9/4に控えたワールドプレミアへの祝砲か
Onboard Lap – Porsche Taycan sets a record at the Nürburgring-Nordschleife
タイムアタックが行われたのは、トヨタイムスのCMなどでもおなじみのニュルブルクリンク北コース。オンボード映像を見ると、Green Hell と呼ばれる理由がわかります。映像には車内の音も収録されていますが、電気自動車だけに静かです。車速表示で確認する限り最高速は259km/h。このレベルのマシンからすると「やや抑えめ?」で、実用を無視してセッティングを攻撃的にすれば、さらにタイムを上げることも可能なのかも知れません。それにしても、カルッセルへ突っ込むところとか、映像を見てるだけで背中がゾクゾクする感じです。
ハンドルを握ったのは、ポルシェのテストドライバーであるラース・ケルン氏。今回のタイムアタックと条件がイコールかどうかはわかりませんが、このコースでの最速記録は同じラース・ケルン氏がポルシェ 911 GT2 RS MRで2018年に記録した6分40秒33(by Wikipedia)です。
ミハエル・クルム氏が日産・GT-R NISMO N Attack Packageで叩き出した記録は7分8秒68、レクサス LFA で飯田章氏の記録が7分14秒64、ホンダ・シビックタイプRがもつFF最速記録が7分43秒80、2017年にはタイカンの前身である「ミッションE」が7分30秒を記録したというニュースもありましたから、7分42秒というタイムそのものは「ポルシェ」としては驚愕に値するほどのレベルではありません。でも、電気自動車、しかも4ドアの市販を前提としたマシンとしては「驚嘆」すべき速さであることは間違いありません。もう1本、YouTubeの公式チャンネルにアップされているイメージ動画では「Fastest 4Door BEV」と誇らしく宣言しています。さらに言うと「最も静かなニュル最速ラップ」でしょう。
もうすぐ、9月4日にはタイカンのワールドプレミアを開催することをポルシェは発表しています。今回の発表は、ワールドプレミアに向けた祝砲であり、タイカン、そして電気自動車がモータースポーツの世界でも十二分にエキサイティングな性能を発揮することを証明したといえるでしょう。
過酷な条件でも高い性能を発揮することを重ねて証明
「タイカンはレーストラックにも適していることを世界で最もチャレンジングなサーキットで証明できた。電気スポーツカーとして、Kesselchen(ケッセルヒェン)ののような高速コーナーでの安定性、そしてAdenauer Forst(アデナウの森)のようなタイトなセクションでの加速性能が印象的だった」(ラース・ケルン氏)
発表の中では、今回のテストの目的がラップタイムにチャレンジする高出力の中での「熱管理(thermal management)」であったという開発エンジニアのコメントを伝えています。
ニュルブルクリンクでのタイムアタックを行う前、8月19日には、南イタリアのナルドにあるサーキット(ポルシェが所有している円形サーキット)で、急速充電を繰り返しながら24時間で3425kmを走破。空港の滑走路を使って0-200km/hを26回繰り返すなど、市販開始に向けてハイレベルな耐久性のテストを行ってきています。
タイカンは、前後の車軸に2つのモーターを置いた全輪駆動。高度なトラクション制御システムで圧倒的なパフォーマンスを路面に伝えてくれる、はず。
さらに、現状の市販BEVがおおむね400V前後のシステム電圧を採用していますが、タイカンは800V。たとえば、同じ150kWで急速充電する場合、システム電圧が400Vでは「150kW÷400V=375A」ですが、800Vでは「150kW÷800V=187.5A」と電流が半分になります。電池の発熱は電流値や抵抗値に影響されるので、急速充電時の熱コントロールにも有利、なはずです。
今回の発表リリースの中でも、タイカンの性能について「バッテリーの冷却および加熱戦略は、最大のパフォーマンスを発揮するように設計」されていることが強調されています。
フォーミュラE しかり、リーフやテスラなどが参戦するレースもしかり。高性能電気自動車の最大の敵って、実は「熱」だったりします。
はたして、タイカンは熱対策にも怠りなく、市販BEVとして今のところ最もエキサイティングな性能を楽しめるクルマに仕上がっているようです。ひとつだけ、発表の中では触れられてなかったですが、今回のタイムアタックでどのくら電池を使ったのか、タイカンはこのコースを何周くらい攻められるのか知りたいところではあります。
ともあれ、自分に飛びついて買える財力がないことが恨めしい、熱いニュースでした。
(寄本好則)