中国メーカーが初めての日本進出
2021年12月19日、なんば駅(大阪市)にほど近い場所に、中国の自動車メーカーによる初めてのショールームとして『紅旗エクスペリエンスセンター』がオープンしました。
『紅旗(ホンチー/Hongqi)』は長年、政府幹部など要人専用の公用車として愛されてきた高級車ブランドです。中国第一汽車は1953年に設立された中国で最も歴史ある自動車メーカーであり、紅旗ブランドは、中華人民共和国建国のリーダーであった毛沢東氏によって1958年に設立されました。今も使われている紅旗のロゴは、毛沢東氏の直筆をもとにしています。
中国の大手自動車メーカーが日本初進出。そして2022年には電気自動車モデルの導入も予定していることなどが、日本国内でも大きく報じられています。はたして、日本でも紅旗のクルマがたくさん走り回る時代になるのでしょうか。キーパーソンにお話しを伺ってきました。
日本で活躍する中国人VIPのために販売を開始
私が紅旗エクスペリエンスセンターを訪ねたのは12月24日、クリスマスイブの午後。オフィスには19日のオープニングに送られたお祝いの花がまだたくさん飾られていました。札に書かれているのが「恭祝 紅旗(日本)旗艦店 開業大吉」といった言葉であるあたりにも、中国ブランドらしさを感じます。
この「旗艦店」を運営しているのは、兵庫県尼崎市に本社を置く『FUKUSO Inc .』という会社。取締役COOの王力氏こそが、中国車の日本初進出(ショールームオープン)を実現した立役者です。年末のお忙しい中、時間をいただき直接お話しを伺って、「なるほど!」と感じたポイントをご紹介します。
王さんの人脈を活かして事業をスタート
ひとつ目のポイントは、今回開業した旗艦店は「日本で活躍している中国人の会社経営者などに紅旗の自動車を販売するための拠点」であるということです。王さんは1999年、大学への留学で来日。その後、日本人の奥さまと結婚し、自動車関連のビジネスを手がけています。
「どうして最初に大阪だったのかってよく聞かれます。理由はシンプル。私がずっと大阪で暮らしていて、周りの友人知人にも中国人の会社経営者が多いからですよ。顧客の想定は日本に駐在している中国企業や中国人経営者がメインです。紅旗は中国人にとって特別なブランドだから、日本進出を実現できて、これから多くの紅旗を販売していくことにはやりがいを感じています」
旗艦店開業が大きく報じられたこともあり、日本人からの問い合わせも多いそうですが、王さんとしては「輸入している紅旗は、車両のシステムなども中国語と英語、アラビア語のみ。逆の立場で考えると、言葉のわからない日本の方が買っても不便なんですよ。むしろ、日本人に売ったら失礼じゃないかと思っています」とのこと。
来年には東京にも出店という報道があったことについて尋ねると「東京にもお客様がいますから。メンテナンス拠点になってくれる整備工場と契約して、銀座あたりにショールームを開く計画」ということですが、想定している顧客は大阪と同様に中国企業や中国人VIPです。
ちなみに、大阪でのメンテナンス拠点としては、王さんが経営している整備工場で対応するそうです。
電気自動車でバッテリー交換は当たり前
紅旗には大型SUVの『E-HS9』やコンパクトSUVの『E-HS3』、タクシー専用車の『E-QM5』といった電気自動車のモデルがあります。報道によると「来年にはEVモデルも日本投入」ということでした。急速充電のチャデモ対応などはどうするのでしょうか? と尋ねると「そう、本当は電気自動車も今年中に販売したかったんだけど、急速充電の対応に少し時間が掛かっているんですよ」とのこと。現在、本国のメーカー側で日本向けのチャデモ対応を急いでいる段階であるようです。
さらに、紅旗のEVシフトの状況について伺うと、興味深い言葉が返ってきました。
「当然、EVには力を入れてますよ。エンジン車の時代は中国の国内で莫大な開発費を投じてエンジンを作るより、買ってきた方が早かった。でも、2000年頃から中国でも新エネルギー車の開発が始まって、EV開発にも取り組んできた。今はもう、中国のEVは世界トップクラスの技術をもっています。紅旗が来年発表する新型車もほとんどが電気自動車です」
また、第一汽車ではバッテリーの自社生産は行っていませんが「BYDやCATLといった中国メーカーのバッテリーは、やはり中国国内の自動車メーカーに対して優先的に供給されるのか?」と伺うと「中国は北朝鮮じゃないんだから、そんなことは関係ない。自動車メーカーとしていい電気自動車を作るために、中国製のバッテリーがいいから使うだけ。EVやバッテリーに関しては、中国が前を走っているということですよ。トヨタだって中国でEVを作ってるでしょ?」と指摘されました。
仰るとおり、「日本が自動車大国だ」などという概念は、ことにEVにおいては関係なくなっているのが実状です。
「急速充電のことも、スワップ(バッテリー交換)式ならそんなに問題ないんですけどね。中国にはもうバッテリースワップステーションがたくさんあるけど、日本にはまだないからね」とのこと。『中国で進展するEVバッテリー交換方式の『ビッグ3』~NIO, Aulton, Geely』という記事で紹介したように、中国では2025年までにNIOが約3000カ所、Aultonが1万カ所、Geelyが5000カ所のバッテリースワップステーションを作る計画が進められています。
紅旗のメーカーである第一汽車が使うのは、Aultonのステーション。中国国内ではすでにたくさんのタクシーが走っているという『E-QM5』にも、バッテリー交換式のモデルが用意されているそうです。
「クルマはクルマ、バッテリーはバッテリー。エンジン車だってガソリンは別の会社が売ってるでしょ。紅旗の交換式バッテリーはAultonのものを使うというだけのことですよ」
王さんが暮らしているのは日本ですが、中国人的な感覚としてバッテリースワップはもう「当然のこと」であるようです。
V12が大好きな王さん自身のEVシフトはまだ少し先?
最後に、王さんご自身のマイカーはEVですか? と尋ねてみると「私はスマートフォンの電池残量が50%を切っても落ち着かなくなるタイプだから、個人的にはまだもう少し先かな」との答え。
幼い頃からクルマが好きで、学生時代にはドリフトにのめり込み、初めて買った自動車が「定番の180(SX)」。起業してからのマイカーは「男はV12でしょ」と、V12エンジンのクルマを愛して乗り継いできたそうです。
「でも、今の愛車はV8のBMWと、2リッター直4でマイルドハイブリッドの紅旗H9ですよ。最近は運転も穏やかになったし、もう歳かな(王さんは1980年(昭和55年)生まれの41歳)」と破顔一笑。言葉とは裏腹に、とてもエネルギッシュなビジネスパーソンなのでした。
自動車ブランドの海外進出と聞くと、自動車メーカー自らが巨額投資して……といった思い込み。電気自動車は充電が……といった思い込み。王さんによる紅旗の日本進出は、そうした既存の思い込みを超えた事業展開を構想し、着々と実現しつつあるということでしょう。
紅旗の販売台数はさておき、中国の常識が日本を席巻する日は近い? と感じるインタビューになったのでした。王さん、ありがとうございました。
(取材・文/寄本 好則)
このレベルで売れるならば、EVに限らず韓国製自動車が日本国内で売れているはずです。
久々お邪魔致します。今日は偶然にこの記事をお読ませていただきました。
「紅旗」ってブランドは以前中国国家公務員専用のイメージが強かったんですが、今若者世代に小型SUVも研究開発し、商品範囲も拡大してきました。それだけではなく、中国ではタクシーのライバルとしてのUberみたいな白タクもたくさん存在しています。その中に、事業化になる白タク会社も沢山林立され、「紅旗」もこのマーケットシェアを開拓させるため、このような白タク会社とCooperateを結んで、販売台数も拡大するようになりまして、最近イメージChangeしています。なかなか影響力をアップする野心が見えます。