電動バイクのバッテリーシェアリングサービス『ガチャコ』が始動〜ただし当面は法人のみ

ENEOSホールディングス、本田技研工業、ヤマハ発動機、カワサキモータース、スズキの5社は2022年4月1日に、電動バイクのバッテリーのシェアリングサービスの提供やインフラ整備をする『株式会社Gachaco(ガチャコ)』を設立しました。シェアリング事業の開始は2022年秋頃になる予定です。

電動バイクのバッテリーシェアリングサービス『ガチャコ』が始動〜ただし当面は法人のみ

当初は東京近郊でサービス開始

東京都内では郵便配達のバイクの多くが電動化されてきて、電動バイクはだんだん珍しいものではなくなってきました。もちろん、中国のように年間1千万台単位で売れているのとは違いますが、補助金を含めると価格的にはガソリンエンジンのバイクと変わらないし、交換式バッテリーなら充電も簡単なので、ゲタ代わりに使うなら電動バイクがいいなあと、筆者は思っています。都内のアパートだとバイク置き場の問題はあるのですが。

さて、便利だとは思うものの、電動バイクのネックはやっぱり航続距離です。ゲタ代わりとは言え、1回の充電で走行可能な距離が実用で20km程度だと確かに不安は残ります。そこで待ち望まれていたのが、経路上でのバッテリー交換サービスです。

ということでこれから注目したいのが、新会社『Gachaco(ガチャコ)』のサービスです。

Gachaco PR Movie
(ENEOS Innovation Partners チャンネル on YouTube)

※冒頭写真はこの動画からの引用。

『ガチャコ』は、ENEOSホールディングス(ENEOS HD)と二輪メーカーの大手4社が2022年4月1日に設立した、電動バイクの交換用バッテリーをシェアリングで利用するサービスと、街中でバッテリー交換ができるようにするインフラ整備を目的にした合弁会社です。

出資比率はENEOS HDが51%、ホンダが34%、カワサキ、スズキ、ヤマハがそれぞれ5%です。サービスの提供開始は2022年秋を目指しています。利用料や利用方法などの詳細は、まだ明らかになっていません。

ガチャコ設立についてENEOS HDは、エネルギー供給事業者の立場から、充電時間の長さや外出時のバッテリー充電切れへの懸念といった課題を解消し、電動モビリティの普及を通じた循環型社会の実現を目指すとしています。

ENEOS HDは2021年5月に、使用済みバッテリーを定置用として使う2次利用、2次利用のあとに低容量でも使用可能な街路灯などに使う3次利用まで考慮した、バッテリーの循環利用を進める「BaaS(Battery as a Service)プラットフォーム」の構築に取り組むことを発表しています。『ガチャコ』への参加は、「BaaSプラットフォーム」を踏まえた新規事業になります。

バッテリー交換ステーションは、駅前などの利便性の高い場所や、ENEOSの既存のガソリンスタンドなどに設置することを予定しています。ホンダ広報によれば、ガソリンと違って消防法の制限を受けないので、幅広い場所を含めて検討するとのことです。

交換ステーションは、今後2年間で1000台分の電動バイクを賄える程度の数を整備する計画です。ステーションの数は未定ですが、設置する地域は東京を中心とした周辺県からになる予定です。

ただ、想定ユーザーは当面は法人のみになりそうです。法人限定の理由のひとつは、確実にバッテリーの回収をしてリサイクルすることを目指しているためです。とはいえ個人事業主も法人だし、みなし法人も法人です。利用できる人の範囲はそこそこ広くなるかもしれません。

当初はホンダのバイクとバッテリーを使用

今回、『ガチャコ』に出資した2輪メーカー各社は、2019年から「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」で、バッテリーを相互利用できるようにする交換式バッテリーと交換システムの標準化の議論を進めてきました。その結果、『ガチャコ』設立の直前、2022年3月26日に仕様の共通化で合意したことを発表しました。

【関連記事】
国内4社が電動二輪車の交換式バッテリーコンソーシアム創設。電気バイクの波が来る?(2019年4月11日)

合意した共通仕様の一部は、2022年3月19日に発行した自動車技術会規格のテクニカルペーパー「TP21003」に準拠しています。「TP21003」は仕様のガイドラインのようなもので、電圧やサイズなどが数値化されたものではありませんが、これに基づいたコンソーシアムの規格が明文化されているそうです。

今のところ詳細は公表されていませんが、ホンダ広報によれば、交換式なので、防水性を車体ではなくバッテリー本体で確保することや、落下の耐性などの要件があるそうです。

ではどんなバッテリーが新しい規格に適合しているかというと、市場に出ているのは今のところホンダの『Honda Mobile Power Pack e:』だけです。なので、『ガチャコ』で使用するバッテリーは、まずはホンダ製になります。

●「Honda Mobile Power Pack e:」仕様
リチウムイオンバッテリー
定格電圧 50.26V
定格容量 1314Wh/26.1Ah
重量 10.3kg

バッテリーの交換は、交換ステーション『Honda Mobile Power Pack Exchanger e:』で行います。

ということは必然的に、バイクはホンダの『BENLY e: I/II』シリーズか、『GYRO CANOPY e:』、『PCX ELECTRIC』のいずれかになります。ヤマハ『E-Vino』もバッテリーは交換式ですが、要件には適合していないので『ガチャコ』では使いません。

これらのホンダの電動バイクはいずれも法人向けなので、結果的に、冒頭で紹介したように『ガチャコ』も法人向けサービスになるというわけです。

自前でバッテリーを作る必要なし

ではホンダ以外のメーカーはというと、今すぐにバイクが出てくるということはないようです。ただ、今後、電動バイクを発売するのであれば、共通規格のバッテリーを使えるバイクを作った方が何かとメリットがあるのは間違いないと思います。

すでに電動バイク『E-Vino』を販売しているヤマハの広報担当者は、今後の計画については回答できないとしつつ、バッテリーは共用でもいいし、共通規格のバッテリーが使えるバイクを作ってもいいし、「いろいろなパターンはあると思う。(ヤマハやカワサキやスズキが自前で)バッテリーを作らないといけないという話ではない」と話しています。

すでに出ているバイクのバッテリーを共通規格のものに変更するのは難しいと思いますが、最初から共通規格のバッテリーを使えるようにすれば、自前でバッテリーを開発する必要はなくなります。

それにバッテリーの開発や必要数確保のための生産設備確保は、バイクメーカーにとって間違いなく大きな負担です。共通化バッテリーを使えば、この部分の投資は不要です。それだけコストも下がるし、共同利用でバッテリーの数が増えれば量産効果も期待できます。

車のように大量のバッテリーを搭載していると、安全性確保のために車体とある程度一体化した構造にせざるをえないため交換式にするのは容易ではありません。それに交換ステーションのために車両の販売台数以上の大量のバッテリーを保有する必要があり、バッテリー不足に拍車をかける懸念もあります。この点、バッテリー容量が少ない電動バイクであれば構造も容易で、交換のメリットがデメリットを上回りそうです。個人の感想ですが。

間違いないのは、バッテリー部分がサブスクやリースになれば、車両価値の低下を防ぐことができて中古車市場の安定につながったり、バッテリーの経年劣化の不安が解消されることです。このメリットはとても大きいでしょう。

このほか、普及で台数が増えると、安いだけに放棄、放置の可能性が高まりバッテリーによる環境問題が必ず浮上することが容易に想像できるという、電動バイクの最大の弱点と言ってもいい問題が、交換式にすることで解決できるかもという期待を抱かせてくれます。

スタートアップ当初から交換式バッテリーを採用して躍進中の、台湾の電気バイクベンチャー『Gogoro』の事例は、2019年に「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」設立を伝えた記事でも紹介しているのでご参照ください。

沖縄県の石垣島ではGogoroのバッテリー交換式電気バイクレンタルサービス『GO SHARE』が稼働中。

ホンダはインドで事業開始予定

少し話は飛びますが、ホンダは、交換式バッテリーの『Honda Mobile Power Pack e:』を交換ステーション『Honda Mobile Power Pack Exchanger e:』で使う試みをすでにスタートしています。と言っても、日本での話ではありません。

ホンダがバッテリー交換の実証事件を進めているのは、インドです。インドでは、全土にわたって3輪バイクのタクシー「オートリキシャ」というのが走っています。ちなみに人力の自転車で客を乗せるのは「リキシャ」です。

このオートリキシャが、たいていは天然ガス(CNG)を使ってるのですが、いい加減なエンジン設定のせいなのか、整備のせいなのかわかりませんが、とにかく排ガスが臭く、光化学スモッグをはじめとした大気汚染の大きな原因になっています。他にも質の悪いディーゼルエンジンを使った3輪の乗り合いタクシーがあるのですが、オートリキシャは全国に800万台以上と、とても数が多いので問題は深刻です。

ホンダは2021年2月から、オートリキシャを電動化して、なおかつバッテリーを交換式にする実証実験を行っています。場所は、ムンバイの東に位置するマハラシュトラ州ターネー(Thane)です。リリースによれば、ターネーで30台のオートリキシャを走らせ、20万キロ以上の営業走行をしています。

今後は、2022年前半にバッテリーシェアリングサービス事業を行う現地法人を設立し、バッテリー交換サービスを提供していくとしています。オートリキシャは、現地製造メーカーが製造する予定です。メーカー名は非公開ですが、写真を見るとバジャジのオートリキシャのようです(筆者の感想です)。

【ホンダ公式リリース】
インドの電動三輪タクシー向けバッテリーシェアリングサービスを2022年前半に開始

ホンダの加藤稔・ライフクリエーション事業本部長はバッテリーシェアリングサービスについて、「モバイルパワーパックには、小型モビリティを含むさまざまな機器の電動化と、再生可能エネルギーの活用拡大を実現する大きなポテンシャルがある」という認識を示しています。

そんなわけで、インドでのサービスが本格化すれば、バッテリーの数がかなり増えるので日本での事業にもコスト面でメリットがあるかもしれません。どういう形で日本でのサービスが始まるのかは未定ですが、ENEOSのガソリンスタンドで手軽にバッテリー交換ができるというのは魅力的です。

法人向けだけでなく、できるだけ早く個人でも使えるようになってほしいですね。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. ほほう、ガチャコが普及すれば都心部での電動バイク利用の不安をある程度解消できますね。街中のモバイルバッテリーレンタルサービスに似てますよ。観光地などそれなりに需要のある地域にも置かれるかもしれませんよね。
    ただ需要と供給の関係で地方での普及は難しく、現在普及している電動バイク[e-Vino]には非対応だから出川哲郎の電動バイク旅「ヤバイよヤバイよ」連発は相変わらずですな(笑)もっとも道の駅ごとにガチャコが設置されるようになれば例の番組も様変わりすると思いますよ!?

  2. なるほど、ガチャコン方式は自前でバッテリー開発、供給しなくてもいいという作り手側のメリットはありますね。ガチャコンしなくても済む、ユーザー”フレンドリー”なガチャコン場所や家充電方式をセットにして、販売して欲しいなぁ(1年以内に)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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