メルセデスベンツがコネクテッドカーの商用電気自動車(EV)「eスプリンター」を発売

ドイツのダイムラーは2019年12月18日に、EV商用バンのメルセデスベンツ「eスプリンター(eSprinter)」を発表しました。メルセデスベンツは商用車について、コネクテッドカーとして利用することによる総合サービスの提供を目指していて、eスプリンターもこの戦略の一画を担います。ただし、日本への導入予定はありません。

メルセデスベンツがコネクテッドカーの商用電気自動車(EV)「eスプリンター」を発売

商用車として最大限使うために電池搭載量は抑えめ

メルセデスベンツが商用車ラインナップに加えたEVは、同じくライトバンの「eVito」に続いて2モデル目です。どちらもメルセデスベンツが2017年に発表した、EVを使うことで物流のエコシステムを強化する「eDrive @ VANs」戦略に基づいて開発されています。EV単体ではなく、複数台のEVを走行から充電までトータルで管理することで、EV利用を最適化するサービスを提供することを目指しています。

そのためeスプリンターは、乗用車のように、自由にどこまでも移動できるクルマを目指していません。航続距離は最新のEVに比べると短いですし、充電性能も驚くほど高いわけではありません。あくまでも総合物流サービスの中の効率向上を目指しているというのが、メルセデスベンツの説明です。

まずは、eスプリンターのスペックを見ていきましょう。

【ニュースリリース】
Electrified segment founder: the new Mercedes-Benz eSprinter

eスプリンターは、エンジン車のスプリンターが前輪駆動になったことで、同じく前輪駆動になっています。メルセデスベンツの商用バンといえば後輪駆動が普通でしたが、前輪駆動にすることで荷室の床面の高さを下げることができ、使い勝手は良くなったと、リリースではアピールしています。

モーターの最大出力は85kW、最大トルクは295Nmです。フォルクスワーゲンのID.3が最高出力150kW、最大トルク310Nmなので、非常に性能を抑えていることがわかります。

電池の搭載量は55kWhと41kWhの種類です。ただし、それぞれの実質的な使用可能容量は47kWhと35kWhに制御されています。急速充電時の出力は標準で20kW、オプションで80kWまで対応していて、80kWの場合は30分で10%から80%まで充電可能です。このほか交流7.4kWでの普通充電も可能で、約6時間で満充電にできます。

一充電あたりの航続距離は、それぞれ168kmと115kmと発表されています。この航続距離は乗用EVのような燃費測定モードではなく、今のところ商用車の排ガスを測定するWLTP(692/2008/EC)での数値しかないので、単純な比較はできません。一応、当メディアが参考値としているEPA換算値(WLTP/1.121)を当てはめると、約150kmと約103kmとなります。

都市部での配送用であれば、スペック上の距離を確実に走ることができれば十分でしょう。ただ排ガスは空車で測定するので、最大積載状態でどのくらい走ることができるかがポイントになりそうです。

荷室空間の容量はエンジン車のスプリンターと同じ10.3立方メートルですが、最大積載量は、電池搭載量が多い方が最大車両重量との関係で小さくなっています。電池容量が55kWhの場合は891kgで、35kWhの場合は1045kgになります。

つまり電池は、基本的な構造変更をしないために荷物と同じ考え方で電池が搭載されているのかもしれません。いずれにしろ車重がそれほど重くないミドルサイズのライトバンだと、電池の搭載量が最大積載量に如実に影響することがよくわかります。

パドルシフトで回生量をコントロール

最高速度は、時速80km、時速100km、時速120kmに設定ができます。欧州では、日本のように法定速度を守らないで走ると速度違反で捕獲される確率が非常に高いのと、街中での最高速度は非常に低いので、低めの設定でも十分なのかもしれません。

電池搭載量は多くないのですが、走りに対する柔軟性はけっこう幅広かったりします。回生ブレーキの強弱を、ステアリングに付いたパドルシフトで回生量大から小に向かって「D-」、「D」、「D +​​」、「D +​​+」の4段階にコントロールできるからです。このうち「D ++」は、回生量ゼロの、滑走モードになっています。

滑走モードは、フォルクスワーゲンが燃費向上のために「コースト」と呼んで採用していました。メルセデスベンツでは「グライド」と呼んでいます。中途半端に回生ブレーキが効いてしまって、その後にアクセルを踏まないといけなくなるケースを避けようという狙いです。

個人的には回生量を自分で調整できるのが好きなのと、慣れると、下った後に上ることがわかっている道などでの滑走モードはとても有効なので、回生量の調整はもっと多くのクルマで採用してほしいと思う最たる機能です。まあ、これは好き嫌いがあるかもしれませんが。

コネクテッドカーとして利用することで物流のエネルギー効率を上げる

さて、冒頭で少し触れたようにeスプリンターは、メルセデスベンツが提供する「eDrive @ VANs」の一環に位置付けられています。メルセデスベンツのリリースによれば、運転プロファイルや運転時間、利用するエリアの広さ、充電時間などのパラメーターを総合的に分析し、まずはEVの利用が適しているかどうかを判断します。このときに、必要な充電インフラの数や電源の状況などを含めた初期コストも検討します。

これらの分析を、eVan Ready や eCost Calculator、eCharging Planner などのアプリを利用して行い、EVへの切り替えが適したユーザーなのかどうかを判定する仕組みになっています。むやみやたらにEVを導入するのではなく、EVにした方がコストを削減できるのに二の足を踏むユーザーへの導入を促すことができるわけです。

eスプリンターや eVito の導入後、フリートユーザー(複数台の営業車両を使う法人ユーザー)は2019年3月に始まったメルセデスPROコネクトのサービスを利用することができます。メルセデスPROコネクトは、内燃機関のスプリンターを使うフリートユーザーに提供されているサービスで、リアルタイムでクルマの位置情報や燃料の量、メンテナンス情報などを集約できるものです。

eスプリンターでは内燃機関向けの情報に加えて、スマホを使って乗る前に車室内の空調を調整することで、バッテリーの充電量をコントロールできる機能が加わっています。また複数台のeスプリンターの充電時間を、利用時間に合わせてずらすことで瞬間的な使用電力量を抑える機能もあり、コスト削減につながると、メルセデスベンツは説明しています。

EVになったからといってコストが上がっては元も子もありません。この点について、メルセデスベンツバンの eDrive @ VANsの責任者、Benjamin Kaehler氏は「トータルの運用コストは、ディーゼルエンジンを搭載した同等の車両のレベルでなければいけません。eSprinterとeVitoは、この基本的な要件を満たします。 初期コストは、エネルギーおよびメンテナンスコストの削減、税金などの節約によって相殺されます」と述べています。

さらにメルセデスベンツバンの責任者、Volker Mornhinweg氏は、「メルセデスベンツの電気駆動システムは、より大きな車両セグメント、とくに商用車ユーザーにとって重要なトータルコストに関しても、競争力があります」と主張しています。

【ニュースリリース】
eSprinter: Systematic electrification of commercial fleets: from 2019 the eSprinter will add to the drive portfolio

ところで、念のためメルセデスベンツ日本に確認したところ、eスプリンターは今のところ日本への正規導入予定はないと言うことでした。eスプリンターだけでなく、メルセデスベンツ日本は、商用車のラインナップを日本には入れていないので、今後も入ることはないかもしれません。

いずれにせよ、商用車のEV化は日本では一向に進みませんが、欧米先進国ではこれから急速に進みそうです。アマゾンが自社で手がける物流のために導入した2万台のスプリンターはすべてエンジン車でしたが、その後、EVトラックのベンチャー企業「Rivian」に7億ドルを投資してEVトラックなどの開発を進めています。メルセデスベンツ以外でも、大型トラックのEV化が徐々に進みそうです。

では、日本はどこに行くのでしょうか。日本メーカーの動きもまったくないわけではありませんが、スピードが早いとは言えません。バスではトヨタの燃料電池車が目立っていますが、EVのバスは中国系のメーカーが多く、日本メーカーの取り組みはほとんど耳にしません。2019年の東京モーターショーでも、EVのトラック、バスは皆無でした。

長距離でもトラック物流の比率が極めて多く、都市部でのラストワンマイルはほぼ車に頼った物流システムになっている日本では、物流部門でのエネルギー削減、CO2削減は最優先課題のはずです。しかし、遅々として進んでいないのが現状です。EVにすれば全て問題が解決するわけではありませんが、とくに地方で黒い排気ガスを吐きながら走るディーゼル車がまだあることを思うと、先行きに不安を感じずにはいられません。今後の日本の自動車メーカー、物流会社がモーダルシフトを含めた抜本的な物流改革に取り組むことを願ってやみません。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. ベンツさんの大型ワゴン車スプリンター・ピックアップトラック日本仕様は数年後に掛けて、日本の三菱自動車さんの工場で製造して、一方、ベンツさんの8〜15tクラス大型(スーパージャンボ)トラックアクトロス・大型観光バス・高速バストゥーロに関しては、日本向けが現在☓なので、日本の三菱ふそうさんの工場で製造→8〜15t大型トラック(スーパージャンボトラック) アクトロス(3軸(9〜15t積み・GVW20t・22t・25t・カーゴ(平・ウイング・冷凍・冷蔵等)・ミキサー・ダンプ・重機運搬車)・2軸(8〜9 t積み・GVW14t・15t・16t・カーゴ・ミキサー・ウイング・ダンプ・冷凍・冷蔵・重機運搬車)日本仕様→A.海外向けと同じ顔・B.三菱ふそうさんの大型トラックスーパーグレートのOEM(双子車)・大型観光バス・高速バストゥーロ日本仕様→A.海外向けと同じ顔・B.三菱ふそうさんのエアロエース・エアロクィーンのOEM(双子車)で数年後に掛けて、復活して欲しいと思いました。

  2. 41kWhで80kWだとe-NV200と同じくらいですが積載量がe-NV200の倍近い1トンになってるのは人でなく物を運ぶ前提だからでしょうか?
    それとも新世代の電池で軽くなったとか?
    しかしe-NV200も国内向けにはもう売られていないそうで残念です。

  3. トラックEV化にはまだまだ電池性能とコストが追いついて無いのでしょうがないかと。
    それよりも今はAT化とACC装着が急務のような。
    回生ブレーキは0.3G位まで段階的に選択できるようになって欲しいですね。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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