自動車メーカー各社のバッテリー確保に国の補助金認定/目標は年間150GWhの生産能力

経済産業省は9月6日までに、本田技研工業、スバル、マツダ、日産自動車、トヨタ自動車の自動車メーカー各社などに対して電気自動車(EV)用バッテリーの生産設備を設置するため、最大約1600億円の助成金を交付することを決定しました。支援対象のバッテリー容量は81.5GWhになります。概要をお伝えします。

自動車メーカー各社のバッテリー確保に国の補助金認定/目標は年間150GWhの生産能力

※冒頭写真はトヨタが開発を進めているBEV用の全固体電池。

蓄電池の確保に交付金を給付

経済産業省は2024年9月6日、電気自動車(EV)用バッテリーや定置用バッテリーなど蓄電池の供給を確実に行うため、新たに、自動車メーカー、バッテリーメーカーなどの12件の計画に補助金を出すことを発表しました。補助対象になった計画は今回の12件を含めて、全部で27件になりました。

27件のうち7件はEV用バッテリーの生産設備整備や研究開発に関するもので、補助金の総額は6071億円です。ほかの20件はバッテリーに必要な素材や生産設備などに関連するものです。

計画によれば、自動車メーカー各社の生産設備は2026年以降、順次稼働する予定です。生産されるバッテリーは、円筒形、角型、詳細不明ですが新構造のもの、全固体などさまざまで、開発中のものも含まれています。

これらの計画によって整備されるバッテリーの生産能力は、一部に定置用を含みますが最大で年間81.5GWhになります。EVのバッテリー容量を1台あたり 50kWhと仮定すると、163万台分のEVを賄える量です。

経産省によれば、計画がすべて実現した場合は既存の生産設備と合わせると、生産能力は年間120GWhに拡大します。なお経産省は2030年までに国内の生産能力を年間150GWh(1台50kWhとして300万台分)まで拡大する目標を掲げています。

2021年12月、トヨタ自動車は「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開催。

スバルとマツダの生産能力が気になる

公表されている各社の計画の中で補助額が大きいのは、ホンダとGSユアサの1587億円と、パナソニックエナジーとスバルに対する1564億円、それにトヨタとパナソニックの合弁事業に関連する1178億円です。

スバルとパナソニックエナジーの計画は、計画している生産能力が16GWhで、ホンダなどの20GWh、トヨタなどの25GWhに比べると小さいにもかかわらず、投資総額は大きくなっているのは不思議です。

補助対象は円筒形リチウムイオンバッテリーで、マツダとパナソニックエナジーの計画と同じです。ただ、マツダの方が生産開始予定が早く、2025年7月以降に順次供給を始める予定としています。

マツダは、現状ではEVを量産と言えるほど生産していないので、何に使うんだろうなと思うのですが、スバルと同じだとしたら、トヨタの資本が入っているメーカー間でバッテリーを共有するなんていうこともあるのかもしれません。

また、バッテリーが円筒形なのでプラグインハイブリッド車(PHEV)用のバッテリーとも考えられます。マツダの計画は年間6.5GWhなので、販売中のPHEV「MX-30 Rotary-EV」が搭載している17.8kWhで考えると約36.5万台分になります。

でも日本自動車販売協会連合会の統計では、マツダのPHEVの今年8月の登録台数は32台です。何か秘密兵器があるのでしょうか。気になります。

気になるのはマツダだけでなく、スバルも同様です。自販連の統計では8月のスバルのEV登録台数は8台です。

一方、計画では2028年以降、16GWhの年間生産能力を確保することになっています。EVやPHEVに戦力を注いで年間に数十万台を売らないと消化できない容量です。かなり先の話ではありますが、これからの計画が気になります。

ホンダはGSユアサとの関係を強化

今の時点で少し先が見えているメーカーを見ていくと、この10月に軽商用EV、来年に軽乗用EVを市場に出すホンダは、2009年に設立したGSユアサとの合弁会社「ブルーエナジー」、2023年に同じくGSユアサと設立した「Honda・GS Yuasa EV Battery R&D」と共同で、2027年10月の量産開始に向けた計画を申請しています。

投資総額は4341億円で、1587億円の補助金が出る予定です。計画が認定されたのは2023年4月なので、他のメーカーに先んじて計画を進めている印象です。

生産能力は20GWhなので、おおざっぱに全部を30kWhの軽EVとすると約66万台分です。ホンダの2023年度(23年4月〜24年3月)の国内販売台数は約61万台なので、かなりな台数です。

十分に輸出にも回せそうですが、ホンダはGSユアサやLGエナジーソリューションとの合弁事業で、米国、カナダで大規模なバッテリー工場を建設中なので、仕向地はアジアということかもしれません。ちなみにGSユアサとの合弁事業では、米国で2025年に40GWhの生産設備を立ち上げる予定です。

トヨタのBEV用バッテリーも気になる

他に大きな補助額はトヨタで、パナソニックとの関連会社であるプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)、プライムアースEVエナジーなどと2つの計画で2034億円の補助金を受ける計画が認定されています

対象はEV用バッテリーと、次世代角型バッテリー、それに全固体電池です。EV用バッテリーは2026年以降に年間25GWhの規模を目指しています。

バッテリー容量にもよりますが、EVなら年間35万(1台あたり70kWh)〜50万台(1台あたり50kWh)というところでしょうか。

トヨタは、「パフォーマンス型」と呼んでいる次世代バッテリーはPPES、全固体電池はトヨタ自動織機などグループ内で開発中と発表しています。

パフォーマンス型は角型で、コストは現行のbZ4X搭載のものと比べて20%減とし、2026年導入を目指しています。他にもバイポーラ構造の次世代バッテリーもEV用に開発中で、今回の補助金はこうした計画に充当すると思われます。

日産はLFPの量産で認定

ところで日産は、トヨタ、ホンダに比べると少し控えめな557億円、5GWhの計画が認定されています。対象は、新構造車載用蓄電池です。

聞き慣れない名称ですが、日産の2024年9月6日の発表によればLFPバッテリーのことで、2028年度に市場投入を目指す軽EVに搭載する計画です。

ところで日産は、LFPバッテリーについては単独で補助金を申請しています。つまり年間5GWhを自前で生産する計画があることになります。

日産はEV用バッテリーをAESCから入れているので、これとは別に自社生産をするということなのでしょうか。自動車メーカー単独でのバッテリー量産だとしたら、困難を極めるように思います。

一方で国産のLFPバッテリーは、とても重要なアイテムではないかと思います。できるだけコストを抑えたい軽自動車には、ちょうどいいのかもしれません。

ただ航続距離はどうしても短くなります。このあたりを克服するほどバッテリーの性能が上がるか、あるいはマイナスを補ってあまりある商品性のある軽EVができるのか、注目して待ちたいと思います。

パナソニックは4680セルを量産開始

車載用円筒形リチウムイオン電池「4680」。

ところで公表されている計画の中で、パナソニックエナジーだけ供給開始時期が出ていません。経産省に問い合わせはしているのですが、回答が得られていません。

パナソニックエナジーは2024年9月9日、円筒形リチウムイオンバッテリーの「4680」の量産準備を完了したと発表しました。マザー工場は和歌山工場で、今後、最終評価を経て量産を開始するとしています。年間生産量は明らかにしていません。

パナソニックエナジーの計画が経産省に認定されたのは2023年5月なので、ひょっとすると4680セルの量産に関する事案なのかもしれません。

4680セルは、従来の2170セルに比べて約5倍の容量を持つため、車両に搭載するセル数を減らすことができ、コスト削減にもなります。すでにテスラ社は、自社生産の4680セルを搭載し始めていますが、パナソニックエナジーの量産が始まれば全体のコストも下がるかもしれません。

同社の只信一生社長は、「4680セルの量産技術の実現は、長年にわたる円筒形リチウムイオン電池製造の技術と経験の蓄積であり、バッテリーならびにEV業界に大きな革新をもたらすと確信している」と述べています。

日本は世界に追いつけるのか

中国のCATLは安価なLFPで4C充電可能な「神行電池」など次世代電池の量産を始めています。(関連記事

経産省の施策は、欧米先進国、韓国、中国のアジア勢に数年から十年近くの遅れをとっている現状を打破することが期待されています。

また今回の補助金は経済安全保障推進法に基づくので、海外企業が関係していると補助対象から外れると思われ、そうするといろいろ遅れてしまった日本が単独でどこまでやれるのかのテストケースになるのかもしれません。

それにしても、世界のEV市場が踊り場にきていると言われることもある時期に、EV用バッテリー確保の補助金がトンと出るタイミングが良いのか悪いのかは、とてもとても気になります。

まあ、個人の感想ですが、EV市場は、売れ筋の小型車が商品化されれば持ち直すと思えます。それに気候変動対策を目的にしている以上、やらない選択肢はありません。

そして、バッテリー製造は一朝一夕にできることではありません。今回の施策が、補助金漬けにならず、バッテリー業界が将来の本格的なEV普及期に備えるためのいい後押しになるといいなあと、残暑厳しい秋空の下に思うのでありました。

最後に、経産省の発表から自動車メーカー関連のバッテリー供給確保計画を一覧にまとめておきます。

経済安全保障推進法に基づき認定されたバッテリー供給確保計画(2024年9月19日時点)

最大助成額(億円)計画の投資総額
(億円)
生産能力
(GWh/年)
供給開始予定認定日内容
本田技研工業株式会社
株式会社GSユアサ
株式会社ブルーエナジー
株式会社Honda・GS Yuasa EV Battery R&D
15874341202027 年4 月(本格量産は 2027 年 10 月開始、以後 2030 年4月にかけて順次供給開始)2023年4月28日認定
2023年12月22日変更認定
車載用及び定置用リチウムイオン電池
パナソニック エナジー株式会社4692不明2023年4月28日車載用円筒形リチウムイオン電池
トヨタ自動車株式会社
プライムプラネットエナジー&
ソリューションズ株式会社
プライムアースEVエナジー株式会社
株式会社豊田自動織機
11783300252026 年 10 月以降、順次供給開始2023年6月16日認定BEV 向け車載用電池、新構造 BEV 向け車載用電池、次世代車載用電池
パナソニックエナジー株式会社
株式会社SUBARU
15644630162028 年 8月以降、順次供給開始2024年9月6日認定車載用円筒形リチウムイオン電池
パナソニックエナジー株式会社
マツダ株式会社
パナソニック エナジー貝塚株式会社
パナソニック エナジー南淡株式会社
2838336.52025 年 7 月以降、順次供給開始2024年9月6日認定車載用円筒形リチウムイオン電池
日産自動車株式会社557153352028 年 7 月以降、順次供給開始2024年9月6日認定新構造車載用蓄電池
トヨタ自動車株式会社
プライムプラネットエナジー&
ソリューションズ株式会社
プライムアースEVエナジー株式会社
856245092026 年 11 月以降、順次供給開始2024年9月6日認定次世代車載用角形電池、全固体電池材料

文/木野 龍逸

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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