スバルの電動化戦略に垣間見えるメーカーの「志」不足

2019年1月20日、SUBARU(スバル)が報道関係者などを対象とした「SUBARU 技術ミーティング」を開催しました。他メディアの報道によると2030年代前半に向けた電動化技術への展望などが語られたようですが、今ひとつ具体的なビジョンが見えません。そこで、ミーティングに出席し、電気自動車への造詣が深い自動車評論家の御堀直嗣さんに緊急レポートを依頼。自動車電動化の本質とは何か? 示唆深い見解を寄せていただきました。(EVsmartブログ編集部)

スバルの電動化戦略に垣間見えるメーカーの「志」不足

次世代を語る内容は乏しいものだった。

SUBARU(スバル)は、1月20日に「技術ミーティング」という記者会見を、本社で大々的に開いた。正月早々の開催であり、2009年に軽自動車のプラグイン・ステラを発表して以来、電動化と距離をとってきたスバルが、いよいよ新たな目標を掲げるのかと期待を胸に参加した。

代表取締役社長 CEO 中村知美氏

しかし、その内容は乏しいものだった。

2018年6月に社長に就任した中村知美代表取締役と、専務取締役で最高技術責任者の大抜哲雄CTOによる1時間以上に及ぶ講演の中で語られた大半は、過去の実績やスバルの伝統についてであり、48ページのパワーポイントシートの中で環境について述べられているのは12ページ(全体の1/4)で、電動化に関してはそのうちの6ページ(全体の1/8)でしかない。

内容を見ると、まず企業活動として、2050年にWell to Wheelで新車平均走行時のCO2排出量を、2010年比で90%以上削減。2030年までに、全世界販売台数の40%以上を電気自動車(EV)+ハイブリッド車(HV)にする。2030年代前半には、販売するすべてのスバル車に電動技術を搭載、とある。

この目標は、「トヨタ環境チャレンジ2050」に酷似しており、トヨタと提携することで電動化の多くをトヨタに依存するスバルの追従姿勢がうかがえる。

HVシステムについては、トヨタ・ハイブリッド・システム(THS)を活用し、これを水平対向エンジンと組み合わせAWD(オール・ホイール・ドライブ=4輪駆動)にするとの話であり、これにより、エンジン横置きHVに後輪用モーターを追加して4輪駆動化する方式に比べ、回生率を高めることができるとの説明があった。制動時には、前輪側へ荷重移動が起こるので、後輪に単独のモーターを取り付けただけでは回生が限られるというわけだ。

専務取締役 CTO 大抜哲雄氏

講演内容について質問したいことがあったが、Q&Aの時間は用意されておらず、その後の懇親会で大抜CTOと話す機会があったので、2030年のEVとHVの比率を質問すると、「今は答えられない」という。広報部によれば、別の機会に追って公開する予定であるとのことだ。

EVについては、トヨタと共同開発することを2019年6月に公表したことに加え、2020年代前半に導入の予定とあり、この点についても大抜CTOに尋ねると、「グローバルでの導入になる」と答えた。日本でも同時に発売するということですねと念押しすると、「そうだ」との答えである。

e-BOXER(イー‐ボクサー)と名付けられたマイルド・ハイブリッドはスバルの独自開発で、SUV(スポーツ多目的車)フォレスターから搭載されているが、それ以外はトヨタの動きと連動せざるを得ないようだ。

それでも、トヨタの寺師茂樹副社長が2019年6月に開催したEV普及を目指す「トヨタのチャレンジ」という記者会見のQ&Aで、今年発売予定の超小型EV以外については、「2030年までに日本市場に適した車種で右ハンドルのEVを導入するつもりでいる」との話に比べれば、若干早い市場投入となるのかもしれない。

とはいえ、2009年のプラグイン・ステラ導入に際しては、独自の構想でEVを開発し、スバルならではの(一充電走行距離の)割り切りと軽自動車としての実用性の両立により、軽自動車らしいEVの価値を問うたのに比べ、自ら未来の理想を描き道を切り拓こうとする志は感じられない会見であった。

2030年代前半の市場投入が予定されるスバル新型電気自動車のデザインスタディーモデル。

エンジン車の代替だけではないEVの価値

トヨタが常に語るように、電動の要素技術があれば、EVなど電動車両は作れるのだろう。だが、HVやプラグインハイブリッド車(PHEV)に比べ、EVは過去のエンジン車の歴史や発展の経緯とは異なる特有の価値観があり、それは量産市販車をつくり販売してみなければわからないことだ。

作れることと、売れることは違う。さらには、停車中にもエネルギーマネージメントに役立ったり、廃車後にも使用済みリチウムイオンバッテリーが社会で役立ったりすることは、エンジン車では経験できなかったことだ。そこまでを視野にEVは開発され、勝つクルマとして優れた商品性を実現しなければならない。

その点の理解不足は、日産や三菱自を除く他の国内メーカーに限らず、欧州の自動車メーカーも同様である。

ことに日産は、初代リーフを発売する前からフォーアールエナジー社を設立し、EVで使用後のリチウムイオンバッテリーの活用法を模索し続けた。10年近くを経た2018年に、ようやく再利用(リユース)のための工場を福島県浪江町に建設し、本格稼働をはじめたのである。EVでの使用済みバッテリーを3段階にグレード分けし、用途に応じた活用がはじまっている。最上級グレードは、EVの載せ替え用バッテリーとしても使われる。

三菱自も、電動ドライブステーションの展開を販売店ではじめ、顧客がワンストップの手続きで外部給電が可能なヴィークル・トゥ・ホーム(V to H)を実現できるようにする取り組みをはじめている。

それらに対し、欧州自動車メーカーのEVは、エンジン時代を踏襲したクルマベストの開発を行い、ことにアウトバーンを持つドイツでの走行を前提とする車種では、バッテリー冷却を液体によって行うため、EVで使い終わったバッテリーパックを分解し、セル単位に分けてグレード分けし、再利用することを難しくしている。

ホンダも、クラリティPHEVでは液体冷却を採用し、それによってリーフに比べ充放電をより高性能にできるとしたが、開発者に廃車後のリチウムイオンバッテリー再利用を尋ねると、そこまで考えていなかったと、愕然とした。

電動化のなかでもことにEV化は、EV後のリチウムイオンバッテリーの有効利用が肝心であり、それなくしてEV普及の意義は半減するのである。

当日の会場風景。

将来も快適な移動を享受するために

さらにそこに、自動運転化とシェアリングサービスによる世界的自動車保有台数の削減が関係してくる。たとえば、日産スカイラインに搭載されたプロパイロット2.0と呼ばれる運転支援機能が、HVにしか採用されずエンジン車には装備できないのは、電動化と深く関連するからだ。

既存の世界約13億台の自動車すべてをEV化するだけのリチウム資源はなく、それだからこそ、自動運転化とシェアリングによって世界の自動車保有台数を減らし、個人の自動車保有(利用)コスト負担を1/7まで削減するというのが、ノーベル賞を受賞した吉野彰氏のAIEV(エーアイ・イーブイ)構想である。吉野氏は、これを実現すれば、環境問題はもとより、資源問題を含め、消費者は快適な移動を享受し続けることができるとする。

さらに言えば、SKYACTIVE-Xを実現したマツダはエンジンの効率を高めれば、Well to WheelにおいてEVとCO2排出量が変わらないとの論調を展開し、水平対向エンジンにこだわるスバルも熱効率45%を目指すとしてエンジンの存続をにおわせる。

だが、世界は再び原子力発電へ向かう動きを見せている。スリーマイルを経験した米国も、チェルノブイリを経験したロシアも、そして言うまでもなく最大のCO2排出国の中国も。これに欧州や、東南アジアも加わる様相だ。しかもその原子力発電は、東日本大震災による福島の事故を起こした軽水炉型とは異なる、より安全な次世代方式を採用する予定である。次世代原子力発電への賛否はさておき、これに再生可能エネルギーによる電力を組み合わせていくと、もはやエンジンの出番はなくなるはずだ。

EVを語るとき、それは単にクルマだけの性能ではなく、我々の将来の生活全般に関わるエネルギーマネージメントまで広がりを持ち、そうした未来を創造することのできない自動車メーカーは、規模の大小を問わず淘汰される運命にあると私は思う。それも、あと10年のうちに市場原理が変わり、事態が急転するのではないかと考えている。市場原理が変わる理由については、また機会があれば語っていきたい。

(取材/文 御堀 直嗣)

この記事のコメント(新着順)9件

  1. レガシィワゴン・インプレッサワゴンに通算15年乗り続けた元スバリストです…水平対向4WDで低重心かつ抜群の操縦安定性を堪能していましたから。
    とはいえ軽撤退やら5ナンバー車終売などでやむなくスバルから三菱へ、今やi-MiEV乗りです。
    スバルがEVに消極的なのは10年前の軽EV対決(プラグインステラvsアイミーブ)で負けたから!!(爆)これがスバルの軽撤退とEV撤退を決定付けた気がします。
    アイミーブは一充電航続距離160km、方やプラグインステラは90km…まだ充電インフラが充実していない時代なので電池容量で決着が付いたのは言うまでもなく、さらに三菱アイのセンタータンクレイアウトやミッドシップ後輪駆動など大容量電池を搭載できた秀逸なプラットフォームが雌雄を決したともいえますよ!?ただ当のi-MiEVもそれほど売れはしませんでしたが。

    スバルは軽撤退と引き換えにアイサイト等安全技術を推し進め、水平対向エンジン+シンメトリーAWDシステムなど他社が絶対真似できない技術で生き残ってきた…それもEV化の流れから逸れた元だと思いませんか!?
    多分いまスバルがEV化へ舵を切ったとしても会社規模が小さく、完全なものは単独では作れないと思います。もしスバルが日産と組んでいればEV再生産できたかもしれませんが、トヨタと組んでしまっては…期待薄だと思いませんか!?要は組んだ相手が悪い。

    歴史にifは禁物ですが、もしスバルが軽から撤退せず電気自動車の研究を続けていたら…それだったら今の自動車産業の地図は少しは変わっていたかもしれませんよ!?

    1. ヒラタツさま、コメントありがとうございます。

      熱い言葉で思い出したのですが、学生時代、新聞配達しながら初めて買った自分の車がスバルレックス、たしか8万円でした。w

      ステラは洞爺湖サミットの時にEVクラブで東京から洞爺湖まで走るチャレンジやりましたが、僕は当時アルファロメオにかまけていたので後方支援。スバルもがんばれーと思ってはいましたが。

      歴史って、後から思えば、がいっぱいですね。

  2. 金がないからこそ小回りも聞くし、いうことを聞いてくれる部品屋さんも少ないので内輪の事情にあまり振り回されません
    (まあ逆に言うと、その数少ない部品屋さんとのおつきあいは濃密になりうる可能性も高い)

    単純に日本社会の高齢化と特に若年層の貧困化(車離れは、あったとしても原因ではなく結果論として)で、中高年の大多数は「とりあえず今までのもの」で何となくエンジン車を選び続け、
    若年層は買いたくても買えない、せいぜい一番安い軽自動車や小型車のラインナップだけ、という現実もあるかもしれません。

    実際日本市場で売れてる新車の上位は軽自動車が並んでます。

    1. ando様、コメントありがとうございます。そうですね、ガソリン車をラインアップし続けると、それをそのまま選択する消費者は多くいると思います。その後、
      – 米国やEU、中国などの主要マーケットでは、ガソリン車が売れると平均排出量が上がり、ペナルティが発生するため、ラインアップされなくなる
      – 電気自動車の小型車や軽自動車も発売され、そちらのほうが安いので、営業車や情報に敏感な層から乗り換えてしまう

      という流れもあると思います。

  3. いやぁ、スバルやマツダくらいの規模のメーカーだとこの辺は「無い袖は振れない」面が大きいのではないでしょうか。株式会社である以上武士は食わねど高楊枝的な対応には限度がありますし、かといって外向けにバカ正直なホンネを言うわけにもいかないでしょうし。
    これを志不足と切って捨ててしまうのは私はあまりに無慈悲と感じます。

  4. スバルユーザーとしては、このようなスバルの発表を残念に思います。
    本文中に出てくるプラグイン・ステラのほか、アイサイトで日本の自動車メーカーとして、予防安全の先駆けとなったスバルの「安全と愉しさ」
    スバルの予防安全機能と、しっかりしたプラットフォームを使ったEVやPHEVに乗ってみたいのですが、次の買い替え時期までに出ないとなると、他社のEVに乗り換えようかなと思います。

  5. スバルの電動化戦略はトヨタと同じということですね。子会社の悲哀のようなものを感じます。
    私ごとですが最近model3が納車され初期型リーフと2台持ちになりました。model3は確かに素晴らしいクルマですが設計思想が航続距離と電池寿命(とパーフォーマンス)に偏っていると感じました。
    消費者に「欲しい」と思わせるクルマを売るという意味で正しい戦略と感じますが、環境という意味ではリーフの方が優れている点も多いと思うのは記事でご指摘の通りです。
    特に待機電力を含めた総合電費では9年前のリーフが最新のmodel3 をはるかに上回っています。
    どんなクルマ、どんな社会が求められているのか今後も興味が尽きません。

    1. モデル3でも待機時の消費電力大きいんですか。ちょっとショックですね。
      でも、待機中の消費って自動車メディアでも取り上げないから、所有してみないと分からないですよね。

      私は旧いロードスターしか知らないのですが、軽いこともあって走行中の電費はとても良く、BMWi3と比べても遜色ないくらいです。 しかし、駐車中の電力は比べようがない大飯食らいです。

      満充電近くでは快適な気温でも一週間で7から9%消えます。電力量にして4から5kWh。

      駐車中も12V電池の充電を維持してくれてるし、イモビライザーなんかも稼働していますが、それにしてもの大電力です。設計が古いからかと思いましたが、最新のテスラもその兆候があるとは残念です。まあ、アメ車ですからね。

      BMW i3の方は2週間駐車しても1%減るかどうかですから、一週間なら0.5%以下です。

      水冷式の分解が面倒というのは確かにあると思いますが、それでも長寿命化の方が省資源なはずで、私はこの評論家の先生の意見には諸手を挙げて賛同しかねます。電池として機能しなくなったら、リユースはできず、莫大なエネルギーを使ってリサイクルしなければなりません。

      リチウムは貴重な資源ですし、浪費が少なく(ここ大事)、長寿命な水冷式電池を長期間そのまま使い続けるのがベストシナリオだと思います。

    2. 私のmodel 3は納車直後3kWh/日くらいの待機放電があり、いろいろ試して今は1kWh/日+くらいに落ち着いています。1年で約400kWhというのは無視できない値で今後EVが増えていくとこの何万倍もの電力が待機放電されることになります。この辺は資源の豊富なアメリカの感覚と違うのかもしれません。
      しかしアメリカ人でも気になる人はいるようで、Tesla Motors Club >Model3 >Battery and Charging のサイトを覗いてみると去年の5月に書き込まれたバンパイアドレインについてのマスタースレッドが未だに2番人気で多くのコメントを集めています。
      ここにはTesla 社からの正式コメントも入っていて駐車時の電力消費が1%程度あること、それが色々な条件(特に低温時)で増すことを認めています。
      EVはまだまだ発展途上なので今後どんどん改良されると思います。Tesla の一人勝ちにならないよう国産メーカーも頑張ってほしいですね。

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この記事の著者


					御堀 直嗣

御堀 直嗣

1955年生まれ65歳。一般社団法人日本EVクラブ理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1984年からフリーランスライター。著書:「快走・電気自動車レーシング」「図解・エコフレンドリーカー」「電気自動車が加速する!」「電気自動車は日本を救う」「知らなきゃヤバイ・電気自動車は新たな市場をつくれるか」「よくわかる最新・電気自動車の基本と仕組み」「電気自動車の“なぜ”を科学する」など全29冊。

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