ホンダが新型軽乗用EVの「N-ONE e:」を発売しました。前日に都内で開かれた発表会では、希望小売価格などとともに、独自の充電サービスの提供開始も発表。CHAdeMO初のプラグアンドチャージ機能が実装されたこともアピールされました。
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N-ONE e: とホンダチャージ、豪雨の発表会
2025年9月11日、ホンダが新型軽乗用EVの「N-ONE e:」発売を発表しました。発表会場となったのは二子玉川ライズ(東京都世田谷区)です。中央広場には、ピカピカのN-ONE e:や新型充電器が並べられていたのですが、あいにくの豪雨。ステージイベントは屋内に場所を移して行われました。
N-ONE e:の開発責任者である堀田英智さん、CMFデザイナーの古小路美和さんが、タレントの谷まりあさんと壇上でトーク。外部給電のデモンストレーションを行うなど、「日常のパートナー」を目指して開発されたクルマの魅力を語っていました。

写真左から、堀田さん、古小路さん、谷さん。
N-ONE e:は、N-VAN e:に続いてホンダが市販する軽規格のEVです。これまでにも情報が先行公開されていて、EVsmartブログでも紹介しています。
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N-ONE e: の一充電走行距離は295km!
今回は、発売にあたって明示された情報を中心にお届けします。まずは価格ですが、スタンダードタイプとされる「e: Gタイプ」が269万9400円です。すっきりとした室内空間が特長だそうで、9インチのセンターディスプレイもなくしています(オプション設定)。価格は、N-VAN e:(L4タイプ)ときっちり揃えてきました。
一方、急速充電ができて、ナビゲーション連動のセンターディスプレイや14インチアルミホイール、本革巻きステアリングホイールなどを備えた上級グレードの「e: Lタイプ」が319万8800円です。
両タイプとも、令和7年度のCEV補助金は57万4000円です。金額は自家用で、事業用は申請中で未定。この額に、地域によっては自治体の補助金(東京都ならZEVの車両購入補助金40~50万円)を追加して申請できます。
一充電航続可能距離は、295km(WLTCモード)です。N-VAN e: の245km(同)より増えているのが注目ポイントです。搭載した走行用バッテリーは29.6kWhで、両車種とも同容量。空力性能だけで航続距離が20%アップしているんですね。
N-VAN e:については、走行用バッテリーの実用域に余裕をもたせているのでは、と推察されたりもしていましたが、同容量で航続可能距離がこれほど違うと、実用域の調整についても気になるところではあります。試乗して確かめる機会があることに期待しましょう。
SOCの「%」表示機能も搭載
発表資料で「おっ!」と思ったのは、加減速から完全停止までアクセルペダル一本でできる「シングルペダルコントロール」が採用されたことです。センターコンソール部のボタンを押せば、ワンペダルのオン・オフを切り替えられます。Honda eにも備わっていますが、ホンダの軽では初採用です。
ステージに展示された車両を覗かせてもらっていたら、N-VAN e:では棒グラフだけだったSOC(充電率)が数字(%)でも表示されるようになっているのに気づきました。ちょっとしたことですが、うれしい改良ポイントです。
PnCを可能にしたホンダチャージ
さて、9月12日からサービスが提供開始される充電サービス「Honda Charge(ホンダチャージ)」についての発表内容です。屋外の会場には、黒く塗られた急速充電器の模型が展示されていました。緊急停止ボタン以外はモノトーンで、おしゃれな感じです。これを全国各地に展開していくそうです。
画期的なのは、ついにCHAdeMO急速充電でプラグアンドチャージ(PnC)が実現すること。テスラユーザーにはお馴染みですが、急速充電の際、充電ケーブルのプラグを車両につなぐだけで充電と自動認証、決済までできてしまうというシステムです。
一般的なEV急速充電では、プラグを挿したあと、充電器の操作パネルでカード認証をする、充電開始スイッチを押す(タッチする)といった操作が必要です。でも、N-ONE e:でホンダチャージの急速充電器を使う場合、ユーザーがやらなくてはいけないのは、プラグを挿すことと、充電後に抜くことだけ。充電にかかる手間は激減します。
「&GO(アンドゴー)」と名付けられたこのプラグアンドチャージは、ホンダと充電サービス事業者の株式会社プラゴが共同開発した技術です。両社は2024年8月に共同開発契約を結び、同年10月に公共充電ネットワークの拡大に関する業務提携を発表していました。約1年で実装した市販車が登場というのは素晴らしいスピードです。心から拍手を送ります。
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対応車種やネットワーク拡大に期待!
ただし、対応できる車種は現時点ではN-ONE e:だけです。同じホンダのEVであるN-VAN e:やHonda eは利用不可。
また、対応している充電器が少ないのも心細いところ。ホンダがこの日までに全国のディーラーなどに設置した黒い新型充電器は、50kW49口と90kW3口の計52口。プラゴの充電サービス「Myプラゴ」の急速充電器も順次対応予定とはいうものの、当面はそれだけ。今後は、ディーラーや商業施設などを中心に「2030年までに数千口規模」まで「&GO」対応充電器を拡大していくそうですが、現時点ではまだ実験的な規模感です。

ホンダチャージアプリの画面。
既存のホンダEVユーザーとしては、ホンダチャージの使い勝手や料金設定も気になります。ホンダには、Honda eの発売(2020年10月)に合わせてスタートした充電カードサービス「Honda Charging Service(ホンダチャージングサービス)」がありました。EV普及を図るという観点から料金は破格の安さ。月会費550円で、急速充電は約17.6円/分、普通充電は約1.5円/分という神サービスでした。でも、今年3月末でサービス終了。
以来、メーカー独自の充電サービスの恩恵を受けられない状態が続いていました。そこへ、ホンダ以外のEVユーザーでも利用できるユニバーサルサービスとして登場したホンダチャージ。たとえ「&GO」はできなくても、便利なら活用したいところです。
充電サービスは、カードではなく、専用アプリをダウンロードして利用します。入会金も月会費も不要で、50kWの充電器は55円/分、90kWの充電器は77円/分。空いている充電スポットを予約して、60分取り置きすることもできます。これはMyプラゴで実装されていた予約システムで、車室のストッパーが立ち上がる方式が採用されているようです。
充電料金はe-Mobility Power(e-MP)のビジター料金に合わせたような同価格帯。できれば従量制にしてほしかったものの、持続可能性を考えても納得のできる価格設定ですね。ただ、現時点で連携している充電ネットワークは「Myプラゴ」だけ。つまり、このアプリで使える充電器は、黒い充電器52口を含めて急速が155口、普通が629口。少ないと言わざるを得ません。経路充電に対するニーズを考えれば、全国で充電網を拡充してきたe-MPとの連携も、ぜひ実現させてほしいとお願いしておきます。
ホンダチャージの開発担当者に質問してみた
ホンダチャージを開発したコーポレート戦略本部チャージングソリューション事業課の担当者から会場でお話を聞くことができました。主幹の櫛引章文さんとチーフエンジニアの大塚真一郎さんです。以下、一問一答でお届けします。
Q. 50kWで55円/分、90kWで77円/分という充電料金はどうやって決めたのですか。
櫛引さん 充電サービスの市場価格の推移や、事業性というところも含めて考えて、この価格になりました。入会金も月額料金もなくして、どなたでも加入していただきやすいというところをスタートにしています。今後、使ってもらっていく中で、さまざまな料金プランも検討して、進化させていきたいと思っています。
Q. e-MPとの提携がなかったのは残念です。将来的には期待してもいいでしょうか。
櫛引さん EVを普及するためのコンセプトが合致したプラゴさんとの協業をまず進めてきました。e-MPさんとも、サービススタート時点では連携できませんでしたが、今後の関係性については話し合いをさせてもらっています。便利な充電インフラを広げていきたいというところでは、e-MPさんも私たちも同じ方向を向いていますし、連携していきたいという思いはあります。
Q. プラグアンドチャージの対応車種はN-ONE e:だけですが、今後は増やしていきますか。また既存のホンダEV(N-VAN e:とHonda e)でも使えるようになりますか。
大塚さん 今後発売するクルマについてはプラグアンドチャージを広げていきたいと思っています。以前の車両については、ソフトだけでなくハード面の対応も必要になるので検討中です。
Q. 最大90kWの急速充電器をさらに高速化することは考えていますか。
大塚さん もちろん考えています。ただ、いま販売しているのがN-VAN e:とN-ONE e:なので、いずれバッテリー容量の大きいクルマが出てきたら、状況を踏まえてということになります。それと、商業施設などに充電器を設置していくというのも私たちのコンセプトの一つ。買い物や食事をしながら充電すると考えると、それほどの高出力化が必要なのかどうか。クルマとコンセプトのバランスを考えながら進めていきたいと思っています。
(一問一答ここまで)
ホンダの充電サービス、今後の発展に期待します
ホンダが充電サービス事業から撤退してしまったわけではなく、プラグアンドチャージという画期的なサービスを携えて復活してくれたのは喜ばしい限りです。まだ充電器数が少ないのが寂しいとはいえ、こういうのはとにかくスタートすることが大事。伸びしろは大きい!と期待しています。
プラグアンドチャージが、将来的にはホンダ以外のEVにも広がっていくのか、という点も気になりますが、11日に発表されたプラゴのニュースリリースには「ユニバーサルプラットフォーム」という言葉がありました。自動車メーカーは、プラゴのサーバーと接続することで「既存車両のハードウェアに改変を加えることなく、車両をプラグアンドチャージシステムに対応させることが可能」とのことです。
プラグアンドチャージは、CHAdeMOでも常識的なサービスになっていくのかもしれません。引き続き注目して取材を続けたいと思います。
取材・文/篠原 知存
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