カリフォルニア州知事が2035年までに新車のガソリン車販売禁止を指示

カリフォルニア州知事は9月23日、2035年までにカリフォルニア州で販売されるすべての乗用車の新車をゼロエミッション車(ZEV)にするよう、州政府に指示しました。つまり同州ではそれ以降、ICE(内燃機関)の車の新車販売ができなくなる可能性が出てきました。

カリフォルニア州知事が2035年までに新車のガソリン車販売禁止を指示

カリフォルニア州では2035年以降の新車は全てZEVにする

EVsmartブログの読者ならカリフォルニア州のZEV規制についてはご存知と思います。毎年、販売台数の一定割合を電気自動車(EV)など排ガスゼロのZEV(ゼロエミッション・ビークル)にすることを義務付ける規制です。各メーカーに科せられる規定の販売台数は、所定の計算式にあてはめたクレジットで算出されます。

規定のクレジット数を達成できない場合は不足分を罰金で支払うか、不足したクレジット数を、基準を達成した他メーカーから購入する必要があります。

これだけでも厳しいのですが、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は9月23日に、現行のZEV規制をさらに進めた排ガスゼロ指令を州政府に出しました。

知事による新たな指令の概要は以下のようなものです。

・州内で販売される新しい乗用車とトラックを2035年までに全てZEVにすることをカリフォルニア州の目標とする
・可能な場合は、2045年までに州内の中型および大型車を、また2035年までにドレイージトラックをZEVとすることをさらなる目標とする。
・可能な場合は2035年までにすべての公道外車両や装備をゼロエミッションにすることをさらなる目標とする。
・カリフォルニア州大気資源局(CARB)は州法および連邦法と矛盾しない範囲で、それぞれの期限までにすべてをZEVにするという目標に向けて、販売量を増やすための規制を策定、提案する。
・知事室のエネルギー経済開発局は、CARB、エネルギー委員会、公益事業委員会、州交通局、財政局および他の関連機関、地方機関、および民間セクターと協議し、2021年1月31日までにZEVの市場開発戦略を策定し、3年ごとに改訂していく。

【カリフォルニア州知事の発表】
Governor Newsom Announces California Will Phase Out Gasoline-Powered Cars & Drastically Reduce Demand for Fossil Fuel in California’s Fight Against Climate Change(2020年9月23日)

これだけでも大変な内容だということがわかります。車に関しては、乗用車からトラック、作業用の大型車両、公道外の作業車などあらゆる種類のものをZEVにしていくというのです。

ちなみにドレイージトラックは、港湾などの荷物の集積場から倉庫等の決まった場所にコンテナなどを移送するための専用車両です。公道外の作業車なども含むということは、空港等で使用している車両もZEVにするということでしょう。やることが徹底しています。

この方針を実現するための施策として、知事指令では、ZEVを増やすにあたって必要な充電インフラの整備計画も要求しています。

もともとZEV規制では、CARBは、規制によって新しい技術の開発を促進することを目指していました。今回も、かなり極端な政策とはいえ、目的の実現のために必要なことはできるかぎりやるということなのでしょう。

9月23日付のロサンゼルス・タイムズによれば、ニューサム知事はすべての人がZEVを100%にする義務を受け入れられるわけではないことを認めつつ、次のように述べました。

「私たちはたくさんの新しい選択と新しい技術を提供していきます。ゼロエミッションを実現するための方法にかかわらず、2035年までにゼロエミッションにすることを約束します」

テスラの売り上げが好調とはいっても、また全米で販売されているEVの半数近くがカリフォルニア州だといっても、新車全てをEVにするというのはまさに野心的な目標です。欧州各国に続いて、自動車王国アメリカで発表があったことのインパクトは計り知れません。

車に限らず広範囲なモーダルシフトが目標

今回のニューサム知事の指令はすべて、温室効果ガス削減のための方策です。カリフォルニア州は2017年に、1990年比で2030年までに少なくとも40%、2050年までに80%削減する法律を施行しました。ニューサム知事の声明によれば、運輸部門からの温室効果ガスの排出は、カリフォルニア州全体の50%以上を占めています。

ニューサム知事は今回の規制について、「これは気候変動と戦うために私たちの州が実施することができる最も影響力のあるステップです」と述べています。また、ここ数年、範囲が拡大し続けている山火事にも言及し、「私たちの車は山火事を悪化させるべきではありません」とも言います。

そのため今回の知事指令は、ZEVの販売拡大にとどまりません。鉄道や公共交通機関の輸送ネットワークの構築によって、シームレスで手頃な料金で利用できるマルチモーダルな移動手段を提供することも目指しています。加えて、低所得者層に向けて自転車、歩行者、マイクロモビリティをサポートするインフラの構築を計画に組み込むことも指示しています。

この他、メディアの注目を集めた指示のひとつが、2024年までに新規の水圧破砕許可の発行を終了するよう努めるというひと言でした。水圧破砕はシェールオイル掘削の手段です。

つまりZEVの拡大は、大規模なモーダルシフト、移動手段の多様化の中のひとつということになります。

なぜニューサム知事は、これほど極端な政策を発表したのでしょう。考えられる原因はいくつかあります。

カリフォルニア州は、産出量は減少しているとはいえ、アメリカでも有数の原油生産地です。9月23日付けのワシントンポストによれば、カリフォルニア州は2020年上半期に1400以上の新しい油井やガス井の採掘許可を承認しているため、環境保護団体から批判を受けていました。

それにカリフォルニア州では、気候変動が大きな要因とされる最近の山火事の拡大で、経済的、人的に莫大な損失が出ています。知事として対応を迫られていたのは容易に想像ができます。

とにもかくにも、温室効果ガス削減のためには、できることはなんでもやろうという意気込みは感じます。とくにシェールオイルの新規採掘を禁じるというひと言は大きいようで、ロサンゼルス・タイムズは公式Twitterで、ニューサム知事は水圧破砕を禁止し、彼の支持層の石油会社を放り投げたと書いています。事情は複雑ですが、それだけ覚悟を持っているということでなのでしょう。

それでもカリフォルニア州は、環境保護への意識が高い一方で、車がないと生活に困る都市が多いのも事実。すべてをZEVにするという動きには、当然、反発する声が生まれています。

ホワイトハウスが知事指令に反発

反発の筆頭は、なんといってもホワイトハウスです。

ウォール・ストリート・ジャーナルなど複数のメディアは、ホワイトハウスのジャッド・ディア報道官が、「これは左翼がどれほど極端になったかを示すもうひとつの例です」と述べたことを報じました。

ディアー報道官はさらに、「彼らは、政府がすべてのアメリカ人の生活の側面について命令することを望んでいます。彼らが仕事を壊し消費者のコストを上げるまでの時間は憂慮すべきものです。トランプ大統領は、それ(ニューサム知事の方針)を支持しません」とも話したそうです。

また国家経済会議のラリー・クドロー委員長は9月23日の記者会見でニューサム知事の政策が全国に広がるかどうかを聞かれ、「広がるとは思いません」と回答。「私には(政策は)非常に極端なものに聞こえます。私にはどうやって実行するのかわかりません」と、目標達成に否定的です。

トランプ政権とカリフォルニア州は、カリフォルニア州に与えられていた環境規制の権限をトランプ大統領が突然取り消したため、裁判で争っています。カリフォルニア州と共同で連邦政府を訴えたのは、ZEV規制を実施している22の州と地域です。いわば犬猿の仲なので、トランプ政権の中にいる人たちからの反発は当然でしょう。

【関連記事】
連邦政府のZEV規制潰しに反発するカリフォルニア州が、政府を支援するメーカーの新車購入を停止(2019年11月25日)

ところでこの裁判は、11月の大統領選挙の結果次第では早期に終了するかもしれません。もし選挙で民主党のバイデン候補が勝てば、カリフォルニア州に対する措置を撤回する可能性があるからです。

同時に、今回のニューサム知事の方針についても、民主党政権なら支持に回ることも考えられます。EVsmartブログのライターとしては、いろんな意味で気になる大統領選挙になってきました。

自動車業界団体の反応は複雑?

今回のニューサム知事の発表は、すでに日本でも日経新聞やロイター通信など複数のメディアが報じていますが、アメリカではロサンゼルス・タイムズはもちろん、ワシントンポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルなどが長文の解説記事を出していました。蜂の巣をつつくというのは、こういうことを言うのかも知れません。

発表に反応したのはホワイトハウスだけではありません。海外に本社を持つ自動車メーカーや部品メーカーの多くが加盟している『Alliance for Automotive Innovation』のジョン・ボゼラ社長兼CEOはHPに、「義務も禁止も市場の成功を確立しません。成功する市場を構築するのは、広範な利害関係者の関与です」という否定的な見解を表明しつつ、現在もEVの導入に尽力していることを強調するという、ちょっと複雑なコメントを掲載しています。

また2月23日付のウォール・ストリート・ジャーナルは、カリフォルニア新車ディーラー協会のブライアン・マース会長が、協会は気候変動と闘うニューサム知事の目標に経緯を払いつつも、裕福ではない人たちも(ZEVを)利用できるようにするための公共充電設備の大幅な拡充とZEVのコスト削減が必要になるなど、いくつかの懸念があると述べたことを伝えています。

当然といえば当然ですが、車に直接関わる人たちは手放しでは喜べないようです。

一方で、ニューサム知事の決断を歓迎するコメントもありました。ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、フォード社のスポークスマンは「私たちは、気候変動に対処するために緊急の行動を取る時が来たというニューサム知事に同意します。進歩には、消費者が電化された製品に投資することを促進する官民協力、先進的なインフラ、そしてカギになるリソースが必要なのです」と、知事を支援するコメントを出しています。

またオレゴン州のケイト・ブラウン知事はTwitterでニューサム知事の方針を称賛。「ギャビン・ニューサムによる今日の行動は変革の一歩であり、私は電動化を加速するためにできる限りのことをします」と書き込みました。

ただでさえ物議を醸しそうな発表を、大統領選の選挙戦真っ直中のタイミングで出してきたニューサム知事の方法が良かったのか悪かったのか、結論が出るのはまだ先です。

でも、間違いなく注目は集めています。各所からの反応やメディアの取り上げ方を見ても、これからしばらくは台風の目になるのは間違いなさそうです。それこそが、ニューサム知事の目的だったかもしれません。

ところで、これは完全に余談ですが、ロサンゼルス・タイムズによれば、ニューサム知事は、カリフォルニア州に34のEVメーカーがあると話したそうです。マイクロモビリティーまで含んだものかもしれませんが、それにしても多いです。いつの間にそんなことに? という感じなので、新型コロナが収まったら大きく成長しそうな会社の様子でも見に行きたいところですが、さて、どうなりますか。

なにはともあれ、カリフォルニア州の試みがこれからどんな展開を見せるのか、今後もキャッチアップしていきたいと思います。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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