世界一のEVメーカーとなった中国のBYDが2026年にも軽自動車規格の電気自動車を発売する計画であることを日本経済新聞がスクープしました。実質200万円以下で200km以上を安心して走れる「庶民の味方」といえる新型EVとなることが期待できます。
※冒頭写真は2022年7月、乗用車での日本進出を発表するBYDジャパン劉学亮社長。
日本メーカーの独壇場を切り崩す小さな黒船
2025年4月21日、日本経済新聞が「BYD、日本専用の軽EVを26年投入 国内4割市場狙う」というスクープを発信しました。2022年に日本市場進出を発表、2025年度中に100店舗以上を目標としてディーラー網構築を進めている中国のBYDが、軽自動車規格に合わせた「日本専用車」を開発し2026年にも発売。日本の独自規格である軽自動車は新車販売の4割を占めており、海外の自動車メーカーにとっては「非関税障壁」となってきたが、価格競争力が高いBYDが牙城を切り崩す可能性があるという衝撃的な一報です。
改めてBYDオートジャパンの広報に確認すると、軽自動車規格に対応した専用プラットフォームを開発した「日本専用モデル」であることを含めて回答は「YES」。明確な時期は非公表ながら、開発が決定されてからまだ「1年ほど」ではないかということなので、2026年後半の発売とすれば開発スタートから2年程度というスピード感に驚きます。
そんなに急いで大丈夫? とも感じますが、BYDがすでに発売して中国やブラジルでヒットしている『シーガル(海鴎)』は、全長3,780mm、全幅1,715mmと、軽自動車規格の「全長3,400mm以下、全幅1,480mm以下」よりそれなりに大きいものの、BYDは「e1」というもっと小型のEVを発売していた実績もあります。コンパクトEVの設計や開発に関するノウハウはすでに蓄積されているということでしょう。

BYD e1
価格と性能次第で、まさに「日本メーカーの独壇場」である軽自動車市場を席巻する「小さな黒船」となる可能性が高いといえます。
期待する価格や性能は?
中国で販売されているシーガルは、バッテリー容量30.08 kWhまたは38.88 kWhで3グレードが用意されていて、日本円で150万円〜180万円程度の価格帯。中国のCLTC方式での一充電航続距離が305km(30.08 kWh)、405km(38.88 kWh)です。

BYD シーガル
新開発の軽EVも、おそらくシーガルと同じ「eプラットフォーム3.0」を採用して少なくとも30kWh程度のバッテリーは搭載してくるはず。中国で生産予定ということで、さすがに150万円程度〜という安さで発売するのは難しいでしょう。でも、BYDは先だって44.9kWhのバッテリーを搭載したドルフィンのベースラインを299万2000円に値下げしたばかりです。日本ですでに発売されている軽EVの価格が、日産サクラが20kWhのバッテリーで約260万円〜308万円、ホンダのN-VAN e:が30kWh(使える実質容量は23kWh程度)で約270万円〜292万円ということを考えると、新型軽EVの価格は220万円前後、国のCEV補助金(30万円程度と予想)を使うと200万円以下! の実現を期待したいところです。
さらに、ドルフィンの仕様は廉価モデルでも先進運転支援機能(ADAS)などの安全装備や、電動回転式の大型ディスプレイ(12.8インチ)、スマホワイヤレス充電などの便利機能がフル装備です。軽自動車だからと安全や快適さをおろそかにしてくるとは思えず、なにかとオプション設定が多い国産車との価格差はさらに大きく感じることになると思われます。
44.9kWhのドルフィンの一充電走行距離(WLTC)は400kmで、電費は約8.9km/kWhです。新型軽EVの航続距離はバッテリー容量が30kWhとして、8.9×30=約267kmと推計できます。おそらく車重はドルフィンより軽く、タイヤのサイズがさらにコンパクトになって電費がよいでしょうから、カタログスペックとしては270km程度の一充電走行距離となるでしょう。満充電から経路充電スポットまで心配なく走れる距離が8割ほどとして216km。90km/h以下の巡航を心掛ければ、東名の東京ICから新東名浜松SAまで(約224km)一気に走ることもできそうです。
急速充電性能はどうでしょう。これもドルフィンを例にすると、44.9kWhのベースラインの最大充電電流が180A、総電圧が332.8Vなので「180×332.8=約60kW」の出力で充電できます。BYDのEVは日進月歩の進化っぷりがすばらしく、新開発の軽EVはバッテリー容量がドルフィンより小さいとはいえ、最大200A(一般的な90kW器仕様の最大電流値)、電圧が300Vとして、最大60kWくらいの急速充電性能を与えられることでしょう。残量30%くらいから急速充電すると「30分かからず満充電になっちゃうよぉ」とうれしい悲鳴を上げることになるかも知れません。
家庭の電力と連携する「V2H」や、車内ACコンセント、普通充電口からAC100Vの電気を取り出す「V2L」にも対応してくるはず。実質200万円以下で余裕で200km以上を走破できる性能は、ファーストカーとしても実用性十分。昭和の出来事である「アルト47万円」の衝撃を思い出します。「中国のEVなんて」といった根拠なき批判の声は、圧巻の価格と性能の前にひれ伏していくことになる気がします。
迎え撃つ日本の軽EV
昨年、軽商用EVのホンダN-VAN e:が発売されました。さらに今年、2025年にはホンダのN-ONE EVモデル、トヨタ連合の軽商用EVなどが発売される予定になっています。日産サクラ&三菱eKクロスEVの発売以来、やけに静かだった日本メーカーのEV戦線が活気づくことが期待されています。
N-ONE EVモデル、トヨタ連合の軽商用EVともにバッテリー容量は30kWh程度と予想されています。とはいえ、車両本体価格が「おおむね300万円」という現状のままであれば、来年には発売されるBYDの軽EVに駆逐されてしまいそうです。急速充電性能や先進運転支援などのEV性能に関しても、BYDの軽EVを凌駕するのは簡単なことではありません。日本のEVユーザーのためにも、自動車メーカー各社がより魅力的な軽EVを繰り出す必要があるでしょう。
BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長や広報ご担当者と会うたびに「日本でもシーガルを」とささやき続け、右ハンドル化や安全基準への対応が難しいという回答だったのですが……。日本専用の軽EVを新開発という、想像の斜め上をいく展開に驚きつつ、日本のEV普及にとって大きな刺激になると期待しています。
新開発の軽EVは、小型車のニーズが多い、たとえば東南アジアなどにも展開する計画なのかとBYDオートジャパンに確認しましたが答えは「NO」。あくまでも日本専用モデルということでした。広報ご担当者からは「BYDへの注目をいただきありがとうございます。今後も日本の e-Mobility を加速させるために、多くのお客様にご満足いただける商品、車種展開を積極的に行ってまいります」というコメントをいただきました。
自動車大国である日本での存在感を高めるために、BYDは本気です。
文/寄本 好則
コメント
コメント一覧 (3件)
非関税障壁について、なんだったら「左側通行を右側通行に変えろ!」くらい言いそうな上から目線の米政権に比べたら、なんと柔軟な!高橋優氏が軽トラEVも準備中ではないかと言っていましたが、サクラ、Exを除いてこれから出てくる国産軽EVも商用が多いようで、ウサギと亀のレースの様相です。
なんなら閉鎖する日本国内の自動車工場を買い取って生産するくらいの勢いがありますね。
まぁ、売れればと言う前提なので、いきなりは無理だと思いますが、近い将来に有りそうな気もします。
軽EV1号機は航続距離こそ良いけど、パッケージ的にはイマイチ見たいな感じになるような気がしますが、1~2年でモデルチェンジか違うモデルを出してきて、気がついたら遜色ないパッケージにしてきそうな気がします。
EVとして安いだろうとはいえ、冒険して買う勇気はありませんが、とても気になる存在ではあります。
軽自動車EV、超小型EVの低価格EVに期待していて、
EVは移動手段だけでなく家庭用蓄電池として、もっと役に立つはずだと思っています。
・BYDが2026年に軽自動車を発売予定
・CATLが新電池開発「5分の充電で520キロ走行」
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・ガチャコ普及の遅延?
国内大手さんも取り組んでいるようですが、
低価格帯は儲からないと捉えているのか、
どうも期待できる話を聞きません。