自動運転車の商用運転が開始、Google、メルセデス、日産自動車、テスラは?

先週のニュースで、Uber(ウーバー)が米国ピッツバーグで自動運転車を商用運転するというインタビュー内容がリリースされました。

自動運転車の商用運転が開始、Google、メルセデス、日産自動車、テスラは?

Uberについてあまりご存じない方もいらっしゃると思いますが、実は日本でも一部ハイヤーやタクシーの会社のサービスを活用して、アプリで配車(正確な迎車時間・ドライバー名と評判・車種とナンバーを表示、行き先は入力可、精算はカードで自動で自分は到着後降りるだけ)を行っているサービスです。全世界ではなんと百万人のドライバーと契約しており、文字通り世界最大のタクシー会社となります。CEOのTravis Kalanick氏はこの百万人のドライバーをすべて自動運転車に置き換える計画です。

ではブルームバーグビジネスウィークのインタビュー記事より、概要だけ翻訳してお伝えしましょう。

  • 2016年8月中に、Uberはピッツバーグの中心街で、ユーザーがスマホアプリで自動運転車を指定した場所に呼べるようにする。これは世界初である。
  • Googleはこの領域でリーダーとみなされており、数年に渡ってテストを繰り返している。テスラモーターズは「オートパイロット」と呼ばれる運転支援システムをすでにベータの形でリリースしているが、完全な自動運転ではない。フォードはUberのような自動運転ライドシェアリングサービスを開始すると先週発表している。
  • ピッツバーグで使用される車両はUber専用に改造されたボルボのXC90 SUVで、何十ものカメラ、レーザー、レーダー、GPS受信機などのセンサーを搭載し、当面は運転席に人間が乗車、助手席にもコパイロットとして記録を取る担当スタッフが乗車する。
  • 現時点でボルボは数台の車両を納車しており、年末までに100台にする予定。
  • ボルボとUberは合わせて300億円相当を投資し、2021年までに完全な自動運転車を開発することで合意している。
  • Uberとボルボの契約は排他的ではない。Uberは7月にも91名の自動運転トラックを開発する会社Ottoを買収している。
  • Googleやテスラと異なり、Uberは自分で車を製造することはせず、ボルボを始めとして自動車メーカーと契約し、他の車用の「自動運転キット」を開発する予定だ。
  • Uberは大量の運転データを保有。現時点では人間が運転しているが、1日あたり100万マイル。
  • ピッツバーグでは、ユーザーはいつも使用しているUberのアプリで配車できる。自動運転車はランダムに割り当てられ、それが当たった人は料金は無料となる。
  • ピッツバーグを流れるアレゲニー川を渡る橋を含む走行テストでは、チャイムが一回鳴って人間のドライバーが運転を開始。数秒後にチャイムが再度鳴って、車両は自動運転モードに復帰した。コンピュータが運転を困難だと判断したら人間に頼る仕組み。
  • Uberのシステムでは、特に橋が困難である。Uberはここ1年半に渡って、道路やレーンだけでなく、ビルや道路の穴、路上駐車、消火栓、信号機、街路樹などピッツバーグの街にあるものすべてを記録した、超詳細な地図を作成してきた。車が走行すると、データが自動的に収集され、トランクルームに設置されている液冷のコンピュータがそのデータを既存の超詳細地図と比較し、歩行者や自転車、犬なども含めいろいろなものを判別したり避けたりする。橋の両側にはビルなどの建物がなく、状況判断が困難。
Google Self-Driving Car
Google Self-Driving Car

自動運転のテクノロジーは、事故などの不安や法整備の遅れをよそにどんどん開発が進んでいますね。テスラによれば、エアバッグが動作したことを「事故」と定義すると、自動運転モード中のモデルSは、自動運転モードでない時より2倍弱安全なのだそうです。
NHTSAによれば、米国においては1億5千万km走行ごとに1名の死者が出るそうですが、先日のテスラのオートパイロット中の死亡事故は初であり、テスラの報告では、それまでにオートパイロットモード中の走行は2億kmにものぼっているとのことです。つまり、車両を自動運転化することにより、飲酒運転やスマホを見ながらの運転は事実上ゼロになるため、ソフトウェアが多少ミスをしたことにより事故が発生しても、人間のミスの回数よりは少なく、トータルとしてはより安全になる、と考えられているようです。今後は、自動運転車が実際に本当に「より安全である」ことのデータによる証明と、自動運転モード中の事故の責任の所在や事故処理方法、法的な整備が大至急求められていくと思います。

最後に、Uber、Google、メルセデス、日産自動車、テスラ各社の自動運転の比較をしてみましょう。

事業者名目指す自動運転レベルステータステスト地(または販売)2016年8月時点での自動運転走行距離自動運転(支援)の内容
Uber3(当面はドライバー乗車)ドライバー乗車で商用運転開始(ただし無料)米国ペンシルベニア州ピッツバーグ市0km一般道も含むレベル3自動運転を目指すが、現在は熟成段階のため、ドライバーが乗車して適宜オーバーライド(=交代)する
Google4開発・テスト中米国カリフォルニア州マウンテンビュー市、テキサス州オースティン市、ワシントン州カークランド市、アリゾナ州フェニックス市240万km完全に無人で走行できるレベル4
メルセデス22016年2月から発売中全世界(日本含む)不明前車追尾クルーズコントロール(車速制限なし、停止まで)、レーンキープ、レーン逸脱警告、ウィンカー操作による自動車線変更
手を離しても最大1分間走行可能
日産22016年8月発売予定(セレナ)日本0km前車追尾クルーズコントロール(30km/h以上、停止まで)、レーンキープ、レーン逸脱警告
手を離すと10秒間で運転支援モード解除
テスラ22014年10月より既存の車両の無線アップデート開始。モデルS・モデルXの2車種販売中全世界(日本含む)2億km前車追尾クルーズコントロール(車速制限なし、停止まで)、レーンキープ、レーン逸脱警告、ウィンカー操作による自動車線変更
手を離しても約6分間走行可能

2017 Mercedes Benz E-Class
2017 Mercedes Benz E-Class

日産やメルセデス、テスラは自動車メーカーで、実際に車両を販売していますから、現状では自動運転ではなく自動運転支援に留まっていることが分かりますね。この、人間のドライバーが主役で、車は補助的な役割を持つシステムは自動運転レベル2と呼ばれていて、事故の責任は人間にあります。レベル3では車が主役、人間は補助的な役割になり、レベル4では人間ドライバーの乗車は不要になります。なお、レベル3とレベル4では、事故の責任は車にあると考えられています。だからと言って車に損害賠償を請求するわけにもいきませんから、法的な何らかの仕組みが必要になりますね。
しかし考えてみてください。仮にレベル3自動運転車の事故は車メーカーが責任を負う、ということになったら、「当たり屋」のようなケースはどうなるのでしょうか?相手が一個人でなく、支払い能力が大きい、他人の評判を気にする自動車メーカーだとしたら、損をするのは誰なのでしょう。これ一つ取っても、レベル3-4自動運転車の法的責任の考え方には、大きな課題があることが分かると思います。

新型日産セレナ
新型日産セレナ

人間の運転と同じで、自動運転車のスキルも今後重要になってくるでしょう。車の運転には様々な例外があります。例えば信号が青になったらすぐ発進してよいでしょうか?いえ、そうではありません。ゆっくり車を前に出し、交差点内が見通せる位置で安全に通行ができることを確認してから速度を上げる必要があります。信号でダッシュしていく人などいませんよね。歩行者や自転車、さらには左右方向の車が信号を守るとは限らないからです。狭めの路地で母親らしき女性が一人で自動車の前で道を渡り終え、反対方向を振り向いたら?子供が急いで交差点内に走り込んでくる可能性が予見できます。これらのスキルは蓄積が必要ですが、スキルに加えて詳しい地図情報も重要になると思われます。歩行者や自転車の多い場所、工事中の場所、一時的な交通規制の変更、落下物や障害物など、様々な情報を収集し、地図に書き込んでいかなければなりません。
ほとんどの自動運転車はDNN=深層学習(ディープラーニング)を実行するための機械学習インフラを装備しています。これらは地図に加えて、リアルタイムに障害物を認識・検知し、車が走行してよい通り道を自動的に探し出すのですが、これにも走行データが必要となります。

Tesla Model X
Tesla Model X

今後、自動運転のレベルが上がるにつれ、カメラやレーダー、レーザー、Lidarなどのハードウェアのセンサーテクノロジーの進化だけでなく、車両が実際にカメラで「見た」道路状況のデータから超詳細地図を作成したり、それらをDNNに供給してより多くの例外に対応できる、より賢くなった頭脳部分を車両にダウンロードできることが求められてきます。人間は二つの目と二つの耳だけで情報を収集しながら運転していますが、自動運転車はセンサーで実際に道路や周辺の情報を見るだけでなく、他の自動運転車がそこを過去に走行した際のデータを参考にし、さらにDNNによって安全に通行できるレーンや障害物を検知し、危険なパターンを予知することで、より安全に運航することができきます。
自動運転には様々なリスクが伴いますが、実際に車を走行させて地図の詳細化・DNNの学習を進めなければ、車の自動運転性能を高められないというジレンマもあるのです。これからは自動車メーカー、法整備を進める国や地方自治体、そして車を所有するユーザーが協力して、自動運転環境の整備を進めていく時代になると言えるでしょう。

この記事のコメント(新着順)2件

  1. こんにちは、昨夜のテレビ東京ワールドビジネスサテライトのコメンテーターが、1.5〜2のテスラが自動運転中に事故を起こした事に言及していました。
    自身のくるまを運転中の赤信号時に見たので前後のコメントは細かく覚えていませんが、非常に短略的で、新型セレナの優位性を表現したいだけの様でした。
    それぞれが競争しより良いものを開発してもらいたいです。
    クラッシックシグネチャーオーナーより^^;

    1. タカシマ様、お世話になっております。コメントありがとうございます。なるほど、そういう報道がなされているのですね。自動運転に関しては、本当にデータに基づいて、各メーカーはより安心して乗れる車の開発に時間をかけていただきたいと思います。イーロンマスクは自動運転のほうが手動運転より安全だ、と言っているわけですからね。
      ちょっと話題は外れますが、一つセレナのニュースを調べていて思ったことがあります。日産の「ドライバーに慢心させない」という考え方。確かに、便利や楽は慢心を生むのですよね。そのあたり、自動運転レベル2は課題がある気もします。
      私もクラシックのシグネチャーなんです。お揃いですね。P100Dは気になってます(笑)

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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