ホンダは目を覚ましたのか?〜中国CATLと電気自動車用バッテリーに関する包括的戦略アライアンス契約を締結

ホンダが自社の電気自動車開発のため、中国のCATLとタッグを組むことが発表されました。バッテリーの安定供給がその主な目的ですが、ホンダのEV戦略はどうなっていくのでしょうか? 『CleanTechnica』より、全文翻訳でお届けします。

ホンダは目を覚ましたのか?〜中国CATLと電気自動車用バッテリーに関する包括的戦略アライアンス契約を締結

元記事:Is Honda Waking Up? by Zachary Shahan on 『CleanTechnica

バッテリーだけじゃない、包括的戦略アライアンス契約

ホンダはEV用バッテリー生産で世界トップ3に入るCATLと“包括的戦略アライアンス契約”を結びました。これはただのバッテリー用契約ではなく、広く深いパートナーシップになります。

電気自動車時代に、おそらく最も残念な2つの自動車メーカーと言えば、ハイブリッド技術をリードするトヨタとホンダになるでしょう。技術転換期には、前の世代を牽引した企業が次の競争で最下位グループに入るか、もしくは完全にビリになることはよく見られます。自分がリーダーとしての地位を失いつつあり、そこに留まるためには自己改革の必要性があるという事実を受け入れるのは難しいものです。

ホンダとCATLのアライアンスが意味するところは、ホンダが90年代は終わったと自覚し、ようやく2020年の現実に目覚めたというところかもしれません。でも、そうではない可能性もあります。それでは細かく見ていきましょう。

ホンダ e のインテリア。画像はホンダ European Media Newsroomより。

ホンダとCATLの新しいパートナーシップの範囲に関しては、「本契約により、バッテリーの共同開発、安定供給、リサイクルとリユースの幅広い領域が対象となります」と共同声明(日本語版はこちらから)で書かれています。これが暗に示すのは、リソースの最大効率化、コストダウン、利益率上昇を目指して、ホンダがバッテリー化学の、少なくともパッケージング・イノベーション、鉱物の採掘と調達、そしてバッテリーのライフサイクル部門に参入したがっているのかもしれない、ということです。

契約は独占的なものではありませんが(CATLは引き続き他の自動車メーカーにもバッテリーを売ることができます)、声明では「Hondaは、CATLの第三者割当増資の引き受けを行うことで、CATL株の約1%の株式を取得しました。これにより、HondaはCATLのトップ戦略パートナーとなり、商品競争力及びコスト競争力のあるバッテリーを安定的に確保、CATLは今回の増資を通じてバッテリー開発強化及び生産能力をさらに拡大していきます」とあります。

EV革命は中国だけにとどまらず、今は欧州が一番熱い地域となっており、中国国内の新車販売のうちEVが占めるのは4.3%であるのに対し、欧州では8%となっています。

そうは言っても中国は以前この分野でリードを取っていましたし、その規制は自動車メーカーが急いで電動化に尽力しなければならないことを明確にしていました。これがホンダの尻に火をつけ、バッテリーのリーダーとのパートナーシップを模索するようになった大きな理由の1つのようです。

CATLのバッテリーを使った、ホンダ初のモデルは中国市場に2022年に投入される予定ですが、その後どの地域に展開されるかのはっきりしたタイムテーブルは示されていません。声明では「将来的にはグローバルでの展開も視野に検討しています」とありますが、“グローバル”が何を意味しているのかは不明瞭です。欧州でしょうか? この地域では明らかな規制の問題があるので、ホンダは確実に電動化をしなければなりません。では北アメリカは? 南アメリカはどうでしょうか?

ホンダ e。画像はホンダ European Media Newsroomより。

ホンダeの目標は年間1万台だけ?

今までにホンダが誠実に作りあげた、たった1つの純電気自動車進出モデルは『ホンダe』で、欧州市場をターゲットにしたクールでキュートなEVです。しかしこの小さな『シティカー』の問題は航続距離がWLTP基準で220km(EPA換算推計値=約196km)であるという点です。5年前ならこの数字は良かったのですが、2020年ではかなり時代遅れです。スペックと価格のバランスで競争力を得るため、ホンダはCATLの協力を渇望しているようです。(EUの規制に見合うためには、ホンダは年間1万台のEVを売れば良く、ホンダeの販売もそれだけを目的としています

追い打ちをかけるようですが、需要が低かったためホンダ・クラリティ・エレクトリックは2019年末に生産終了となりました。クラリティ・エレクトリックは、ホンダのその他すべての電気自動車のように『コンプライアンス・カー』と呼ばれていました。より多くのEVを必要とする市場でしか開発販売されていなかったからです。この車の航続距離は惨めにも143kmしかありませんでした。

八郷氏は現実から目をそらしている

大真面目だとしたら憂慮すべき、もしくはかなりの皮肉である談話(訳者注※EVsmartでもこの記事を全文翻訳でお伝えしましたが、ホンダ広報から正式に訂正が入っています。こちらから合わせてご覧ください)が、2019年末にホンダCEOの八郷隆弘氏から出ています。「ハイブリッド車両が重要な役割を果たすと信じています。本質的に重要なのは燃料効率の向上であって、電動化ではありません。よって私達はハイブリッド車両こそが様々な環境規制に対応できる道だと信じています。」

さらに続けて、「(電気自動車を)心から欲しい顧客が本当にいるのでしょうか? インフラやハードウェアの問題が山積みなので、私には確信が持てません。バッテリー車両への需要が劇的に増加するとは思いませんし、これは世界的に見てもそうです。国によってさまざまな規制があり、すべてに従わねばなりません。よって、研究開発を続けるのは絶対に必要です。しかしそれがすぐにメインストリームになるとは考えていません」

これでは信用できません。しかし今、少なくともホンダとCATLの共同事業という前向きな話が聞こえてきました。加えて、ホンダとGMも大きなコラボレーションを推し進めてきたようで、それが新型バッテリーの『アルティウム』を中心に据えた電気自動車です。

ホンダとGMのアルティウムとは

アルティウムは、VoltやBoltなどのGMが以前作った電気自動車よりアルミニウムを増やしてコバルトを減らしており、米国オハイオにあるホンダとGMの共有工場でもうすぐ生産が開始されます。アルティウムは始め年間30GWhのスケールで生産されますので、テスラのものではない『ギガファクトリー』と言えるでしょう。

アメリカン・ホンダモーターとゼネラルモーターズは、ホンダのために2つの新しい電気自動車を共同開発することを、4月2日に発表(日本語版はこちらから)しました。車両はGMのグローバルEVプラットフォームをベースに作られ、アルティウム・バッテリーが使われます。エクステリアとインテリアはホンダがデザインし、プラットフォームはホンダ車を運転した時の特徴をサポートするよう設計されます。

【関連記事】
ホンダとGMが「アルティウム」バッテリー採用のEV共同開発に合意(2020年4月13日)

この合意から、買うに値する電気自動車をホンダが生産するには、競合ブランドのパワートレインを使わなければならないほど、ホンダが相当遅れているのが見られます。

EU、中国、カリフォルニアでのコンプライアンスが与える強制圧力を超えた先に出てくるホンダの電気自動車を見るまで、私は大興奮したり、ホンダが目を覚ましたか結論づけるのを待とうと思います。

今現在、空気汚染撃退のために協働するパートナーを持たない(※ゼロ・エミッション車両生産で組む企業がいない)にも関わらず、ホンダのアコードとシビックは米国内でいまだにトップで売れている車です。しかし、2020年の他社EVトップモデルと競合できる最高の電気自動車を開発できなければ、ホンダが万事休すとなるまでにそう時間はかからないでしょう。カリフォルニアではすでにテスラ・モデル3に抜かれました(※リンク先でも見られますが、カリフォルニアでの2020年第1四半期売り上げトップ5は1位 テスラ・モデル3、2位 ホンダ・シビック、3位 トヨタ・カムリ―、4位 トヨタ・カローラ、5位 ホンダ・シビックとなっています)。

(翻訳・文/杉田 明子)

※編集部注/八郷社長の「電気自動車を心から欲しい顧客が本当にいるのでしょうか?〜」といった発言については、本文中にも説明したとおり、以前の別記事公開の際、ホンダ広報から誤解である旨の指摘をいただき、訳記事の一部を修正して注記を掲載しました。今回、その際の元記事を参照した内容があることに配慮して、注記と参照リンクをご紹介しています。アメリカの著者にとっては、かなり気になるポイントのようです。今後のホンダの「意欲」に期待しています。

この記事のコメント(新着順)7件

  1. ホンダ技研工業の八郷社長の発言は現状の現実解の発言でしょうね。
    ホンダ技術研究所の三部社長はバッテリーの問題が解決すれば車は明日にでもEVに切り替わる。と迄言ってますから。
    その三部社長も今は儲からない、Co2
    削減もハイブリッドの方が効く。だが将来は変わる、
    だから今はGMと協力してリスク分散やホンダeでどう生産するのが良いのか、どうやったらコスト減らせるかをやる。
    いつEVの時代になっても良いように準備は進めてるんで、ここ数年で色々出て来ますよ。
    とあるのでCATLのも「色々」のひとつなのかなぁ…と。

  2. ホンダeのダッシュボードは単純に未来的でかっこよく
    視認性もよさそうですね。
    ただ、液晶?有機EL?パネルを何枚も用意するのは部品点数的にはどうでしょう?
    コストを考えると、伝統的なスピードメーターと1画面のモニタという組み合わせとどちらが優位なのでしょうか?

    1. k様、コメントありがとうございます!申し訳ありません、分かりにくいですね。プラグインハイブリッドや電気自動車等のラインアップがないことを意味していると思います。後ほど編集しておきます。ご指摘ありがとうございます。

  3. カリフォルニアの所得は10万ドルでも低所得者になるレベルで跳ね上がっている。
    まあそれはある程度誇張があって、比較的単純労働だとそこまで高くはないけど
    少なくとも車を買う程度の所得がある世代で比較すると
    モデル3でも大衆車の価格でしょうか
    翻って日本は、一時期のプリウスばかり売れるといわれた時期のプリウスでもやっと200万円、軽自動車含めりゃNBOXが140万円、ダイハツミライースやスズキアルトエコが7~80万円台。

    カリフォルニアほど極端でないにしても欧州やカナダなどの所得も日本より高い
    補助金や政府の温度差を考えても、市民国民はどっちにしろ買うものは買うし買わないものは買わない

    全ては所得格差と車にかけられるお金の違いなんですよ。
    カリフォルニアの所得ではすでにマジックナンバー(売れる価格帯)に入った。
    一方日本じゃその価格で売れるのはまだまだマニアという
    せめて新車で300万(大衆車にしてはちょっと高い)程度、本当は200万(普通の大衆車並)とか、極論100万(普通車の最安、ちょっと高い軽自動車)で買えれば言うことなしなんですよ。

  4. フィットEVは東芝のSCiBを使った傑作だったのにリースのみで市販化しませんでした。400万円は高かったですが出ていれば買っていたと思います。
    長寿命のSCiBを離れた事が悔やまれます。

    1. 蜜さんに同じく東芝SuperChargeIonBatteryフリークですw
      FIT-EVがそのまま市販化されればリーフに代表されるEVバッテリーへの偏見(劣化問題)も早期から改善されていたと思うと悔しいですね。価格のネックもあったと思いますが。
      そしてi-MiEV(M)/Minicab-MiEV(10.5kWh)両車種の低知名度もSCiB普及が遠のいた遠因。航続距離がデメリットですが…劣化問題も含め長い目で見る人間が日本人に少ないのも一因じゃないですか!?
      もう少し売れていれば東芝も本腰入れてSCiBをより多く売り込んだでしょうが、いかんせん巨大赤字を抱えていて身動きが取れなかった!?

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					杉田 明子

杉田 明子

2010年代に住んでいた海外では'94年製のフォード→'02年製のトヨタと化石のような車に乗ってきました。東京に来てからは車を所有していないのですが、社用車のテスラ・モデル3にたまに乗って、タイムスリップ気分を味わっています。旅行に行った際はレンタカーを借りてロードトリップをするのが趣味。昨年は夫婦2人でヨーロッパ2,200キロの旅をしてきました。大容量バッテリーのEVが安くレンタルでき、充電インフラも整った時代を待ち望んでいます。

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