【追記あり】米フォードが初の電気自動車を投入へ 〜 テスラ「モデルY」とガチンコか

アメリカのフォードモーターが、同社初となる電気自動車「マスタング・マッハE」を2019年11月17日に発表、ロサンゼルス・オートショーの開幕直前のことでした。同社のスポーツカーの伝統の名「マスタング」を冠したものの、スタイルは昨今流行りのSUVを採用。内装を見ても、競合するのはずばりテスラ「モデルY」では? 比較しながら見てみましょう。

米フォードが初のBEVを投入へ 〜 テスラ・モデルYとガチンコか

マスタングの歴史を少しばかりおさらい

「マスタング(Mustang:日本発売時の名称は『ムスタング』と決められた経緯があります)」と聞くと、1964年にコンバーチブルとハードトップが世に出てから、アメリカのコンパクトなスポーティーカーの主役を務めてきた姿が目に浮かびますね。当時副社長だったリー・アイアコッカ氏の指導のもと、第二次大戦後のベビーブーマーをターゲットに開発された中型車で、1964年のニューヨーク万国博覧会でお披露目され、大きな話題になったものでした。

初期のマスタング。当時のアメリカ車の中ではコンパクトなほうで、中型車から小型車の位置づけだった。
初期のマスタング。当時のアメリカ車の中ではコンパクトなほうで、中型車から小型車の位置づけだった。

ハリウッド映画の劇中にも頻繁に登場し、アメリカの文化と暮らしを彷彿とさせるクルマ。半世紀以上の歴史を持つ、アメリカを代表するスポーツカーです。アメリカでは「マッスルカー」や「ポニーカー」と呼ばれるカテゴリーに分類され、シボレー「カマロ」やポンティアック「ファイヤーバード」といったクルマの好敵手でした。残念ながらフォードは2016年後半に日本から撤退しているので、日本国内ではマスタングはこのところ販売されていません(正規ルートでは)。

伝統あるエンブレム。マスタングとは北米に棲む野生の馬のこと。スペインの兵士が連れてきた小型のアラビア馬が野生化したものと言われる。
伝統あるエンブレム。マスタングとは北米に棲む野生の馬のこと。スペインの兵士が連れてきた小型のアラビア馬が野生化したものと言われる。

日本のスポーツカーやスペシャリティーカーに多大な影響を与え、トヨタの「セリカ」はその代表格とも言われています。マスタングを日本の道路事情に合うように「翻訳」した「最適解」がセリカだった、ということです。そうは言っても、1980年代末に出たモデルを見て、著者は「燃費も気になるのか、さすがにコンパクトになってきたな」と印象深く思ったことを覚えています。

マスタング・マッハEの概要

従来のスポーツカー(ポニーカー)のイメージからガラッと変わり、世界的に人気のSUVに化けたマスタング。後端のデザイン処理もなんだかモデルYを連想してしまいます。ヒュンダイ・キアのEVにも似ているような。
従来のスポーツカー(ポニーカー)のイメージからガラッと変わり、世界的に人気のSUVに化けたマスタング。後端のデザイン処理もなんだかモデルYを連想してしまいます。ヒュンダイ・キアのEVにも似ているような。

満を持して発表されたバッテリー式電気自動車(BEV)版のマスタングは、「マスタング・マッハE(Mustang Mach E)」と名付けられました。「マッハ」は同車のスポーティー・モデルに昔から付けられているサブネームですが、今回はフル・エレクトリックということで、最後尾に「E」が付与されています。

フォードモーターの公式サイト(英語)には、「300マイル(EPA、およそ482km)の航続距離」、「0-60mph(0-96km/h)3秒台半ば」、「10分の充電で47マイル(およそ75.6km)走れる」の文字が躍ります。一つのグレードのモデルが全てこれらを達成しているわけではなく、各モデルの最高値を組み合わせたものではありますが、なかなかのスペックです。

このうち3番目の項目、充電に関しての数値は、CHAdeMOの現行50kWではなく「FordPass」と名付けられた専用充電ネットワークの「150kW」の急速充電器(直流充電器)を使った際の数値です。また、同じ条件で10〜80%を充電するのに45分で済みます。

また、「FordPass充電ネットワーク」が2年間無料で使えるサービスも展開します。2年を過ぎると、従量制の充電になります。「12,000を超える公共充電ステーション」が使え、それらは有名チェーンのドラッグストアやコーヒー店に設置されているものです、とも書かれています。すでにそんなネットワークを作ったとは考えられないので、どこかの公的充電ネットワークとの提携を進めているのでしょう。  → 【追記】と思ったら、すでにElectrify Americaと10月17日に提携を発表していました。フォードモーターは、フォルクスワーゲンアメリカの子会社と組んだわけですね。

【関連記事】
ELECTRIFY AMERICAが電気自動車用の新しい充電料金とモバイルアプリを発表

「FordPassアプリ」というものを使うと、以下のような機能が使えます。

  • 充電の進行状況をモニターする。
  • 充電スケジュールを設定して充電できる。
  • 現在使用可能な充電ステーションを表示し、それが急速急速充電器かどうか確認できる。
  • FordPass を使って、ネット経由で充電料金を支払える。
  • FordPass Power My Trip を使うと、現在の充電状態から計算し、目的地までのルートに沿った充電ポイントの候補を提案してくれる。

自宅での充電に関しては、アメリカ標準のAC120Vに加え、AC240Vも使えるようです。自宅に240Vの充電設備を付け加える際の機器の販売や設置に関しては、通販大手のAmazonと提携してサービスを提供するようです。

余談ですが、英語ではmach(マッハ)は「マック」のように発音されるので、「Mach E」は「マッキー」のように呼ばれているようです(蛇足ですが、「mach 2.1」は「マック・トゥーポイントワン」です)。

電池容量は公式サイトには見当たりませんが、発表後にネット上で飛び交う情報によると、標準の75.7kWhと、レンジ重視の98.8kWhの2種類が用意されている、との説が有力なようです。

駆動方式は後輪駆動(RWD)と4輪駆動(AWD)の2種類があり、5つあるモデルの意味づけによって選べる駆動方式が決められています。たとえば、最もパワフルな位置づけの「GT」は、その駆動力をしっかり路面に伝えるようにAWDのみ用意する一方、舗装路面を快適に走るランナバウトをめざしているような「カリフォルニア・ルートワン」モデルにはRWDのみが設定されています。

公式サイトによると「AWDは前後2つのモーターにより駆動され、両者を最適化したコントロールのお陰で、雪道に強い」と言うようなアピールがなされています。

マスタング・マッハEにはフロント・トランクもある。さすがに「フランク」と呼んではいないが、これもガチンコである。
マスタング・マッハEにはフロント・トランクもある。さすがに「フランク」と呼んではいないが、このあたりもテスラ モデルYとガチンコである。

性能でも価格帯でも真っ向からぶつかるテスラ「モデルY」と、表にして比較してみました。

モデル名駆動方式
ホイールサイズ
航続距離
(EPA)
0-60mph
加速
価格
マスタング・マッハE
セレクトAWDもしくはRWD
18インチ
230mマイル
約370km
(RWD)
5秒台半ば
(AWD)
43,895ドル
約481万円
プレミアムAWDもしくはRWD
19インチ
300マイル
約482km
(RWD)
5秒台半ば
(RWD、AWD)
50,600ドル
約554万円
カリフォルニア・ルートワンRWDのみ
18インチ
300マイル
約482km
6秒台半ば52,400ドル
約574万円
GTAWDのみ
20インチ
250マイル
約402km
3秒台半ば60,500ドル
約663万円
ファースト・エディションAWDのみ
19インチ
270マイル
約434km
5秒台半ば59,900ドル
約660万円
(すでにSold Out)
モデルY
スタンダードレンジRWD
18インチ
220マイル
約353km
5.6秒35,000ドル
約392万円
スタンダードレンジプラスRWD
18インチ
240マイル
約386km
5.3秒37,000ドル
約414万円
ミッドレンジRWD
18インチ
264マイル
約422km
5.2秒40,000ドル
約447万円
ロングレンジRWD
18インチ
325マイル
約520km
5.0秒43,000ドル
約481万円
AWDロングレンジAWD
18インチ
310マイル
約496km
4.5秒47,000ドル
約526万円
AWDパフォーマンスAWD
20インチ
310マイル
約496km
3.2秒58,000ドル
約649万円

2019年11月末にフォード社が発表したマスタング・マッハEと、2019年2月28日にテスラ社が発表したモデル3の普及版の2車種を加えた車種比較。
※ 価格は日本時間2019年12月1日のレートである109.48円/1ドルで計算しました。

【関連記事】
テスラ・モデルYの発表は日本時間3月15日(金)正午 — ライブ速報を追加しました

いかがですか。けっこう「ガチンコ」で競合していますよね。車内も、大型のタッチスクリーンが中央に鎮座して、多くの操作がこれで行われるようないでたちです。車内の風景のほうが、さらに似ている印象です。ともあれ、先進装備を搭載したBEVは結局はこういう方向に向かうのかも知れません。アウディやVW、ジャガーなどの欧州勢は、敢えて逆の「BEVらしさを感じさせない」方向を今のところ採っていますが…。

ステアリング目前にサブディスプレイがあるものの、大型ディスプレイといい簡素なダッシュボードといい、「パ○リ」とまでは言わなくても、モデルYを強く連想させます。
ステアリング目前にサブディスプレイがあるものの、大型ディスプレイといい簡素なダッシュボードといい、モデルYを連想させます。

5つあるグレードのうち、「ファーストエディション」には他のグレードには無いボディカラーが用意され、赤く塗られたブレーキキャリパーなど、初回限定の装備が驕られています。このモデルは2019年11月中に、すでに売り切れ(予約枠が埋まった)となっています。

発表後10日あまりで予約完売したファーストエディション。専用のボディーカラーに加え、真っ赤なブレーキキャリパーが目を惹く。フォードモーターの公式サイトより転載。
発表後10日あまりで予約完売したファーストエディション。専用のボディーカラーに加え、真っ赤なブレーキキャリパーが目を惹く。フォードモーターの公式サイトより転載。

いずれにせよ、アメリカでまた1台、魅力的なBEVが登場しました。アイコニックな車名をまとって……。今後の広がり、そして再び日本でも購入できるようになることを期待して見守っていきましょう。

(文/箱守知己)

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					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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