イケア港北店で『eキャンター』撮影会に参加
2021年11月15日、ダイムラーグループ傘下の三菱ふそうトラック・バス(以下、三菱ふそう)は、2017年に発売した小型電気トラックの『e CANTER』(eキャンター)の累計販売台数が300台に達したことを発表、「サステナブル・モビリティ・フォーラム」を開催してトラック電動化の現状やビジョンを説明しました。フォーラムの前には取材陣に、イケア・ジャパンで使用している実車を披露して撮影会が行われました。
『eキャンター』は欧州で190台以上、日本で70台以上が稼働しているほか、2021年にはオーストラリア、ニュージーランドでも販売が始まり、合計の販売台数が300台に到達したということです。
『eキャンター』は、車両総重量7.5トンの小型トラックです。370V/13.5kWhのバッテリーパックを6個搭載し、総容量は81kWh、1回の充電で約100kmを走ることができるとしています。モーターの最大出力は135kW、最大トルクは390Nmです。最大積載量は、通常のバン架装の場合で3250kgです。車両総重量が7トンを超える内燃機関の『キャンター』は最大積載量が4トン以上あります。『eキャンター』の積載量が少ないのはバッテリーの重量のためと思われます。
EVsmartブログの取材で、これまで乗用車の電気自動車(EV)はたくさん見てきましたが、電気トラックは小さなものしかきちんと見たことがありません。ということで、電気トラックとの本格的な初対面として、フォーラムの前に開催された『eキャンター』の撮影会に参加することにしました。場所は神奈川県横浜市にある、イケア港北店です。
イケア・ジャパンでは現在、『eキャンター』2台のほか、三菱自動車『ミニキャブ・ミーブ』4台の、合計6台のEVを運用しています。『eキャンター』は、2台はイケア・ジャパンが所有。さらにもう1台、佐川急便のグループのSGムービングとイケア・ジャパンの共同所有の『eキャンター』が活躍しているそうです。
おもな用途は、『eキャンター』は店舗間の商品輸送用、『ミニキャブ・ミーブ』はお客への配送用です。イケア・ジャパンは最近、新宿や原宿などの都市部に店舗を展開しています。『eキャンター』は港北店とこれら都市型店舗間で商品の補充などをするために使っているそうです。
2025年までにラストマイルの100%電化を目指すイケア・ジャパン
イケア・ジャパンでは、2025年までにラストマイルに使用している車両を100%電動化することを目指しています。『eキャンター』や『ミニキャブ・ミーブ』はその第一歩になります。
当日、取材陣は三菱ふそうの本社に集まり、そこからバスで港北店に移動しました。港北店では、イケア・ジャパンの広報担当者と、『eキャンター』のドライバーをしている方などが取材に対応してくれました。
ドライバーの方に『eキャンター』の使い心地を聞いてみると、アクセルへの反応が軽くて運転しやすいこと、荷物満載でも坂道を楽に上れること、ディーゼルトラックに比べると加速がスムーズなことなど、高評価でした。また、回生ブレーキが4段階で調整できるのも使いやすいそうです。
ところで、今回のメインではないのですが、港北店には『ミニキャブ・ミーブ』のドライバーの方も姿を見せていました。ちょっと驚いたのですが。ドライバーは女性の方でした。
イケアの商品は総じて重量があります。筆者も本棚など数点のイケアの家具を使っていますが、自力で持ち帰るのはとても大変でした。だから、もしかして2人で運んでいるのかと思いきや、なんとひとりで配送をしているとのこと。パワフルです。
ただ、『ミニキャブ・ミーブ』での配送は全長が160cmまでのものに限るそうで、ベッドなどは含まれないとのことでした。それはそうですね。
航続距離に不安は「ありません!」
閑話休題。ドライバーの方々にEVの航続距離に不安はないかと聞くと、「ありません」と明解な答えが返ってきました。
普段の充電は、港北店に設置されてる普通充電器(出力6kW)で行っているそうです。港北店から新宿店や原宿店までは片道30kmもありません。直行、直帰なら途中で充電しなくても大丈夫そうです。
ただ、『eキャンター』も『ミニキャブ・ミーブ』も、真夏や真冬にエアコンを使っていると、ときどき航続距離が不足することがあると言います。
そういう時は、ルート上で急速充電をするそうです。『ミニキャブ・ミーブ』の女性ドライバーは、「どこに充電器があるのかわかっているので問題ないです」と、世のEV乗りの多くが感じているのと同じ感想を話してくれました。
さて、実車の『eキャンター』を見た感想は、いたって普通のトラックでした。メーター類も内燃機関のトラックとほとんど変わりません。ドライバーにとっては、この方が使いやすいのかもしれません。
ただ、4段階で調整できる回生ブレーキの調整スイッチが、ワイパーと一緒になっているのが目を引きました。ワイパーのオン/オフは上下で、回生ブレーキ調整はレバーを回転させるそうです。よくある間欠ワイパーの速度調整と同じ動きですね。初見ではわかりにくいですが、ドライバーに聞くと「慣れれば問題ない」そうです。
温暖化防止対策が最優先課題という共通認識がある
気になることはもうひとつありました。いつものことですが、車の価格です。現在はまだ、EVの価格が安いとは言えません。企業が導入するのであれば、株主に説明できる理由が必要です。イケア・ジャパンは、ラストワンマイルをすべてEVにすることを目指しています。しかも期限まで、それほど時間はありません。
コストが主要因でなかなかEVの導入が進まない日本から見ると、とても高い目標に見えます。なぜこんなことができるのか、不思議に思いました。
イケア・ジャパンの広報担当者の方に、この疑問をそのまま聞いてみました。すると、「イケアの従業員に聞けば、おそらく全員が、温暖化防止対策を一番に上げると思います」と即答でした。
話は飛びますが、イケア・ジャパンでは2014年、一部の学生を除き、約3700人の従業員を全員、正社員にしたそうです。イケアの考えるサステイナビリティの中に『人』も含まれていることから、長期的に見て得策だと判断したそうです。
正社員化すれば人件費は増えますが、それよりも長期的に見ればメリットが大きいと判断したそうです。
イケア・ジャパンのピーター・リスト社長(当時)は、2015年1月23日付の日経新聞のインタビューの中で「今回の施策は人に対する投資と考えている。新店舗の土地取得費用と同じく戦略投資だ」と述べています。
同じように、EV導入は温暖化防止対策への投資の一環ということなのでしょう。投資だから回収できなければいけませんが、何をもって回収とするかは基準をどこに置くかによります。イケアはその基準に環境対策を含めていることになります。しかもプライオリティを高く設定し、それが従業員にも浸透しているようです。
こんなふうにプライオリティが明確になれば、EVの導入数も増え、車の価格も下がっていくんだろうなあと思いました。日本にも早くそんな波が来てほしい(来てるけど変われないだけかも……)ですね。
2039年に新車のCO2ゼロを目指す三菱ふそう
実車の撮影会に続いては、三菱ふそうの本社に戻ってフォーラムです。登壇者は、三菱ふそうのアレキサンダー・ルージングCTO(Chief Transformation Officer)、三菱ふそうトラック・ヨーロッパ特販部のフランク・ローデさん、欧州を拠点にする国際的な輸送会社のDBシェンカーから陸上輸送部門担当のシリル・ボンジェーンさん、イケア・ジャパンからはCountry Sustainability Managerのマティアス・フレドリクソンさんです。
まずルージングCTOは、カーボンニュートラルに向けた三菱ふそうの方針を説明しました。三菱ふそうを傘下に収めるダイムラー・トラックは、「2039年までにグループ全体ですべてのトラック、バスの新型車をCO2ニュートラルにする」目標を掲げています。
『eキャンター』は目標達成のための手段のひとつで、ダイムラーはeモビリティー市場を先導してきたと自負しています。また、これまでに400万kmを走行したことで、ディーゼルに比べるとメンテナンスコストが最大で30%削減できたことがわかったそうです。
今後、ライフサイクルアセスメントの観点からも注目されるであろう、well-to-wheelでのCO2は、2030年にはディーゼルエンジンに比べて56%削減できると推定しています。
今後は、車両だけでなくバッテリーのリースも検討事項になっているそうです。ただ、いつ頃を目処にするのかといった具体的な説明はありませんでした。
続いて登壇したローデさん(三菱ふそうトラック・ヨーロッパ特販部)は欧州の状況を中心に説明。パリ協定が大前提としてあり、その上でEUは新規登録トラックからのCO2排出量を2030年までに30%削減することを目標にしていること、その中でEVの売上は伸びているがトラックはまだこれからであることなどの報告がありました。
『eキャンター』については、「将来のカーボンニュートラル実現のためのアプローチのひとつ」と考えていて、実際に使いながら経験を集め、次世代トラックの開発に生かしていく考えだと話しました。
DBシェンカーのボンジェーンさんは現在の取組状況を紹介。DBシェンカーは欧州430支店で約45000台のトラックを運行しており、その中で『eキャンター』は41台を導入しラストマイルで使用しているそうです。
そしてこれまでの経験から、「航続距離100kmという仕様が正しいことを証明している」と述べました。今後、電気トラックは都市部を中心に使い、長距離輸送は水素燃料電池を利用した車にしていく考えです。
最後に登壇したイケア・ジャパンのフレドリクソンさんは、イケアは「温室効果ガスの排出について大きな責任がある」と述べました。現在、イケアは世界の温室効果ガスの約0.1%を排出しているのだそうです。この数字には驚きました。
当面の目標は、2025年までに全市場でラストマイルのゼロエミッション化を実現することです。すでに上海、アムステルダムの拠点ではEVが100%になり、中国全体では、ラストマイルの90%をEVでカバーしているそうです。
加えて2030年以降は、イケアは新規の化石燃料やプラスチックは使わず、再生可能資源だけにすることを目指しています。
いつもの話ですが数をどう増やすかは大きな課題
撮影会に続いて、約1時間半のフォーラムと、『eキャンター』尽くしの1日でした。イケアのグローバルでの取り組みや、巨大輸送会社の方針など、多くの情報を得ることができました。
ただ、輸送部門へのEVの導入については、まだまだ道のりは長いなあと実感した日でもありました。
各社の説明に続いて行われた質疑の中で、DBシェンカーのボンジェーンさんは、コストのかかるEVを導入することは企業にとって「投資になっている。正しいビジネスモデルを探している」と述べました。
さらに「EVは世界で40台しか保有していない。我々は3万台を使っているので数がまだ少ない」と現状に対する認識を述べ、「完全に電動化するのなら、もっとビジネスモデルが必要になる。場合によっては顧客にコストを支払ってもらうこともある」という見解を示しました。
数は、確かにまだ少ないとしか言いようがありません。三菱ふそうも300台を販売したとはいえ、2017年から4年間でようやくです。見方によっては、よくこんなに少ない台数の車を作り続けてきたと言うこともできそうです。
それに、コストを誰が払うのかはいつの世でも大きな課題です。温室効果ガスの削減が急務と言われつつも、この認識が社会的に共有できている国は一部の先進国にとどまります。日本もまだまだこれからです。
とは言え、前述したように三菱ふそうが他社に先行して電気トラックを市場に出し、その後も細々とですが『eキャンター』を作り続けてきたことは、小さくない話かなと思っています。継続は力なりです。
トラックに関しては、ダイムラーのトラック部門やボルボ・トラックなどが電動化したモデルを徐々に増やしています。新しいモデルは、都市部で利用するタイプでも航続距離が300kmを超えるようになっています。
用途に合わせた車が出てくれば、導入数が増える可能性はあります。使いたいけどちょうどいい車がない、という話は、しばしば耳にするのです。
というわけで、2017年発売の『eキャンター』にもいつの日か、バッテリーや駆動系を新たにした新型車が登場することを期待したいと思います。その時に、輸送セクターのEV化を後押しするようなビジネス環境、社会認識が少しでも広がっていることを願っています。
(取材・文/木野 龍逸)
電気トラックも電気乗用車i-MiEVに同じく三菱グループが先鞭つけてる感じですかね。しかも航続距離の最大目安が百キロ前後である点も同じ。i-MiEV(M)ユーザーとして親近感を覚えますよw
ただ運輸業は保守的な姿勢のせいかなかなか広まりませんね。信頼性に重きを置きすぎて新しいテクノロジーが浸透していかない土壌というか職場風土が根底にありますから。
もし電気トラックが普及するなら山口県宇部市の宇部興産専用道路に着目すべきです。以前は鉄道経由でセメント輸送してましたが旧国鉄のスト権ストなどで輸送が滞り、安定輸送を目指した会社が美祢市から宇部市までの30kmもの専用私道を敷設したもの…今でこそ専用トレーラーですが今後もし電気トラックが使われれば運用を決めて効率よく充電すれば不便は少なくイニシャルコストも速くペイしそうです。意外にも鉄道オタクが知ってる話(JR西日本美祢線の貨物輸送がなくなった一因ですから)。
モビリティ(移動体)という単語は意外にも消防法の「舟車」定義と同じですね…移動体でないのは大概造営物(電気事業法でいうなら電気工作物)、荒っぽく言うとインフラですから。電気工事士/電気主任技術者/消防設備士などインフラ資格で飯を食っていると専門用語ばかり言いがちですがこれも理解の一助、お許し下さい。
記事からは、イケア・ジャパンさんからEVは高額というニュアンスが出ていることは分かったのですが、「車両購入費+年間のメンテナンス費」の費用で考えると、現在はどう考えられているのか、分からなかった(三菱ふそうさんは、年間のメンテナンス費は安いと言っているのは分かる。)。
個人的には、商用車についてのCASE対応に注目しています。メーカーの数が少ないことから協調もしやすいでしょうし、というか将来への危機感から、既に理解しずらいくらいのレベルにまで入り組んだ各社の提携関係などが進んでいる状況です。
社会的な側面が大きいSはひとまずさておき、Cについては既に順次導入されていますし、Aはドライバーの人材難から急務だとも言われています。高速道路については完全無人運転で、出発地と到達地でのICないしSAでそれぞれ現地のドライバーが乗り降り、くらいの形に早くなるといいのに(個人的な妄想です)。
そして、E。
車体側から考えた場合には、航続距離とコストのバランスからやはりBEVは小型のみ、中・大型はFCVの方が適しているという理解になりますでしょうか。少なくとも現時点では。
ただ別件で以前のこのブログでのFCVのレポートにて、【日本では現在高速道路上での水素ステーションがない】という事実には驚愕させられておりますが・・・
とつい独り言を呟いてしまいましたが、今後も商用車に関しても、電動化にまつわる記事も積極的に取り上げていただけます様期待しております。
もか 様、コメントありがとうございます。
>航続距離とコストのバランスからやはりBEVは小型のみ、中・大型はFCVの方が適しているという理解になりますでしょうか
今のところ、実際に供用されている車両の数でいうと、小型についてはBEVが圧倒的に主流、バスは電気自動車が主流、トラックはどちらもまだまだ、、という状況かと思います。また車両製造側の意見を総合すると、おっしゃるようにFCEVのほうが大型車は向いている、というものが多く感じます。
いずれにしろ、今は、メーカーもお役所も、「見込み」だけ話すケースが多いです。水素が安くなる、どこでも手に入るようになる、電池をたくさん積んでも最大積載量は同じ、充電が速くなる、、どれも絵に描いた餅です。この中・大型車両の戦いは、これからだと思います。2023年にテスラがセミを発売開始するという見込みを出しているので、FCトレーラーがそれまでに大規模に発売されなければ、バスに次いでトラックも電動化が正解、ということになる可能性もあります。またテスラがセミを出さなければ(2017年発表、2020年発売の予定だった→3年遅れている)、FCが大いに盛り返す、ということになります。
ただ別件で以前のこのブログでのFCVのレポートにて、【日本では現在高速道路上での水素ステーションがない】という事実には驚愕させられておりますが・・・
とつい独り言を呟いてしまいましたが、今後も商用車に関しても、電動化にまつわる記事も積極的に取り上げて