富士スピードフェスティバルに電気自動車も集結〜気になるEVをチェック【諸星陽一】

富士スピードウェイで開催された「富士スピードフェスティバル」では「EV:LIFE MEETING 2023」も行われ、多くの電気自動車が集まりました。雨中のイベントを訪れたモータージャーナリスト、諸星陽一氏が気になったEVをレポートします。

富士スピードフェスティバルに電気自動車も集結〜気になるEVをチェック【諸星陽一】

EV展示の中でも目立っていた「ハイファイ Z」

2023年10月15日、静岡県の富士スピードウェイにて「富士スピードフェスティバル」が開催されました。メインコースではロータスのレースやヒストリックフォーミュラのデモランが行われたりという、その名のとおりスピード系イベントでしたが、グランドスタンド裏のイベント広場では「EV:LIFE MEETING 2023」というインサイドイベントも行われて多くのEVオーナーが集まり、EVを中心とした展示や試乗会なども開催されました。

イベント広場でひときわ目立つ存在となっていたクルマがありました。見たことがないスタイルの大きなボディのクルマは中国製の「HiPhi Z(ハイファイ・ジー)」(冒頭写真)というEVです。ハイファイは華人運通のブランドで、X、Y、Zと3種のモデルを製造しています。Zは5ドアモデルで、まるでコンセプトカーのように見えるスタイリングです。

全長×全幅×全高は5036×2018×1439mm。全長についてはレクサスLSが5235mmもあるのでそれよりは短いが、LSの全幅は2m以下。全幅2020mmだとメルセデス・ベンツGLEに相当するがGLEの全長は4925とハイファイZよりも100mm以上も短い。それが分かるとハイファイZが相当に大きいクルマであることが想像できるでしょう。

ドアノブは存在せず、ドア付近にあるボタンを押すことでドアが開閉します。ドアはヒンジ式ですが、観音開きとなっています。ドアにはセンサーが装備され、近くに障害物があると途中で止まるようになっています。人間もセンシングするので乗ろうと思っている人が近くにいると開いている途中でドアが止まってしまいます。せっかちな筆者は何度もドア開放に失敗しました。

エクステリアのデザインはかなり先進的で遊び心が満載です。とくに注目なのが車外にアピールするLEDインフォメーションの存在です。ドアが開閉される際はドアに取り付けられたモール状のLEDが7色に点滅。リヤコンビランプは人が歩く姿がデジタルアニメーションとして映し出されるなど、その動きは多彩です。日本は灯火に対して非常に厳しい規制があるので、このまま発売されることはないでしょう。

ドアノブは、無い。

車外には非常に多くのセンサー類が見てとれます。将来の自動運転を見越してのセンサー装着とのことで、現在はレベル2の自動運転が可能とのこと。どこまで実現するかは各国の法規との整合などを合わせて調整中とのことですが、アップデートによってレベルを上げられます。センサー後付けではなく、とりあえず付けておいてその後にソフトウエアで対応するというのは非常に歓迎できます。

室内に目をやると大型のセンターモニターに目がいきます。BYDでは縦置き、横置きが可能だったセンターモニターですが、ハイファイZのモニターはさらにアクティブ、音楽に合わせて回転したりする機構まで備えています。もはやクルマとしての機能ではなく、ライブ空間のような演出です。自分で運転する際には運転の妨げとなり、安全性を損ないますが、自動運転時は関係ないでしょう。今回展示されていたモデルはリヤシートがセパレートの4名定員でしたが、リヤに3名分のシートを備えた5名定員モデルも存在します。

搭載されるバッテリーはなんと120kWh。一充電航続距離は中国基準で705kmとのこと。モーターはフロントとリヤに配置される4WD。スペックは前後同一で247kW/410Nm。0→100km/h加速は3.8秒と駿足を誇ります。ACでの充電時間は0%→100%が11kwで12時間40分と発表されていました。急速充電性能は聞き忘れましたが、日本導入されるとなればチャデモ規格に対応して中国仕様とは性能が異なるはずなので、ここではスルーしておきます。

充電口は中国仕様のままでした。

自動運転、ではないeパレットに体験試乗

ハイファイZは富裕層にアピールする贅沢さ満載のモデルですが、今回の富士スピードフェスティバルでは将来のモビリティを見据えたモデル、トヨタのeパレットが実証実験として富士スピードウェイ場内を運行していました。実験中のeパレットは自動運転タイプではなく、ドライバーが運転するものでした。さすがに運転はさせてもらえないので、お客さんに混じって客席へ乗り体験試乗です。

自動運転のeパレットはゆったりとした発進という印象でしたが、今回試乗したeパレットは普通のクルマと同じ程度の発進加速です。EVなので走行音は静かです。そして乗り心地がかなり快適なのにも驚きました。こうしたモデルは見た目が斬新でも実際に乗ってみるとイマイチなことが多いのですが、このeパレットに関してはかなり熟成されている印象です。

通常バスタイプのモデルはトラック系のシャシーを使うとのことですが、このeパレットに関しては乗用車系からの派生とのことで乗り心地も稼がれているといいます。サスペンションもランドクルーザー系のコイル&エアのサスを採用しているとのこと。

段差乗り越え時は若干ショックを感じましたが、動きがしっかりとしていて安心感があります。eパレットにはbZ4Xと同じヨークハンドルを採用しています。運行時にはUターンのような動きの場面もありましたが、ステアリングはあまり切っていません。確認するとロック・トゥ・ロックは200度とのこと。つまりバリアブルレートのステアリング機構(切り角によってギアレシオが可変式となる)が装備されているのです。

車いすでの乗降を助けるために自動で展開するスロープも装備。スロープ展開時は、サスペンションが縮んでスロープの角度をゆるくする機構が付いています。実演してもらった場所は、路面までスロープを延ばしているので最大限車高をダウンしていましたが、バス停などでの乗降時は段差に合わせた車高ダウンとなり、スロープ角をゆるくして使うこともできるとのこと。

人口減少が発生している地方などでは、eパレットのような少人数の乗合モビリティは有効な移動手段となってくることでしょう。

悪天候の中での駆け足取材だったこともあり、集まったEVオーナーのみなさんの声を聞くことはできなかったのが残念。とはいえ、こうしたサーキットイベントでも電気自動車の存在感が次第に高まっていることを実感できる1日でした。

取材・文/諸星 陽一

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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