『CES2023』現地訪問レポート〜ユニークな電気モビリティを要チェック!

2023年の正月明け、1月3日から8日にかけてラスベガスで『CES2023』が開催されました。基本的には家電製品やエンターテインメント関係が中心の展示会ですが、電気自動車(EV)関連の展示もいろいろありました。気になったものを厳選して紹介したいと思います。

『CES2023』現地訪問レポート〜ユニークな電気モビリティを要チェック!

巨大会場の見本市に行ってみた

1967年から続く世界最大の家電見本市『CES2023』に行ってきました。場所はアメリカ、ネバダ州のラスベガスです。円安とコロナの影響で航空券が高騰し、燃油料金(サーチャージ)だけで10万円超えという気が遠くなる取材費がかかるのですが、十数年前からEV関連の展示が出てきて、今年はソニー・ホンダ・モビリティが車をお披露目するという話もあり、思い切って出かけてきました。

CES2023の会期は、1月3日のメディアデーから8日の閉幕まで6日間。一般の来場はなく、基本的には企業・団体、メディアに限られています。今年は3200以上の企業が174の国と地域から参加しました。

見本市会場は、メイン会場のラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)と、主にスタートアップ企業が集まるベネチアン・エキスポの2カ所。展示スペースは、LVCCだけでも幕張コンベンションセンターの3倍近くあります。

LVCCの施設全体の面積はさらに広く、展示会場の端から端まで歩くと20分以上かかります。十数年前に1度だけ来たことがあったのですが、改めて会場の広さに気が遠くなりました。

さて、日本のEV市場も少しずつ拡がりを見せていますが、世界はそれよりはるかに早いスピードで動いています。その一端をCES2023で見ることができるのではないかと期待していたのですが、EVそのものと併せてアメリカのEV事情の一端も、ほんのちょっとだけですが見ることができたので、何回かに分けて紹介したいと思います。

まずはCES2023の会場で見つけた、ちょっと気になる電動モビリティーから見ていきます。

日本のスタートアップを見つけた

CESではLVCCでの展示に先立って、優れた技術革新が認められる製品をメディアに公開する「CES Unveiled」という事前発表があります。ここでいくつかの電動モビリティーを発見しました。中でもおもしろいと思ったのが、日本のスタートアップ『ICOMA(イコマ)』が開発した電動原付の『タタメルバイク』です。

かつてのホンダ『モトコンポ』の電気版のようですが、割り切ったコンセプトにとても共感を覚えました。

スペックは、リン酸鉄のリチウムイオンバッテリー1個の容量が約0.6kWh(12Ah)、約3時間の普通充電で約30kmを走行可能です。バッテリーは合計2個まで搭載できます。ちょっとそこまでという使い方なら十分だと思います。

バイクのハンドル部分とリアタイヤが本体に折りたためるようになっていて、完全に格納するとほぼ真四角になります。折り畳んだときのサイズは、全高690mm×全長690mm×全幅260mmです。車のトランクにすっぽり収まりそうです。

サイドパネルはウッドやプラスチック、それに広告を映し出せるデジタルサイネージなど、用途や好みに合わせてスマホのカバーを替える感覚で差し替えられるようになっています。

そしてとてもありがたいことに、オプションでAC出力(200~600W)を取り出せる仕様になっています。

現在は開発の最終段階で、今年春の発売を目指しているそうです。価格は未定ですが、アメリカで売るとしたら4000ドルくらいを想定しているそうで、日本ならもう少し安くなるかもしれないという説明を受けました。

CES Unveiledの会場でも、その後の本会場での展示ブースでも、海外メディアからひっきりなしに質問を浴びていました。ほんとはこういうのをホンダなり、ソニー・ホンダ・モビリティなりで作ってほしかったなあと思うのですが、なにはともあれ日本から生まれたのはとても嬉しく思いました。

トランスフォーマー好きが高じてバイク開発

生駒社長。

『タタメルバイク』のコンセプトで納得感を覚えたのは、実用性の高い乗り物というよりも、遊べるホビーを目指しているところです。油も使わないので家の中にも置けます。横置きにできるので車に積むのもラクです。

確かにこのサイズだと、ちょい乗りにはいいですが遠くには行けません。実用性も、もしかしたら自転車の方がいいかもしれません。

でも、楽しさや、所有したいという思いが募るのはこういう乗り物ではないでしょうか。小さな電動モビリティーはシェアリング用途が増えていますが、『タタメルバイク』は所有欲を満たすことを目指したそうです。

そんな話をしてくれたのは、代表取締役社長の生駒崇光さんや取締役の小縣拓馬さんでした。設立は2021年で、会社名の『ICOMA』は、社長の生駒崇光さんの名前から付けられました。社員は現在、4人だそうです。

生駒さんと小縣さんはタカラトミーでトランスフォーマーの開発やマーケティングに携わっていたことがあり、変形ロボットが大好きだったそうです。生駒さんはその後、家庭用ペットロボット『LOVOT』の開発に参加した後に起業。だから『タタメルバイク』も、「オモチャをブラッシュアップして実車化した」ところがあると、生駒さんは言います。

そんな経緯があったので、今年春には12分の1スケールの『タタメルバイク』のガチャ向けトイも発売するそうです。もちろん、折りたためるギミックも搭載しています。

手荷物でアメリカに実車を持ち込み

『タタメルバイク』の開発に当たっては多数の外部協力者の手助けもあり、十分に安全性を確保したものができたと生駒さんは胸を張ります。実はその中に筆者が昔から知っている人も入っていたのですが、それはまた別の話で。

もうひとつ特徴的なのは、組み立てに溶接を使わず、板金でできるパーツを組み合わせ、平面と直線で構成していることです。コストがかかる金型が不要だし、手作業で組み立て、解体ができます。メード・イン・ジャパンでもであります。

組み立て式にした狙いについて生駒さんは、日本では学習的な要素を含めている一方で、北米はガレージ文化があるのでキット販売を考えていると言います。ちなみに今回、CESに実車を持ってくる時には、分解して手荷物で持ち込んだそうです。小型電動モビリティーはこれができるんですよね。昔、電動レーシングカートを手荷物でアメリカに持ち込んで、レースに出場した仲間がいたことを思い出しました。時代は巡る、です。

当面は千葉県松戸市のガレージで組み立てをし、安全性のこともあるので、ケアができるだけの数を販売する予定だそうです。

なんだか楽しそうなので、折を見て松戸のガレージに組み立て作業の様子を取材に行きたいと思っています。CESに持ち込んだデモ機はナンバーも付いていたので、試走もしてこようと思っています。今しばらくお待ちください。

値段も性能もスーパーなエストニア発の電動バイク

次も二輪の乗り物です。会社名はVerge Motorcycles、バイクの名称は『VERGE』。本社と生産地はIT立国として名高いエストニアです。ちなみに説明をしてくれた創設者のひとり、Tuomo Lehtimakiさんはフィンランドの出身で、今はモナコに住んでいるそうです。

これも最初はCES Unveiledの会場で見つけました。最大の特徴は、なんといってもリアホイールのモーター形状です。ステーターの外側にローターを配して、中心部を空洞にしています。「ハブレス電動リムモーター」(hubless electric rim motor)と呼んでいるそうです。

バイクの場合、インホイールモーターにすることでバッテリー搭載スペースを確保したり、駆動系をシンプルにできたり、それによりメンテナンスが容易だったりというメリットがあるのは理解できます。またLehtimakiさんによれば、効果的に冷却ができるそうです。

一方でばね下重量の増加は必然なので乗り心地を改善するのは簡単ではなさそうです。サスペンションでどこまで吸収できているかは体験しないとわかりませんが、なにしろお高いので、もしかしたらなんとかなっているのでしょうか。

それにインホイールモーターだからといってハブレスにする必要はないと思うのですが、目を引くのは間違いありません。なんにしても、この形状を採用する自由さに敬服します。

バイク自体はそれほど大きくなく、筆者でも足つき性はいいので乗りやすそうです。でもトップグレード『VERGE TS ULTRA』の、最大トルク1200Nm、0-60mph加速が2.5秒というスペックには腰が引けます。ポルシェ『タイカン・ターボ』だって850Nmです。

公式HPではこのトルクについて、「狂気のトルク」(INSANE TORQUE)と表現しています。正気の沙汰でないことは、自分でもわかっているようです。

バッテリー容量は20kWh!

バッテリー容量は『TS ULTRA』で20kWhですが、急速充電時の充電速度に違いがあり、『TS ULTRA』は25分となっています。展示車両のコネクター形状はCCS2コンボでしたが、北米でも売っているのでCCS1にも対応しているのでしょう。

航続距離は市街地、ハイウエイのミックスで約230マイル(約368km)、高速道路だけだと200マイル程度だそうです。バイクで20kWhもあれば、そのくらいは走れそうです。

さて、気になる『TS ULTRA』の価格は、アメリカで4万4900ドル。1ドル130円として約584万円です。内訳は不明ですが、3グレード合わせてグローバルで数百台の予約が入っていると、Lehtimakiさんは満足げでした。世界にはお金のある好事家がいるものですが、思えばテスラもそうやって始まったのでした。

全3グレードのスペックと価格、デリバリー時期は以下の通りです。グレードによってパワーやバッテリー容量に違いがあります。販売は全てオンラインです。日本でも売りたいようですが、充電コネクターの規格も含めてハードルが高そうではあります。

●TS ULTRA(4万4900ドル/デリバリー:2023年第4四半期予定)
最高出力:201HP/最大トルク:1200Nm/急速充電での充電時間:25分
●TS PRO(2万9900ドル/デリバリー:2023年5月予定)
最高出力:137HP/最大トルク:1000Nm/急速充電での充電時間:35分
●TS(2万6900ドル/デリバリー:2023年9月予定)
最高出力:107HP/最大トルク:700Nm/急速充電での充電時間:55分

電動スノーバイクはフランスアルプス生まれ

次は雪上レクリエーションの新しいツール、『MOONBIKES』(ムーンバイクス)です。一目見て、「乗りたい!」「ぜったい楽しい!」と思いました。

発祥の地はフランスアルプス近傍のアヌシーで、今はアメリカのコロラド州ボルダーとのダブル本社体制になっています。どちらもウインタースポーツが盛んな土地です。当初6人だった社員は40人ほどに増えているそうです。

『ムーンバイクス』はスノーモービルの機動性とオートバイの軽快さを併せ持つ電動モビリティーです。普段の移動用というよりは、レクリエーション用とを想定しているそうです。欧州でも北米でも、基本的にはスノーモービルに準拠した枠に適合しているので、公道での使用が制限されているためでしょう。

CES Unveiledでは、VRゴーグルで雪の中を走る映像を提供していました。マーケティング担当のChris Davidsonさんから、やってみろと進められて試したところ、目がグルグル回ってしまったのですぐはずしました。やっぱりVRより実車に乗ってみたいですね。

バッテリーは取り外し可能で、1個は標準装備されていて、プラス1個をオプションで搭載可能です。使用時はバッテリーを温めることで、マイナス25度までは対応しているそうです。

充電は110Vか220VのACで、普通充電器なら0%から満充電まで5.5時間、急速充電なら2.5時間で満充電になります。

すでに25カ国に数百台を販売していて、日本にも北海道のユーザーに5台が売れたそうです。今のところ、販売は事業者向けが中心で、スキー場でのレジャーに使われているそうです。加えて、独自に『ムーンバイクス・パーク』を運営し、遊び方の提案もしています。

希望小売価格は8900ドル。追加のバッテリーは1900ドルで急速充電器は480ドルです。オプションで、スキーやスノーボードを搭載するラック、牽引して荷物を運べるプルカなどもあります。

乗れば楽しいのは間違いなさそうなので、北海道のどこにあるのか判明したら遊びに、ではなくて取材に行きたいなあと思うのです。

モータショーみたいになったCES

これらの他にも、ベトナムの自動車メーカー『VINFAST』がEVでアメリカ市場に乗り込むことを発表したり、フォルクスワーゲンが新しいEVの『ID.7』のティザーを発表したり、ソニー・ホンダ・モビリティが新ブランド『AFEELA』をお披露目したり、メルセデス・ベンツはアメリカで充電インフラを独自に整備していくことを明らかにしたり、以前ならモーターショーで公にする情報が多数、CESという家電見本市の会場で発信されていました。

展示ブースも、BMWやティア1大手のヴァレオなどが独自の仮設建物を建てていたり、とにかくお金を掛けている印象を受けました。あれだけの展示は、東京モーターショーでは長らく見たことがないものでした。

ヴァレオの展示ブースでは、開発中のバッテリー冷却システムと、『AFEELA』のフロントに採用されていたコミュニケーション可能なライトをさらに進化させた照明システムに目がいきました。ヴァレオは前後にこのシステムを使い、車に表示するだけでなく、前方数メートルの路面にメッセージを照射して歩行者に注意喚起を促すことも考えているようです。照明システムは撮影禁止だったのですが、製品化に向けて準備が進んでいるようです。

そういえばヴァレオの展示ブースには、外にトヨタ『bZ4X』が展示してあり、ヴァレオのバッテリー温度管理システム搭載の表示がありました。ヴァレオはフォルクスワーゲン『ID』シリーズのバッテリー温度管理システムも手がけています。温度管理の技術では一日の長があるようです。

なおヴァレオの説明担当者に、テスラのバッテリー冷却の方法をどうみているか聞いたところ、バッテリーの側面をきちんとクーラントが通るようにしているのは効果的だと評価していました。その部分では小型の円筒形バッテリーにはメリットがあるとのことでした。

なるほどです。そうは言っても自動車メーカーの多くは平面積が大きなバッテリーを使っているので冷却は課題です。ヴァレオの冷却システムの性能が高くなって、バッテリー寿命が延びることを期待したいです。

産業用機材の巨大な展示も目を引きました。アメリカではコンバインの自立運転の導入が進んでいますが、John Deereが幅20mくらいある実車を展示していたのはたまげました。そのブースには、電動化したショベルカーもあり、2170バッテリーを使っているモジュールも展示されていました。

そんなこんなの展示があったのですが、なんと時間がまったく足りなくて詳細をみることができたブースは限られてしまったのでした。完全に時間配分と、計画の破綻でした。勉強だと思うことにします。

それでも収穫は多くて、やっぱり自分の目で見るのは大事だなあと改めて感じたのでした。海外のメーカー、関係者のEVに対するお金と時間のかけ方は、この30年、変化を避けてきた日本市場とは熱量が違います。

ソニー・ホンダ・モビリティが注目はされていますが、2025年に車が出るときにEV市場がどうなっているのかを考えると、期待より不安が大きくなります。

ということで、以上、ラスベガスのCES会場の様子をお届けしました。またどこかに行くことがあれば、海外事情をお伝えしたいと思います。それではみなさん、ごきげんよう。

取材・文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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