※トップ画像はGM公式サイトより引用。
そもそも公用車はアメ車では?
もちろん、ほとんどの車がフォードやGMなどのアメリカメーカー製ですが、実はトヨタなども採用されており、その基準は「50%以上の部品がアメリカ製である」ことだそうです。つまり、米国の工場で作られている車であればメーカー問わず、だいたいはこの要件を満たしているのです。しかし、そこを逆手に取って、エンジンやフレーム、ガラスなどの重要部品を海外から輸入して、付加価値の低い部品や、あまり雇用を生み出さない部品で50%を達成している車も「米国製」として政府に販売されていました。
バイデン大統領はこの法の抜け穴を塞ぎ、雇用を創出しているかどうかに焦点を当てて「米国製」の定義を改めると宣言しました。いつ実現するのか明示していないですが、税金の使い方としてはとてもいい政策だと思います。
全てEVになると、いくら節約できるのか
では、公用車が全てEV(もしくはその他の実質排出ゼロ車)に置き換わるとどうなるのか、手元のデータから予測してみました。計算は非常に大雑把なものですが、大体の方向性は合っていると思います。
2020年、概算ですが合計65万台の公用車が14億1700万リットルの燃料を消費して、72億キロを走行しました。つまり平均燃費は5km/Lとなります。65万台のうち、アイドル時間が長い軍用車とストップ・アンド・ゴーの多い郵便配達車が6割を占めるため、平均を押し下げていると考えられます。
アメリカの市場平均価格はガソリンがリッター61.3円、ディーゼル(軽油)が69.8円、E85(バイオエタノール系代替燃料)が95.2円です(2020年12月Google調べ)。乱暴な計算ですが、仮にどの燃料でも同じ燃費だとすると、1042億円になります(燃料別の車両の構成比は2016年データを参照)。
アメリカの乗用車や小型トラックなどをすべて含めた平均燃費は10km/Lなので、5km/Lの公用車はその半分で運用されていることになります。しかし、EVはストップ・アンド・ゴーやアイドル時の電費がいいので運用効率75%と仮定しましょう。ガソリン車の7.5km/LはEVで言うところの4.5km/kWhに相当するので、72億キロ走るには16億kWh必要です。アメリカの電気料金は平均で13.7円/kWhなので、219億円しかかからない計算になり、燃料費と電気代の差額だけでも823億円を節約できることになります。
インディアナ州バーガーズビルの警察はテスラ モデル3をパトカーに採用して、従来のダッジ チャージャーと比較したところ、燃料費とメンテナンスコストだけで1台あたり年間70万円節約できた事例もあり、イギリスでは車の排ガスに起因する医療費が年間8500億円を超える報告もあるため、燃料費以外にも様々な要素で節約効果が期待できます。
EVシフトによる雇用創出に言及
日本メーカーの経営陣は、世の中がEVばかりになると雇用が減ると心配していることが伝えられていますが、バイデン大統領は「EVシフトにより100万人の雇用を創出する」といいます。自動車メーカーやサプライヤーにはEVや関連部品を組み立てる工場の建設費や改修費にインセンティブを出し、充電ステーション55万箇所を新たに設置、クリーンエネルギーの研究予算も増額するようです。
もちろんEVシフトが進むとエンジン設計者はキャリアの見直しを迫られるし、マフラーを製造している企業は業種転換を余儀なくされます。一方で、例えばアメリカの郵便配達車は全米で22.5万台あり、EVスタートアップ企業のWorkhorseが契約を獲得するのではないかと噂されているし、アマゾンの配達車は同じくスタートアップ企業のRivianが10万台を納入することがすでに決まっています。ソーラーパネルの設置容量も増加の一途をたどっており、EV時代になっても全体として雇用が減ることを避けようとしています。社会の変革に対していよいよ前向きなアメリカの現状を見ると、むしろエンジン業界に最後までしがみついている方がリスクが高いのではないかとすら感じます。
日本でも千葉県市川市が全ての公用車を電気自動車に置き換えていくことを発表したり、いくつかの自治体でEVのゴミ収集車を導入したり、日本郵便が郵便配達車に三菱ミニキャブ・ミーブバンを採用するなど、少しずつEVシフトが起きつつはありますが、政府の大きな方針はまだ曖昧です。節税と自動車産業の保護のためにも、バイデン大統領のように大胆に舵を切って欲しいと願います。
※Twitterでのご指摘を受けて「ガソリン代を1兆円」としていた箇所を計算し直し、本文を修正しました。(2021年1月28日)
(文/池田 篤史)