電気自動車の商用バン『ASF2.0』試乗会〜マーケットインの車作りとは

佐川急便やマツモトキヨシなどが導入を進めている商用バン『ASF2.0』のメディア向け試乗会が10月4日、東京・お台場で開催されました。リース販売するコスモ石油マーケティングは、配送ドライバーの意見を集約した「マーケットインの車作り」をアピール。言葉通りに実用性の高さを実感できました。

電気自動車の商用バン『ASF2.0』試乗会〜マーケットインの車作りとは

EVベンチャーによる軽規格の商用EV

ASF2.0は、EVベンチャー企業のASF(本社・東京都千代田区)が、日本向けにゼロから設計・開発した商用バン。軽四規格のフルサイズです。乗車定員は2人で後部座席はありません。

フロントマスクは、ちょっとSFアニメっぽいデザイン。親しみが持てますね。30kWhのリン酸鉄リチウムイオン(LFP)バッテリーを搭載。航続距離はメーカー測定値で209kmです。充電口は急速充電(CHAdeMO)と普通充電(J1772)がフロント部についています。

まずは試乗した印象から。挙動はおだやかで軽やか。アクセルをラフに踏み込んでもドカンと加速したりはしません。といってパワーやトルクが不足しているわけではなく、荷崩れを防ぐためのチューニングだそうです。同様に回生ブレーキもゆるやかな効き具合。平坦な道路で空荷での試乗だったので、上り坂や満積載時はまた印象が変わるかもしれませんが、ハンドリングも軽快でした。

運転席重視の快適空間

ASF2.0の最大の特徴は、こういう車が欲しいというユーザーの声を集約した「マーケットイン」の車作り。開発には佐川急便が全面協力していて、現役配送ドライバーなど約7000人のアンケート結果を反映させているそうです。短い時間でしたが、試乗して「なるほど!」と思わせてくれた部分を紹介していきましょう。

作業やランチに便利なステアリングテーブル。

天井が高く、車内空間が広く感じられます。試乗会なので、すぐ前にもASF2.0が走っていたのですが、最初は一般の車だと思っていました。ずいぶん小さく見えたからです。同じ車と気づいてビックリ。じつは助手席と運転席のサイズが違っていて、運転席の幅が広くなっているのも、そうした錯覚の一因かもしれません。窮屈に感じないのは、ストレス軽減につながりそうです。

運転席の天井に高輝度LEDを追加。

運転席には、一般的なマップライトに加えて、天井に高輝度LEDを追加。夜間の配達で伝票を確認したり書類に記入したりという作業を楽にするためです。また、かさばる伝票などを整理・保管できるように、サンバイザーの上部やセンターコンソールなどあちこちに収納スペースを取っています。

ナビもオプションで組み込めるそうですが、USB接続でスマホの画面をセンターディスプレイに表示できるようになっています。それぞれが使っているナビアプリを大画面で活用できるということですね。

メーターには、警告灯やドライブモードなどのほか、SOC(充電率)と航続距離を表示。左側に速度(km/h)がデジタル表示され、右側にはリアルタイムの消費電力(kW)が出ます。アクセルを戻すとマイナスで回生電力が表示されるのはいいですね。

最小回転半径は4.4m。ちょっとした場所で切り返さなくてもUターンできたり、狭い路地で右左折するときなどに軽四らしい取り回しの良さを感じられるでしょう。

誤発進警報機能や車線逸脱警報機能、衝突被害軽減ブレーキなどの各種安全機能を備えるほか、独自に開発されたのが、自走事故防止システム。ドライブ(D)レンジに入れたまま、運転者がシートベルトを外してドアを開けると、自動でパーキング(P)レンジに切り替わります。乗降を繰り返す配達業務でのうっかり事故を防止する機能です。

荷室はもちろんフルフラット。長さ1,690mm、幅1,343mm、高さ1,230mm。段ボール箱(小)が45個積めるそうです。床面地上高は660mmと一般的な高さ。サイドのスライドドアを開けたところの床下部分に収納スペースを確保。畳んだ台車などを収めることができます。これは間違いなく便利。荷室の天井にもLEDが埋め込まれていて、荷札などを確認しやすくなっています。

悪天候でも仕事は休めませんし、路上に停車する機会も多いので、横長の尾灯とバックフォグランプで視認性を高めています。これもリクエストがあったそうです。

AC100V1500Wのコンセントも装備

給電機能(V2L)も装備されていて、センターコンソールに100Vコンセント(1500W)が1口。「コンセントが欲しい」という要望が多かったとのこと。私はノートパソコンぐらいしか思いつかなかったのですが、配送ドライバーの業務上ACコンセントがあると便利なツールもあるのでしょう。もちろん災害時などいざという時にも役立ちます。

V2Hも開発中で、バーチャルパワープラント(VPP)利用も見据えてマイナーチェンジのタイミングで対応できるようにしたいとのことでした。

気になったのは、モーターなのかインバーターなのか、高周波の作動音が車内に伝わってくることぐらい。これも、マーケットインでドライバーのみなさんからリクエストがあれば改良されるかもしれませんね。

コロナ禍の前に、豊洲市場の友人を手伝って、軽四の内燃車で都内の飲食店へ鮮魚の配達をしていたことがあります。試乗しながらその時のことを振り返っていました。ラストワンマイルに必要な機能は揃っています。仕事一途の相棒って感じです。

リース価格は月額2万5000円~

千葉県印西市の検査施設に並ぶASF2.0(ASF提供)

さて、気になるお値段です。コスモ石油マーケティングによると、リース価格は走行距離によって変動するのですが、月間1000~2000kmの走行距離のケースが示されました。72ヶ月(6年)契約で、事業用(黒ナンバー)の場合は月額2万5000円~2万8000円、自家用(黄ナンバー)なら同3万3000円~3万6000円です。支払い総額は180万円~259万2000円。車検費用・税金・メインテナンス費用込み。かなりリーズナブルな価格を打ち出しています。

すでに佐川急便とマツキヨココカラ&カンパニーが導入を発表しています。現時点で佐川急便に6台、マツキヨに50台を納入済み。佐川急便には7000台納入することを発表していますが、現役車両がリースを更新するタイミングで順次納入を進める計画で、5~6年かけて納入完了となる予定とのこと。

ASFのCTOで車両開発部部長の山下淳さんによると、ASF2.0は現在、並行輸入車として登録していますが、今年度中に輸入自動車特別取扱制度を申請して、さらにできるだけ早期に型式指定認証の取得を目指しているそうです。「2024年度に5000台、25年度には数万台の販売に持っていきたいと思っています」と話していました。

コスモ石油のEV推進&脱炭素施策にも注目

コスモ石油マーケティングの岡田正常務。

試乗会に先立って「コスモ脱炭素施策プレゼンテーション」も行われ、コスモ石油マーケティングの常務、岡田正さんから、同社のEV戦略について説明がありました。

EVの導入を機に、企業の脱炭素化をトータルでサポートする「ゼロカボプラン」の提案を進めていく、というのが主題になっていました。EVリースについては、全国840ヶ所のコスモサービスステーションが車検やメインテナンスを担当し、補助金申請から任意保険加入、エネルギーマネジメントやカーシェアのシステムまでサポート。導入側は、太陽光パネルや充電器の設置も相談できて、さらに実質CO2排出量0の電力「コスモでんきグリーン」にも加入することで、RE100やRE Actionの参加も支援してもらえるという内容です。

「我々はエネルギーを供給し続けますが、その中で新しいモビリティーサービスも提案しています。その柱になるのが、ワンストップで提供できるメリットを打ち出したゼロカボプランです」と岡田さん。

「2010年にスタートしたコスモMyカーリースはいま、10万台を超えるご利用がありますが、商用15%マイカー85%という比率です。ゼロカボプランによって、BtoB(商用)の分野でマーケットを広げていきたい」

ゼロカボプランは、日産リーフなど他社のEVでも利用できますし、コスモ石油マーケティングとしてもユーザーの希望に沿った全方位販売の立場は崩していませんが、岡田さんは「現時点ではASF2.0がイチオシです」と話していました。「商品として差別化が図れているので、私たちとしても提案しやすい。世の中にどう受け入れられるのか楽しみ。ワクワクしています」。

商用EV市場は、スズキ、ダイハツ、トヨタの共同開発車やホンダN-VAN e:の参入が発表されて一気に活気づいていますが、コスパも中身も優秀なASF2.0、群雄割拠の中でもかなりの存在感を発揮しそうです。

ASF2.0 主要諸元
全長×全幅×全高3,395×1,475×1,950 mm
ホイールベース2,430mm
荷室床面地上高660mm
車両重量1.130kg
最大積載量350kg
最高出力30kW
最大トルク120Nm
乗車定員2名
駆動用バッテリーリチウムイオン電池(LFP)
総電力量30kWh
一充電航続距離209km(メーカー計測値)

取材・文/篠原知存

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 沖縄在住の76歳で現在リーフに乗っております。小型のEV があれば乗り換えたいと思っていたところこの記事を拝見。夫婦二人で日常使いのほか60キロほど離れたゴルフ場へ行ければ良いので魅力的です。BYD の未発売ですがシーガルを候補にして検討しておりましたが、選択肢が増えたようです。使用者のレポートなど続報を楽しみにしています。

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この記事の著者


					篠原 知存

篠原 知存

関西出身。ローカル夕刊紙、全国紙の記者を経て、令和元年からフリーに。EV歴/Honda e(2021.4〜)。電動バイク歴/SUPER SOCO TS STREET HUNTER(2022.3〜12)、Honda EM1 e:(2023.9〜)。

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