電気自動車をどう使うか?〜トークイベント「新興EVメーカーの可能性」ポイント解説

「自転車・電動モビリティまちづくり博」のステージで行われた興味深いトークイベントのポイント解説。第2弾はユニークな電気自動車を日本で展開しようとしているEVベンチャー代表者3名によるセッションです。各社が提案するEVに込められたビジョンは、EVが普及する社会の可能性を示唆してくれるものでした。

電気自動車をどう使うか?〜トークイベント「新興EVメーカーの可能性」ポイント解説

登壇したキーパーソン各社の電気自動車

まず、自己紹介で紹介された登壇者と各社のEVを確認しておきましょう。モデレーターは、ポイント解説第1弾の「EV充電インフラの現状と課題」と同じ、ジャーナリストの沖一幸さんでした。登壇したのは、「自転車・電動モビリティまちづくり博」にそれぞれの車両出展もしているEVベンチャー企業代表者の3名です。

HW ELECTRO株式会社 代表取締役社長
蕭偉城氏

着席順で最初に自己紹介したのは、EVsmartブログでもしばしば取り上げている(関連記事)商用EV「ELEMO」シリーズを展開しているHW ELECTROの蕭 偉城(ショウ・ウェイチェン)社長です。

HW ELECTROでは、小型商用車の『ELEMO』、軽自動車規格に合わせた日本オリジナルの『ELEMO-K』、ハイエースサイズの『ELEMO-L』を発売。「商用車EVのバリエーションを拡げて、ラストワンマイルの部分をEV化していくことを目指している」(蕭氏)ことが説明されました。

アパテックモーターズ株式会社 代表取締役社長
孫峰氏

アパテックモーターズでは、月額9800円という低価格でリース販売される『大熊 Car(OHKUMA)』(関連記事)など、小型EVを日本で発売する計画を進めています。

自己紹介では「車両価格の高さがEV普及の大きな課題。弊社では必要でないものは除外して、できるだけローコストなEVを提供することを目指している」ことが強調されました。

株式会社アセンブルポイント 代表取締役会長
栗原省三氏

アセンブルポイントが出展していたのは、フィリピン製のEVミニバス『Smart BUS』です。Smart BUSは元日産の栗原氏を中心に、モータリゼーションが発展途上にあるフィリピンで活躍することを想定し、日本で設計開発してフィリピン国内で製造。2022年3月にフィリピン国内で発売されて、現在、日本への導入に向けて準備を進めているところです。

そもそもの開発コンセプトについて栗原氏は「ローコスト、ロースピード、ショートディスタンス」であることを挙げ、ことにフィリピンのような経済発展途上にある国では「あまり高価なEVを作っても社会に広がらないしビジネスに使えない。安価に作るのも大切なテーマ」であると説明しました。

ベンチャー各社が提言するEVの強みとは?

ユニークな3社のEVが出揃ったところで、モデレーターの沖氏が「今までの自動車のビジネスモデルと随分違って、それぞれマーケットを特化している印象」を受けたことを指摘。各社の狙いや「強み」がどこにあるのかを質問しました。以下、3人の回答を要約して紹介します。

蕭偉城氏(HW ELECTRO)

日本には大手自動車メーカーが多く、ベンチャーにチャンスがあるのは商用車だと考えました。既存メーカーがICEをEVに置き換えていかなきゃいけないという困難なミッションを抱えている中で、数的にも大きな商用車のマーケットをターゲットにしたということです。EVには災害などの非常時に電源として活躍できる利点があります。全戸各地にEVの商用車が増えることで、災害にも強い社会の実現に貢献できると考えています。

会場では災害対応の導入事例も紹介されていました。

孫峰氏(アパテックモーターズ)

中国では多くのEVが作られるようになりましたが、日本の市場はなかなかハードルが高い。そこで、日本国内の工場でEVを生産できないかというのが発想のスタートでした。今、日本各地でのこうした展示会への出展などを通じて、日本でも多くの方がEVに興味をもっていることがわかっています。なるべく普及するEVはどういうものかを考えて「EVのLCC」とでもいいますか、安価に提供することを目指しています。安価なEVが日本社会に広がれば、さらに付加価値の高いEVも普及していくのではないでしょうか。

大熊Car

栗原省三氏(アセンブルポイント)

バスのEV化も世界各地でさまざまな取り組みがありますが、従来の常識に見合った「EVバス」にしようとするとどうしても高価になってしまいます。そうなると、なかなかビジネスモデルとして成立しない。そこで、縁があったフィリピンで、ライトワンマイルの交通機関として機能できる、ローコスト、ロースピードの電気モビリティを提供したいという発想でした。

Smart Bus

どうすればEVは本当に普及するのか?

沖氏は続いて「どうすればEVが普及するのか?」という疑問を提示。日本のエンドユーザーの多くの方は「まだEVをどう選んでいいのかわからない」現状ではないかと指摘しました。EVベンチャーのみなさんはどう考えているのでしょうか。

蕭偉城氏(HW ELECTRO)

大切なのは、EVはICE(エンジン車)をただ置き換えるものではないということだと思います。たとえば、大手運送会社さんにELEMOシリーズの商用車を使っていただく場合、航続距離や充電時間を考慮して、配送ルートをEVに合わせて工夫する必要が出てくることがあります。EVの使い方を理解してこそ、脱炭素というEVのメリットを活かせるようになるということです。いろんなところで商用EVが活躍するようになれば、それをお手本としてEVならではの使い方も広がっていくのだと思います。

充電についても誤解が広がっていると感じます。私自身、日常的にEVに乗っていますが、それほど充電に気をつかうことはありません。携帯電話と同じで、自宅のコンセントで寝ている間に充電できて、ほとんどの場合それで十分に活用できます。実際、地方によってはガソリンスタンドが減少して不便になっていますから、自宅ガレージで充電できるのはむしろ便利なことだと気付きます。急速充電や航続距離を重視するあまり、社会的にミスリードが起きている印象です。私は顧客となる企業の方に「EVの使い方を一緒に考えていきましょう」と提案することが多く、それがEV普及の大きなポイントだと思っています。

孫峰氏(アパテックモーターズ)

蕭さんが指摘したように、生活スタイルが変われば十分に活用できるという気付きを拡げていくのは大切なポイントだと思います。自宅で充電できる環境を拡げていくことが重要で、大熊Carのように100Vで充電できれば大きな電気工事も必要ありません。

今後のEV普及については、いくつかのキーワードがあると思います。ひとつは自動運転です。スマホで予約すると迎えに来てくれて目的地まで乗っていける自動運転のEVが活躍する技術は、ますます進んでいくと思います。

もうひとつが、電池交換ステーションです。夜間の電気で充電したバッテリーパックに短時間で交換できるようになれば、充電時間の課題は解決されるし、そうした電池パックを活用することで、いわゆるシェアエコノミーが広がっていくでしょう。既存のエネルギーリソースを活用して、そうしたイノベーションを組み合わせていけば、EVはもっと普及しやすいのではないでしょうか。

栗原省三氏(アセンブルポイント)

正直言って、フィリピンではまだEVはほとんど走っていません。私どもがSmart BUSを導入しようとする際にも、収益性やコスト、ルート設定などが課題になります。フィリピンの庶民の足としては、日本のバイクの中古車にサイドカーを付けたトライシクルや、20人乗りくらいのジプニーと呼ばれる車両が広がっています。これは排気ガスも酷くてなんとかしなくちゃいけないのは事実です。でも、トライシクルは1台30万円くらいで、1対1で置き換えようとするとEVでは商売道具になりません。

そこで、私たちが自治体と交渉する場合、ルートごと見直すところまで提案します。たとえば、今は50台のバイシクルが走っているところに10台のSmart BUSを導入して、ルート上のバス停にはスペースを設けて交通渋滞にならないような工夫を加える。さらに排ガスも改善するといったところまでプランを策定するのです。大変ですが、社会的に意義があることなので進めていきたいというのが正直な気持ちです。

各社それぞれのアピールを!

最後に沖氏から3名の登壇者に向けて、各社のアピールポイントは何かという質問がありました。

蕭偉城氏(HW ELECTRO)

私がHW ELECTROの起業を決意したきっかけは、2018年、大阪北部地震で被災した経験でした。大阪の広い地域で停電に見舞われて、私はスマホのバッテリーが切れてしまって、社員に安否を伝えることさえできない不安を体験したんです。日本の電力会社は優秀で、大きな災害で停電しても2〜3日あれば復旧するんですけど、やはり被災直後の電源確保はとても重要です。そこで、非常用電源としても機能する小型商用EVを拡げていきたいと思っています。

今後はハードとしての小型商用EVに通信やソフトウェアを組み合わせて、災害時の救助ツールとしてばかりではなく、テクノロジーを活用したビジネスツールにしていきたいというビジネスプランを思い描いているところです。

孫峰氏(アパテックモーターズ)

今まで、日本企業が中国に進出した例は多いですが、逆に中国から日本に進出するケースは多くありませんでした。弊社では、東日本大震災からの復興を目指している福島県の大熊町に工場を着工します。来年にはたとえば1万5000台のEVを生産し、ゆくゆくは年間15万台くらいの規模を目指したい。こうした事業が、大熊町の復興や雇用確保にも繋がっていくと考えています。

また、ローコストのEVを製造して販売するのとともに、先ほどお話しした自動運転や電池パックの交換ステーション、カーシェアリングといったサービスにもチャレンジしたい。1億2000万人の日本はこうしたプロジェクトのテストマーケティングとして最高の場所です。さらに、日消費者の要求が厳しい日本で洗練されたEVを、東南アジアをはじめとする海外にも展開していきたいと思っています。

栗原省三氏(アセンブルポイント)

アセンブルポイントでは、ショートディスタンスのロースピード、ローコストビークルに特化して、公共交通や物流に貢献していきたいと考えています。2023年中には、Smart BUSを日本でも発売開始いたします。

バスによる公共交通は、フィリピンでも日本でも、朝のピーク時にドライバー確保が難しかったり、利用客が少ない時間帯は大型バスでは遊んでしまうといった課題を抱えています。たとえば、自動運転で隊列走行できるSmart BUSを導入すれば、こうした課題の解決にも繋がります。私どもの企業だけで社会課題解決を実現するのは難しいことでもあるので、IT関連などさまざまな企業と連携して、有意義な取り組みを展開できればありがたいと考えています。

EV普及から新たな社会ソリューションが育っていく

3人のキーパーソンのアピールを受けて、モデレーターの沖さんは「新興EVメーカーのみなさんが目指しているのは、今までの自動車販売とかなり違うと感じました。EVをツールとして、新たな社会インフラやソリューションを拡げていくことなんですね」と総括していました。

トークセッションの最後には、栗原氏が「ハイパフォーマンスなEVは大手メーカーにお任せして、私たちはそれぞれのEVをベースにITと組み合わせるなどして、環境に優しく効率のいい移動手段の構築をサポートしていきたい」とまとめていました。おっしゃる通りだと思います。

さらに、蕭氏が提言していた「EVはICEをただ置き換えるものではない」というのは、EVシフトを人類や地球環境にとってより有意義なイノベーションにするために大切なこと。EV開発で出遅れた感が強い日本の自動車メーカーが、世界のEV競争で逆転を目指すためにも重要な視点だと、個人的に強く感じます。コストパフォーマンス高く(バッテリー容量は抑えつつ)、新たなライフスタイルを楽しめる魅力的なEVを生み出せるよう、大手メーカーで開発に携わるみなさんが知恵を振り絞ってくださることを期待しています。

取材・文/寄本 好則

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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