ホンダ、クラリティPHEVを発売!航続距離や競合車との比較

米国ではPHEV, EV, FCVの三種類、日本ではPHEVとFCVの二種類のラインアップで登場したクラリティ。その主力車種であるクラリティPHEVの航続距離や競合車との比較をレポートします。

ホンダ、クラリティPHEVを発売!航続距離や競合車との比較

米国のクラリティEV版(完全電気自動車)はカリフォルニア州とオレゴン州でのみリース可能、FCV版(燃料電池車)はカリフォルニア州でのみリース可能となっており、日本国内でもFCVはリースのみ。クラリティはPHEV版が主力。
というわけで、最初は駆動方式を三種類揃えた共通プラットフォームだ!という触れ込みだったクラリティも、結果的にはやはりバッテリー底面搭載ができなかったのか、米国EV版のEPA航続距離は143km。リーフ40kWhモデルの243kmよりかなり少ない結果になり、数少ない5名乗車セダンということで米国ではある程度売れているものの、やはりPHEV版が本命ということになるのでしょう。なお、いつもお読みいただいている方にはくどいようですが、当サイトでは実際にその距離を走行できないJC08基準ではなく、実際に100km/hでその距離を走行できる、米国EPA基準を用いて記事を執筆していますので、公式サイトを含む他サイトとは数値が異なりますのでご了承ください。

2018 Honda Clarity Plug-In Hybrid

クラリティPHEV、肝心の航続距離は75.6kmと、日本国内で販売されるプラグインハイブリッド車の中では最も多い17kWhのバッテリーを搭載。これより多いのは米国のVoltくらいでしょうか。75.6km走行できれば、冬の通勤でもまずエンジンを使うことはなく、ほぼEVとして使用できると考えて良いでしょう。
このバッテリーは中国CATLが供給し、2並列84直列(2P84S)で168セル、14モジュールとなっているよう。電圧は諸元表には310.8Vとありますが、これはおそらくnominal値(310.8/84=3.7V)なので、満充電時は4.2V x 84 = 352.8Vと、96Sの電池パックよりは電圧は低め。テスラもモデルSとモデルXの75kWhモデルは84S(モデル3ロングレンジ75kWhは96S)と、標準的な構成と言えます。細かい話ですが、もちろん電圧高いほうが速く充電できるのです。
気になるバッテリー温度管理システムは水冷化されているとのこと。コンプレッサーは使用していないので、外気をラジエーターに当てて冷却する方式のようです。SAEの論文でもこれで充分な冷却性能が得られるとのことですので、ユーザーは安心して夏も急速充電できそうです。

2018 Honda Clarity Plug-In Hybrid

パワートレインは、2モーター1エンジン。1つのモーターは発電専用なので、駆動用には1つのモーターとエンジンが使われます。またこの車両は前輪駆動ですので、モーターもエンジンも前輪を駆動します。モーター出力は135kW(184馬力)に315Nmと、取り立てて高出力ではないけどファミリーセダンとしては必要充分。エンジンは1.5リッターで77 kW(105馬力)134Nmと、どちらかと言うと発電にフォーカスを置いたシリーズハイブリッド的なコンフィグレーションです。ただしクラリティPHEVはシリーズもパラレルも可能な仕様で、ある意味非常にオタク的な車に仕上がっていると言えます。システム総合出力は158kW(212馬力)。ほとんどモーターですね。

クラリティPHEVのオタク的な機能と言えばそのドライブモードの多様性。これ結構複雑な気がします。
まずは自動的なモード切替。

    • EV走行モード

バッテリーの電力のみで160km/hまで、エンジンを停止状態で走行。残量が少なくなると、自動的にハイブリッド走行モードに切り替わります。

    • ハイブリッド走行モード

シリーズハイブリッドとして、エンジンは発電のみに専念。走行はモーターのみで行います。

    • エンジンドライブモード

クラッチを直結しバッテリーは使用しないでガソリンのみで走行します。

2018 Honda Clarity Plug-In Hybrid

これだけじゃないんです。さらにHVスイッチというものがあり、これを押すとHVモードに。HVモードでは充電レベルを維持するため、充電により多くの優先度が割かれます。
そして!HVスイッチを長押し(!!)すると、HV CHARGEモードに。これにより、充電レベル50%を上限として、バッテリーに充電します。一回押すと維持、長押しで50%まで充電、ということなのですね。
回生ブレーキは、アウトランダーPHEVと同様、パドルを使って4段階に切り替え可能。これは便利ですね。

その他の情報として、スマホを使った事前エアコン機能があるようですが、米国での報告では、急速充電・200V普通充電中・充電していないときは作動するのにも関わらず、100V普通充電中は事前エアコンが使えない、とありました。これはちょっとしたファームウェアの問題なので、すぐ解決されることと思います。

クラリティPHEVは急速充電にも対応しています。急速充電ポートはアウトランダーPHEVと同様にリア右。普通充電ポートはBMWと同じフロント左。いい感じで各車種バラバラになってきています。またコンセントから普通充電を行うための普通充電アダプターはトヨタ方式で、200Vと100Vは先っぽのプラグ部分だけを交換する方式。両方使いたい!という方には朗報です。日産さんとか三菱さんは、200Vと100Vはアダプターそのものの買い替えになるのです。
充電カード「Honda Charging Service」も同時にローンチしました。最初2年間は月額無料、3年目から月500円(税抜)。急速充電器16円/分(税抜)、普通充電器1.5円/分(税抜)と、急速充電器は他社より1円高め、普通充電は国産他社と同等に抑えられています。チャデモ急速充電の場合の最大アンペア数や充電カーブが分からないので何とも言えないのですが、平均的数字を用いると、30分間で17kWhの80%まで充電できると仮定して、電池容量は90%を使用すると考えると、充電器出力は24-25kWくらいまでのように見えます。62.5Aくらいまででしょうか。そう仮定すると、充電コストは:

  • 急速充電:16円 x 1.08 x 60分 / 25kWh = 41.5円/kWh
  • 普通充電:1.5円 x 1.08 x 60分 / 3kWh = 32.4円/kWh

と、自宅で昼間充電する場合の30円前後とほぼ同じになり、できる限り普通充電をあちこちで利用するとお得になることが分かります。

最後に競合比較を見てみましょう。このクラスのPHEVはまだ多くは出ていないのですが、プリウスPHV、BMW 330e(!!と思うかも知れませんが)、そしてテスラモデル3ロングレンジ(75kWh)と比べてみましょう。

車種名ホンダ クラリティPHEVトヨタ プリウスPHVBMW 330eテスラ モデル3 LR
新車価格(税込)5,880,600円
参考米国価格:税抜$34,290 約394万円@115円
3,241,400円6,100,000円$49,000
参考価格:税抜約564万円@115円
バッテリー容量17kWh8.8kWh7.7kWh75kWh
EPA航続距離75.6km40km23km498km
タンク容量26L43L41L0L
システム最大出力158kW90kW185kW192kW
システム最大トルク不明不明420Nm416Nm
モーター最大出力135kW53kW65kW192kW
モーター最大トルク315Nm163Nm250Nm416Nm
全長 x 全高 x 全幅4915 x 1480 x 1875mm4645 x 1460 x 1760 mm4645 x 1440 x 1800mm4690 x 1440 x 1930mm
車両重量1850kg1510kg1770kg1730kg
駆動方法前輪駆動前輪駆動後輪駆動後輪駆動(四輪駆動モデルあり)
定員5名4名5名5名
充電時間AC200V_JP6時間2時間20分3時間約25時間
充電時間AC100V_JP50時間14時間7時間30分約124時間
充電時間J1772
6時間2時間20分2時間50分約8時間30分(@200V48A)
充電時間Chademo30分/80%30分/80%約1時間30分
充電ポート位置急速/リア右
普通/フロント左
急速/リア右
普通/リア右
普通/フロント左急速/リア左
普通/リア左
急速・普通(普通/急速)(普通/急速)普通充電可(普通/急速)
EPA電費5.2km/kWh6.4km/kWh3.4km/kWh6.2km/kWh

Honda Clarity Series

米国だと400万円前半のクラリティPHEVが日本だと500万円台後半ですね。これは米国において、カリフォルニアなどのCARB州における、ZEVクレジットを獲得するため車両価格を安くしているというのがありそうです。米国版プリウスPHVであるPrius Primeの販売価格は$27,300(@115円で314万円程度)ですから、トヨタさんは日本と米国での価格差をあまりつけず、ホンダさんはかなり米国価格を戦略的に下げていると言えるかも知れません。ZEVクレジットとは、プラグインハイブリッド車、完全な電気自動車、または燃料電池車を一定台数販売しない限り、通常の車の販売ができなくなるという制度で、このためカリフォルニア州を始めとする約13の州では、プラグインハイブリッド車や電気自動車の販売に力が入れられています。

クラリティPHEVのもう一つ面白いところは燃料タンク。26リットルとはかなり少ないですね!実際米国EPA基準では、バッテリー満充電かつガソリン満タン時の航続距離は547km。同じ基準でBMW 330eは563km、完全な電気自動車のテスラモデル3 LRは498kmですから、重量を減らすためにガソリンタンクを減らすことで、PHEV車の航続距離自体は電気自動車のそれに近づいてきてしまっているのですね。

最後のEPA電費にも注目してみてください。これは壁すなわち、自宅の充電器についている電力量計を基準にした電費なのですが、クラリティPHEVは同じクラスのBMW 3シリーズと比べてもずっと電費が良く、効率の良いクルマと言えます。プリウスPHVはもう一回り小さいクルマですから当然として、空力に優れたボディと、効率の良いインバーター・モーターの採用がこのような優れた電費につながっているのではないでしょうか?クラリティPHEVはこの点で、真のエコカーと言えそうですね。

この記事のコメント(新着順)5件

  1. ホンダもなかなかやりますねぇ(笑)
    しかし如何せん国内販売価格が高すぎ、どうみても海外へアピールしているようにしか見えません。
    PHEVとしては大容量のバッテリーを積んでいるからスペックは良さそうですが…せめて三菱アウトランダーの400万円台にしてくれたら買う人も居るのではないでしょうか。
    フィットEVもそうでしたが、もしかしたら官公庁向けに売ってある程度成功したら次は一般向けを売るつもりかもしれませんが(過去三菱がアイミーブで使った手法)地方自治体の財政が厳しい以上それも難しいでしょう。
    オプションで9kVAの外部給電器(車から電気を取り出す装置)もありますが、価格が百万越えで重たいので(50kg)避難所の電源くらいしか用途が思いつきません。これも官公庁向けアピールなんでしょうか?

    何かと売り方に疑問を感じますが、今やレアなセダンでPHEVを作るなど面白いのは間違いありません。
    ホンダディーラーも急速充電器を設置するくらいだから、クラリティ以外にもホンダ謹製EV系車種が出てくるでしょう。個人的にはむしろそっちに期待したいです。
    センタータンクレイアウトがEV車を作るのに向いているのは確かなので(三菱iがアイミーブを派生させられたのもセンタータンクだったから)フィットEVの再生産やN-VANのEV化に期待したいです。

  2. 私も高すぎると感じ、そこまで販売台数が伸びるとは思えないのですが
    どこかと違ってPHEVでも発売に合わせディーラーに急速充電器を設置し始めたのは立派だと思います。
    対応中かもしれませんがEVsmartさんでも日産や三菱と同じ様にHondaディーラーのアイコンを用意してあげると励みになるかもしれません(白地に赤とか)

    1. 3_XXX様、もともと国内での販売目標は年間1000台だそうですから少な目ではありますね。
      ホンダ販売店のアイコン、検討させていただきます。

    1. 安藤様、おっしゃる通り、米国ではZEVクレジットがあるから安めに設定されているという事情はあると思いますが、国内価格と差が大きすぎるような気もします。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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