スタートアップのマッチング展示会>
2024年10月15日から18日にかけて千葉県の幕張メッセで、「東京モーターショー」から名前を変えた「Japan Mobility Show(ジャパン・モビリティー・ショー)」の関連イベント「Bizweek(ビズウイーク)2024」が開催されました。
ジャパン・モビリティー・ショー(JMS)は昨年、名称変更後の第1回が本開催されていて次は来年(2026年)なので、今年は谷間になります。そこでスタートアップ企業のマッチングをメインにしたビジネスイベントとして実施されたのが、Bizweek2024(ビズウィーク2024)でした。
出展者数は208社。そのうち約150社はモビリティ関連のスタートアップ企業でした。
会場は幕張メッセの1ホールの一部のみ。同時に開催された電気・電子機器メーカーの展示会『CEATEC2024』の会場の一部を使った、数分あれば外周を回れるくらいのこじんまりとしたスペースでした。
大手自動車メーカーがドーンとコンセプトカーを展示する形式ではなく、スタートアップ企業の小さなブースがズラッと並んでいて、展示物も限られていました。
そんな中で注目を集めていた展示のひとつが、初披露されたリーンモビリティの都市型小型EV (電気自動車)の『Lean3(リーン3)』でした。
トヨタ出身の技術者が作った小型モビリティー
EVsmartブログでは初めての登場なので、まずはLean Mobility(リーンモビリティ)株式会社の紹介からいってみましょう。
会社の設立は2022年で、2024年に入ってからは日本、台湾の自動車関連企業連合から総額28億円、さらにこの10月には新規調達で10億台湾ドル(約46億円)を調達するなど、将来性に期待が集まっています。
設立したのはトヨタ出身の技術者、谷中壯弘さんです。谷中さんはトヨタ時代に小型EVの開発に携わり、「i-ROAD」の企画開発を手掛けたほか、「C+pod」や「C+walk」の製品開発をリードしてきたそうです。
C+podは2020年にリース販売、2022年には個人向けに市販され、EVsmartブログでも紹介したことがあります。懐かしいです。
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でも、あまり売れなかったからなのか、あまりやる気がなかったのか、あっという間に絶版になってしまいました。確かに価格も高いし、日本では軽自動車規格になってしまうなど不利な条件はありましたが、残念な結果になりました。
中途半端に終わってしまったトヨタの超小型EVですが、開発者の谷中さんは諦めていませんでした。
トヨタから独立して、i-ROADでの経験をいかし、市販、普及を目指した小型3輪EVのリーン3を開発したのです。
来年後半に台湾から販売開始
リーン3は、i-ROADと同じく、前2輪、後ろ1輪の都市型モビリティーです。乗車定員は、日本では原付ミニカーになってしまうので1人ですが、日本以外の国、例えば欧州や台湾では「L5」というカテゴリーで、2人乗車が可能です。
駆動は後輪のインホイールモーターで、前輪は操舵(そうだ)用です。ハンドルを切ると、車体がオートバイのように傾いて曲がっていきます。
車体の傾きは、車速とハンドルの舵角を検知して車両側で傾斜をつけていくアクティブ制御で行います。加えて路面に段差が付いていて左右の前輪の高さに差がある時には、車体がまっすぐになるよう車輪の高さを変える制御もするそうです。
正式な車名に付く「RideRoid」は、アクティブ制御にロボット技術を応用していることから名付けられました。
最高時速は、これも日本では原付ミニカー規格になってしまうので60kmですが、台湾や欧州では80kmまでいけます。せっかくの動力性能なのに、もったいないことです。
日本でも原付ミニカーの規格がもう少し緩和されて2人乗り可能になって、速度制限も高くなれば市場が大きく広がると思うのです。
バッテリーはLFP(リン酸鉄)のリチウムイオンバッテリーで、容量は8.1kWh、WLTC(Class1)での航続距離は100kmです。充電時間は100Vで約7時間、200Vで約5時間です。
LFPにしたのは「価格面から、この製品には最適と考えた」(谷中さん)からだそうです。
発売開始は来年後半に、まずは台湾からスタート予定です。続いて日本、欧州で順次発売する計画です。
価格は、約20万台湾ドル(約90万円)を予定していて、この他に月額数千円のサブスクリプションでバッテリーを提供する計画です。
販売台数は、当初は年間3000台で、2030年には年間5万台以上を目指しています。いろいろ楽しみです。
それにしても、日本に原付ミニカー規格しかないのが残念すぎます。悲しすぎます。前時代的な中途半端な法律のおかげで市場をみすみす潰している感があります。
あっという間に新設された特定小型原付に比べると、原付ミニカーは不遇すぎに思えます。今後の議論や規制緩和にも期待したいところです。
完成度が上がった『TATAMEL BIKE』
JMS2024に展示されていた小型モビリティーをもうひとつ紹介します。折りたたみ式の原付電気バイク、『TATAMEL BIKE(タタメルバイク)』を開発したスタートアップ企業、『ICOMA(イコマ)』の新しい取り組みです。
タタメルバイクは、ラスベガスで開催されたCES2023のリポートをしたときに、スタートアップ企業ブースに展示されていたプロトタイプを紹介したことがありました。
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『CES2023』現地訪問レポート〜ユニークな電気モビリティを要チェック!(2023年1月17日)
今回イコマは、市販が始まったタタメルバイクとともに、事業化の検証中という、変形する特定小型原付の展示をしていました。
今や昔々のプロダクトになってしまったホンダの「モトコンポ」を彷彿とさせるタタメルバイクは、プロトタイプの時よりも折り畳んだときの高さが50mmほど低くなって、全長690mm×全幅250mm×全高650mmになっていました。
バイク状態では1234×650×1000mmです。小さいです。展示ブースでは社長の生駒崇光さんが実際にバイクを走らせていたほか、折り畳みも実演していました。バイク状態から完全にたたみ込むまで、1分かからない感じです。プロトタイプの時より明らかに(当然ですが)完成度が上がっています。
市販の仕様では、バッテリーはLFPで容量は0.614kWh、航続距離は30km以下くらいです。ほんとにちょい乗りで使うイメージですね。まあ確かに、このサイズだと距離を走るのはきつそうです。
車の後ろに積み込んで、出先でのちょっとした移動に使うイメージでしょうか。
タタメルバイクは現在、税込み49万8000円で注文を受け付け中です。納車は今月から順次、進めていくそうです。
Z世代は特定小型原付が親しみやすい
そんなイコマは今回、事業化を検証する目的で試作した特定小型原付の折りたたみEVを展示していました。
このプロジェクトを今後、どうするのかは「何も決まっていない」そうですが、なぜ原付ではなく、特定小型原付なのでしょうか。社長の生駒さんに聞いてみました。
生駒さんによれば、まず若い世代、とくにZ世代以降はそもそもバイクが身近な乗り物ではない上に、原付ですら「怖い」と思っているそうです。
原付が怖いという感覚は、ちょっとビックリしました。生駒さんは工業高校で講師をしたことがあるそうですが、工業高校の生徒でも乗り物に興味がないことは多く、原付はともかく、それより大きなバイクに乗るのは変わり者という感じだったそうです。
まあ確かに、高速道路で見かける大型バイクのライダーはオッサンばっかりな印象です。
とは言え、生駒さん自身は「バイクはおもしろいと思いますし、伸びしろがあると思う」ので、ライト層をうまく取り込めるような商品にも取り組んでいきたいという思いが特定小型原付という選択にこめられています。
そんなわけで展示されていた試作品は、電動アクチュエーターを使ってボタンひとつで折りたためたり、広がったりするようになっています。重量も、現状のタタメルバイクが63kgなのに対し、半分くらいに軽量化しています。
さらに生成AIと組み合わせて、立ち寄った場所の映像を解析、蓄積しておすすめの場所を提案するなど、バイクと会話しながら走るようなことも考えているそうです。単なる乗り物ではなく、生活のパートナーのようになっていくイメージですね。
なお本業のタタメルバイクは、少数を手作りで組み立てるなど、大量に売るのではなく息長く続けていく方針だそうです。そのためイニシャルコストがかからないよう、フレームを板金で作ったりしています。
今後は、実物のタタメルバイクをその場で組み立てるワークショップもやっていきたいそうです。EVだからできる組み立て教室ですね。私も1994年の設立当初から関わっているEV普及の市民団体「日本EVクラブ」でも時々、電動カートで実施しています。
こうした活動を企業に活用してもらうなどすることで、「開発に役立ててもらうとか、普通のメーカーではあまりやらないことをやって、タタメルバイクの価値を高めていきたい」と、生駒さんは話しました。
JMS2024は、こじんまりとしたスペースの、こじんまりとした展示でしたが、リーン3やタタメルバイクのように、新しくて楽しい乗り物には可能性を感じました。こうした乗り物が定着すれば街の環境も快適な方向に変わっていくかもしれないし、そんな変化を期待したいと思います。
取材・文/木野 龍逸