韓国『現代グループ』の電動化加速で深まる「日本がおいてけぼり?」の焦燥感

2020年5月11日、韓国メディアの『聯合ニュース』が、韓国の現代自動車(ヒュンダイモーター)が来年、新たな大型電気自動車を発売予定であることを報じました。欧州やアメリカ、中国ばかりでなく、韓国メーカーも電動化シフトに本気です。

韓国『現代グループ』の電動化加速で深まる「日本がおいてけぼり?」の焦燥感

現代の電気自動車ラインアップがますます充実

韓国最大の通信社である『聯合ニュース』が『Hyundai to launch all-new EV next year』(英文記事にリンク)と題した記事を配信したのは、5月11日のことでした。

記事によると、環境に優しい自動車へのニーズに応えるために、来年(2021年)、新たな大型電気自動車を発売する計画とのこと。生産ラインの変更には労働者の同意が必要であるため、電気自動車の生産を予定している工場の労働組合に計画の説明を行ったという主旨でした。

「新たな大型電気自動車」は、2019年のフランクフルトモーターショーや、上海での博覧会に出展された『45 EV concept』をもとに市販化モデルを開発するという内容です。

「来年、新型電気自動車を発売」というニュースそのものは、今さら驚くほどのニュースではないでしょう。でも、日本市場からは撤退している現代自動車のことを、私たち(日本人)はよく知りません。改めて確認してみると、日本人が気付かないうちに、現代自動車の電動化は着実にラップを刻んでいる印象です。

モータリゼーションの電動化が世界各国の産業にとってのマラソンレースだとすると、日本の自動車メーカー各社が先頭集団から置き去りにされつつあるような焦燥感を覚えます。

※冒頭写真は『45 EV concept』。

グループ2社ですでに4車種のBEVをリリース

現代自動車は韓国最大の自動車メーカーであり、1998年には起亜自動車を傘下におさめ「現代自動車グループ」として世界各国に進出しています。2019年の新車販売台数は724万台で、フォルクスワーゲングループ、トヨタグループ、ルノー・日産・三菱アライアンス、GM(General Motors)に次いで、世界5位の自動車メーカーとなっています。

日本市場には2001年に進出したものの販売実績は振るわず、2010年には乗用車の販売から撤退。今、現代自動車ジャパンのウェブサイトでは、大型バスだけが紹介されている状態です。そんなわけで、日本のユーザーには印象が薄い「現代自動車」と「起亜自動車」ですが、電動化には日本メーカーよりもむしろ積極的に取り組んでいて、グループ2社ですでに4車種のBEV(純電気自動車)のラインアップを揃えています。


現代『KONA Electric』
5人乗りのコンパクトSUV。電池容量39.2kWhと64kWhのバージョンを展開。イギリスでの価格は約3万ポンド(約398万円)〜。


現代『IONIQ electric』
コンパクトな4ドアセダン。電池容量は38.3kWh。イギリスでの価格は約3万ポンド(約398万円)~。
(写真は現代自動車ウェブサイトから引用)


起亜『e-Niro』
64kWhのバッテリーを搭載した軽快な印象のSUV。イギリスでの価格は約3万5000ポンド(約464万円)〜。


起亜『Soul EV』
モデルチェンジを受けて2代目に。Niro の弟分的なSUVながら、バッテリー容量は64kWh。イギリスでのファーストエディションの価格は約3万4000ポンド(約451万円)〜。

価格の情報は、それぞれのイギリス向けウェブサイトでサクッと調べました。補助金を引いた後の価格かと思います。

欧州市場でも健闘中

こうして並べてみると、現状でもなかなかのラインアップです。ことに現代の『KONA Electric』や起亜の『e-Niro』とか、300万円台で手が届く電気SUVだったり、64kWhのバッテリーを搭載して400万円台のSUVというのは、なかり魅力的に感じます。

おりしも、アメリカメディアの『Clean Technica』に、欧州での2020年1〜3月期のEVとプラグインハイブリッド車販売台数をまとめた記事が公開されました。

出典:『Tesla Model 3 Reaches #1 In Europe As Europe Reaches 10% EV Market Share — March 2020』by Jose Pontes on『Clean Technica

BEVだけの順位をみると、日産『リーフ』が8659台で5位とがんばってますが、現代グループのEVも、現代『KONA Electric』が6077台で7位、起亜『e-Niro』が4366台で9位に食い込んでいます。

「まだまだリーフが勝ってるな」という見方もできますが、全体を俯瞰すると、テスラ『モデル3』とルノー『Zoe』以外は入賞のゴールラインを目指す混戦団子状態ともいえます。そもそも、日本メーカーのBEVが相変わらずリーフだけというのは寂しい限り。ホンダeやマツダMX-30は、これからランクインすることができるのでしょうか。

日本語版聯合ニュースの記事を遡ってみると、この投稿のきっかけになった記事は見当たりませんでしたが、今年に入ってからだけでも、『現代自トップ「未来市場でリーダーシップ確保」 5年で9兆円超投資へ』(2020.1.2)、『韓国現代・起亜自 19年のEV輸出2.3倍に急増』(2020.1.03)、『現代自動車の電気自動車コンセプトカー「Prophecy」を公開』(2020.3.3)といった前のめりなニュースが並んでいます。

“Prophecy” Concept

はたして、5年後の販売台数レースはどうなっているのか。トヨタの全固体電池実用化発表はいつになるのか。なんとか、電動化マラソンで日本がおいてけぼりにならないことを願います。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)10件

  1. 先日、舘内さんからご教示受けてのことですが。戦国時代は130年以上、幕末もペリー来航から西南戦争まで四半世紀が必要でした。革命には、時間がかかるんですね。それにしても、EV革命はちょっと時間が掛かりすぎじゃね? と、私は感じてますが。

    1. 寄本さんへ:革命とは「明日を乱すこと」じゃないですか?それこそ35年前の流行曲(渡辺美里[My Revolution])じゃないですが。
      このコロナ禍でインドじゃ排気ガス大気汚染がなくなりヒマラヤが綺麗に見えるとわかり始めたあたりに自動車革命が起きそうな予感がしませんか!?
      それで人々の意識が変われば「この支配からの卒業」を歌いだす人も少なくなくなると思われます。って尾崎豊の名曲じゃないですが、各自の意識が政治思想教育の支配から卒業してしまえば(=既成概念を捨てれば)明日は乱れるというか変わるはずですので。
      ていうか化学専攻の過去の地点で既に「化石燃料を燃料として使うのはもったいない、資源というか原材料として使え」と意識付けられていたから僕は電気自動車乗りになれました…もしそんなこと言われてなければ僕は途方にくれていたかもしれませんね。

    2. 『My Revolution』当時の渡辺美里さんには、知り合いの放送作家が心乱されてました。w

      いや、余談はさておき、革命を進めるには、できるだけ多くの人が「明日を思い描くこと」が不可欠だと思います。キリッ!

  2. タイムリーなの?
    中国ではEVからハイブリッドに移行する流れもあるようだし。

    電力網がない地域には不向きだし。

    まあ航続距離と災害時の利便性でみれば、少しはハイブリッドが優位かもね。

    1. o_o様、コメントありがとうございます!

      >中国ではEVからハイブリッドに移行する流れもあるようだし。

      うーん、そういう流れはないと思います。
      http://www.moj.gov.cn/news/content/2019-09/11/zlk_3231865.html
      これが中国のNEV(新エネルギー車、電気自動車とプラグインハイブリッド車と燃料電池車の総称)の、クレジットシステムの表です。このクレジットシステムについては今後記事にしたいと思っていますが、基本的に一定のクレジット数を稼がないと、メーカーはガソリン車を中国国内で販売できない仕組みになっています。
      例えばNEDC基準(中国の規制は多くがNEDC基準で書かれています)で600kmくらいの車が今はあるのですが、これだとクレジットは
      0.006 x 600 – 0.4 = 3.2
      プラグインハイブリッドは一律1.6ですので、プラグインハイブリッド車の場合、同一のクレジット数を稼ぐためには2倍の台数が必要になります。実際には電気自動車は、同一グレードのガソリン車より安くなりつつあり、逆にどうしても電池の分だけ高くなるプラグインハイブリッド車は少し不利な状況ですね。
      https://www.statista.com/topics/5623/electric-vehicle-market-in-china/
      実際に販売台数ベースで見た場合、中国国内では、BEV=純電気自動車は、PHEV=プラグインハイブリッド車の約3倍売れています。
      なお、充電することのできないハイブリッド車においては、NEVに分類されませんので、ガソリン車と全く同じ扱いとなり、クレジットの獲得はできませんし、どちらかというと中国国内では(クレジットの面では)削減対象となっています。

      >電力網がない地域には不向き

      おっしゃる通りですね。そのような地域は電灯がついてないってことで、恐らく人口も非常に限られると思います。

  3. 韓国の場合、自国市場を光学の関税で守ってますからね
    トランプさんだけやり玉に挙げられますけど、基本的に米国の自動車関税は2.5%程度でしかない。(ただし、価格の高いピックアップトラックだけは25%!)

    韓国の8%、EUの10%に比べればずっと良心的です。
    ヒュンダイとキアは韓国のナンバー1と2で、残りの自動車会社は外資傘下で単独としては規模も小さい、ゆえに、競争力で有意であり利益も上げやすい。

  4. 電気にかんして韓国車はそんなに怖くはない。

    良い車も作ってるけど、テスラと比べてそんなによいの?
    中国車に比べてそんなに安いの?
    と思うから。数字で見ても伸び悩みはあるかな。てかもう既にけっこう高いよね。
    確かに北米やアジアでは韓国車はそれなりのポジにいるのは事実。ベトナムやフィリピンではすでに日本車より多いくらい。

    だけどわざわざターゲットにするのは違うかなとおもう。

    カワサキがとうとうかなりエグい電気のスポーツカーをを作るみたいだけど、そういうほうが面白いとおもう。別に覇権取れなくてええやん、と思うよ。
    中国なんかも政府が補助金出しまくって電気自動車ベンチャーどんどん出てきてるし、安くて良い車ならどこの国のメーカーでも構わないよ。これユーザーならみんな思ってることかと。

  5. BEVの普及は、まだ当分先なので、焦る必要はないと思います。
    また、HV技術があれば、BEV可することは、十分可能です。
    今は、普及しないBEVに力を注ぐ必要はないでしょう。

    1. nobubu様、コメントありがとうございます。

      >BEVの普及は、まだ当分先なので、焦る必要はないと思います。

      おっしゃる通り、時間はかかると思います。しかし、今、ガソリン車の買い控えが始まっていることは事実です。
      現時点でEVシフトを進めておくことが、メーカーとしては急務ではないでしょうか。

      >HV技術があれば、BEV可することは、十分可能です。

      残念ながらこれは全く異なります。HVになくて、BEVにあるものはたくさんあるのです。
      ・高度なBMS。急速充電をサポートする必要がある。
      ・急速充電のためのコンポーネント。400V 600A級の充電ポート、ジャンクションボックス等。ポルシェでは800Vコンポーネント。
      ・急速充電設備、そしてそれを遠隔監視し、予防保守する技術。
      ・高出力(p)・高容量(c)・長寿命(l)かつ急速充電(q)に耐えるバッテリー。HVの場合は(l)だけで良かった(回生時のqは超短時間、連続した急速充電とは異なり発熱も少ない)わけですが、BEVではこの4つのバランスが必要なうえに、コストを下げる必要があります。
      ・バッテリーという自動車史上最大サイズのコンポーネントをシャーシに組み込む(実際には、シャーシの一部として使用する)技術。今までは車台に全部部品を載せる組み立てでしたが、BEVはバッテリーがシャーシの一部を構成するのです。そのためバッテリーパックは他社に容易に生産委託できません。
      ・デュアルモーター以上の技術。THSのような賢いHVシステムではモーターとエンジンの協調制御を行うことができました。しかしBEVでは四輪駆動化が非常に簡単で、そのため四輪駆動が降雪地では大きなアドバンテージになります。この場合、HVではドライブシャフトによって前後の動力を接続しますが、BEVではコンピュータ制御により前後モーターの同期を行います。
      ・開発するモーターに合った詳細なインバーター制御の技術。HVでもインバーターは使いますが、BEVではさらなる電費向上のために、進化するモーターと、インバーターに送り込む波形を研究して工夫する必要があります。例えばテスラモデル3では前後モーターは違うテクノロジーのモーターを使用し、省電費とハイパワーを両立させています。今後、様々な改良型のモーターが出てくるにつれ、そのモーターに合わせたインバーターソフトウェア・ハードウェアの開発が必要となります。

  6. タイムリーな記事だと思う。日本のメーカーは依然としてICEVに未練たっぷりで、BEV商用化へ向けての踏ん切りがついていないようだ。韓国メーカーのBEV開発計画がわかれば知りたいところだ。特に小型車、大衆車クラスはどうなっているんだろうか。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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