CATLが電気自動車用ナトリウムイオン電池などの最新情報や約1兆円の投資を発表

中国の電気自動車用バッテリー大手『CATL』は、オンラインで開催したイベント『Tech Zone』で、ナトリウムイオン電池の現状と、リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池を組み合わせた車載用バッテリーアーキテクチャーの『ABバッテリーパックソリューション』を発表しました。発表内容をベースにお伝えしたいと思います。

CATLが電気自動車用ナトリウムイオン電池などの最新情報や約1兆円の投資を発表

※画像は発表されている動画からキャプチャー(以下同)。

リチウムに代わる素材と期待されるナトリウム

世界最大手のEV用電池メーカーである中国のCATL(Contemporary Amperex Technology Co., Ltd.=寧徳時代新能源科技)は、2021年7月29日に、オンラインで新しいバッテリーを紹介するイベントを行いました。

Robin Zeng会長。

イベントではCATLのRobin Zeng会長が登壇し、ナトリウムイオン電池の優位性をアピールし、すでに産業展開を始めていることを明らかにしました。またCATL研究所のQisen Huang博士は、CATLでは2023年までにナトリウムイオン電池の基本的な工業チェーンを構築する予定だと話しました。現在は、上流のサプライヤーと下流の顧客、そして研究機関などに、共同で研究開発を促進するよう呼び掛けているそうです。

発表は10分ほどの短いものでしたが、今後につながる内容でもあるため、かいつまんでお伝えしたいと思います。

【公式動画】
CATL Sodium-Ion Battery Official Launch

現代のEVに不可欠なリチウムイオン電池は、原料となるコバルトの資源量や、リチウム鉱山の偏在などの課題が常に指摘されていて、これからEVがさらに増えたときに資源の獲得競争や価格上昇の激化に対するする懸念が消えません。

そのためリチウムに変わる素材の研究が続いていて、ナトリウムが代替素材のひとつとして上がっています。2015年のNTTファシリティーズ総研のリポート『ナトリウムイオン電池の研究動向と課題』では、「リチウムと同じ1価アルカリ金属 であり、相似な化学特性を持つことと、すでにナトリウム硫黄電池が市販されている等、実用の観点から興味が持たれる」と評価しています。

とはいえ、ナトリウム硫黄電池は動作温度が約300度にもなるため、とてもじゃないですが車に載せることはできません。一方で定置用としては珍しいものではなくなっています。

ではナトリウムイオン電池はどうなのかというと、希少資源を使わず、また毒性もないために期待はされているものの、NTTファシリティーズ総研のリポートは、ナトリウムの理論容量はリチウムの3分の1で、電極電位もリチウムより0.3V低いため、高容量にしにくいのが課題と分析しています。あわせて安全性の問題もあるとしています。もちろん、正極材料と負極材料をどうするかという基本的な部分も固まっているわけではありません。

今回の発表では、そんなナトリウムイオン電池を、CATLは量産も見据えて研究開発を進めていると発表しました。一部ではすでに産業展開もしているという発言も出ました。CATLがどのような形で生産、販売をしているのかは不明ですが、オンラインイベントから数日後には、AFPBB Newsが中国でのナトリウムイオン電池の展開を伝えています。

AFPBB Newsの報道では、CATLの動きについてではないのですが、電力貯蔵システムに採用された事例や、電動バイクを手がけている愛瑪科技集団が販売店の大会でナトリウムイオン電池を発表し、自社のバイクに搭載していく方針であることが紹介されています。

電動バイクであればそれほど大きな出力が必要でもないですし、もともと中国の電動バイク市場は自転車の延長のようなところがあるので、新しいバッテリーを投入するのに適した市場かもしれません。こうやっているうちに、バッテリー技術が成熟してくれば、EVがさらに次の段階に進むことも考えられます。中国がこれまでそうしてきたように。

低温、高温の動作性能が高いと発表

ではCATLのナトリウムイオン電池はどのような性能なのでしょうか。発表は中国語で行われたのですが、配信画面ではすごく小さいフォントで英語の字幕がついていたので、字幕の内容と、後日に公表されたリリースから見ていきたいと思います。

まずメリットについては、ナトリウムは地球上で6番目に多い物質で資源が潤沢であるとしています。またマイナス20度以下でも性能を保持でき、放電しないで容量を保持できる容量保持率は90%になること、低温だけでなく90度の高温環境でも普通に充電ができることなど、熱に対する安定性が大きなメリットだと強調しています。温度の影響が少ないためシステムの総合効率は80%以上になる可能性があるとしています。

充電の受け入れは、室温なら15分で80%まで入るとのことです。現在のリチウムイオンバッテリーと遜色ない程度の充放電能力があることになります。

エネルギー密度は160Wh/kgで、現在は最高で260~270Wh/kgとも言われているリチウムイオン電池に比べるとやはり少なめですが、CATLはナトリウムイオン電池の中では世界最高レベルと位置付けています。今後は200Wh/kgを超えることを目標に開発を進めます。

ナトリウムイオン電池の課題とされている正極材、負極材についても説明がありました。正極材はプルシアンホワイトを使うことによって、急速な容量低下を抑えることができたとしています。負極材は多孔質構造のハードカーボンを採用し、350mAh/gという容量を確保。これでリチウムイオン電池に使っているグラファイトと同等にしたそうです。

ハードカーボンに関しては、この7月に東北大のグループがハードカーボン内のナトリウムの貯蔵システムを明らかにしたことが報じられました。また東京理科大と岡山大のグループもハードカーボンの研究成果を発表しています。ナトリウムイオンの吸着、放出のメカニズムがわかれば開発の進展につながるかもしれません。

と言っても、このあたりの組成は、いまひとつ科学の知識が不十分な筆者にはどのような効果があるのかよくわかりません。プルシアンホワイトは、ベルリンホワイトとも呼ばれる鉄イオンとヘキサシアノ酸イオンらしいのですが、残念ながら、そう言われてもピンときません。

ただ、リチウムイオン電池では顔料等にも使われるプルシアンブルーが使われていて、それと類似した素材を利用できることはナトリウムイオン電池を開発する上でのメリットとされています。もし化学に詳しい方がいましたら、コメント欄でのアドバイスや補足をお願いしたいところです。

ナトリウムはリチウムと似たような特性を持っていることから、量産段階でリチウムイオン電池のノウハウを利用できる可能性があるとも言われています。実際、CATLは「電解質を独自開発した」としつつ、この電解質はリチウムイオン電池の生産プロセスや設備を使って作れることをメリットのひとつに挙げています。量産、使用したときにどうなるかはフタを開けてみないとわかりませんが、開発から量産までのリードタイムは短くなる可能性があるようです。

CATL研究所の副部長、Qisen Huang博士はオンライン発表の中で、「ナトリウムイオン電池の製造はリチウムイオン電池の製造装置およびプロセスと完全に互換性があり、生産ラインを迅速に切り替えて高水準を達成できる」と強気の発言をしています。早く結果を見てみたいですね。

2種類のバッテリーを組み合わせるシステムも開発

もうひとつ、CATLの発表で大きなポイントだったのは、リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池を組み合わせて使う『ABバッテリーシステムソリューション』というシステムを開発したことです。

これも、どのような割合で組み合わせるかなど具体的な内容は発表されていませんが、CATLによれば、2種類のバッテリーを組み合わせることで、ナトリウムイオン電池のエネルギー密度不足と、リチウムイオン電池の課題を相互に補完することができ、低温で高電力を確保したり充放電特性を向上させたりすることができるとしています。

リチウムイオン電池に代わる新しいバッテリーについては、全固体電池などさまざまなソリューションが考案され、研究開発が進められています。いまのところ、それぞれに課題があり、何が一番なのかは明確になっていません。全固体電池は自動車メーカーを含めて次世代バッテリーと位置付ける傾向が強いですが、量産性や価格などの課題を解決する道はまだ見えません。

そうした中でのCATLの発表はちょっと興味深いものがあります。CATLのRobin Zeng会長は発表に際して、次のように話しています。

「電池化学システムはこれ以上のブレークスルーはほとんど見られず、物理構造システムを改善することしかできないと信じている人もいます。しかし電気化学の世界はエネルギーキューブのようなものであり、私たちが発見できる未知のものがまだ、たくさんあると信じています。私たちは飽くことなく、その謎を探求し続けます」

CATLはすでに、テスラ社に対してリン酸鉄のバッテリー(LFP)を供給していますが、その先を見据えた開発の進展にも注目していきたいと思います。

ナトリウムイオン電池の発表からしばらく経った8月12日、CATLが最大で582億元(約1兆円)の増資をすると発表したことが報じられました。8月12日付けの日経新聞電子版によれば、増資のうち419億元は福建省、広東省、江蘇省で合計5件の電池工場の新増設に充当されます。これにより今後5年ほどで、総生産量が約5倍の600ギガワット(1台100kWhとして600万台分)近くになるとしています。

中国の躍進はしばらく止まらないようです。そして、若い人たちの力が爆発してる印象です。今回の発表も、CATL会長とともに登壇したQisen Huang博士は、画面から見ると30代前半かなかばくらいに見えます。Robin Zeng会長は、若いチームを紹介しましょうという言葉で、Huang博士を紹介していました。

ついつい、いろいろなところで老害の弊害が見える今の日本と比べてしまい、ズーンと重い気持ちになってしまいがちなのですが、日本も早く30年の空白から立ち直って、次のステップに進んでほしいと思うのです。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 航続距離短くても良いから安いのが欲しいというニーズも有ると思います。
    なので航続距離優先のリチウムと共存するのが良いでしょう。
    最近のEVは容量を選べる様になってきています。
    同じ様に電池の種類も選べる様になるのではと思います。

    ナトリウムイオン電池、自動車用も良いけれど家庭用蓄電池もリリースして欲しい。
    狭い環境でない限りリチウムを使うのは勿体ないです。

  2. いつも興味深く拝見させていただいております。
    正極構造は多分この論文で書かれているものですかね。
    https://www.nature.com/articles/s41467-020-14444-4
    ナトリウムリッチのロンボへドラルプルシアンブルーと呼ばれているもので、
    構造式は、
    Na2-xFeFe(CN)6
    で、充電でx抜けていくんですね。構造もCubicからTetragonalへと変わっていくみたいです。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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