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フォーミュラE 東京 E-Prix 2025 激戦レポート〜「おめでとう日産」ローランドが第9戦で劇的勝利

フォーミュラE 東京 E-Prix 2025 激戦レポート〜「おめでとう日産」ローランドが第9戦で劇的勝利

「ABB フォーミュラE 世界選手権 2025 東京E-Prix」の2連戦が開催されました。昨年の日本初開催から日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランドが3戦連続でポールポジション。17日の第8戦は惜しくも2位で終わったものの、18日の第9戦で劇的なポールトゥウィンを達成しました。おめでとうニッサン、頑張れニッサンです。

目次

【第8戦】好走報われずローランドは2位フィニッシュ

オリバー・ローランドのカッコよすぎる優勝の興奮の余韻がまだ醒めやらぬままですが、週末の東京2連戦をレポートしつつ、フォーミュラEの醍醐味を紹介していきましょう。

写真:フォーミュラE(冒頭写真も)

まず、17日(土)は雨中の第8戦。10時20分から予定されていた予選は、悪天候のためにキャンセルとなりました。その結果、朝8時から行われたフリー走行でトップタイムを記録していたオリバー・ローランド(日産)がポールポジション。日産のもうひとりのドライバーであるノーマン・ナトも3番手の好ポジションで決勝を迎えることになりました。日産にとっては2年目の開催となった母国E-Prix(Eプリ)で、2台揃って表彰台を狙えるチャンスです。

強い雨が続くなか、レースはセーフティカーが先導して数周した上でのスタンディングスタートになりました。激しい水しぶきがあがるスリリングな展開となりつつ、オリバー・ローランドが安定感のある走りでトップをキープしていたのですが……。勝負のポイントとなったのは、今シーズンから採用された「ピットブースト」でした。

ピットブーストとは、レース中に一度ピットイン(バッテリーのSOC60%以下であることが条件)して、最大出力600kWの超急速で30秒間(前後のソフトウェア認証時間を含めて34秒間)、3.85kWh(SOC換算で約10%)の充電を行わなければいけないというレギュレーションです。

マセラティMSGレーシングのストフェル・バンドーンは「使用可能エネルギーを早い段階で一気に使い切ることで、義務付けられたピットブーストストップを早めに行い、その後にレースが中断されることを期待」する戦略を実行。誰よりも早いタイミングでピットブーストを行いました。その直後、昨年のTokyo E-Prixの優勝者マクシミリアン・ギュンターがマシントラブルによってコース上でストップ。レッドフラッグが出されたことで、バンドーンのピットブーストによるタイムロスが帳消しになりました。

雨中の激戦を制したのはマセラティのバンドーン。マセラティは昨年のギュンターに続く東京2連勝となりました。写真:フォーミュラE

その後、レースが再スタート。規定のピットブーストを終えたローランドは2位でコースに復帰しましたが、残り周回数は少ないなかで、バンドーンとのタイム差は30秒ほどもある状況でした。ゴールに向けた周回中、バンドーンが一度スピンしかけるハプニングがあったものの、30秒差はあまりに大きく、ローランドは昨年に続く2位フィニッシュ(ゴール時のタイム差は約8秒)となったのでした。

ピットブーストって、必要ですか?

結果として「先にやった者勝ち」になったピットブースト。今シーズンから採用されてはいるもののまだ試行錯誤状態であり、全戦で実施されているわけではありません。チームやドライバー、またファンなどから「レースの公平性を削ぎ、競技性をスポイルする」といった意見もあるようです。今回の東京2連戦でも、日曜日の第9戦ではピットブーストは行わないことになっています。

ピットブーストの様子。写真:フォーミュラE

「超高出力&短時間で充電を!」という発想は、エンジン車における給油のイメージを捨てきれない自動車ユーザーのニーズに近い印象もあります。そもそも、レースを観戦してても「わかりにくいだけ」っていうのが正直な印象でした。フォーミュラEのマシンが搭載するバッテリー容量は約51kWh。ただし、各レースでは決められた容量だけで走りきる規則になっていて、今回の東京では「32kWh」です。そもそも、1時間弱のレースを走りきるだけであれば、途中の急速充電なんてしなくてOKっていう事実も、ピットブーストへの「???」を感じるポイントではありました。

ともあれ、ローランドは惜しくも日産の母国初優勝を逃したものの、ドライバーズポイントでは2位の18ポイントを加算。今回7位(6ポイント)に終わったアントニオ・ダ・コスタとのポイント差を広げました。また、チームのポイントでも日産が144ポイントとなってポルシェ(139ポイント)を逆転、ランキングの首位に立ちました。

【第9戦】フォーミュラEは、やっぱり予選が面白い

大雨の第8戦から一転、第9戦の18日(日)の朝は青空も広がり、まずまずの天気に恵まれました。8時からのフリー走行ではナトが2番手のタイムを記録したものの、ローランドは最下位のタイムで迎えた予選。実はフォーミュラEのレース観戦で面白いのが勝ち上がり方式の予選です。

ルールを紹介しつつ、今回の流れを紹介していきましょう。まず、「グループステージ」ではドライバーランキングで11台ずつの2グループに分かれてモーター出力300kWで10分間のタイムアタック。上位4台が準々決勝に進出します。

日産の2台はともに第1グループ。残り3分ほどになったところで、エバンスが壁面に激突してリアタイヤが宙を舞うアクシデントでレッドフラッグが出される中、最後のアタックでナトが1:13:790で2位。ローランドも1:13:818で3位に浮上するタイムを叩きだし、2台揃ってクオーターファイナルへ進出。グループ1のトップタイムを記録したのはディ・グラッシ(ローラヤマハ)で、いわゆる母国グランプリの3台が勝ち上がりを決めました。

写真:フォーミュラE

クオーターファイナルは出力350kW の一発勝負(1ラップ)、ノックアウト方式の直接対決。勝者の4名が準決勝に進みます。準決勝でも同様のプロセスが行われ、2人のドライバーが決勝に進む決まりです。

クオーターファイナルの第1戦は、なんと「ローランドVSナト」と日産チームの2台が直接対決となりました。結果、ローランドは1:12:375という好タイムを記録。ナトはウォールにヒットするトラブルで敗退となりました。

セミファイナル、ローランドの対戦相手はDSペンスキーのジャン・エリック・ベルニュ選手。時間差で先にスタートしたベルニュが1:12:602のタイムを記録した直後、ローランドが1:12:007を叩き出して決勝進出。ピットでも拍手が起きていました。

予選ファイナル(決勝戦)の対戦相手は、準決勝を1:12:028(ローランドと約100分の2秒差)のタイムで勝ち上がってきたティクタム(クプラ・キロ)です。タイムアタックがスタート。ビジョンで表示されるタイム速報ではティクタムが優勢。ところが、セクション2までタイムでリードしていたティクタムがウォールにヒットしてスローダウン。ローランドがポールポジションを獲得しました。

日産とローランド、どうやら運も味方につけて、決勝レース勝利への期待感が最高潮に達したのでした。

「Powered by FORMULA E」を日産の市販EVで誇りたい!

予選が終わったのはお昼前。15時5分に予定されている決勝レースのスタートを待ちながら、メディアセンター(プレスルーム)を出てガレージをうろついていたら、日産チームのエンジニアである西川直志(ただし)さんが囲み取材に答えているところに遭遇。質疑応答に耳を傾けつつ、少し質問をさせていただきました。

チーフパワートレインエンジニアの西川さん。

西川さんは日産フォーミュラ E チームのチーフパワートレインエンジニアです。市販車開発からフォーミュラEのパワートレイン開発に移った2021年から「ターゲットにしていたのが現在の仕様である『GEN3 EVO』だった」とのこと。もちろん、ローランド選手やチームが好成績を挙げているのはパワートレインの戦闘力だけでなく「戦略やセッティングなど全体としてチーム力が上がっている」のが重要なファクターではあるとした上で、自らが統括したパワートレインが好結果を挙げていることには手応え十分って感じのコメントでした。

フォーミュラEと市販車では使用するパーツなどはかなり異なるとはいえ「ものづくりとしての本質は通じるところがある」ので、「日産が発売する市販EVに『Powered by FORMULA E』って言葉を使いたい」というメッセージは、元リーフオーナーとして強く共感できる、西川さんの熱い思いなのでした。

金曜日のガレージ取材では、今シーズンの日産チームが好調な理由のひとつとして「パワートレインの効率が向上している」という説明がありました。登場間近といわれている新型リーフがどうなのかはまだわかりませんが、これから日産が発売する新型EVが、世界に誇る『Powered by FORMULA E』の高効率を実現することを期待しています。

最後に「昨年から東京で3戦連続ポールポジション獲得はすごいですよね」と質問すると、「感想としてはただただうれしいですが。第9戦こそは、三度目の正直でポールトゥウィンを達成したい」という言葉が返ってきました。はい、日本のファンもまったく同じ気持ちです。

【第9戦】クレバー&大胆なレース運びでローランドが東京初優勝!

PPからスタートしたローランドは、レース序盤手堅く首位を守って快走。レースのハイライト動画はフォーミュラE公式サイトでチェックできます。

いよいよ、第9戦の決勝レースがスタート。劇的な展開となったレースを、できるだけシンプルに追いかけてみたいと思います。

ポールポジションからスタートしたローランドは、追走するティクタムやテイラー・バーナード(マクラーレン)の激しいアタックを交わしながら、序盤は手堅く首位を守って快走します。

8周目。早めに4分間のアタックモードを使ったティクタムがローランドを抜いてトップが入れ替わりました。

アタックモードとは、通常は300kWのモーター出力が350kWにパワーアップして走行できるフォーミュラEならではのルールです。ただし、アタックモードを使用するためにはコース上のレコードラインを外れた場所に設定されたアクティベーションゾーンを通過しなければいけません。また、レース中にアタックモードを2度、合計8分間使用することが義務付けられています。分割する継続時間は「2分/6分」、「4分/4分」、「6分/2分」から選択可能です。

その後も、後続のドライバーが4分間のアタックモードを使う中、ローランドはなかなかアタックモードを使いません。さらに順位を下げる中でも、ローランドが使ったアタックモードは2分間だけ。32周のレースが終盤に差し掛かる20周目あたりでは、とうとう6位まで後退してしまいます。

21周目(たぶん、です)、フィニッシュまで11周を残してローランドが満を持して6分間のアタックモードを発動。23周目にはアタックモードを使うためにレコードラインを外れた先行車をごぼう抜き、一気に2位まで順位を回復しました。

とはいえ、先頭を行くのはポルシェのパスカル・ウェーレイン。周回数が残り少なくなっていく中、上位の各車が揃ってアタックモードを使っているので、狭い市街地サーキットで先行車をパスするのは難しい局面になってきました。

「ああ、ローランドは今度も2位かぁ」と諦めそうになったのですが……。

レース最終盤、6分間のアタックモードを温存していたローランドの戦略が当たります。ウェーレインのアタックモードが終了した時点で、ローランドはまだ40秒のアタックモードを残していました。

26周目、ギリギリのバトルの末に、ローランドがウェーレインを交わしてトップに再浮上。大きなビジョンに大逆転の映像が映し出され、EVレースならではの実況放送もあって、スタンドが大歓声に包まれました。

残り3周の29周目、激烈な表彰台争いを演じていたバーナードが追突された末に壁面に突っ込むクラッシュでイエローフラッグでセーフティーカー。

グリーンフラッグが出るとファイナルラップの争いとなり、ローランドがウェーレインを抑え切ってトップでフィニッシュ。まさに三度目の正直、ローランド自身、そして日産チームにとって母国開催のフォーミュラEで念願の初優勝を遂げたのでした。

3歳の愛娘とともに表彰台へ

表彰台では日産の勝利を讃える君が代も流れました。ローランドは、かわいらしい娘さんとともに表彰台へ上がり、誇らしく大歓声に応えているのが素敵でした(娘さんはシャンパンファイト直前で撤退してたけど)。

直後の記者会見で質問してみたところ、娘さんの名前はハーパーちゃんで3歳。表彰台には彼女自身が「上がりたい」とリクエストしたとのこと。20年後には大物アーティストとか女性レーシングドライバーになるのかも知れません。

「彼女(娘)や家族の存在は私にとってとても貴重なもの。自分にとって人生の全てはレースだったけど、家族ができたことによってレースへの向き合い方も変わった。勝利の喜びを家族と共有したいという思いで一緒にステージに上がったんだ」とローランド。

素敵すぎる幸せなひとときを、私を含めたファンも共有させていただきました。

来年もまた東京でフォーミュラEが開催されるのを楽しみにしています。

取材・文/寄本 好則

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この記事を書いた人

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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