フォードが電気自動車への投資を2025年までの5年間で2兆円以上へ増額を発表

フォード・モーターは2021年2月4日の第4四半期決算の発表時、2025年までの5年間で電気自動車(EV)に少なくとも220億ドルを投資することを明らかにしました。フォードは2021年中に、『マッハE』に続くピックアップトラックなどのEVも市場に投入する計画です。

フォードが電気自動車への投資を2025年までの5年間で2兆円以上へ増額を発表

従来のEV開発に向けた投資額を倍増

フォード・モーターは第4四半期の決算発表に合わせて、今後の電動化に関する戦略を公表しました。決算発表のニュースリリースによれば、2025年までに少なくとも220億ドル(約2兆3000億円)を電動化に投資する予定です。

これまでフォードは、2022年までに電気自動車(EV)の開発に115億ドル(約1兆2000億円)以上を投資する計画に基づいて電動化を進めていました。金額だけ見れば、これまでの投資額を約2倍に増額したことになります。それとともに、自動運転の開発に向けて70億ドル(約7400億円)を投資する計画も発表しました。合計で290億ドル(約3兆円)になります。

フォードはこれらのEVや自動運転の車を、売れ筋のピックアップトラック、商用バン、SUVのラインアップに追加する予定です。

決算発表のリリースで、フォードのジム・ファーレー最高経営責任者(CEO)は次のように述べています。

「私たちは全ての計画を加速させています。制約を打ち破り、バッテリー容量を増やし、コストを改善し、より多くのEVを私たちの商品サイクルの計画に採り入れていきます。フォードが“いつか”ではなく、“今日”、実施することに、人々は反応するのです」

ファーレーCEOによれば、フォードは今後、2020年末に発売した電動SUV『マスタング・マッハE(Mustang Mach-E)』に続けて、2021年後半には最初の商用バンを、また2022年半ばにはEVのピックアップトラック『F-150』を発売する予定です。

Mustang Mach-E

さらにファーレーCEOは、「今後のフォードのEVは上級ブランドのリンカーンと商用バンの基本を構成するものになり、商用バンはバラエティに富んだボディデザインや内装が展開される」と述べています。

自動運転に関しては、前述のように2025年までに70億ドルを投資することを表明しています。このうち50億ドル(約5300億円)が2021年以降に集中して投資される予定になっています。

GMとフォードが揃って電動化戦略を加速

EVsmartブログではずでにお伝えしたように、1月末にGMが、2035年までに全モデルを電動化することを発表しています。この時の発表では、投資額は今後5年間で270億ドル(約2兆8500億円)になるということでした。

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フォードが発表した電動化への投資額は220億ドルですが、GMの動きも見据えた投資額拡大だったのかもしれません。フォードは全電動化ではありませんが、目標にしている時期も似ています。具体的な工程は出ていないのですが、GMとフォードという2大メーカーが揃って電動化を加速する姿勢を打ち出したことで、期待は高まります。

トランプ政権が自動車の規制を緩めようとしたことに反発したカリフォルニア州が連邦政府に仕掛けた裁判では、カリフォルニア州を支援したフォードやホンダに対し、GMは連邦政府に肩入れしました。でも2020年11月の大統領選挙後、真っ先に連邦政府支援から離脱したのがGMでした。

【関連記事】
カリフォルニア州知事が2035年までに新車のガソリン車販売禁止を指示(2020年10月6日)

機を見るに敏という感じですが、GMとフォードがEVで真っ向勝負をするようなことになれば、市場が活性化するのは間違いないでしょう。楽しみがふくらみます。

フォードが2020年12月に『マッハE』をリリース

GMほどではないにしても、野心的な投資額を発表したフォードは、EVバトルの先兵として2020年12月に電動SUVの『マスタング・マッハE』を市場に投入しました。発表は2019年だったので、1年がかりで仕上げたと言うことになります。

現在、発売されている『マッハE』は、バッテリー容量の違いなどで『セレクト』『プレミアム』の3グレードが揃っています。この他に限定版の『ファースト・エディション』があります。

これに加えて、2021年夏後半にハイパワー版の『GT』が追加される予定です。

Mustang Mach-E 概要

グレードSELECTPREMIUMGTGT(Performance Edition)
レンジStandard Range
(SR)
Standard Range
(SR)
Extended Range
(ER)
Extended Range
(ER)
駆動方式RWDe-AWDRWDe-AWDRWDe-AWDe-AWD
バッテリー容量68kWh68kWh88kWh88kWh
航続距離(EPA)230mi
約370km
211mi
約340km
230mi
約370km
211mi
約340km
300mi
約483km
270mi
約435km
250mi
約402km
235mi
約378km
最高出力198kW198kW216kW258kW353kW353kW
0-60mph加速5.8秒5.2秒5.8秒5.2秒6.1秒4.8秒3.8秒3.5秒
アメリカ価格$42,895〜
約453万円〜
$47,000〜
約496万円〜
$60,500〜
約640万円〜

価格は4万2895ドルからで、フォードのHPによれば、連邦政府の税控除を受けると3万5395ドルになります。

バッテリー容量はスタンダードレンジ(SR)とエクステンデッドレンジ(ER)の2種類で、SRが68kWh、ERが88kWhです。

航続距離は後輪駆動か全輪駆動かで違いがあって、SRの後輪駆動はEPAモードで230マイル(約370km)、全輪駆動は211マイル(約340km)です。エクステンデッドレンジは、後輪駆動が300マイル(約483km)、全輪駆動が270マイル(約435km)と、数字だけを比べると、航続距離が244マイル~326マイルのテスラ『モデルY』とすごく近くなっています。

ただ、動力性能が微妙に違っています。

例えば0-60mph加速は、現行『マッハE』で最も速い『プレミアム』のER全輪駆動が4.8秒なのに対し、『モデルY』は3.5秒です。ベーシックなグレードでは、『マッハE』の『セレクト』のSR後輪駆動が5.8秒で、『モデルY』は5.3秒です。

価格帯では競合しそうなので、いずれ市場にタマ数が出てきた時にどうなるのか、カリフォルニア州のような中心的な市場の動きを確認してみたいと思います。

ただ、気になるのはテッククランチに『マッハE』をかなり辛辣に批評した記事が出ていることです。マット・バーンズ記者による『マッハE』の試乗記は散々で、動力性能だけでなく車の挙動もきつい調子で批判しています。

『マッハE』の試乗はわずか2時間だったようなのですが、よくここまで書くなあという印象です。

記事では、『モデルY』や『モデル3』は品質に疑問があること、『ポールスター2』は価格が高いことなどの不利な面はあるものの、「現時点では、私は自分の第一印象に基づき、消費者がフォード・マスタング・マックEを購入する前に、競合他車を試すようにお勧めすることしかできない。私はこのクルマがテスラよりも十分に買う価値があるとは思えない」というまとめになっています。

もっとも、ここまで言われると逆に興味がわいてきて、「早く乗りたい!」と思う自分がいたりします。

ところでフォードは2021年1月27日、『マッハE』を中国の長安フォードで製造して中国向けに販売することを発表しました。試乗記のようなインプレッションのまま中国で売られた時に中国ユーザーがどのような反応をするのか、テスラと比較してどう見られるのか、とても気になります。

フォードが電動化に向かう中で出てきたトップバッターは、いろいろな意味で興味深いEVになりそうです。この評価が今後、どう変わっていくのか。EVは進化速度が早いのが特徴のひとつでもあるので、今後の変化に注目したいと思います。

(文/木野 龍逸)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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