損保大手の Chubb が石炭関連の保険・投資を廃止へ

アメリカの損害保険会社大手「チャブ・リミテッド(CHUBB LTD.)」は2019年7月1日、石炭関連企業への「保険の販売」と「投資」を全廃する方針を明らかにしました。大気汚染、大気と海洋の水銀汚染、地球温暖化へ及ぼす影響を考え、損保事業の継続はリスクが大き過ぎるという経営判断です。ヨーロッパではすでにこうした動きがありましたが、アメリカでは初めてです。

電気自動車情報を発信する『EVsmartブログ』で、なぜ「石炭関連企業への保険販売や投資の話?」と思う方がいるかも知れません。このニュースは、いわゆる「ESG投資」に関わる世界の動きを示しています。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を意味していて、持続可能な社会実現への取組が企業価値の判断材料になっているのです。日本でも、2017年にノルウェーの基金が石炭火力発電比率が高い電力会社などへの投資を引き上げてニュースになったことがありました。

石炭依存からの脱却と電気自動車へのシフトは、SDGsや地球温暖化対策の、同じ線上にある課題です。と、いうことで、チャブのニュースを詳しくチェックしてみましょう。

石炭関連企業には今後は保険を販売しない

スイスのチューリッヒに本部を置く「チャブ・リミテッド」のアメリカ法人は2019年7月1日、石炭を採掘する鉱業企業だけでなく、収益の30%以上を石炭採掘から得る企業に対して、今後は損害保険の販売もしないし、投資も行わない、と発表しました。石炭を燃すことによる大気汚染・大気と海洋への水銀汚染、CO2排出ともなう地球温暖化への悪影響を考慮し、企業として従来のような保険事業を継けることは危険過ぎる、と判断しました。

石炭火力発電所への保険の新規引き受けは行わず、すでにある石炭火力発電に対しても30%の「しきい値」を超えるリスクに対する保険の適用は2022年までに廃止する予定で、2022年以降は公益事業向け発電であろうとも廃止するとしています。ただし、契約企業が石炭依存度を減らす取り組みをどの程度行っているかや、すぐに実用化可能な代替エネルギー源を持たない地域などの事情を評価・考慮して、今回の経営方針の「例外措置」を2022年までは行うとも述べています。

ロイターなどが伝えていますが、チャブ(Chubb)の動きは、Allianz Finance Corp [ALVGLZ.UL]、AXA [AXAFD.UL]、Lloyds Banking Group、Zurich Insurance Group AGなど、ヨーロッパ最大の保険会社や金融機関のいくつかによる同様の決定にならったものと言えそうです。 近年激烈化してきた気候変動と闘うための取り組みの一環として、石炭関連企業との取引を制限するものです。

損保会社・銀行に強まる「風当たり」

チャブは、「この方針転換は、企業、政策立案者、投資家、市民による計画と行動によるものだ」と述べ、このことによる保険料収入への影響は最小限で、投資への影響もないであろうと予測しています。これは、今回の決定が「石炭・オイルサンドを生産するような『汚染産業』から撤退しろ」という投資家や環境保護活動家による圧力が高まり、損保企業としても無視できない段階に達したことを示しています。(オイルサンドとは、いわば「原油が混じった砂・砂岩」のことです。原油採掘より効率は悪いものの、世界に比較的広く分布しており、そこから石油成分を取り出すことが行われています。)

実際、カリフォルニア州保険局の”Climate Risk Carbon Initiative”データベースによると、チャブとその子会社は、化石燃料関連会社におよそ29億ドルを投資しているのが現状です。しかし、欧州での、「汚染産業」と契約・提携している損保会社・銀行が受けている「風当たり」と、その結果の「経営方針変更」を見ると、チャブの今回の変更は当然の成り行きと見ることが自然でしょう。活動家グループのコンソーシアムである”Insure Our Future”は、チャブに対して、石炭・オイルサンド企業への関与レベルを引き下げるよう、9ヶ月にわたって圧力をかけてきたそうです。

深刻化する水銀汚染

さて、今回の取引き廃止では、まず「季候変動への悪影響」が理由として挙げられていますが、じつは石炭を使うことによる「水銀汚染」の問題も深刻なのです。自然界では火山の噴火などによって大気中に水銀が継続的に放出されていますが、これまでに環境の中に放出されてきた水銀の総量の「3分の2」は、産業革命期以降の人間の活動、はっきり言えば「石炭の燃焼」によって出されたものだという事実がすでに明らかになっています。

また、温室効果ガスの放出によって気候変動が起こっている可能性が高いのは周知の事実ですが、それによって、北極地方などの凍土の中に「埋蔵」されて眠っている水銀が、「呼び覚まされる」リスクが問題視されています。せっかく地中に閉じ込めた、生物を脅かす「化け物」を復活させようとしているのと同じですね。そういった意味で、石炭の使用は複数のきわめて深刻な問題点を孕んでいます。

水銀には無機と有機がある。これまでに公害病を引き起こしてきた猛毒なものは「有機水銀」。このうち「メチル水銀」が大型の魚類の体内に蓄積されることが知られている。

石炭の燃焼で大気中に放出された水銀は、やがて河川から海に流れ出し、それをプランクトンが吸収し、海老類や小魚がそれを食べ、さらに大きな動物が補食して「生物濃縮(生体濃縮)」が起こります。マグロなどの寿命の長い大型の肉食魚の体内には、こうして水銀が濃縮されて貯蔵されることになります。妊婦さんや小さな子どもたちにマグロをあまり食べさせないほうがよいと言われるのは、この水銀を警戒してのことです。海産物に依存する度合いの高い日本にとっては、まさに死活問題です。

実際、アメリカの「食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)」は、有機水銀が蓄積されている可能性が高いとして、妊婦・授乳中の女性、子供は、サメ、メカジキ、キング・マッケレル(サワラの近縁種)、マグロなどはを摂取しないよう2004年に呼びかけています。

日本企業も時間の問題

石炭は燃焼させて熱を利用する以外に、化学工業の原料としても利用されていますが、こうした利用に関する保険が今後どうなるか、気になるところです。ともあれ、発電に関しては、これで「再生可能エネルギー・自然エネルギー」へ舵を切ることが必須になったことは明らかです。再生可能エネルギー利用に消極的な日本ですが、例によって「外界」から背中を押されて、重い腰を上げざるを得なくなるのも、時間の問題でしょう。

(箱守知己)


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