんには「釈迦に説法」ですね。

最後に、Michael Hsuさんを始め、テスラ・オーナーズクラブ台湾の皆さん、記録更新と世界へのアピール成功、おめでとうございます。次は、機会があったら、苗栗で客家料理を食べながら、筆者も参加してパーティーをしたいものですね。

Michaelさん、テスラ・オーナーズクラブ台湾の皆さん、ギネス記録達成おめでとうございます。そして、貴重な情報ありがとうございました。(Michaelさん、台湾の鉄道情報もありがとうございました。そのうち台湾でお会いしましょう。)

Michael先生、恭喜哩達成吉尼斯記錄!嘛甘謝哩提供的情報。(Michael先生、恭喜你達成吉尼斯記錄!也謝謝你提供的情報。)

(箱守知己:Tom)

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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