全米初: 新築住宅に太陽光発電パネル設置を義務づけたカリフォルニア州

新築住宅の屋根には太陽光発電パネルを義務づける。「地球にやさしい未来」に一歩近づいた政策が、米・カリフォルニア州で議決されました。2020年1月1日時点で建築中か、これ以降に建てられる「戸建て住宅」・「集合住宅」が対象になります。

全米初: 新築住宅に太陽光発電パネル設置を義務づけたカリフォルニア州

イギリスBBCの2018年5月9日の報道によると、かねてから議論されてきた「新築住宅の屋根に太陽光発電パネル(PV: Photovoltaic panel)を義務づける」法案が、カリフォルニア州で5月9日に可決されました。現地の日刊紙「オレンジ・カウンティー・レジスター(Orange County Register)」でも、議決前の5月4日に詳しく報じられていました。

California Energy Commissionのオフィス。今回は満場一致でPVパネル義務化の法案が可決された。
California Energy Commissionのオフィス。今回は満場一致でPVパネル義務化の法案が可決された。

結果は「カリフォルニア・エネルギー諮問委員会(CEC: California Energy Commission)」において満場一致で議決されました。州は、温室効果ガスの排出を終わらせるための大きな一歩だと評価しています。今回の政策では、3年間で70万トンの温室効果ガス排出を削減できる、と試算しています。

これに対し早速、「太陽光発電パネル(PVパネル)を義務化すれば、住宅価格が8,000~12,000(US)ドル(日本円に換算すると88~133万円ほど)は上昇してしまう」という批判が出てきました。同州は確かに住宅価格が他地域に比べて高めとして知られており、さらにその価格を押し上げると言うのです。しかしCECは、「月々の住宅ローンでの増加額は『40ドル(4,400円)程度』だろう」と反論しています。さらに、「PVパネルのお陰で、冷暖房と照明の電気代が月々『80ドル(8,800円)』は安くなるので、「結果的には収支は黒字になるだろう」と反撃しています。

もちろん、設置義務には例外も認められています。屋根にほとんど太陽光が当たらない場所に住宅が位置する場合や、屋根の「形状」や「小ささ」などから設置が現実的ではない(コスト的に引き合わない)場合です。住宅の建築主は、よくあるように「屋根にPVパネルを載せる」方式のほか、たとえば「数戸が合同でPVパネルをまとめて設置する」方式を選ぶこともできます。分譲地などで、太陽光が屋根の一部分や、ある時間帯に陰になって遮られるような住戸がある場合、太陽光のよく当たる「共用部分」の建物などに多数のPVパネルを載せて「共用発電施設(shared power system)」とする、といったケースです。

ロサンゼルス南東の都市コロナの郊外の住宅建設現場。太陽光パネルが続々と設置されている。
ロサンゼルス南東の都市コロナの郊外の住宅建設現場。太陽光パネルが続々と設置されている。

設置義務の対象となるのは、2020年1月1日時点で建築中、もしくはこれ以降に建てられる「戸建て住宅」と「3階建て以下の集合住宅」です。2020年1月1日以前に完成する予定のもの、または現在すでに完成している住宅は、この設置義務は該当しません。もっとも、環境意識の高い人が多い同州では、すでに多くの住宅が政府からの「払戻し金」システムを利用して、PVパネルを屋根に載せています。

カリフォルニア州ではこれまでに、太陽光エネルギー利用技術に関連して4200万ドルが投資されていますが、今回のPVパネル義務化によって、太陽光エネルギー関連産業はさらに大きく発展することが予想されます。同産業の業界団体「アメリカ太陽エネルギー産業協会(SEIA: the Solar Energy Industries Association)」は、カリフォルニア州を太陽光エネルギー利用に関して、すでに「全米でトップ」にランク付けしています。と言うのも、2017年時点で、州の全電力の16%あまりが太陽光でまかなわれている現実があります。SEIAの会長兼CEOである Abby Hopper(Abigail Ross Hopper)氏は、「カリフォルニア州がPVパネルの設置を義務化に舵を切ったことは、家庭にパネルを普及させる点で、理にかなっている」とTwitter上で発言しています。

ABCニュースによると、すでに「カリフォルニア建築産業協会(CBIA: the California Building Association)」はCECと共に、新しい(PVパネル装備の)住宅の基準について検討を始めています。義務化が実際に動き出すには「カリフォルニア州建築基準委員会(CBSC: California Building Standards Commission)」からも承認を受ける必要がありますが、CBSCはこれまで、CECの勧告はほとんど受け入れてきた経緯があるので、結論は今年(2018年)遅くには出るだろう、と言われています。

PVパネル施工会社 “SUNRUN” の共同創業者 Lynn Jurich 氏は、New York Times紙の取材に対し、「こうした政策でPVパネルと関連機器の市場が急拡大すれば、価格もぐっと下がり、(PVパネル設置の)対費用効果がぐっと増すだろう」と述べています。また、「自分の家の屋根で電気を作り出し『自立する』ということは、アメリカ人の自由の精神にも合致している。カリフォルニアがまた『一歩先を行く』例ができた」とも指摘しています。

実際、カリフォルニア州は、その「長期エネルギー計画」の進捗に関して、前倒しを達成しています。「カリフォルニア州公共事業委員会(CPUC: the California Public Utilities Commission)」は、「2030年に達成予定のゴールに、このまま行けば『10年早く』到達できる」と報告をあげています。

カリフォルニア州は再生可能エネルギー(renewables)の利用に関して、今回のように「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」を通しても、先駆者(forerunner)として走り続けようという意思表示をした、と言えそうです。

(文・箱守知己)

2番目の会議室の画像は
CECのサイトより、
それ以外は
Orange County Registerのサイトより
それぞれ転載しました。

この記事のコメント(新着順)1件

  1. カリフォルニア州って環境意識が高いから、前衛的というか時代を先取りした法律が多く出ていますよね(笑)
    それを見る限り日本は相当遅れているといわざるを得ません…もちろん既存団体とのしがらみがあるのは目に見えていますが。
    ただ日本も台風や震災などで停電が頻発している地帯など、外部からの電気に期待できない(インフラが弱い)地域はカリフォルニアに見習って各家庭ごとにエネルギー自給を考えないといけなくなるのではと思います。

    電気に携わる者として、日本のインフラは外部電力に頼りすぎて非常時に対応できないことが判っています…特に今年は停電した場所が多いから判った次第。
    近年太陽光発電と蓄電池をセットで備えた公共施設が増えていますよ(例:防災コミュニティセンター)日本ではむしろそれを売りにしたほうが早くないでしょうか。
    太陽光発電に50万円程度の蓄電池をつけるなら普及率は高くなると思います。

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					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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