タイでも吹き荒れる中国NEV旋風「第45回バンコク国際モーターショー」レポート

日本の自動車メーカーにとって重要な市場であるバンコクで第45回バンコク国際モーターショー2024が開催されました。東南アジア最大規模といわれるモーターショーの会場で顕著だったのは、中国メーカーのEVを中心とした電動化の勢いでした。

タイでも吹き荒れる中国NEV旋風「第45回バンコク国際モーターショー」レポート

タイモーターショーに吹き込むNEVという風

かつて世界5大モーターショーと言われた、デトロイト、東京、フランクフルト、ジュネーブ、 パリの国際モーターショーの様変わりが伝えられて久しい。東京やミュンヘン(2022年にフランクフルトから移動)のようにCASE技術やモビリティを軸にしたリモニューアルを果たした例もあるが、5大モーターショーの代わりに存在感を示しているのが上海や北京といった中国のモーターショーだ。

さらに、これらとも違う独自のモーターショー文化を持つのが、インドやタイなどアジアのモーターショーだろう。バンコクモーターショーの特徴は、要は「車の展示即売会」といえばわかりやすい。消費者との距離感も近く、新車のお披露目や自社製品のアピールという点では、トレードショーのあるべき姿ともいえる。

だが、今年の「第45回バンコク国際モーターショー」は少し例年と雰囲気が違った。「オートサロン」にも通じるオーナーやファンの熱気は維持しつつも、電動化という新しい風が流れ込んでいた。その風を巻き起こしているのは、他ならぬ中国を筆頭とする韓国、ベトナムなどの新しいOEMブランドだった。

今回のバンコク国際モーターショー(BIMS:Bangkok International Motor Show)は、各社のプレスカンファレンスに力が入っていた。BYDのATTO 3のヒットに乗じて、中国OEMのタイ参入表明が昨年後半から相次いでいるからだ。VINFASTやXpengのようにモーターショーでタイ進出を正式アナウンスしたOEMも少なくない。

これまでタイのOEMブランドは、BIMSで車を売ることが主目的だった。プレス発表よりも、いかに顧客、取引先(販売代理店やディストリビューター)に来てもらい、売り上げを上げることに重点を置いていた。しかし、新規参入組にとってはメディアPR、ブランド認知が当面の優先課題だ。結果としてタイにおける新興OEMは、プレスカンファレンスにも力が入ることになる。

今回BIMSでプレスカンファレンスを開催した海外新興メーカーブランドは、GWM、Hyundai、MG、KIA、VINFAST、HONRI、BYD、AION、Xpeng、DEEPAL、ZEEKR、NETAといったところだ。このうち、GWM、DEEPAL、ZEEKR、NETA、Xpengは、ディーラーや業界関係者向けのVIP DAYのみのプレスカンファレンスを行い、報道関係者向けのPRESS DAYでの発表を行わなかった。VINFASTやBYDはPRESS DAYのみのカンファレンスを行い、MGはVIP DAY、PRESS DAYの両方でカンファレンスを開催した。

GWMは、タイ進出が2020年。ORA GOOD CATはバンコク市内でしばしば走っているのを見かけるくらい市場に浸透している。認知度よりも新型、販売戦略を業界VIPにアピールすることに重点を絞ったものと思われる。ZEEKRやXpengなどラグジュアリー路線のブランドも、まずは販売チャネルや業界認知度を優先させた。VINFASTやBYDは主力商品がコンパクトSUVなど普及モデルのため、PRESS DAYに注力して市場全体に認知を広げる戦略をとった。

タイ進出先行組の動向:GWM/Hyundai

タイ市場でも、今後の展開が注目される中国系OEMブランドの戦略や車両はどうだったのか。すべてのブランドを均一に網羅することはできなかったが、主だったメーカーのプレスカンファレンスとブース取材による情報をまとめてみたい。

GWMは、2020年からタイに進出している。EVではORA GOOD CATがいち早く市場投入されている。それ以外にHAVAL、POER、WEYといったハイブリッド車も販売している。HAVALは現代風のファミリーや若年層を狙ったSUV。POERはタイ市場のニーズに合わせたピックアップトラックだ。

SAHRA

プレスカンファレンスでは、POERの新型モデル「SAHRA」を大々的に取り上げていた。5つのドライブモードや2ウェイ開閉の荷台のリアゲート、レーンキープや自動パーキングアシストなど29のADAS機能が売りだという。5月発売予定で先行予約を開始した。

HAVAL JOLION

HAVALは、都市部のファミリーなどを意識したSUVだが、今回「JOLION」という若者向けのモデルを追加した。プロモーションには「Three man down」という現地のアイドルグループを起用した。

Hyundaiは韓国メーカーとして早くからタイ市場には進出している古参組。スターリアなどハイブリッド車も発売中で一定の知名度を持っている。最近ではIONIQ 5の投入により、タイのEV市場でもプレゼンスを上げている。

IONIQ 6

今回はIONIQ 6をBIMSでタイ市場でも発売することと価格がアナウンスされた。ブース担当者によれば、2023年は同社のEVの売り上げが前年から8倍にもなり、IONIQ 6の投入によって拡大に拍車をかける戦略だ。なお発表されたIONIQ 6の価格は1,899,000バーツ。為替レートでの日本円換算では800万円前後となる。

タイ進出先行組:MG/GAC

英国を起源として100年の歴史をもつMGを中国ブランドとして括るのは適切ではないが、発表車種はすべてハイブリッドとEVである。これらの電動車は中国資本になってから開発、製品化が加速した分野だ。

Cyberstar

発売中のハイブリッドSUV(MG HS/MG VS)の100周年記念モデルの発表もあったが、プレスカンファレンスで紹介されたのは「Cyberstar」の右ハンドル車。Cyberstarは昨年ミュンヘンモーターショーで発表されたオープン2シーターのスポーツEV。右ハンドル仕様はタイにも投入される。次に「MG MAXUS 7」と「MG5 Pro」が紹介された。MAXUS 7は日本ではミニバンに相当するMPVカテゴリーのEVだ。これより少し小さいMAXUS 9がマレーシアで発表されている。

MG4

MGの主力モデルであるMG4については100周年記念のロングレンジモデルが発表された。MGはタイでの販売実績が63,000台を超えたという。その多くはMG4が担っている。会場周辺やバンコク市内でもMG4を見かけた。タイではBYDのATTO3が最も売れているEVだが、街中ではMG4とORA GOOD CATのほうが多く見かける印象だった。

AION Y Plus

GAC(広州汽車)は2023年9月にタイ市場に参入している。主力車種は「AION」(EV)。BIMSでは8月に新型のAIONが発売されることがアナウンスされた。

GACは7月にもタイの生産工場を稼働させる。場所はバンコク南部沿岸、ラヨーン県のEEC経済特区だ。7月の操業開始は第一段階で、第二期工事が完了すると年間5万台の生産工場となる。

NETA(合衆新能源汽車:哪吒汽車のEVブランド)は、「NETA GT」「NETA S」「NETA U」「NETA V」という主要モデルを販売している。NETA V IIというモデルをすでに発売中、6月には中国でも発売されたばかりのNETA Xがタイにも投入されることが発表された。

タイ新規参入組:Xpeng/DEEPAL/ZEEKR/VINFAST

Xpengは2024年からタイ市場に参入する。今回のBIMSで正式にアナウンスされた。車両はG6を9月から発売する予定で、販売網やサービス体制について最終調整を行っているところだ。会場にはG9も展示されており、これも順次タイに投入されるという。

Xpeng X2

また、同社の技術力のアピールのため、「Xpeng X2」と「ユニコーン」も展示されていた。X2は、中国ではライセンスもとり実際に市販が開始されたドローン(マルチコプター)カーだ。ユニコーンはボストンダイナミクスの「Spot」のような4足歩行ロボ。完全コンセプトモデルなので市販されているものではない。

AVATR II
Lumin

DEEPAL(深藍:長安汽車のNEVブランド)は、AVATR IIを展示していたが、L07、S07、Luminを2024年にタイ市場で発売する予定だ。L07はスポーツセダンタイプでS07がSUV。LuminはコンパクトEV。ORA CATよりもさらに若い女性を意識した日本の軽自動車のようなEVだ。CD701はタイ市場を強く意識したモデルといえる。SUVのような外観をもちながら、リアはハッチバックではなくシャッターつきの荷台になっているピックアップトラックだ。発売は2025年を予定している。

X

ZEEKR(吉利汽車のEVブランド)は「007」「009」「X」の3モデルを持ち込んでいた。タイでは7~8月をめどに「ZEEKR X」から発売を開始する。次に予定されているのは「ZEEKR 007」だそうだ。

VF e34

VINFAST(ベトナムVINグループの自動車メーカー)も2024年の新規参入組だ。4月1日が正式なタイでのローンチとなる。BIMSはその前週に開催されており、プレスカンファレンスでは4月からの市場参入と戦略が発表された。最初に投入されるのは「VF e34」。小型SUVからだ。発売予定は5~6月と述べていた。年内中に「VF 5」「VF 6」「VF 7」を順次発売していく計画がある。

WILD

VINFASTはバッテリーをサブスクリプションモデルとし、車両価格を抑えることで成功しているメーカーだ。タイでもこの方式は採用される。すでに15の販売代理店と契約済みだ。なお発売については明言しなかったが、2024年のCESでアンベールされた「WILD」というピックアップトラックEVも展示された。

ピックアップ文化との共存+NEV需要の喚起

タイの自動車産業には、日本や中国、EUにない特徴がある。それはピックアップトラックの文化だ。雨季のあるアジア諸国ではロードクリアランスが高いピックアップトラックが重宝する。都市部を離れると未舗装路も珍しくないし、近年は異常気象による洪水被害も深刻だからだ。

タイ国内の新車販売に占めるNEV(EV+PHEV+FCV)の比率は12%前後と言われている。都市部を中心にEVの市場が拡大中だが、やはり充電インフラの課題はある。BYDでも購入者の多くは自宅充電がしやすい戸建て住居者が多いという。路上の充電ステーションを運営するCPOも存在するが、十分とはいえない。公共の普通充電器で約4800基。急速充電器で約3900基(2023年9月現在)という統計がある。

会場近くで見かけた急速充電スポット。規格はCCS2が主流となって拡大中とのこと。

このような事情からか、BIMSでも既存OEMは必ずピックアップトラックやオフロードタイプのSUV、クロスカントリーモデルを用意していた。EVによる新規参入組も、DEEPALのようにピックアップトラックをセットにしていた。

現状、タイの乗用車市場で圧倒的な強さを見せているのは、やはり日本車だ。いすゞ・トヨタ・ホンダを筆頭にスズキ、日産、マツダも見かける。いすゞのD-MAXは個人所有のピックアップトラックとしては、トヨタハイラックスより多く感じられるのが現地の印象だった。ハイラックスは商用バンとして架装された車両が多いが、D-MAXのほとんどはオーナーカーだった。

このような市場に参入する中国勢(他新規参入組)は、ピックアップ文化とインフラ事情を考慮したハイブリッド車で足場を確保しつつ、得意分野であるNEVによる新しい市場開拓を狙っている。

取材・文/中尾 真二

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					中尾 真二

中尾 真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。「レスポンス」「ダイヤモンドオンライン」「エコノミスト」「ビジネス+IT」などWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアをカバーする。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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