欧州議会「2030年までにCO2を40%削減」を可決 〜 内燃車の終焉が現実味

「2030年にはCO2を現在より『40%削減』する」という議案が、2018年10月3日に欧州議会で可決されました。対象は自家用車と貨物用自動車です。かねてから話題になっていた厳しい規制が、いよいよ内燃車を終焉に追い込むことになりそうです。

欧州議会「2030年までにCO2を40%削減」を可決 〜 内燃車の終焉が現実味

10月3日の決定によると、2020年までにまず「20%の削減」を義務づけ、2030年の「40%削減」まで進める方針だと、同日(現地時間)夜8時過ぎにロイターが速報しました。「ゼロ・エミッション車(電気自動車(BEV))」と「ロー・エミッション車(BEVxやPHEVなど)」の販売にも高い目標が課せられることになります。「CO2排出」と「燃費」を同じものととらえるのは少々大雑把かも知れませんが、現行の内燃車の効率や好燃費から推測すると、たとえば「今より燃費を40%向上させること」は「内燃車(ICE)」での実現はまず絶望的と見られています。日本ではいまだ「ハイブリッド車(HV)」は大人気ですが、これとてもう達成は無理でしょう。自動車の「さらなる電動化」は必須、いやそれどころか「完全電動化」しかない、とすら見られています。世界をリードする環境先進地「欧州」で、いよいよ「内燃車の終焉」が現実味を帯びてきました。

なお、当ブログの読者の皆さんには釈迦に説法ですが、「BEVx」とは、「レンジエクステンダー付きのバッテリー式電気自動車」を意味します。「REEV」と言う表記もまれに見かけますが、BEVとBEVxのほうが論理的で見やすいですね。

EU議会で可決した法案は、内燃車を滅亡に追い込む可能性を高めました。REUTERSのサイトより転載。
EU議会で可決した法案は、内燃車を滅亡に追い込む可能性を高めました。REUTERSのサイトより転載。

今回の可決に至るまでの「かげ・日なた」の攻防については、欧州のNGOである「Transport & Environment(略称『T&E』)」と、科学と技術の幅広い分野からニュースを提供するサイト「TECHNOLOGY ORG」が詳しく伝えていますので、少し紹介してみます。

「T&E」のサイトによると、同NGOは今回の決定を基本的に歓迎しています。この政策によって、空気はより綺麗になり、EU域外から輸入される石油は減り、EU内の雇用も増えるとしています。ただし、破滅的な地球温暖化を食い止める具体策が示されていないことと、パリ協定のもとでのEUの明確な取り組みが提示されていない点に危惧を示してもいます。

「TECHNOLOGY ORG」によると、EU各国から「欧州議会(EU Parliament)」に送られている代議員(deputies)の大半は、「欧州委員会(EU Commission)」の提示した「2021年排ガス・レベルを基準に、2030年にはCO2を30%削減する」という案には反対したものの、EUの環境改善目標を達成することと、BEVやFCVを普及させることに関する今後の方策については「欧州議会は欧州委員会よりもさらに深刻にとらえている」ことを表明しました。例としては、BEVやFCV開発・販売を魅力ある「投資先」としてその安定性を確保し、EU内でのBEVやFCVのシェアを「2025年には全体の20%」に、「2030年には35%」にまで引き上げたいと考えています。これに対してドイツの自動車産業からの強烈なロビー活動があり、「先鋭」さが若干削がれましたが、それにもかかわらず「(前述の)販売目標が達成されなかった場合には『ペナルティー』を課す」ことを盛り込むのに成功しているのは、意義深いと言えます。

昔の馬の「アレ」による汚染、現在の排ガスによる汚染を引き合いに出し、未来に「人類は果たして汚染からは解き放たれるか?」を描いたイラスト。T&Eのサイトより転載。
昔の馬の「アレ」による汚染、現在の排ガスによる汚染を引き合いに出し、未来に「人類は果たして汚染からは解き放たれるか?」を描いたイラスト。T&Eのサイトより転載。

T&Eでクリーン・ビークル(BEVのようなゼロ・エミッション車)部門を統括しているJulia Poliscanova氏は、以下のように述べています。「石油産業と自動車産業からの(法案反対の)ロビー活動は、これまでにない熾烈なものでした。それにもかかわらず欧州議会が毅然と可決したのは、環境にとっても、EU域内の雇用にとっても、また都市で綺麗な空気を享受することになる数百万の市民にとっても、素晴らしいニュースになりました。この可決された政策によって、自動車メーカーはさらにクリーンな車輌を作らなければならなくなり、BEVとFCVをもっとたくさん販売しなければならなくなります。」

それだけではありません。「欧州議会議員たち(MEPs: Members of the European Parliament)」は同時に、メーカーが「検査不正」をする余地がなくなる措置もしています。実際に道路を走る場面に近い、「生」の数値が公表されるようになります。背景には、新しく制定された「性能テスト(WLTP* Laboratory Test)」が導入されたあとでさえ、自動車メーカーは「自分達に都合の良い数値を、巧みに操作して選び、公表している」ことが明るみに出たためです。今後は従来の「測定室で測定台に載せた状態でのテスト」よりも、WLTPに含まれる「実際に路上を走った状態で測定するテスト」の部分がより重要視されるだろうと見られています。(この辺りの理解の助けになるように、記事の最後に【クイックガイド】を付けました。ご覧下さい。)
* WLTP: the Worldwide harmonised Light vehicle Test Procedure

さらに欧州議会は、「バイオ燃料」や「代替燃料」を必要以上に高く評価しない方向も明確にしました。これは、すでに出されている「再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive)」に盛り込まれています。こうした燃料も、CO2を出すことには変わりありません。せっかく植物などが固定化したCO2を、燃やして再びCO2を大気に放出することもやめようと言うことでしょう。また、ハイブリッド車(HV)を必要以上に高く評価する考え方もゴミ箱に捨てました。HVは、測定室燃費と実用燃費の乖離が特に大きく、ひどいときには3倍の差が出ることも明らかになっています。9月28日に伝えられたアウディの不正燃費測定が「ダメ押し」をした形です。

欧州議会(EU Parliament)はフランスのストラスブールにある。EUのサイトより転載。
欧州議会(EU Parliament)はフランスのストラスブールにある。EUのサイトより転載。

いずれにせよEU加盟各国は、2018年10月9日に開かれる環境協議会(Environment Council)において態度を明らかにすることになります。この協議会では、目下19の加盟国が「2030年にCO2 少なくとも40%削減」に賛成しています。そして、これに付随する様々な動きが2019年の早い段階までに固まることになるでしょう。

再びJulia Poliscanova氏の発言です。「EU政府内の明らかな多数が、今回の『よりクリーンで、電気に基づいたモビリティーへの転換を加速せよ』という政策を支持しています。反対しているのはわずかで、ドイツ、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアだけです。この中でドイツに関しては、ディーゼル不正の過去(Dieselgate)もあるので、私たちは反対は許さないと考えています。各国の閣僚は、今回の政策を承認すべきと考えています。」

それにしても、こんなに大きなニュースなのに、日本のマスコミではほとんど報道されませんね。もしかして「不都合な真実」なのでしょうか。それでも地球は回っています。当ブログでは、これからも世界で起きていることがらに関する価値ある情報をどんどんお伝えしてまいります。

【クイックガイド】
燃費とCO2排出に関する基準はちょっとややこしいので、整理してみます。NEDC*1 とWLTP*2 については、自動車会社の研究者にお聞きしたところ、「数値」ではなく「%」で比べるのがポイントだそうです。「尺・寸」と「メートル」を比較する、「華氏」と「摂氏」を比較する、そんなような難しさがあります。さらに困るのが、尺・寸⇔メートル、華氏⇔摂氏のように簡単に換算することはできないそうです。NEDCとWLTPの「換算係数」は一意には決まらず、車輌ごとに異なるからです。ともあれ、読者の皆さんの内容理解にお役に立てると嬉しいです。
*1  NEDC : New European Driving Cycle
*2  WLTP : the Worldwide harmonised Light vehicle Test Procedure

1. 「NEDC」と「WLTP」について
①WLTP導入の狙いは、より「実走行」に近い燃費が出るように試験方法を見直すことにありました。
②試験方法を見直したので、単位距離あたりの必要エネルギーは30%以上増加するとされています。
③実車測定では、負荷増によりエンジン効率の良い部分を使う場合も増えるので燃費への影響は各車違いますが、WLTPでは平均するとNEDCから「22%」程度数値が悪化するだろうと言う説が有力です。
④燃費試験は2018年9月以降はWLTPで実施することになっています。

2. 「CO2」規制
①2018~2020年までは、WLTP試験値をNEDC値に読み替えて現行規制を適用することになっています。つまり、 車輌ごとの換算を行って、NEDCで比較します。
②規制値は2020年に「130g/km」から「95g/km」へ変更されます。これは、「1km走る」際に、「130gのCO2」を排出する状態から、「95gのCO2」排出まで削減するという意味です。
③2021年以降は、「2020年の各社実績」をもとに、WLTPでの規制値を算出することになります。
④2025年、2030年にはふたたび規制の強化があり、「2021年値の15%削減」、「2021年値の30%削減」がそれぞれ素案として提示されています。
⑤9月の欧州環境委員会で、上記数値が20%、40%と強化されて採択されました。
⑥10月3日の欧州議会では、上記は「法案」として承認されましたが、今後は「緩和」に向けての交渉がスタートすると見られています。

3. CO2規制強化をまとめると…
CO2規制強化を%で表示。
2020年:△27% (130g/km⇒95g/km) → 27%削減
2025年:△15% or △20%(2020年比) → 15〜20%削減
2030年:△30% or △40% (2020年比) → 30〜40%削減

以上です。

(文・箱守知己)

この記事のコメント(新着順)2件

  1.  無理だな、ハイブリッドにしか達成できない。言葉の遊びです。しかも、自動車のエネルギーを100%にすると原発を使わないと間に合わない。中国は原発に対して意欲満々だがEUのロジックは冷静な科学者がすぐに見破る。
     とにかく、世間はEV対HVを前面に押し出すが、EV対内燃機関ならトラック、バス、船舶、産業機械を含めると、乗用車でビクともしない内燃機関帝国を築いてきた自動車業界は、自動車補給品ビジネスを含めるとITや電子材料のような感覚とは違うだろう。

    1. 久保田様、コメントありがとうございます。ハイブリッド車でも二酸化炭素排出量の削減はもちろんできますが、今回決定されてしまった目標値まで持っていけるかというと、ほぼ無理に近いと思います。小型車では可能でしょうが、SUVや大型乗用車ではハイブリッドパワートレインの効率がどうしても上がりづらいので、燃費の改善効果が限定的になってしまいます。
      例えばCUVで人気のハリアーハイブリッドAVU65Wの実燃費は13.51km/lくらいです。
      https://e-nenpi.com/enenpi/cartype/11386
      二酸化炭素排出量へ変換すると、171g-CO2/kmですね。これは実燃費ベースですのでWLTPベースだともう少し排出は少ないと思いますが、2020年時点での基準の95gは結構難しいことがおわかりいただけると思います。当記事は2021年の基準からさらに30%の削減について書いているものです。

      電力不足に関する議論ですが、下記に計算根拠も含めて記載していますので、よろしければご覧ください。日本では、すべての乗用車を完全電気自動車にしても、必要な発電電力量は10.1%しか増加しない見込みです。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/ev-and-fossil-fuel-power-station/#title03

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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