GMとニコラの提携が指し示す方向を考えてみる【塩見 智】

2020年9月9日、アメリカの『GM』と電気自動車ベンチャーの『ニコラ』が、GMによるニコラ株の取得などを含む戦略的パートナーシップを締結したことを発表しました。はたして、何が起ころうとしているのか。自動車評論家の塩見智さんによる解説をお届けします。

GMとニコラの提携が指し示す方向を考えてみる【塩見 智】

EVベンチャーの成功事例としてテスラに続けるか?

2000年あたりから世界中で数多く誕生し、ほとんどが消えていったEVベンチャー。2003年に設立したテスラ(当時はテスラ・モーターズ)も、2008年にイーロン・マスクがCEOに就任し、2010年にNASDAQ市場に上場を果たすまでは、そのうち消えると見られていた。その見られ方は上場を果たして以降も消えることはなかった。それどころか、コロナ禍にあって黒字を続け、ハイテク株全体の暴騰の波にものり、自動車メーカーとして世界一の時価総額を記録した2020年現在も、自由奔放なCEOのキャラクターもあってか、毀誉褒貶が激しい。

2014年、ゼロ・エミッションを標榜するトラックメーカーのニコラがアメリカ・アリゾナで設立された。FCの大型トラックなど数種のコンセプトモデルを発表するも、現時点ではまだ市販にこぎつけていない。ここもテスラになれない、すなわちコンセプトカーを発表し続けながらも市販のハードルを乗り越えられない多くのEVベンチャーのひとつに数えられるのか……と思われていたが、2020年はじめ、2022年発売予定として発表した『バジャー』というEVおよびFCのピックアップトラックが現実的で注目を集め、さらにヴェクトールQという投資ファンドと合併するかたちでNASDAQへの上場を果たしたため、脚光を浴び、資金も集まっていた。

NIKOKA BADGER

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そして2020年9月9日、GMがニコラと戦略的パートナーシップを締結したことを発表した。GMがニコラ株の11%(20億ドル)を取得し、取締役ひとりの指名権を取得したほか、バジャーの設計、検証、認証取得、製造を請け負うといった内容だ。

この提携によって、ニコラは10年間でバッテリーおよびパワートレーンのコストを40億ドル以上、さらにエンジニアリングコストを10億ドル以上それぞれ削減できる見通しで、GMも生産請負、バッテリーおよび燃料電池の供給、そしてEVクレジットの取得によって40億ドル以上の利益を見込む。

ニコラ創業者であり、エグゼクティブチェアマンを務めるトレバー・ミルトンは「この提携により、ニコラは(GMがもつ)何十年にもわたるサプライヤーと製造に関する知識、検証されテストされた生産準備の整った EVパワートレイン、ワールドクラスのエンジニアリング、投資家からの信頼といったものを即座に得ることができます」とコメントしている。

GMのメアリー・パーラ会長兼CEOは「このパートナーシップはGMのアルティウムバッテリーと燃料電池システムの広範な展開を継続するものです。GMの電動化技術ソリューションをヘビーデューティークラスの商用車に適用することは、ゼロエミッションの未来という私たちのビジョンを実現するための重要なステップです」と呼応した。

NIKOLA REFUSE

相次ぐ提携はGMの覇権戦略か?

今後、ニコラはバジャーのブランドを保持し、バジャーの販売とマーケティングを担う。

この発表の一週間前の3日、GMとホンダは北米での戦略的アライアンス確立に向けて幅広い協業の検討を進める覚書を締結した。それぞれのブランドで販売される車両向けの研究開発、共同購買、コネクテッドサービス領域での協業の可能性を検討する。

アライアンスは広範なものだが、最も重要なのは内燃機関エンジンと電動パワートレーンを含むプラットフォームの共有を目指すということ。リリースには「21年の年初に共同作業開始を目指す」とあり、数年後にはプラットフォームを共有したモデルが、それぞれのブランドから(多分デザイン違いで)登場するということだろう。両社は4月、アルティウムバッテリーを搭載するEVプラットフォームを用い、ホンダブランドのEVとして2モデルを共同開発することを発表している。

自動車メーカーはここのところ、「モジュラー化」などと称してグループ内でのプラットフォーム共有による開発、生産の効率化を推進してきた。そうした大規模化によるスケールメリット追求の波が、プラットフォームにとどまらず電動パワートレーンにも及んでいるということだろう。当然、電動化技術と複雑に絡み合った開発が必要とされる自動化技術においても協業を進めない理由がない。

GMは自慢のアルティウムバッテリーを自社の各ブランドのモデルのみならず、ホンダやニコラなどにも用いることで生産量を増やし、(各種規格争いなども含む)バッテリー生産分野で覇権を握ろうとしているのだろう。

GMとの提携を発表した直後にも空売り投資家集団による虚偽情報発信による詐欺疑惑が取り沙汰されるなど、ニコラの周辺はまだ落ち着かない状況でもある。

ニコラとの提携を伝えるGMのプレスサイトで紹介されているアルティウムシステム。

ゼネラルモーターズという社名からもわかるように、同社は過去さまざまなブランドを手中に収めることで拡大し続け、長らく世界一の座に君臨した。リーマンショックに端を発するチャプター11適用からの再建時などにいくつかのブランドを整理したが、将来、かつてのハマーの代わりにニコラが、サーブの代わりにホンダがグループ入りする可能性も、なくはない。

(文/塩見 智)

この記事のコメント(新着順)8件

  1. ニコラBadgerの広報CG、右にも左にも充填の差込口が見当たらないのですが、どこから充填するのでしょう??
    後ろのほうは荷台なので、差込口は取り付けられないですよね。
    実車が公開されるはずのNikola World 2020は延期みたいですし。

  2. nobubuさんとは逆に時価総額通りにテスラは進んでいくと思います。
    nobubuさんはテスラを知らな過ぎるし、知ろうとも思っていないように感じます。
    当然、テスラに乗ったことすら無い印象が伝わてきてますよ。
    テスラのイーロン・マスクはスペースxをやっている人ですよ。
    80年近い国家的宇宙事業を設立20年未満の民間企業スペースxが歴史上最先端のロケットを作ってるんですよ。
    日本のロケットが種子島から発射されるのを見て、あまりの昔ながらのロケットで悲しくなる事を、テスラファンだったら全員知ってます。
    スペースxのスターリンク計画を知っていますか?
    5 Gの先まで考えているし、スターリンクが来年には地球を全てを包み込むんですよ。
    トヨタはロケットを打ち上げる技術など、全くありません、、、
    CMを見ての通り、月面車の試作をするのが関の山ですよ。
    もう、日本のクルマメーカーはTHE ENDです。

  3. 時価総額は、単なる人気投票です。
    ニコラがいい例です。
    人気?があるプレミアムBEVを制作し、量産にこぎつけていますが、商売の要である、BEVの販売のみによる純利益を未だに出せていません。
    ZEVクレジットという、補助金があって、ガソリン車の売上をピンはねして、今年始めて、通年で黒字化したように見せただけです。
    S&P500も流石にプロなので、そこは、一般人と違い、見逃さなかったようですね。
    中国の補助金は、2020年末になくなる予定でしたが、2022年まで延長されました。
    本来は、2020年末以降がテスラのXデーになりそうでしたが、2022年末まで、延命される可能性がありますね。
    ただし、サイバートラックの量産は、厳しいでしょうし、モデルYの需要が一巡したら、テスラ車は売れなくなり、破綻に向かうと思います。
    また、途中で、リコール的な不具合を一つでも出せば、更に短命になり、そうなる可能性が高いと思います。
    テスラは、時間を稼いで、誰かが、革新的なバッテリーを開発して、BEVを普及できる代物にしてくれるのを待っているのです。
    EVを作る技術は、HVを作っているところなら、どこでもできます。
    HVからエンジンを外せばいいだけですからね。
    別段、障害になる技術的問題点はないですね。安くて、高性能なバッテリーが無いだけですね。

    1. nobubu様、コメントありがとうございます。一点だけ、、

      >EVを作る技術は、HVを作っているところなら、どこでもできます。
      >HVからエンジンを外せばいいだけですからね。

      これは大きな誤りだと思います。実際にハイブリッド車には、以下の部品が存在しません。
      ・大容量のバッテリー
      ・バッテリーの冷却機構・ヒーティング機構
      ・バッテリーと同時に室内空調を連動して温度調整する機構(冬はバッテリー冷却かつ室内暖房の必要性が発生)
      ・高温・高負荷に耐えるモーター
      ・高度なBMS
      ・車載充電器
      ・大容量のインバーター
      ・超急速充電に対応するジャンクションボックスや安全機構
      ・タイマー充電やバッテリープリヒーティングなどのユーザーインターフェース
      ・急速充電網の品質管理

      これらの技術を軽く考えていたメーカーがいくつかあるように感じています。例えば、バッテリーの冷却と言えばラジエーターがあればいい、程度に考える方が多いと思いますが、実際にはバッテリーは小さなセルの集合体。片面から冷やせばいいというものではなく、セルとセルの間も冷却する必要があります。また冷却に使うラジエーターに風を当てるためルーバーを切りますが、冬はこれを閉めないと逆にバッテリーが冷えてしまい消費電力が増えてしまいます。
      最後の急速充電網の品質管理も重要です。案外自動車メーカーは充電ネットワークをコンセントのように考えていますが、実態はトランス、巨大インバーターと整流器、ケーブルにコネクターの組み合わせとなります。特にケーブルやコネクターは消耗品。これらを壊れてから交換するのか、それとも未然に防ぐのか。このような充電ネットワーク側の品質管理もメーカーごとのノウハウの差が出ています。

    1. この時価総額と、リーフの10年間の販売台数を1年で造ってて、EV専業メーカー。例えばポルシェ全体と比べても年間2倍の台数。これで成功じゃなかったらなんなんだろう。

    2. 定義せず「成功」という表現を使ってしまいましたが、「テスラの領域まで達したEVベンチャーがまだない」と言いたかったのです。

    3. EVベンチャーの中では成功の部類でしょ、テスラ社は。少なくとも三菱自動車は軽く越え、日産とて今やテスラほどのカリスマ性はなく、中国を見ても超安価な宏光miniEVはまだまだこれからですから。
      長い目で視野を広く持たないと正確な判断は出来ませんよ。ロングタイム&ワイドビューでいこう!!

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					塩見 智

塩見 智

先日自宅マンションが駐車場を修繕するというので各区画への普通充電設備の導入を進言したところ、「時期尚早」という返答をいただきました。無念! いつの日かEVユーザーとなることを諦めません!

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