テスラがモデル3を夏に発売したのに続き、秋口に日産がフルモデルチェンジした新型リーフを投入しました。発売時期に関しては、テスラモデル3は社内から納車は始まっているものの、一般予約は12~18か月の納期でアメリカでのデリバリーを2018年半ばと謳っています。一方で日産の新型リーフは10月2日より日本国内で販売に踏み切りました。テスラは既存のモデルSに対してモデル3を、「より小さくシンプルでアフォーダブルな電気自動車」と位置づけつつも、最新のテスラでありクラス最高の安全性をもつクルマとなるようデザインしたといいます。ほぼ同時期に販売面・普及という視点でも電気自動車をけん引してきた2メーカーがデモクラタイズ志向、つまり既存モデルからさらに幅広い層に向けたEVを提案してきた事実は興味深いところです。
そこで、これまで公にされた情報から、双方を比較してみましょう。テスラモデル3の外寸は全長4694×全幅1933×全高1443 mm、ホイールベースは2876mm。対してリーフS(2WDのベーシック・グレード)は全長4480×全幅1790×全高1540mmで、ホイールベースは2700㎜。前者のテスラモデル3は、アメリカでいうミッドサイズ・カー、やや幅広とはいえ欧州Dセグメントに相当します。同じクラスの内燃機関を積む競合モデルとして挙げられるのは、レクサスISやBMW3シリーズ、アウディA4やインフィニティQ50 、最近ではアルファロメオのジュリアといったところです。
対して後者の日産リーフは長さでは20cm強、幅は13cm強も短く、ひと回り下のコンパクト・クラス相当であることがうかがえます。ゴルフ7やプジョー308といった欧州車のコンパクト・ハッチバックよりやや長いながら、それらのステーション・ワゴンよりは短いというサイズ感です。
ただし気になるのは、テスラモデル3の車高が、クラス的には格下となる新型リーフより10cm強も低いことでしょう。これはいかにテスラモデル3が、前面投影面積と空力抵抗を削るのにいかに腐心したか、端的に示す数値です。電気自動車は低速走行でも高速走行でも加減速が少なければ効率はあまり変化しないのですが、速度が上がるにつれ空気抵抗は増大し、電費(=燃費)に影響します。
一方で、テスラモデル3の車両重量はバッテリーの小さいスタンダードモデルなら1611kg、より大容量のロングレンジモデルでも1724kgに収まっています。これは相当に軽量に仕上がっているといえます。というのも、アウディA4やBMW3シリーズの 2.0Lエンジン搭載でクワトロやX-driveといったAWDモデルなら、同等の1610kg前後だからです。一方で40kWhのリチウムイオンバッテリーを積む新型リーフSは、1490㎏とさらに軽量ですが、車格がひとクラス違って、バッテリー容量も単純にテスラモデル3はリーフの1.5倍以上あることを思えば、120㎏の差は意外と小さいともいえます。
気になる航続距離ですが、テスラモデル3のバッテリー容量についてイーロン・マスクは、スタンダード版は50kWhを少々越えるぐらいで220マイルが可能、ロングレンジ版は75kWhで310マイルと発言しています。つまり354~498㎞。モデルSのスタンダード版が「350㎞・3万5000ドル EV」といわれるゆえんです。
対して新型リーフはJC08モードで400㎞。2018年モデルの新型リーフはまだ、より実燃費(電費)に近いといわれる米国環境保護庁(EPA)による公式データは発表されていません。ですが米国日産がEPA基準の推測値として、新型リーフの航続距離は241㎞と発表しています。なぜ米国日産がそんなことをするかというと、アメリカでカタログ値と実燃費の乖離は、消費者から訴訟の要因となりうるので、EPAの計測に先んじて手を打ったといえます。
ちなみにリーフSのリチウムイオンバッテリーの総電力量は40kWh、JC08モードでの交流電力量消費率は1㎞あたり120Whとなります。前者の数値はいわゆるバッテリー容量ですが、後者はアメリカでEPAが市販モデル毎に記載する、AC電源からフル充電した際の総消費電力量の目安を意識したスペックといえるでしょう。ただしEPAモードはより現実の使用条件に近づくよう、AC電源から充電したときの総電力量、つまりバッテリーに供給される電力と実際にバッテリーに貯まる電力量の間には約1割のロスがあることを前提とします。
テスラモデル3の数値も同様に、まだEPAからは発表されていません。発表済みの範囲ではテスラモデルSが100マイルあたり32~35kWh、モデルX、モデルXが36~39kWhで、テスラの既存モデルが1㎞走行あたりに必要な電力量は200~243.75Wh/kmだったといえます。これらを元にテスラモデル3の交流電力量消費率を予想すると、おそらく50kWh強のスタンダードモデルのバッテリー容量と航続距離354㎞というスペックからして、140Wh/km前後に落ち着くでしょう。AC充電による1割のロス、供給される充電電力とバッテリーに貯まる電力量の差は、車内のダッシュボード上で電力量消費率がメーカー公式のスペック数値よりー10%の値となって表示されるカタチで、ドライバーに示されます。
急速充電に関しては、新型リーフは急速充電ポートとしてチャデモを備え、約40分でバッテリーの80%が充電可能。「ZEPS2」という税別2000円/月で日産ディーラー、高速道路やコンビニ、商業施設での急速充電が使い放題となるプランがあります。使い放題の急速充電スポットの設置数は現在、全国に5500基。また都度ごと課金プランもあって、そちらでは月1000円の基本料金に加えて、急速充電で15円/分、普通充電で1.5円/分がかかります。普通充電については標準装備は3kW、満充電まで16時間ですが、メーカーオプションで車載用6kW普通充電器も選べます。これによって外出先でも約8時間の満充電が可能です。
テスラモデル3については、これまでのモデルS/X のようにテスラ専用急速充電ステーションであるスーパーチャージャーを無料で使い放題とはいきません。スーパーチャージャーの充電ポートは120kW対応で、日本では車種にもよりますが、バッテリー残量が0~80%で61kW以上の出力で充電中は32円/分、60kW以下の間は16円/分というプランが用意されるようです。チャデモも備え、50kW対応で日本国内の標準的な急速充電施設にも乗り入れられますが、15円/分の有償充電であれば、やはりスーパーチャージャーに繋いだ方が、その高規格ぶりによって高効率となります。
最後に価格ですが、テスラモデル3のスタンダードモデルがアメリカで3万5000ドル(約392万円)、日産新型リーフS(2WDモデル)が国内で税込み351万3240円です。テスラは輸入コストを考えると、もう少し上ブレの余地がありますが、互いに日米で普及を担うモデルながら、ミドル・アッパー寄りのセダンとミドル・エントリーという、それぞれ明確なポジションの違いが分かります。
価格以外にも、日産はバッテリー容量について8年16万㎞の保証をつけています。これはバッテリーセルの高密度化や最適化といったハード面だけでなく、航続距離の拡大が充電頻度の減少に繋がり、ひいてはバッテリーが高寿命化するという、ソフト面での改善スパイラルをも織り込んでいます。かくしてテスラモデル3がどうアフターサービスを磨いてくるか、そちらも新たな焦点となるでしょう。 (文 南陽一浩)
スペック | 日産新型リーフ | テスラモデル3 |
---|---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 4480×1790×1540 | 4694×1849×1443 |
ホイールベース(mm) | 2700 | 2876 |
車両重量(kg) | 1490~1520㎏ | 1611㎏(スタンダードモデル) |
駆動方式 | フロントモーター前輪駆動 | リアモーター後輪駆動 |
バッテリー形式・容量 | リチウムイオン・40kWh | リチウムイオン・詳細未発表、50kWh |
航続距離 | 241km(EPAモード) | 354㎞(EPAモード) |
充電時間(普通充電) | 16時間(3kW)/8時間(6kW) | 推測18-19時間(3kW)/推測8-9時間(6.4kW) |
充電時間(急速充電) | 80%まで40分 48kW平均 | 60%まで30分 60kW平均 |
最高出力 | 110kW(150ps) | 詳細未発表 |
最大トルク | 320Nm | 詳細未発表 |
車両価格 | 315万360円(Sグレード) | 3万5000米ドル(約392万円、スタンダードモデル) |
リーフの最大の弱点は電池の性能劣化が顕著であるというところではないでしょうか?
現実400万クラスの新車が3年の車検到来前でも半値つかないという事実は見過ごせないです。
電池の冷却機構が空冷なので劣化さけられないのでしょうが、、、、
リーフを3年ごと乗り換えるかテスラを何十年のるか(実際アメリカでは100万キロ走れてるそうな)
私はいいもの買って長く所有したい派です
リーフは充電、高速道路を連続するとバッテリー温度が上がってまともに充電できませんが、テスラはそのあたりかなり対策されてるのでしょうか?
masaLeaf様、ご質問ありがとうございます。
テスラに関しては実際に走行したデータがありますのでよろしければご覧ください。
https://blog.evsmart.net/tesla-model-x/roadtrip-tokyo-fukui-2/
東京から岐阜羽島まで375kmを途中止まらず一気に走行し、バッテリーの残3%で到着。ここでバッテリー温度は48.0℃でした。
111kWで充電開始。1時間3分休憩兼充電してバッテリーは88%に。ここでバッテリー温度は38.1℃でした。
現在の車の診断画面を出せないのでちょっと正確ではないかも知れませんが、過去のデータをネットで見る限り、通常のモードではバッテリー温度30℃で受動的水冷が開始されます。受動的水冷は、車の前方にあるダクトが自動的に開き、走行中の風を取り入れてクーラントをラジエーターで冷やし、そのクーラントをバッテリーに送って冷やします。温度が上がって50℃を超えると能動的水冷に切り替わり、エアコンのコンプレッサーによってクーラントが強制的に冷却され、バッテリー温度を下げていきます。スーパーチャージャーでの充電中は能動的水冷が強制的に作動し、エアコンはフルパワーで動作します。これ、ものすごい音がします(笑) 正確なところは分かりませんが、充電中は受動的水冷の目標温度と能動的水冷の目標温度が低めに変更されているのではないかと思います。
この時の外気温の平均値(375km)は32℃でした。
どちらもグレードやオプションによって違ってきますので予算別の比較(400万ならこう、500万ならこうなるとか)があると解りやすいかなと思います。
特にリーフもテスラも運転支援の部分で手厚いイメージがある様ですが、グレードが低かったりノンオプションではそれほどでもありませんからね。
また運転支援のシステムに関してもどのメーカーの物も同じと考えている人が多いので、今後そう言った比較もあると良いなと思います(EVの本質とは異なるのかもしれませんが)
リーフのプロパイロットとテスラのEAPを同列に考えるのも違うのかなと思います。
3_XXX様、コメントありがとうございます。なるほど、予算別ですね。モデル3の国内価格が発表されたら、記事をアップデートしてみたいと思います。
また日産プロパイロット、テスラEAPはぜひ比較してみたいと思っています。モデル3はまだ手に入らないので現行のモデルを使って比較することになると思いますが、それにメルセデスのDrive Pilotも比較できると面白そうですね!
どうやって比較すればいいのだろう。。海外の事例では、きちんと音と画面でステータスを通知しているかどうか(運転支援がオフになっているのにドライバーがオンだと勘違いしていると危ない)、一定のコースを走行したときのディスエンゲージメント(強制的に手動運転に切り替わる)回数、運転支援中のテイクオーバー(ソフトウェアは大丈夫と思っているがドライバーが危険と判断して手動運転に切り替える)回数、そして「ハンドルを握れ」回数でしょうか。あとそれ以外に非常に危険だと思うような行動は列挙したほうが良さそうですね。
こんばんは。
しばらく新型リーフの記事が出なかったので諸般の事情でもあるのかも、と思っていました(テスラの記事は結構早かったような気がしてまして・・)。
魅力的な車種が出ることで充電車両の認知が広まり、市場が活性化することは非常に喜ばしいことだと思います。
テスラのように専用の急速充電器(スーパーチャージャー)を設置できればいいのですが、
今後出るであろう他の海外メーカー製充電車両の充電規格がどうなるかも気になるところです。
航続距離については多いほうが良しとする一方で、比較的短距離を走行するシティーコミューター的な電気自動車についても焦点を当てて欲しいとも思います。
ちなみに比較対象とするにはできるだけ同条件(安全装備等装着時)のほうがわかりやすいのかもしれません。
cakar1m様、コメントありがとうございます。
>海外メーカー製充電車両の充電規格
日本国内で、ですよね。今のところコンボで行く!と発言した自動車メーカーさんはいらっしゃらないですが、今後は出てくる可能性はないとは言えないと思います。
>シティーコミューター的な電気自動車
結構多くの車種が販売されていますが、これ、なかなか法整備が難しいらしく、他の地域に行けないような車も多いらしいのです。一般的な車の概念というより、自転車の概念に近いものではないでしょうか。
>比較対象とするにはできるだけ同条件(安全装備等装着時)
ご意見ありがとうございます。どこまで入れるか、というのもあり難しいですよね。例えばどんな装備が入っている状態で比較するのが良いと思われますか?
40分で80%だけど街中にある充電器は30分でタイマーが切れる。
30分で何パーセント充電できるかの記述が欲しい。
どこで40分急速充電できるのかな?
スズキ様、ご質問・ご意見ありがとうございます。ざっくりですが計算してみますと、
新型リーフの場合:40kWhのうち実容量は90%と仮定して36kWh(通常は、搭載している電池容量の一部を余裕としてみています)。その80%は28.8kWh。
日産販社に設置されている急速充電器44kWは、充電中は400Vは行かないため、平均的に360V=90%の電圧が出ると考えて、36.6kW。1分間で充電できる電力量は0.66kWh。
28.8kWhを充電するためにかかる時間は:28.8/0.66=43.6で約43分。大体40分というところでしょうか。それとも新型電池は電圧が高いのかも知れません。
この計算で30分間なら、0.66×30/36=55%となりますので、55-60%くらいではないでしょうか?
どこで40分間急速充電できるか、とのことですが、NCS対応しているチャデモ充電器はすべて30分でいったん切れる仕様になっています。そのため、NCS対応充電器の場合にはいわゆるお代わりする必要があります。完了前にいったん充電終了して、再度認証するか、またはいったん完了後、再度認証して再充電します。NCSに対応していない充電器の場合、充電時間に制限が設けられていない場合もありますので、その場所に応じた対応ということになります。
当記事はテスラモデル3についても記載していますので、テスラのスーパーチャージャーについてもお伝えしますね。
モデル3のスーパーチャージャーでの充電速度について、記事中の表にある30分で60%という以上の情報は公開されていません。30分間で、60%=30kWhとなり、先ほどの日産のチャデモ急速充電器の、0.66kWh/分x30分間=19.8kWhの1.5倍くらいの速度で充電できる、ということになります。