なぜ、テスラの蓄電池を選んだのか?
前回の記事を書いたあとも、いくつかのメディアで発表されている情報を読んでみましたが、「EV目線」の情報はあまりありませんでした。当ブログの読者の皆さんも、きっと同じように感じられているハズ…。と言うことは、私たちEVsmartブログで詳しく取材するしかありませんね(笑)。
そこで近鉄に掛け合って、現場の方を取材させていただきました。昔から新しいことに積極的にチャレンジする近鉄さん、快く取材に応じてくださりました。逆に、今回の取り組みに関心を持った我々に、むしろ驚かれている様子でした。以下、知りたい=質問した内容をもとに、箇条書きのようにまとめてみました。写真はいずれも、他では公開されていないものです。
Q. テスラ以外の蓄電池は検討されたでしょうか?
【近鉄】検討しました。今回導入したリチウムイオン電池以外の電池や各製造メーカについても比較検討しました。
経産省の補助事業を利用した「関西バーチャル・パワープラント・プロジェクト」の一環なので、こうした公正な比較検討は必要でしょうね。どんなメーカーが俎上に上がったか、気になるところですね。
Q. なぜテスラに決められましたか?
【近鉄】「設置面積」「納期」「価格」等を比較して選定しました。
それだけ競争力がある蓄電池を、テスラ社はすでに納入できるところまで成長しているのですね。それより、日本のメーカーの現状が心配になりました。納期に関しては、以前もお伝えしたとおり、2日間で設置を終わらせてしまいましたから、ビックリですね。
Q. 広域停電時にカバーできるのは、今のところは奈良線だけでしょうか?
【近鉄】東花園変電所に設置した蓄電池システムで広域停電時の非常走行区間は、大阪難波駅~鶴橋駅間の地下区間と石切駅~生駒駅間の生駒トンネルに限定しています。
今回設置の蓄電池は、やはり「奈良線」の停電時対策を考えているそうです。前回の記事では「鉄橋上で停止した場合」という一般例を著者は書きましたが、近鉄では奈良線の条件から、具体的に地下区間・トンネル区間の2ヶ所を想定してます。
Q. 今後、他線区にも導入する予定はおありですか?
【近鉄】今回導入した蓄電池システムの効果を確認しながら、今後も検討を行います。
と言うことは、京都線や名古屋線、南大阪線などにも導入されるようになるかも知れませんね。名古屋線は長大なので、1ヶ所では足りないように感じます。
Q. 何本の電車を同時に動かせる性能でしょうか?
【近鉄】弊社の車両は様々な種類があり、また1編成の車両数もまちまちのため、1編成を移動させるのに必要な電力も違います。そのため1編成ごと順に確実に最寄り駅まで走行させる計画をしております。
確かにそうですね。「2〜4両編成で、座席数も少ない特急車」と、「10両編成で満員の通勤電車」では重さも全然違うでしょうしね。
Q. 近鉄負担額はおいくらぐらいでしょうか?
【近鉄】今回設置した蓄電池システムは、関電エネルギーソリューション(Kenes)のユーティリティサービスを利用し当社からKenesに対してそのサービス料金を支払う契約を行います。
サービス料金については申し訳ありませんが回答することができません。
近鉄が直接テスラから購入したわけではないのですね。メンテナンスもKenesがケアしてくれるようです。
Q. VPPとしては、自社給電以外にグリッドにも電気を供給されることは想定されていますか?
【近鉄】電力需給逼迫時には、受電電力を抑制するため蓄電池を放電しますが、グリッド側には電気を供給することなく、自社で電力消費する見込みです。
今回の蓄電池は、あくまで「近鉄内で使う」電力を供給するようです。こうした蓄電池が、鉄道会社だけでなく工場や公共施設にも設置されるようになると、必要な場合は「グリッドに供給する」といった形に進化することでしょう。
Q. ピークカットによる電気料金節減は、どれくらいを予想(試算)されているでしょうか?
【近鉄】30分デマンド値でいうと4,000kW程度の削減を見込んでいます。
申し訳ありませんが金額についてはお答えできません。
これが基になって、「30分程度、電車を動かせる電力を供給」と各種メディアは書いているようです。30分間なら4,000kWを出せる容量を考え、総容量7MWhの蓄電池を設置した、ということになりますね。
今回の蓄電池では、真夏のエアコン・フル使用の時期だけでなく、朝夕の通勤時間帯の列車密度の濃い時間帯のピークカット給電も考えられているようです。いずれにせよ、乗客サービスを考えても、地域グリッドへの負担の軽減から見ても、有意義な取り組みだと思います。関西以外の鉄道にも広がって欲しいものです。
※ 4/5現在、上記回答をさらに深めるための追加質問を近鉄にお送りしています。ご回答いただき次第、追記いたします。
※ 4/11追記は以下です。近鉄さんから、さらに回答をいただきました。
Q. テスラ以外の、比較検討にあがったメーカーを教えていただけますか?無理なら、「日本のメーカーや中国のメーカーが入っていた」などの情報は教えていただけませんでしょうか?
【近鉄】具体的なメーカー名は控えさせていただきますが、国内メーカー数社も検討対象にしてきました。
と言うことは、日本メーカーを押しのけて受注するほどの魅力的かつコスパの優れたシステムを、テスラはすでに実現しているということですね。日本のメーカーにも頑張ってもらいたいものです。
Q. 蓄電池のメンテナンスは、Kenesさんがケアしてくれるのでしょうか?それともテスラが直接でしょうか?もしや近鉄さんがなさるとか?
【近鉄】今回導入したシステム全体のメンテナンスは、ユーティリティサービスとしてkenesと契約しております。蓄電池そのもののメンテナンスについてはテスラがサポートします。
システム全体はkenesによるメンテナンスで、蓄電池自体はテスラが直接ケアするという「二段構え」の形ですね。こうしたビジネスモデルなら、他の鉄道会社でも導入は容易なように感じます。
Q. ピークカットの給電(蓄電池から奈良線架空電気線への給電)ですが、車輌・施設の真夏のエアコン・フル使用時だけでなく、朝夕の通勤時間帯も想定されていますか?
【近鉄】ピークカットは、使用電力が多い、夏場と冬場の朝と夕方のラッシュ時間帯に行う予定です。
ラッシュ時間帯は確かに電力使用が多そうですね。それに冷暖房が加わる夏と冬が一番電気を使うのも納得です。
現代のほとんどの電車は、電気自動車と同じように「回生制動」を備えています。減速する時は架線(線路の上に張られた電線)に電気を戻すので、昔の電車のように抵抗で熱に変えて捨てていた時よりは電力需要は減ってはいますが、それでも密度の高い運行をするときには電気はたくさん使うのですね。
さて、考えてみると「とんでもないこと」が始まった、という想いを禁じ得ません。家庭でも企業でも、電力の契約は「最も使うときの電力量」を考えて電力会社と契約しますよね。私の家では昼間は太陽光パネルが発電してくれますが、エアコン・フル使用時の真夏の夜に、同時にBEVの充電も行う可能性があるので、60Aの契約をしています。ところが蓄電池を入れてピークカットができるようになると、30A契約でもいけてしまうかも知れません。基本料金の違いは大きいですよね。これが企業だと大きな違いが出て来るでしょう。
近鉄は大阪から奈良県の吉野に至る路線も持っていますが、その沿線に「近鉄花吉野ソーラー発電所」を保有しています。いわゆるメガソーラーで、複数の発電所がすでに作られています。こうした再生可能エネルギーと蓄電池が接続されれば、さらに面白いことが始まることでしょう。EVsmartブログでは、近鉄の今後の動きにも注目してゆきます。
(箱守知己)
こんにちは
いつも素敵かつ重要なお知らせをありがとうございます
また勝手ながら引用させて頂きました。
新しい可能性や術として
気が付く方や企業が増えると良いですね
いずれは空港にも電動中距離プレーン、港にも電動船舶がこれから徐々に増えるでしょうから
空港や港湾の景観も変わりそうですね。
hideshy様、コメントありがとうございます。「素敵かつ重要」とのお褒めのことば、とても嬉しいです。
鉄道会社は「送電網」を持っているとも言えるので、これと地域のさまざまな再生可能エネルギー発電所、企業や個人の蓄電池やEVがグリッドでつながると、これまでとは全く違った世界が実現するでしょうね。近鉄の吉野での今後の動きにも目が離せません。
空港や港の形も、確かに変わるでしょうね。長生きして、ぜひ見てみたいものです。