ホンダが2030年までに200万台を目指す電動化計画を発表〜各社の電池生産計画もチェック!

ホンダは4月に開催した記者会見で、これからの10年間で約5兆円を投入して電動化を加速すること、2030年までにグローバルで30車種の電気自動車(EV)を展開して年間生産200万台を目指すことなどを発表しました。世界各社のEVシフト計画と合わせて考えてみます。

ホンダが2030年までに200万台を目指す電動化計画を発表〜各社の電池生産計画もチェック!

2030年までに30車種のEVを投入

ホンダは2022年4月12日に行った「四輪電動ビジネスの取り組みについて」の記者会見で、今後の4輪車の電動化ビジネスについて新たな目標を発表しました。2030年までにグローバルで30車種のEVを投入し、年間200万台を生産することを目指します。

そのために必要なバッテリー容量については、記者会見の質疑応答の中で三部敏宏社長が「グローバルで160GWhが必要。各方面と調整している」と述べています。

目標達成のため、今後10年間で電動化とそれに関連するソフトウエアについて、研究開発費を約3.5兆円、新たな生産ラインの設置など設備投資に約1.5兆円を投入します。また次世代電池として全固体電池の実証ライン構築のために約430億円を投資し、2024年春に立ち上げる予定です。

新たな目標について三部社長は次のように話しました。

「さまざまな国や地域でのお客様の用途、シーンに応じて多様なソリューションを提供し、『自由な移動の喜び』を『地球環境負荷ゼロ』で実現していく。さらには、それらを繋げる『コネクテッドプラットフォーム』によって、社会全体の利便性や効率性を高めていく。これがホンダのアプローチです」

【関連動画】
Honda 四輪電動ビジネス説明会
(YouTube)

2024年前半に100万円台の軽EVを発売

発表では、EV200万台計画に関してもう少し詳細な内容も明らかになりました。EVsmartブログとして気になるのは、やっぱり商用の軽EVです。

ホンダはすでに、北米ではGMと共同開発する中大型クラスを2024年に2車種、中国では2027年までに10車種を投入することを明らかにしています。北米については、コストや航続距離などが従来のガソリン車と同等の競争力を持つ価格帯のEVを2027年に発売予定です。

これに加えて今回は、日本で、2024年前半に100万円台の商用軽EVを投入することが発表されました。2022年5月のGWも明けたので、あと2年です。もう車の骨格はできつつあることになります。どんな商用軽なんですかねえ。軽トラ、軽バン、どっちにしてもワクワクします。

それに100万円台という価格は魅力的です。日産と三菱自動車が共同開発する軽EVは、価格が補助金込みで200万円台前半と噂されています。5月13日発表と言われていますが、ホンダの軽EVはこれに比べると超挑戦的なモデルになりそうです。買い控えも出そうですね。

EVになると使用目的によって車の仕様が大きく変わることも考えられるため、個人的には、都市型EVとしての軽自動車のポテンシャルはかなり高いと思っています。軽規格は日本独自のものですが、EVになることで世界市場にも受け入れられたりしないかなあと妄想が膨らみます。世界ではすでに使用目的に特化した大量の小型EVが走り回っているので、食い込むのは容易ではないとは思うのですが。

NSXの後継モデルはEVになる?

さらに三部社長は、質疑応答の際に、新しいスポーツモデルをグローバル市場に投入したい考えを示しました。この車は、「当然、電動車」だと述べています。ホンダは『NSX』の生産を中止しているので、頭に浮かぶのは、やっぱり『NSX』レベルの突出した性能のEVです。詳細は不明ですがこれこそ、刮目して待て、です。

そして数年先の近未来については、2020年台後半をEVの普及期と捉え、2026年に、EV専用のプラットフォーム『Honda e:アーキテクチャー』を採用した製品を市場投入する計画です。ハードウェアとソフトウェアをプラットフォーム化するという考え方で、詳細は不明ですが、先行するEVが採り入れ始めているOTAによるシステム更新を含みます。

記者会見で青山真二専務は、『Honda e:アーキテクチャー』は四輪の電動化だけでなく、その他のモビリティへの適用も見据えていると話しています。だとすると、従来の車の骨格をなすプラットフォームというよりも、製品の基本的な考え方、概念のようなものなのかもしれません。

北米にバッテリー生産の合弁会社を設立

次にバッテリーです。ホンダは、地域ごとに異なった種類のものを搭載していく計画です。

北米では、すでに発表されているようにGMが開発する『アルティウム』バッテリーを採用しますが、これ以外にも、バッテリー生産を行う合弁会社の設立を検討していることが発表されました。合弁会社の相手は未発表です。

中国では、これも既発表のようにCATLとの連携を強化します。そして日本では、日本市場独特の軽EV向けに、エンビジョンAESCからバッテリーを調達します。

お、と思ったのは、ホンダがバッテリー生産に乗り出す可能性があることです。これまでバッテリー開発について目立った動きをしていなかったのですが、生産だけとはいえ合弁会社を新たに設立することに、姿勢の変化を少し感じます。

EVは、現在はもちろん、将来にわたってもバッテリーがコストの中心になるだけでなく、バッテリーの性能が車の性能を左右するのは間違いありません。本来であれば自社開発が望ましいでしょう。

けれども、トヨタが十数年前にリチウムイオンバッテリーの自社開発に苦労したように、一筋縄ではいきません。加えて今は原材料コストの問題も絡んで、急増するバッテリー需要をどうやって満たすかに課題があります。

だからこそ先行する各社は様々な形で自社工場を立ち上げる姿勢を鮮明にしています。開発までは手が回らなくても、せめて生産工場は自前で確保したいのでしょう。

将来的に、バッテリーの性能やコストがこなれてきたら、その時は共通のバッテリーを使用してさらにコストダウンを図ることもあるでしょうが、今は調達も含めて競争なので、自社工場の有無は生産計画に大きく影響すると思われます。

そんな中でホンダが新規の合弁会社にどの程度投資するのか、はたまは相手がどこになるのかは気になります。GMでしょうか、CATLでしょうか、エンビジョンAESCでしょうか、それとも他でしょうか。

他方、現在進行形のリチウムイオンバッテリーとは別に、ホンダは全固体電池について、約430億円を投資して2024年春に実証ラインを立ち上げ、2020年代後半に市場投入するEVに採用することを目指します。

EVsmartブログではこれまで、全固体電池は量産技術に課題があることを指摘していました。逆に言えば、このハードルが越えられれば可能性は広がります。かなりの難題と思えますが、実現を期待したいと思います。

ステランティスのバッテリー容量が突出

ホンダの計画がかなり明らかになったところで、各国の自動車OEMの状況をちょっとだけ俯瞰してみたいと思います。実はホンダの発表に先駆けてGMとステランティスでも新たな発表がありました。またフォルクスワーゲンはすでに発表していた内容の一環で、5月8日にスペインでバッテリー工場を立ち上げることを明らかにしました。

各社のバッテリー関係の状況を中心に見ていきます。いずれも原稿執筆時点の内容です。

GM

・2020年代半ばまでに世界で30車種のEV投入
・2030年までに北米の生産能力の50%をEVに転換  
・26億ドル投資でLGエナジー・ソリューションと合弁会社『UltiumCells』立ち上げ
・北米にアルティウムバッテリーの工場を3カ所で110GWh以上(投資額はテネシー州スプリングヒル23億ドル、オハイオ州ローズタウン23億ドル、ミシガン州ラインシング26億ドル)
・各工場は2022年から順次、稼働開始
・2020年から2025年にEVなどに350億ドル投資

トヨタ

・10年間で3800億円を北米のバッテリー生産に投資
・2030年までにEVとFCEV合計で年間200万台(必要量は200GWh)
・2025年までに15車種のEV
・レクサスは2035年までに100%をEVに
・2030年までにバッテリー供給体制整備と研究開発に1.5兆円

フォード

・テネシー州(2025年操業開始)とケンタッキー州(2026年操業開始)に3つのバッテリー工場建設で114億ドル投資
・3工場の容量は年間129GWhでEV100万台分
・バッテリー生産はSKイノベーションとの合弁会社
・2030年までにフォードの40%がEVになると予想

ステランティス

・LGエナジー・ソリューション、サムソンSDIとそれぞれ合弁会社設立
・各合弁会社は2024年から2025年に工場稼働開始。フル生産で各40GWh(合計80GWh)
・2030年までに400GWh確保
・今後10年で75車種のEVを市場投入し年間500万台に。欧州では100%、北米では50%をEV

ダイムラー(メルセデス・ベンツ)

・2022年から2030年にEV関連で400億ユーロ投資
・パートナーと共同で8カ所にバッテリー工場建設し200GWh生産

日産

・パートナーと共同で2026年度までに52GWh、2030年度までに130GWhのバッテリー生産能力確保
・2030年度までに15車種のEV
・今後5年間で電動化に約2兆円投資

フォルクスワーゲン

・2030年までにノースボルトなどと共同で欧州に240GWhの生産能力確保
・2025年までにEV関連で350億ユーロ投資
・2030年までに世界販売の5割をEV、2040年までに新車のほぼ100%をZEVに

BMW

・今後10年で累計1000万台のEVを納入
・MINIは2030年代初頭、ロースロイスは2030年以降に、100%をEVに

ボルボ

・ノースボルトと共同で年間50GWhの生産能力確保(約50万台分)
・2025年前後に50%、2030年までに100%をEVに

課題はあれど時代は進む

年間のバッテリー生産容量の目標で突出しているのは、ステランティスの400GWhです。この発表は2022年3月1日にありました。

ステランティスは元のPSAグループやフィアット、アルファロメオ、クライスラーなどを含むため年間の生産台数は600万台前後。今後10年でこのうち500万台をEV化するということは8割以上にあたります。バッテリー容量は、3月の発表前は年間260GWhを確保する計画でしたが、EVの目標台数を明確にしたためか急増しています。

欧州では100%をEVにする目標なので、フィアット、アルファロメオ、プジョー、シトロエンと言った伝統ある自動車メーカーが、お膝元ではEVメーカーに変貌することになります。もう動き出していますが、計画通りなら本格的に自動車の歴史がひっくり返ります。

次にくるのはフォルクスワーゲンの240GWhや、ダイムラーの200GWhです。ただしダイムラーは目標年限が明確になっていません。またGMは110GWhという容量を発表していますが、これはここ2~3年の間に稼働する容量です。EVの比率を考えるとさらに増えそうです。

こうして見ていくと、ホンダが予想している年間生産能力160GWhというのは、それほど大きな数字ではないことがわかります。1台当たりのバッテリー搭載量も80kWhくらいで、ステランティスと同等です。

一方でフォードは1台当たり100kWhを超えていて、北米で大型SUVに軸足を置いているメーカーはバッテリー確保が大変そうです。おそらくGMも1台当たりの容量は多くなるでしょう。

あとは実際にいつからバッテリー生産が始まるかですが、ホンダが明確でないのに対して、欧米のメーカーはここ2~3年でかなりの数が稼働を始めそうです。ただし、原材料をどう確保するのか、半導体はどうなのか、生産ラインは狙い通りに動くのかなど課題はあり、目標が高いからと言って安心することはできません。

とにもかくにも、ホンダが徐々に計画の詳細を出してきたのは好感が持てます。やっぱりホンダには、どこかで突拍子もないことをやってほしいと思ってしまいます。現実には創業期と違って会社の規模が大きくなり、親分の鶴の一声で動くような状況ではなくなっていると思いますが、それでもと思うのです。

そんなふうに思わせてくれる会社は、なかなかありません。高性能スポーツEVもいいですが、まずは100万円台の商用軽EVを待ちたいと思います。台所事情があったにせよ、なんてったって初めて作った軽トラ『T360』にDOHCエンジンを搭載しちゃった会社なんですから。

1963年に発売されたホンダ『T360』

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. 今回もパナソニックさんの名前がバッテリー調達先社名として上がってこない。需要を取り込めないパナソニックさんがとても悲しい。気持ちも分かるけど、BYDとかCATLさんのように、なんで需要を取り込めないのだろうか?

    1. それをいうとTOSHIBA(東芝)の名前も電池調達リストに入ってませんよね?
      ホンダは電動バイクやフィットEVなどで東芝SCiBの性能を享受しているはずですが…おそらく性能の割に電池容量が小さく製造コストも問題になっていると思われますが。
      考えてみれば原発事業失敗やクレーマー事件などで散々な大ダメージを被っており簡単に電池事業へ大量投資できないはず、それにBtoB(企業間取引)インフラ物件(鉄道車両/バス/AGV等)向け出荷が多いことからも一般的な自動車への採用は優先度が低いかもです。しかも次世代SCiB生産開始は2023年、ホンダの軽EV登場が2024年、しかも軽自動車に必要な航続距離の確保もまだめどが立っていないかもしれませんね。
      かくいう自分は三菱i-MiEV(M)使いでストイックなテクニックを駆使してSCiB搭載車を動かしてますが…いくら劣化しにくいとはいえ航続距離の短さには泣かされますよ(T_T)

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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