フォーミュラEと一緒に東京の未来を感じるイベント開催
フォーミュラEの観戦チケットは手に入らなかったのですが、せっかくなので雰囲気だけは楽しもうと、3月30日(土)に東京ビッグサイトへ行ってきました。レース観戦というと、郊外にあるサーキットまでの往復に時間もコストも必要ですが、都心部での開催なので利便性は最高です。ゆりかもめを下りるとそこはレース場。見慣れた交差点が金網で仕切られていて、その向こう側には特設サーキット。非日常感が気分を高めてくれます。
レースのリポートは別記事を参照していただくとして、日本初の公道サーキットに囲まれたビッグサイトで、チケットのない私が目指したのは、E-Tokyo Festival2024実行委員会と東京都が主催した「E-Tokyo Festival 2024」(30、31日)。フォーミュラEの初開催に合わせて、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)に触れたり乗ったりして、環境にやさしい東京の未来を感じてみよう、というイベントです。
西1〜4ホールと東1〜3ホールを使って(東4〜6ホールはフォーミュラEのファンビレッジ)、テーマ展示やライブショー、ZEV試乗体験などが無料で楽しめるようになっていました。レース終了までは東ホールのメインステージでパプリックビューイングも実施されていました。
西展示棟では、エネチェンジやユアスタンド、Power X、ユビ電、プラゴなど、EVユーザーにはおなじみのEV充電サービス会社がPRブースを構えていました。コアなファンが集まりがちなモーターショーや電気自動車関連イベントとは様子が違っていたのは、親子連れが圧倒的多数だったこと。
キッズ向けの催しが充実していたのが、幅広い層を集めた理由でしょう。レゴやトミカのコーナー、さまざまな乗り物を楽しめる体験型のアトラクション、縁日コーナーなどでみなさん楽しそうに遊んでいました。仮面ライダーやぷりきゅあ!のショーも開催。キッチンカーなども並んでいて、飲食もできるようになっていました。
EVユーザーとして印象的だったブースを紹介
終日賑わっていたこの西展示棟で、EVユーザーとして印象に残った展示を紹介していきましょう。
移動式急速充電器をPRしていたのが充電インフラベンチャーの「ベルエナジー」(茨城県つくば市)です。EVsmart読者は、可搬型の急速充電器「ROADIE V2(ローディーV2)」を販売している会社としてご存知でしょう(関連記事)。ローディーは、JAFなどのロードサービスに納入が進んでいるそうなので、すでに電欠レスキューでお世話になったEVオーナーがいるかもしれません。
そのベルエナジーが初公開していたのが「MESTA V1」。見た目はトレーラーを牽引する日産リーフです。トレーラーの中身は、最大出力50kWの急速充電器になっています。MESTAは「Mobile EV Station」の略称。EVの駆動用バッテリーから電気を取り出して、CHAdeMO規格の充電ケーブルで他の車に充電できるようにしてあるそうです。
電欠車救援が、すぐに思いつく使い道。自車のバッテリーから電気を分け与えることになりますが、使われていたリーフは62kWhモデルで、満充電での航続距離は360km以上あります。救援では電欠車が最寄りの充電ステーションまで走れるだけチャージできれば良いので、必要なのはせいぜい数kWh。かなりの台数を助けられそうです。
しかも多くの場合、救援作業は路上で行うので、手早く充電できることも大事です。ローディーは内燃車でも運用できるという汎用性がある一方で、最大出力は20kW。出力の高いMESTAには、より短時間で必要な充電ができるメリットがあります。
また、この車の開発には、もう一つの理由がありました。同社は「電気の宅配便」というEV向け出張充電事業を企画しています。ユーザーが充電しに行かなくても、EVを止めてある場所に急速充電しに来てくれるというサービスです。フリートの充電などB2B向けサービスを想定していて、年内にはMESTAを使った実証実験を計画しているそうです。EV走行会など脱炭素系イベントでも活躍してくれるのではないでしょうか。
同社では、トレーラー部分に載せているDC-ACインバーターと急速充電器を小型化してトランク部分に収める改良も進めていて、トレーラーなしで運用できる「電気宅配車」の完成を目指しているとのことでした。
西展示棟では、商用EVメーカーの「フォロフライ」(京都市)も新車両のプロトタイプを展示していました。2.2トントラックの「F2」で、ゼブラ模様にペイントされた平台タイプ。まだ開発中のため、バッテリー容量や各種装備などは非公開。航続距離は230〜250kmになる見込み。試乗会などを通じてユーザーの意見を取り入れ、架装なども市場ニーズに合わせていきたい、とのことでした。
物流のラストワンマイルは着実に電動化が進んでいて、三菱ふそう「eキャンター」や日野「デュトロ Z EV」など、国産大手メーカーの電動2トントラックも販売されています。ベンチャー企業のフォロフライは、自社工場を持たずに車両の設計・開発に専念する「ファブレスメーカー」。現在は1トンクラスの「F1」シリーズを販売していますが、最大の特徴といえるのが「EVでありながらガソリン車と同等の低価格」。2トンクラスでもガソリン車並みの価格を目指すということなので、コストパフォーマンスに注目です。
F2の隣には、F1トラックに特別な架装を施したキッチンカーも展示されていました。お好み焼きチェーン店の千房(大阪市)がオーダーしたそうです。外装には本物の木材が使われていて、近づいて嗅ぐといい香りが漂ってきました。アーチ型の天井もインパクト抜群。イベントでもかなり目立ちそうです。
東展示棟では最新EVなどを展示
東展示棟に開設されたアトラクション「ZEV CITY WALK」には、最新EVが並んでいました。ビジネスの街、文化と遊びの街、豊かな自然の街、少し先の未来の街といったコンセプトで展示を演出。巨大なイラストで描かれたシーンの中にEVや電動バイクが置かれていました。漫画の中に実車を並べた感じです。
カワサキの電動バイク「ニンジャe-1」と日産「サクラ」が並び、そばにはスズキ「eチョイノリ」(未発売)とトヨタ「コムス」があったり、各メーカーが呉越同舟……、もとい一致団結した展示になっていました。それぞれのZEVに説明員がついていて、あれこれ説明してくれます。
個人的には、ホンダ「EM1 e:」に続いて販売予定の原付二種電動スクーター「SC e: コンセプト」に目が釘付け。モバイルパワーパックe:を2つ搭載していて「近々発表できると思います」と聞いて、期待が高まりました。
近く発売が予定されているホンダ「N-VAN e:」も、黄黒ツートンカラーの実車が初公開されていました。オータムイエローとパールブラックと呼ぶそうです。これまでのモーターショーやホームページの広告で公開されていたのは白一色で、商用車のイメージが強かったのですが、この色はファミリーユースを連想させてくれます。キャンプなどのレジャーシーンにも(タイガースファンにも)似合いそう。よくある屋根とボディのツートンとは違ってバックドアまで黒くなっているのがデザイン上の特徴なのですが、すみません、後ろから写真を撮るのを忘れました(泣)。
室内空間も特徴的です。助手席と後部座席をパタパタと折りたたむと、完全にフルフラットに。荷物の積み下ろしが楽なのはもちろんのこと、車中泊も快適そう。説明してくれた担当者がアピールしていたのが、徹底したスクエア形状でした。限界まで突起を減らしていて、言われて気づいたのですが、ドアポケットすらありません。「ギリギリまで荷物を積めるようにしてほしいというリクエストに応えました」。
荷室の床が低いのも注目ポイント。床面地上高は540mm。N-VANの525㎜よりは若干高くなっていますが、三菱「ミニキャブEV」が675mmですし、他のエンジン車の軽バンも600mm以上あるのが普通です。床下に駆動用バッテリーを配置しながら、低床化をキープできたのはお見事です。
また、助手席側のセンターピラーを無くしているので、歩道側からも荷物の出し入れが楽にできそう。開けてあるところを見ると、ほんとにスカスカなのですが、車体の強度を高めるために、その分ドアを頑丈に作っていて、閉めるとドスンとかなり重量感のある音がしました。
これはいい、と思えたのは「パワーサプライコネクター」。充電口(J1772)に差し込むと、AC100Vコンセント(最大1500W)が使えるようになる外部給電器。N-VAN e:と同時発売されます。ホンダは「N-ONE」をベースにした軽EVなども発売予定ですが、今後の車両にはオプションとして使えるようにしていくそうです。
気になったのがインフォテインメントシステムです。展示車両にはまだインストールされていませんでした。私のマイカーであるHonda eの現行システムは、充電スポット情報を検索する際などに物足りなさを感じる場面もあります。はたしてどう進化しているのでしょうか。試乗させてもらえる機会があれば、またご報告したいと思います。
残念ながらフォーミュラEのマシーンが走っているところをナマで見ることはできませんでしたが、賑やかな雰囲気は味わえましたし、新技術や新車両に接することもできて、十分に楽しい時間でした。実際、子供たちが会場のZEVに乗ったり触ったりしてはしゃいでのを見るだけで、ほっこり幸せな気分になれますね。
フォーミュラEは脱炭素モビリティのシンボルですが、技術や思想が多くの人の日常生活にフィードバックされていってこそ、開催の意義は深まります。来年以降も日本大会が続くのであれば、次世代モビリティに親しめるこうした関連イベントも、さらなる充実と盛り上がりを期待したいところです。
取材・文/篠原 知存