BYDのEV乗用車日本進出戦略を東福寺社長にインタビュー〜価格だけの勝負はしない

世界第2位のEVメーカーであるBYDの、EVによる日本乗用車市場参入は大きなニュースとなった。大きな注目が集まる中、幸運にもBYDオートジャパン 代表取締役社長 東福寺厚樹氏に単独で話を聞く機会を得た。日本国内での乗用車生産、トヨタとの関係、ディーラー戦略など、答えにくい質問にも丁寧に対応してくれたので、その内容をお伝えしたい。

BYDのEV乗用車日本進出戦略を東福寺社長にインタビュー〜価格だけの勝負はしない

EVで日本進出の戦略について一問一答

●日本での乗用車生産はあるのか?

Q/BYDの乗用車市場への参入は業界だけでなく広くインパクトのあるニュースとして伝えられました。すでに各方面で発表会の内容、東福寺社長やBYDジャパンの劉社長のインタビュー記事なども見かけます。本日は、もう少し具体的な戦略に突っ込んだお話を聞いてみたいと思います。さっそく、気の早い話で恐縮ですが、今後日本でEV乗用車を生産する予定はありますか。

東福寺氏の回答(以下省略)/BYDオートでは、現在中国以外の海外向けの車両は信州、常州、西安、深圳の4拠点で製造され、各地に展開されています。将来的には、深圳に海外向けの専用工場を設置する計画があります。ただ、いまのところ日本向けには港から2週間ほどで持ってこられるので、すぐに日本での生産は考えていません。

将来的にはあるのかもしれませんが、乗用車ではまだ難しいでしょう。まずは日本市場にBYDのEVを浸透させることが先決です。

Q/トヨタとバッテリーの開発・供給で合弁会社を立ち上げています。また、中国国内ではトヨタ系メーカーがBYDのEVをOEMで販売するという話も聞きます。BYDオートジャパンの国内戦略において、トヨタとの協業や提携の予定はありますか。

ディーラー戦略や日本「国内での展開は、先般の発表会の内容通りです。ご指摘どおり、中国ではトヨタとのアライアンス、2019年にはバッテリーの研究開発のJVといった話がありますが、日本国内でどうするかはこちらではわかりません。ただし、一つ言えることは、今後、どの企業とのどんな協業やOEM供給において、e-Platform 3.0が柱になることは確かです。

●国内ディーラー網はどのような体制になるのか?

Q/なるほど。販売においては協力企業を募って独自のディーラー網を作るとおっしゃっていましたね。そのディーラーは専業になるのですか? たとえば、ガソリンスタンドや商業施設などとの提携、併設といったアイデアも面白いかなと思ったりもします。

まずBYDオートジャパンの直営店の形はとりません。現在、マルチブランドの販社、複数と交渉しています。輸入車ディーラーの中には複数ブランドを持った販社、代理店のグループ企業が運営していることが珍しくありません。たとえば、そのような協力会社にBYDを加えていただくような形です。

既存のディーラー以外の業種との連携という意味では、たとえば大規模商業施設やショッピングモールなどにポップアップ店舗やイベント出展のような形での取り組みは考えられます。この場合でも、主体は各ディーラーとなりBYDがバックアップするような形になると思います。

●オンライン直販はありえるのか

Q/日本での販売戦略はディーラー展開が基本でオンライン販売、オンライン直販は考えていないのでしょうか。

参入当初はオンライン販売、直販について研究、検討しました。しかし、やはり400~500万円の商品を購入いただくわけですから、店頭での説明や実物を納得するまで見ていただいて、納得して購入いただく必要はあると考えます。オンライン販売といっても点検や車検、アフターサービスでは整備をする店舗が必要です。たとえば、ボルボがオンライン販売にシフトできるのは、すでにディーラー網を持っているからです。われわれも、そのためにまずは100店舗を3年をめどに展開して、販売・サービスのインフラを整える必要があると思っています。

もちろん、将来的にどうなるかはわかりません。中国では、実験的にですがECセールスを始めています。ドルフィンの発売時には若者向けのサイトを作ったりもしています。ただ、本国でも注力しているのは、店舗のグレードアップ、上質なカスタマーラウンジ、アフターセールス専用のラウンジ、ランチができる店舗といった取り組みです。

Q/日本にもそういう店舗が増えるといいですね。

はい。ただ、まだその時期ではないと思っています。まずは保有台数が増えてこないと、今作るのはちょっと過剰投資かなと。販売拠点ではありますが、サービスの拠点としての機能も重視しています。いわゆるディーラーの4S(Sales of New car:新車販売/Sales of Parts:用品販売/Service:アフターサービス/Survey of Customer Information:顧客情報の収集と反映)は段階的に構築していくつもりです。4Sすべて展開するのはもう少し先になるでしょう。

ちょっと泥臭い戦略かもしれませんが、まずはサービスやメンテナンスをしっかりやって、購入後も安心して乗り続けていただけるような信頼を得ることに注力します。マルチブランドのサービスエンターは、各社の整備設備がそろっています。EVという新しいものになりますが、そこにBYDの車も入れてもらえるように動いています。

●メンテナンスの設備、スタッフのトレーニング体制

Q/セールスや整備のトレーニングなどはどうなっているのでしょうか。

深圳のサービストレーニングチームと連携して日本向けのプログラム、コースを作っています。スタッフ全員が受けるブランドトレーニング、アフターサービスでは整備士のためのテクニカルコースと、アドバイザーのためのノンテクニカルコースなどのメニューを作っています。トレーニングセンターは日本にも作ります。来年のATTO 3が出荷される前には稼働させる予定です。

Q/お聞きすると、非常にシュアな、地に足がついた戦略を考えているようですね。とはいえ、メーカー、ディーラーともに業界再編や変革の波にさらされている状況もあります。日本国内でEVの新車販売ビジネスを展開するうえで、収益化の柱はどのように考えていますか。

実は、斬新なことや新しいことはあまり考えていません。ビジネスのコア部分は変わらないので、地味な正攻法かもしれませんが、新車の品質とディーラー体制、サービス・メンテナンスという基本の部分をしっかりやります。市場の認知と信頼はこのような積み重ねが大事です。ただし、部品点数が少ないといったEVの特性を生かして、最小限のスタッフで効率よく作業する、効率的な運営を行う体制づくりはしていきます。

●バッテリーメーカーならではの充電インフラ戦略とは

Q/充電インフラについても教えてください。ポルシェやアウディは高出力な急速充電器で差別化戦略をとっています。テスラは独自のインフラ整備に投資をして顧客体験を含めた差別化、囲い込みに成功しています。

計画している100店舗については最低でも1基の急速充電器を整備していきます。高出力の充電ステーションが整備できるとすごいと思いますが、まだそこまでは考えていません。ATTO 3は充電能力としては85kWくらいまで対応しているのですが、バッテリーメーカーのBYDとして大出力の急速充電は積極的に推奨しにくい考え方があります。90kW、150kWという出力はちょっとオーバースペックではないか。R&D部門からの推奨・要請として急速充電器の出力は40kW以上を目安にしてほしいといわれています。国内ディーラーの充電器も4~50kWのものが中心となる予定です。ATTO 3ならこの出力でも30分の充電で170km走行分くらいのチャージが可能です。

Q/なるほど。ATTO 3やDOLPHINで高出力急速充電にこだわらないのは確かに合理的ですね。でもSEALは800Vにも対応しているのでちょっともったいない気がします。

そこは、各国のインフラ事情、エネルギー事象に合わせた展開になると思います。

●気になる価格の戦略は?

Q/最後に価格について聞かせてください。金額はまだ公表できないとしても、たとえば、ATTO 3はアリアより安くなるのか、価格帯はいくらくらいか、といった形で可能な範囲でお願いします。

金額はまだ申し上げられませんが、プジョーe-2008やボルボのXC40なども視野に入っています。もちろん各社とのブランド差などは認識しているので、買ってよかったと思えるような設定を訴求したいと思っています。

オーストラリアでの価格は参考になるかもしれませんが、各国の法規や仕様に合わせたアドオン部分もあります。

ただ、ATTO 3、DOLPHIN、SEALのどれもパフォーマンスは決して低い車ではありません。十分な機能と価値がある電気自動車です。BYDとして、中国製だから、価格競争力のため、という理由で安く設定することはありません。それで普及しても成熟した市場では続かないでしょう。これからの選択肢として長く選ばれるEVを目指しているので、価格だけの勝負はしません。

(Q&A ここまで)

ATTO3は回転するセンターディスプレイなどユニークな装備を搭載している。

品質や性能で勝負する自信こそが脅威

BYDはLFPをベースにしたブレードバッテリーと独自のフレーム構造を持ち、アクスルとバッテリマネジメントを統合したe-Platform3.0のアーキテクチャを採用している。車両は斬新なテクノロジーと洗練された日独エンジニア&デザイナーによるパフォーマンスが特徴だ。日本進出に向けた販売戦略はむしろ王道をいくスタイルだといえる。

インタビューを終えて、改めて感じたのはBYDオートジャパンの戦略の堅さだ。地味ではあるが、製品での攻めの姿勢が一貫している。逆にこの本気度が既存メーカーにとっては脅威に感じられるかもしれない。

考えてみれば、絶対数は少ないとはいえ、日本の電気バス市場のトップメーカーのグループ企業であり、電動フォークリフトでも市場プレゼンスを上げてきている。東福寺氏へのインタビューでは、その戦略と実績に裏打ちされた自信を感じることができた。記者の空気を読まない質問にも淀みなく、また丁寧に答える姿勢は、東福寺氏本人の日本の輸入車ディーラーでの経験と実績からくる、まさに自信の現れだろう。

秋に予定されているATTO 3の正式ローンチでは、まだ詳しく語られていない戦略についての詳細や、店舗計画、サービスプログラム、保険、そして車両価格など気になる部分がいくつかは明らかになるはずだ。日本のEV市場をさらに活性化させる意味でも次の発表に期待したい。

(取材・文/中尾 真二)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. BYDには是非ともEVの価格破壊をしていただきたいです。一般庶民が買うには、EVはまだまだ高過ぎます。出来れば経産省の補助金なしでも買えるような価格設定にしていただきたいです。いつまでも補助金頼みではEVは普及しないです。今後米国では自国で生産されないEVへは補助金が支給されない方向です。BYDブランドが認知されていない日本に於いて、プジョーe-2008やボルボのXC40と価格的に競合していくことはかなり難しいと思います。まず最初は思い切った販売戦略で、BYDのEVを日本に定着させて欲しいです。

    1. 日本支社長が価格競争はしない、と言っているわけだからそれは無理な注文。おそらく何十年後かにはトヨタやVW の地位を占めたいのでしょうから、自動車業界のUNIQLOになりたいわけがありません。バス、トラックから乗用車まで本国以外ではこれからが立ち上げのような企業です。ブランディングの基本として、自らの価値を貶める方法は取らないでしょう。
       東福寺氏は以前VW JAPAN の社長だったようです。その辺りよくお分かりかと。
       現在EVの価格は高いですが、今始まったばかりの市場。何年かすればコモディティ化でこなれるはずです。

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この記事の著者


					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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