発表から5年。ついにテスラの大型トラック『Tesla Semi』が納車される……のか?

2017年に衝撃のデビューを果たしたTesla Semi(テスラ・セミ)。社会情勢により、当初より納車予定が伸びていますが、ついに2022年12月1日、第1号車がペプシコに納車される事になりました。本記事ではSemiのスペックのおさらいと、排出ガス規制Euro7に関する予想をまとめます。特に大型フリートを抱える物流業者の皆様にご覧いただきたい内容です。

発表から5年。ついにテスラの大型トラック『Tesla Semi』が納車される……のか?

編集部注※本記事で書かれている機能やサービスは米国仕様のものです。為替レートは1ドル145円で計算しました。

ディーゼル車に対するアドバンテージ

Semiはヘッドだけなら0-100km/h加速が5秒、車両総重量36トンの荷物満載状態でも20秒と、驚異的な運動性能を誇ります。ギヤチェンジが不要なこと、発進時のトルクが優れていることからこのようなパフォーマンスが実現できます。

Tesla Semi Acceleration(YouTube)

回生ブレーキを多用するためブレーキパッド/シューは「半永久的に」(会見時の表現)減らず、オイル交換もなく、アドブルー(ディーゼル車の排ガス浄化のための尿素水)も不要です。充電代は2017年の発表時点で1kWhあたり10円を約束していたので、満充電で1万円前後ということになります。

これらを総合して、トータルの維持費でディーゼル車よりも2割安くなるとされています(軽油96円/L、電力10円/kWhでの試算)。維持費など全て込みで走行1kmあたり114円で運用できることになります。さらに、将来的にトラック3台で隊列走行ができるようになるとディーゼル車より5割安く運用できるため、貨物列車よりも安いことになります。

Semiは壊れるパーツも少ないです。パワートレインは160万キロ保証、フロントガラスは強い衝撃にも耐えられ、モーターも複数搭載されているから1つや2つ故障しても整備工場まで自走可能です。Semiはとにかくダウンタイムを減らすことを念頭に作られています。

鉄の塊が当たっても割れないガラス 右がテスラ。

オートパイロットを標準装備しているためドライバーの心身への負担が大幅に軽減されるだけでなく、万が一ドライバーが意識を失っても車両を安全に停止させ、自動的に救急車を呼ぶ機能を備えています。さらに、複数のモーターを独立制御することで急ブレーキ時のジャックナイフを防止し、ヘッドの重心が低いため突風に煽られても横転するリスクが少ないです。

最先端のコネクテッド機能も搭載され、遠隔診断や予知保全、テレメトリ確認など、フリート管理者が欲しい情報はテスラアプリを経由して確認でき、データに基づく経営判断が簡単にできるようになります。

Semiの課題と解決策

もちろんEVトラックはディーゼル車より不利な面もあります。真っ先に思いつくのが航続距離ですが、Semiは約500kmと800kmの2グレードを用意しています。少ないように感じるかもしれませんが、これらは総重量36トンで時速100kmで走行した場合で、もっと荷物が軽い場合は当然距離が伸びます。

法律ではドライバーは4時間の運転ごとに30分の休憩を取ることが定められており、30分あればSemi専用充電器「メガチャージャー」で最大650km分を充電可能なため、充電待ちの時間を無駄にする心配はありません。

@hwfeinsteinさんのTweetから引用。

メガチャージャーがない遠隔地でも、荷役時間を充電に使えるようバースに充電器を設置したり、早着して付近で寝ているドライバーがいるなら施設内に停めさせて朝までゆっくりと充電をさせるのも効率的です。

もう一つの課題が重量です。ヘッドの重量が多いと最大積載量が減るし、軸重が重すぎると特定の橋や道路を通行できないなどの問題も出てきます。しかし、ヨーロッパではすでにゼロエミッションの大型トラックは最大2トンまでの重量増をしてよいと定められています(アメリカは900kg)。日本でも同様に重量のデメリットは法改正によって軽減されるかもしれません。

最後に、これは課題ではないのですが、未だに「EVは雪山で立ち往生したら終わり」という方がいるので説明しておくと、Semiはバッテリー容量に対するドライバーの電力消費量が圧倒的に小さいため、除雪されるまではエアコンを付けてテレビを見ながら電気ポットでお湯を沸かしてカップ麺をすすり、夜は一酸化炭素中毒を気にすることなくぐっすり眠っても、翌朝バッテリーが1%減っている程度です。

Euro7規制の流れは日本にも?

2025年から導入される予定のEuro7(欧州排ガス基準) ですが、Euro6よりもとても厳しい内容になることが予想されています。それを象徴するのが下の図です。排出ガスの規制値そのものが低くなっているだけでなく、低温時や急加速、上り坂などあらゆる条件で規制値を満たさなくてはいけなくなる可能性があります。

出典:欧州自動車工業会

Euro7 を満たすディーゼル車はエンジンを始動する前に電気ヒーターで触媒を加熱させたり(キーをひねってもすぐにエンジンがかからない)、条件によっては出力を絞られたりするし、長時間アイドリングもできなくなり、とても不便になります。

この流れは日本にも来ると予想され、フリートを段階的にゼロエミッショントラックに置き換えざるを得なくなるのであれば、今からSemiの予約を入れておくのも手です。

アメリカでは今年12月に1号納車

予約と言えば、5年前のSemi発表直後にペプシコ、ウォルマート、UPSなど、アメリカの大手企業が相次いで数十台、数百台規模の予約を入れました。当時の価格は500kmと800kmバージョンがそれぞれ15万ドルと18万ドル(2175万円と2610万円)でしたが、今ではもう予約を受け付けておらず、次回予約可能になったら値上げすることは間違いないでしょう。ただ、EVは初期投資こそ通常のディーゼル車よりも高額ですが、維持費や燃料代が安く、Semiは寿命を通じてディーゼル車よりも20万ドル(2900万円)もの節約効果があるそうです。

納車予定は当初2019年後半とされていましたが、コロナ禍や半導体不足で延期になり、次に2021年第4四半期とされていましたが、それもバッテリー供給の目処が立たず延期となりました。界隈では「またいつものイーロン・マスクの甘い見通しか」と言われていましたが、先日テスラとペプシコの両社から2022年12月1日に1号納車が行われると発表があったため、今度はオオカミ少年にならないで済みそうです。

まとめ

トラック業界ではSemiが発表された頃は電動化に否定的な意見が多く見られましたが、最近では「物流のEV化は可能なところから始まる」と言われ始めています。国土交通省の資料によるとトレーラの89.1%は1運行の平均走行距離が500km以下なので、ほとんどの車両をSemiに置き換えることができます。

出典:国土交通省

コストにシビアな物流業界だからこそ、EVトラックの経済性が知れ渡ったら日本でも注文が殺到することは目に見えています。今のうちに手待ち時間や積み下ろし時間から逆算して自社の物流センターに必要な充電設備の出力を計算したり、自社フリートの走行距離からどのメーカーの車両を何台購入するかといったシミュレーションを重ねておくことで、EVトラックへのシフトが始まったときに優位な状況を築けるのではないでしょうか。

(文/池田 篤史)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. Semiは海外のGVW36t規格用で、そのまま日本導入は無理。日本でも使えるサイズ且つGVW25t以下のタイプが出てからだろう。
    大型トラックは70万kmもの距離を走るので、できればバッテリーのメーカー保証が欲しい。
    後、かなり大型のバッテリー(Semiのフルで4t位か?)の為に、火災時の消火の絡みで規制が入るかもしれない。
    積載重量が軽くルート固定の路線バスなら適正が高いので、先ずはそこから。死に体の日野自動車は自社製EVバスの開発を加速してもらいたい。

  2. BEVトラックの環境負荷低減は、ラストマイルや中距離で最大限発揮されると思うので、正直Tesla Semiのようなトレーラヘッドタイプで長距離大容量運送は効率が悪すぎるのでは?と思う。
    いくら急速充電が可能といっても、やはり短時間で大電力で充電するのは、電池に対する負荷が大きすぎる。
    電池は使い切ったらデッドウエイトになるし、限りある資源(特にNMC系金属とかリチウム)を大量に消費して効率の悪いでかいトラックに積みまくるのは、個人的にはLCA観点で悪手だと思う。
    それより、MINICAB-MiEVとかVolta Truckの中トラックをつくって、素直に長距離は燃料電池トラックが環境負荷とか資源効率の点ではよさそう。
    まあ電池スワップとかもありますが、中国の様な強烈なインフラ整備とか法整備、スケールメリットがある国ならともかく、他の国では難しい気がします。

  3. いよいよ12月1日に第一号車の納車ですね。世界中で待ちに待った納車です。世界中の物流インフラが大きく変わった記念日として、後世に残る事でしょう。テスラを研究し、テスラに追いつき、追い越せという意気込みを日本のトラックメーカーにも期待します。

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この記事の著者


					池田 篤史

池田 篤史

1976年大阪生まれ。0歳で渡米。以後、日米を行ったり来たりしながら大学卒業後、自動車業界を経て2002年に翻訳家に転身。国内外の自動車メーカーやサプライヤーの通訳・翻訳を手掛ける。2016年にテスラを購入以来、ブログやYouTubeなどでEVの普及活動を始める。

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