テスラ『サイバー・ロデオ』の現場から臨場感丸かじりレポート

4月8日(日本時間)、テスラの巨大工場「ギガ・テキサス」竣工を記念して『サイバー・ロデオ』という盛大なイベントが行われました。付近の会場ではテスラオーナー最大のオフ会、TESLA CONも同時開催。両方に参加したTesla Owners Silicon Valley会長、John Stringer氏の協力を得て、現場の様子をお伝えします。

テスラ『サイバー・ロデオ』の現場から臨場感丸かじりレポート

テスラでは工場すらセクシー

『サイバー・ロデオ』はプレゼンテーションだけのイベントではありません。当日は、まず工場見学のツアーからスタートしました。テスラの製品はスタイリッシュさが特徴です。これまでWierdmobile(ヘンテコな見た目の車)ばかりだったEV市場にスタイリッシュな車や充電器などを持ち込み、EVを憧れの存在へと変貌させてきましたが、実は工場も同じコンセプトで作られています。

これまで自動車の工場といえばオシャレとは程遠く、堅苦しいばかりの空間だったというイメージがありますが、テスラでは白い壁に真っ赤なロボットを配置して、誰もがここで働きたいと感じさせるルックスにしました。さらに、このイベントのためにアート作品のような展示を行ったり、妖しいライトアップをしたりして、まるでテーマパークのアトラクションのようです。

John Stringer氏が送ってくれた動画もご覧ください。

しかし、それだけではありません。2016年に初のギガファクトリーがネバダ州にオープンしたときから、テスラでは一貫して「工場も我々の商品の一つだ」と言っています。我々一般人がテスラ車を見てその斬新さに驚いたように、工場やプラントを設計しているプロも、最新のプレス機や合理的なエリア分けなど、テスラの工場の性能に驚いたはずです。

つまり、このイベントの真の目的は、あらゆる層の人に向けて「テスラで働くと楽しいぞ」とアピールすることにあるのです。ここギガ・テキサスは将来的に5万人を雇用する予定で、テスラは優秀な人材を集める効率的な手段をよく心得ていると言えるでしょう。

テキサス・ギガファクトリーツアーの全容

ここからは実際にイベント参加者になった気分で読み進めてください。当日の最高気温は26℃で、とても過ごしやすい快晴です。オースティン国際空港から車でわずか10分。ゲストはまず広大な駐車場に車を停めます。地価の高いカリフォルニアと違って、ここは従業員のために充分なスペースが確保されています。

駐車場からは牛の角をボンネットに乗せたモデルYが牽引するトロリーで正面玄関まで送迎してもらえます。現場からスマホの縦位置撮影で直送された写真をつなぎ合わせたので、ちょっとガタガタな画像で申し訳ないですが、こんな感じです。

この工場は全長が1.1kmあり、招待客はこの日、平均して8kmほど歩いたそうです。工場の外ではカウボーイブーツやテンガロンハット、サボテンなどテキサスらしいオブジェが出迎えてくれます。

ドアをくぐって中に入ると、まず見えてくるのが大型の鋳造部品を作るギガ・プレスです。他メーカーも導入を検討していると思われますが、世界でもこれを作れる会社は少なく、テスラが大量に注文を入れているため、欲しくても手に入らない状況です。

自動車メーカーは企業秘密の塊なので、本来はこのようにプレス機や金型、湯流れ(溶けた金属が金型を巡る様子)を見せることはないのでしょうが、テスラではこのように開けっぴろげ。他メーカーがプレス機を手に入れて適切な合金を開発した頃には「俺たちはもっと先に行っているから、好きに真似していいぞ」と挑発しているようにしか見えません。

テスラが2年前に「Battery Day」で発表した新型バッテリーセルと、それをシャシーの一部に統合した「構造バッテリー」は、ギガ・テキサス生産モデルから導入されることになります。

構造バッテリーに関する、Dirty Tesla氏のツイートを引用しておきます。

注目点は以下の4つです。

【1】 バッテリーパックにフロントシートの台座が乗っています。本来はボディを作ってから、ドアを取り付ける前に曲芸のようにシートをくねらせて車内に入れて、きつい姿勢で車内の組付けを行いますが、この方式ではバッテリーパックに先にシートを取り付け、ボディの下から合体させるため作業が楽で時短にもなります。

【2】 円筒形のバッテリーとドアの間に黒い緩衝材が見えます。これにより側面衝突の際にバッテリーまで被害が及ぶリスクを減らし、衝突後の車両火災を防止するとともに、重量物がより車体の中心にまとまるため、旋回性能を高めてくれます。

【3】 円筒形のバッテリーの中にはクルクルと丸められた薄いシートがあります(左下の写真)長さにして4 mぐらいでしょうか?従来の電池だと電子はこの距離を移動して充放電していたので発熱も多かったですが、新しい方式では電子が写真で言う横方向に移動します。10 cmにも満たない距離を移動するだけのため、バッテリーが熱を持ちにくく、急速充電やスポーツ走行の性能が増します。

【4】 最後に右下の写真ですが、奥の方に製造したバッテリーを初回充電する棚が見えます。これは新型の円筒形バッテリーをギガ・テキサスで製造していることを示しており、このシステムが完成しているということは、そう遠くない将来に他の工場にもこれが複製され、飛躍的に生産台数が伸びるということです。

工場見学の各所では軽食などを配布

ここまででやっとツアーの半分です。後半もどんどん歩いていく気分で進みましょう!

入口で渡されたお土産袋には軽食の引換券があり、各所でサンドイッチやペットボトルをもらえます。

こちらは最終組み付けラインです。フリーモントと比較するとゆったりとしているように感じますが、無人搬送ロボットが通る道や部品の棚、工具類などを考えると最終的にはタイトになってくるでしょう。モデルYは45秒に1台のペースで送出されていくらしく、生産効率コンサルタントのサンディー・ムンロ氏によると、これはフォルクスワーゲンも舌を巻く驚異的な速度だそうです。

マニアにしか分からない(けどテスラは自慢したい)工場セクションを抜けると、次は車両展示コーナーです。コンセプトモデルのモデルSやモデルXも展示されていましたが、何より注目を集めたのが、来年から生産される予定のサイバートラック、次期ロードスター、そしてSemiです。

動画はこちら

この頃になるともう日が暮れ始めていて、展示物に美しい背景を添えてくれています。

動画はこちら

サイバートラックは少しずつ改良されており、間近で見られる良い機会でした。この動画で注目すべき点をピックアップしておきます。

【1】 ドアノブが廃止されて、Bピラーのボタンのようなものに変更された。
【2】 充電ポートの位置が判明(リヤオーバーフェンダーに切り欠きが見えます)。
【3】 フロントオーバフェンダーにサイドカメラ。
【4】 フロントバンパーの中央に10個目のカメラ。でも風の噂では、イーロン・マスクは廃止したいとか。
【5】 ワイパーは1本の長いアームに、小さなワイパーブレードが2つ。しかし発売時には別のものになると予告されています。
【6】 リヤクォーターパネルの後端を見ると、鉄板がむき出しになっていて、これに後ろから追突したらスパッと車体が切れそう。もちろんこれはプロトタイプで、量産品はエッジの処理をすると思われますが、それにしてもハンマーで叩いてもびくともしない車に衝突したらどうなるんだろうと考えさせられます。

鉄板むき出しのリヤクォーターパネル後端。

ロードスターは発表以来、特にテクノロジーに関するアップデートがないため、以前と同じプロトタイプです。ただ、量産車はこれよりももっとすごいということなので、大人しく次の情報を待ちます。個人的にはロケットブースター搭載車両は、日本で整備するのにJAXAに行かなきゃいけないのかどうか、知りたいです。

Semiは物流業界に大きな影響をもたらすでしょう。36トンの荷物を牽引しながら0-100km/hを約20秒で駆け抜け、大きな音も排ガスも出さないので幹線道路沿いの住民に優しい仕様です。オートパイロットや隊列走行などの先進技術も予定されており、ドライバーの負担を軽減してくれます。日本での問題は軸重が重すぎて古い橋の耐荷重を超えないか心配なことです。

動画はこちら

オマケとしてオプティマス君も展示されておりました。これもFSDのプログラムで自律的に歩くようですが、車と違ってゆっくりと動けること、立ち止まれることなど、データ収集の観点から車と違った知見が得られそうです。あまりバッテリーが積めなさそうですが、航続距離はどのぐらいなのでしょうね。遠くに行くときはRobo Taxiに乗って、車内のチャージャーから充電をするのでしょうか。これも早ければ来年生産ということなので、続報を待ちたいと思います。

この後、すぐ横のメインステージで、イーロン・マスク氏が登壇してのプレゼンテーションへと続きます。

イーロン・マスク氏のプレゼンテーション概要

プレゼンについては、すでに様々なメディアで大まかな説明は全てされているので、この記事ではハイライトにとどめます。

【1】 冒頭にこれまでの歴史を振り返り、従業員に感謝を述べる。
【2】 最終的には人間の運転より10倍安全になるFSD(完全自動運転)のベータプログラムを年内に北米のFSDオプション購入者に配信する。
【3】 工場のレイアウトは集積回路にヒントを得て、原料から最終製品まで最小限の動きで完成するようになっている。

FSDコンピューターのチップ。
ギガ・テキサスの区画。

【4】 将来的にギガ・テキサスが世界最大のバッテリー工場になるだろう。
【5】 ギガ・テキサスでは前後大型鋳造部品+構造バッテリーの車を作る。
【6】 モデルYだけで50万台/年を目指し、サイバートラックも量産化が軌道に乗ったらこの工場だけで年間100万台以上を生産予定。
【7】 テスラは全世界で年間100万台ペースで販売しているが、将来は世界シェアの20%を獲得したい。ただし、営利目的というよりは、持続可能な社会への転換を加速させるために必要なシェアを獲得するとのこと。
【8】 Robo Taxi(自動無人タクシー)専用モデルを作り、とてつもない台数を生産する。
【9】 オプティマスも「上手く行けば」来年バージョン1を出せる「かも知れない」。これはEV以上に社会を根底から変えてしまうだろう(声のトーンから、多分来年は無理だと思います)。サイバートラック、Semi、ロードスターを来年作る(こちらは声のトーンに自信が満ちていました)。
【10】 次回のイベントでサイバートラックにまた鉄球を投げて、今度こそ防弾仕様であることを証明する。

ここでイベントの中継は終了します。一日歩き回って足も棒のようだし、夕食もまともに食べていないですが、興奮冷めやらないゲストたちは、遅くまでイーロン・マスクと話すチャンスを伺いながら会場に残っていました。

テスラオーナー最大のオフ会『TESLA CON』

泥のように眠ってから起きた翌日は、テスラ・コンベンション・テキサス、略してTESLA CONが待っていました。ここではテスラ関係のインフルエンサーたちが一同に介し、それぞれの得意分野で自らの意見を語っていました。

参加者は先程も登場したコンサルタントのサンディー・ムンロ氏、株の世界からはGerber Kawasakiのロス・ガーバー氏、ユーチューバーはStarmanの衣装で知られるイーライ・バートン氏、そしてテスラ従業員以外で初のFSD Betaテスターとなったジョン・ストリンガー氏、その他英語圏のテスラメディアでは誰もが知っている方たちと、全米から集まったテスラオーナーたちが、ただ一方通行のプレゼンを聞くのではなく、とても近い距離で互いに意見を交換しあっていました。

動画はこちら。

動画を見るとマスク着用率はかなり低く、とても密な状況なので、アメリカはすでに通常の生活に戻りつつあるのだなと感じます。

ところで、日本でも2022年6月5日(日)に、千葉県木更津市でテスラオーナーズクラブジャパン(TOCJ)の全国ミーティングを開催する予定です。詳しくはTOCJのウェブサイトをご覧ください。

恒例のトリビアコーナー

最後に、私がテスラのイベントレポートを書く際の恒例となっている、トリビア紹介のコーナーです。

その1。イーロンが壇上に乗り付けた黒いロードスターは、彼のマイカーで車台番号(VIN番号)000001。ちなみに宇宙に打ち上げたのはVIN 000686。

その2。「ギガ・テキサスにはハムスターを1940億匹詰め込むことができる」とは?ハムスターの話はギガ・ネバダの竣工式で「ここにはハムスターを500億匹詰め込むことが」に由来しています。今後もギガファクトリーはハムスターを何匹詰め込めるかが尺度になるのかも知れません。なお、東京ドームでいうと約8.5個分です。

その3。イーロンのスピーチの中に、こんな一節があります。
We needed a place where we can be really big. And there’s no place like Texas.
(本当に巨大な工場を立てる場所を探してた、テキサス程うってつけの場所はない!)
観客がワーッと湧くのは、テキサスの、下記のキャッチフレーズに由来しているからです。

「テキサスではなんでもデカい」とはまさにそのままで、土地が広大なため家も大きく、車も大型車ばかり。オースティンの高速道路の制限速度は全米で最も高い85 mph。食べ物も一人前が大きく、とても「テキサスな体型」の人がいっぱいいます。だからこそ「大きい工場が建てたいからテキサスに来た!」というと地元民は歓喜するのです(知らんけど)。

その4。テキサスのキャッチフレーズでもう一つ有名なのがDon’t mess with Texasです。「テキサスなめんなよ!」という感じの意味合いですが、この標語は80年代のポイ捨て防止運動に由来しており、Don’t mess(散らかすな)と掛けたジョークでした。ギガ・テキサスを記念して作られたカウボーイベルトバックルにも、よく見るとDon’t mess with Teslaと書かれています。

その5。これはトリビアというより勝手な予想ですが、「とんでもない数の未来的なRobo Taxiを作る」という言葉を紐解くと、この車もステンレス製のポリゴンみたいな車なのではないでしょうか? 塗装も不要だし、多少手荒に扱われても大丈夫だし、簡単に作れるため、大量生産に向いています。また、世界シェアの2割(2000万台)を取りたいと言っていましたが、半分以上はロボタクシーが占め、車好きでもない限りマイカーを所有しない世界を想像しているのではないかと思います。

その6。構造バッテリーの冷却方式を見ると、4680セルなのに側面冷却をしています。そして注目すべきなのはクーラントのチャックの構造です。現在のPlaidや最新のモデル3よりもさらに効率化されており、作りやすく、組み立てやすく、漏れにくい形になっています。早くムンロ氏に分解してほしいですね。

その7(女性やお食事中の方は閲覧注意)。ギガ・テキサスの男性トイレは便器までもサイバーだった。

その8。日本のテスラ車のソフトウェアには含まれませんが、新しいモデルは自分で音楽やライトの点灯パターン、窓の開閉などを自由にプログラム可能なライトショーという機能が含まれています。テスラでは工場の一角にズラッとモデルYを並べて陽気な音楽を流しながら見事にシンクロしたダンスを披露していました。国交省のみなさん、楽しそうでしょう? 許可してくださいよ~。

いかがだったでしょうか? この工場はまだ敷地の半分も使われておらず、さらにテスラが購入した用地にはギガ・テキサスをあと数個建設できる余裕があります。その一つ一つから年間100万台の自動運転対応EVを生産し、ガソリン車のシェアを奪っていくのでしょう。半導体不足やパンデミック、ウクライナ情勢などが落ち着くとみられる2023年あたりが、今から楽しみでしかたありません。

最後に、自分もイベントを楽しみたいであろうに、懸命に写真や動画、コメントを送り続けてくれたTOC SVのジョン氏に改めて感謝の意を表したいと思います。

John Stringer氏(写真左端)と、テスラオーナーコミュティのキーパーソンやインフルエンサーの皆さん。

(取材/John Stringer 文/池田 篤史)

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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