BYD Auto Japanは2025年4月1日、コンパクトサイズのEV、『DOLPHIN(ドルフィン)』を値下げするとともに、エントリーグレードの「Baseline」を追加し299万2000円で販売することを発表しました。日本のEVにも価格競争の波がやってきたようです。
大幅値下げでEV市場に衝撃走るか
この3月に「5分で400km分の超急速充電ができる」という次世代BEV専用プラットフォーム「Super e-Platform」を発表して度肝を抜いたBYDが、今度は日本市場で驚きの価格改定を発表しました。
BYD Auto Japanは2025年4月1日、コンパクトサイズの電気自動車(EV)、『DOLPHIN(ドルフィン)』の値下げと、エントリーグレードの追加を発表しました。同時に『ATTO 3』も値下げしました。
価格改定は、BYD Auto Japanの「創業期から成長期」に向けた経営方針の一環です。日本の乗用車市場のボリュームゾーンにあたる価格帯にEVを投入し、スローガンとして掲げている「eモビリティーを、みんなのものに」を推進するのが狙いです。
これまでドルフィンのトリムは、ベースグレード(363万円 ※記事中価格は税込)と「Long Range」(407万円)の2つでしたが、今回の改訂で「Baseline」と「Long Range」の2種類になります。価格は、Baselineは300万円を切る驚きの299万2000円、Long Rangeは33万円値下げして374万円からになります。
またATTO 3の価格は、従来から32万円下げた418万円になりました。
【BYDの新価格と追加グレード(価格はいずれも税込)】
追加設定
●ドルフィン(DOLPHIN) Baseline 299万2000円
価格改定
●ドルフィン(DOLPHIN) Long Range 374万円(33万円値下げ)
●ATTO 3 418万円(32万円値下げ)
2025年度のCEV補助金額が発表されたばかりですが、たとえば東京都でドルフィンを買うと国のCEV補助金が35万円、東京都の補助金が35万円の合計70万円が補助されるので、約230万円になります。
このところEVの値上げ発表が多かった中で、補助金も含めると軽自動車とそれほど変わらない価格帯への参入が日本のEV市場にどのような影響を与えるのかは注目です。ユーザーにとっては選択肢の幅が広がる大歓迎の価格改定です。
価格は下げても主要装備は落とさない
BYDは2024年11月にドルフィンの日本市場導入から1周年を記念して、充電ケーブル、NFCカードキー、フロアマット、三角表示板をオプションにした「Baseline」を100台限定で販売しました。この時の価格が299万2000円からとなっていました。
今回のトリム追加は、限定販売だったトリムを標準設定にしたものと言えます。充電ケーブルやフロアマットなどがオプションになっているのも、昨年の限定販売の時と同様です。

BYD Auto Japan東福寺厚樹社長。
BYD Auto Japanの東福寺厚樹社長はドルフィンの価格改定について、「中国ではエントリーモデルとしての価格設定をしてきた。日本でもお客様に興味、関心を向けていただける価格設定をした方がいいと考えた」と、狙いを話しました。
そのために、PDI(出荷前点検・Pre-Delivery Inspection)の作業や流通経費などにかかっていたコストを全部見直したと言います。
充電用ケーブルについては、都内の場合はそもそも自宅充電ができないユーザーがいるほか、EVの買い換えをしたユーザーはすでに持っていたり、集合住宅で基礎充電をする場合は充電設備にケーブルがついているケースも多いため、標準装備から削ってもいいと考えたそうです。
一方で、「ソフトウエアやADASなどの性能は落とすわけにはいかない」と東福寺社長は言います。「できるだけ車としての機能、特に安全やお客様の利便性の部分は削らず、フル装備にしている」そうです。
また東福寺社長によれば、これらの装備を落とすと型式認証の変更になりかねないのでかえってコストがかかるほか、「昔の車と違ってハードウエアの変更がほとんどないので、物理的なコストダウンにならない」そうです。そのため、価格が下がっても先進装備関係は従来のベースグレードから大きな変更はありません。
インスター狙いの価格設定
ところで300万円弱のEVというと、思い浮かぶのはヒョンデ『インスター』の284万9000円です。
今回の価格改定にあたって、インスターを意識したのではないかと東福寺社長に聞くと、「もちろん、その通り」と即答でした。
ここでインスターの最も安い「Casual(カジュアル)」グレードとドルフィンを比べてみます。大きさはインスター・カジュアルの方が一回り小さくて、5ナンバーです。乗車定員もドルフィンの5人に対して4人になっています。
バッテリー容量はドルフィン44.9kWh、インスター・カジュアルは42kWhで、インスターが少なめです。航続可能距離は、ドルフィンは400kmです。インスター・カジュアルはまだ申請中で未発表ですが、容量49kWhの上位トリム「Voyage(ボヤージュ)」は458kmです。
ただ、インスター・カジュアルはヒートポンプとシートヒーターが装備されていないので、とくに冬場の実用航続距離はかなり短くなると思われます。このあたりを差し引いて考えるとドルフィンの対抗馬になるのは、インスターの中級トリムになる335万5000円のボヤージュ(バッテリーは49kWh)かもしれません。
BYDは徹底したコストダウンによる値下げでEV市場シェアの拡大を進めています。今のところ巨大シェアを取っているのは中国国内だけですが、いずれ世界に広がるのは間違いないと思います。
とくに電気・電子系の先端技術の進化はめざましく、BYDは超急速充電のほか、2025年2月には最新のADAS機能「God’s Eye(天神之眼)」をほぼすべてのモデルに標準装備すると発表しています。ドルフィンにもレベル2クラスのGod’s Eyeが搭載されています。これも実質的な値下げでしょう。
BYDやヒョンデといったアジア勢が先端技術とコストダウンで攻勢をかける中、日本勢はどう対抗していくのでしょうか。もともと日本が得意としていた、コンパクトで手頃な価格の車がEV市場に続々と登場するのはいつになるのでしょうか。期待と不安が入り交じる日々は、まだ続きそうです。
取材・文/木野 龍逸
コメント
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3年以上の走行キロ(10万キロ)経過を見ない事には判断できないです
さまざまな不具合やアフターサービス情報を蓄積しないと、頻繁に乗り換えはできませんので
経済的メリットも不透明ですしね