ルノー『5(サンク)』が電気自動車として復活/フランスでの価格は約408万円〜

ルノーは2024年2月26日、ホットハッチで一世を風靡した『5』を電気自動車(EV)の『Renault 5 E-Tech electric(ルノー5E-Techエレクトリック)』として復活させることを発表しました。街乗りにちょうど良さそうなサイズの「サンク」の価格は2万5000ユーロからというのも注目です。

ルノー『5(サンク)』が電気自動車として復活/フランスでの価格は約408万円〜

ルノーの象徴だからできた

オッサンたちがついつい目を止めてしまう一台があるとしたら、1972年に初代モデルが発売された『ルノー5(サンク)』はその中に入るのではないでしょうか。当時から「かわいい」と言われていた、そんな車がEVになって復活です。

ルノーはスイスで開催されたジュネーブ国際モーターショーで、ルノー5のEV版、『Renault 5 E-Tech electric(ルノー サンク Eテック・エレクトリック)』を発表しました。発表にあたってルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は、気合いの入ったコメントを残しました。

「偉大な思い出を残したクルマを復活させるとき、企業はそれに膨大な愛情を注ぐ」

そしてルノーグループにとって、ルノー5Eテックは、「ルノーの復興戦略であり、象徴的なブランドの産業革新と電動化を象徴するもの」なのだそうです。大きく出ました。

さらに、「ヨーロッパの小型車で100%EVというプラットフォームに賭けたのは我々が初めてだ」とし、「象徴的な車だけが私たちをひとつにまとめ、社内を動かすことができた」と、市場に送り出せた理由を説明しています。

2021年のコンセプトカー発表からわずか3年。詳細な発売時期は未発表ですが、この車への期待の大きさ、意気込みは、筆者が考えるよりも大きいのかも知れません。

まだ実車を見たわけでも、ましてや乗ったわけでもないので、わかったようなことは言えませんが、今からワクワクが止まりません。まあ、個人的に『ルノー5』や、その後に出た大衆車の『クリオ(日本名ルーテシア)』というルノーの小型車が好きなので、よけいに楽しみが大きいのは確かです。

伝説復活の価格は2万5000ユーロから

ルノー5Eテックの価格にも期待が膨らみました。フランスでは、2万5000ユーロからを予定しているのです。日本円で約408万円です。

そりゃあ安くはありません。それでも、500万円以上、あるいはバッテリーを大量に搭載した1000万円クラスの車種が当たり前のようになっている欧州メーカーの新型EVの中では、やっぱり魅力的な価格設定に感じます。それに、時折「日本の2倍?」にも感じる欧州の物価なので、現地の感覚では200万円クラスなのかもしれません。なんとなくですが。

そしてルノーは、この後に新型『トゥインゴ』のEV版を、2万ユーロ以下で販売する計画も発表しています。ようやくシティーユースをメインターゲットにした小型EVが欧州から出てきたということです。

本格的なBセグメントEV

ルノー5Eテック・エレクトリックについて、公式HPで発表されているのはおよそ次のような内容です。

●ルノー5Eテック・エレクトリック概要(UK他)
全長 3.92m
ホイールベース 2.54m
車重 1500kg以下
最大出力 70kW/90kW/110kW
最大トルク 225/245Nm
バッテリー容量 最大40/52kWh
一充電航続距離 300〜400km(WLTP)
普通充電受入電力 11kW
急速充電受入電力 最大100kW
V2G、V2L対応

車格は、全長4mを切っています。幅も1800mm以下の1770mmです。さらに車重1500kg以下というのも嬉しいポイントです。やっぱり車は軽い方が楽しいです。

モーター出力は、フランスのリリースでは3種類、英国のリリースでは90kWと110kWの2種類です。バッテリー容量は2種類で、40kWhでは31セル×4モジュール、52kWhでは46セル×4モジュールです。これはセルサイズが異なるためで、40kWhではセルが若干、厚くなっているようです。

重量は52kWhのモジュールが1個55kgなのでトータル220kg、40kWhはトータルで240kgなので1モジュール80kg程度と考えられます。

不思議なのは40kWhの方が、バッテリーの総重量が重くなっていることです。

52kWh容量のセルは現行の『メガーヌEテック・エレクトリック』よりもだいぶ小型軽量化が進んでいるようで、ひょっとすると40kWhと52kWhではセルが大きく違うのかもしれません。

システム電圧は400Vとなっていますが、バッテリー容量によって異なると思われます。

最大出力は、英国リリースによればバッテリー容量とセットになっていて、110kWは52kWhバッテリー、90kWは40kWhバッテリーとペアになります。なおフランスリリースでは70kWのモーターも選択肢にあるようです

急速充電の受入電力もバッテリー容量によって異なります。52kWhでは最大100kW、40kWhでは最大80kWに対応しています。個人的にはこれで十分だと思います。

このほか、V2Xに対応しているのも注目です。日本なら補助金が増額になるし、いろいろ便利に使える場面があるはずです。災害時にも強い味方になります。それ以前に日本に入ってくるのかどうかがわかりませんが、今は期待したいと思います。チャデモ規格への対応には不安がぬぐえませんが。

モーターは永久磁石なしの交流同期型

バッテリー容量は最大52kWhですが、モーター出力は3種類あるようなので、おそらく容量にも選択肢があるのではと思います。以前もお伝えしたように、ルノーのデメオCEOは小型車にEVの活路があると考えているフシがあるからです。

2023年発売の『メガーヌEテック・エレクトリック』が容量60kWh、航続距離280マイル(448km)だったので、ルノー5Eテック・エレクトリックのサイズ感はここからちょっと想像できそうです。

それに52kWhだとそれなりに高くなりそうなので、やっぱり30〜40kWhの選択肢がほしくなります。

モーターは、永久磁石を使わない交流同期モーターです。いわゆるACモーターでしょうか。たいていは、モーターのサイズを小さくしつつ出力を確保するため、また電費に直結する効率を上げるために永久磁石式モーターを使うのですが、レアアースの使用を極力、避けたかったのかもしれません。

この他、ルノーはこの車で新しいアバター「Reno(リノ)」をデビューさせます。「ヘイ、〇〇」のやつですね。リノが誰なのかはわかりません。

充電は、1枚のカードで欧州25カ国6万カ所の公共充電設備を利用できる『Charge Pass』を提供します。そしてルノー5Eテック・エレクトリックは、このカードで急速充電をする場合、コネクター(プラグ)を差し込めば自動で充電が始まるプラグ&チャージのサービスも提供する予定としています。あ、これも欧州のCCS仕様の話です。

欧州で生産を完結し「エレクトリック・バレー」にする

ルノー5Eテック・エレクトリックの特徴は、車そのものもそうですが、同時に生産体制にも大きな変化が見られます。

ルノーはこの車の生産を、欧州内で完結させることを目指しているのです。今どきの車は中国のバッテリーや電子部品がないと大変だと思うのですが、EU域内の調達率を100%に近づけたいようです。

まあ確かに、コロナ禍で中国パーツが入らなくなったことで自動車業界は大混乱したし、今後はレアアースの取り合いもあるだろうし、米中関係を考えるとバッテリーもどこまで安心して使えるのかわからないし、憂いは拡大しています。

モーターを、永久磁石なしのACモーターにしたのもそんな理由があるのかもです。

ということで、ルノー・グループは2025年夏以降、ルノー5Eテック・エレクトリックのバッテリーを含めて、そのほとんどをフランス国内で生産する計画に取り組んでいます。

車体とバッテリーは、ベルギーとの国境近くのドゥエ工場で組み立てをします。バッテリーモジュールは、2025年夏からはドゥエのギガファクトリーで生産される予定です。バッテリー生産はエンビジョンAESCと共同で行います。バッテリーの種類は未発表ですが、これまではNMCを使っていました。

モーター(おそらくeアクスル)はクレオンの工場で生産します。クレオンもベルギー国境近くに位置しています。

ルノーによれば、ルノー5Eテック・エレクトリックの生産は、フランス北部にあるドゥエ、クレオンの2つの拠点を中心に、半径300km以内にあるサプライヤーを使ってコンパクトなエコシステムを構築します。

これを基礎に、フランス北部のこのエリアをEVのバリューチェーンに特化した欧州の「エレクトリック・バレー」にすることを目指します。そうして環境負荷を抑え、雇用確保を狙います。

実現できると、影響は大きく広がりそうです。日本ではこういうの、まだないですねえ。何かやればいいのにと思うのですが、貧乏暇なしというか、貧すれば鈍するというか、新しい取り組みの行く末がいまいち見えてこないのが、なんかこう、モダモダします。

EV版エアバスを創設?

ルノー5Eテック・エレクトリックの開発には、ルノー傘下のEV専門メーカー、アンペアが関わっています。アンペアは、本来であれば今年はじめに株式公開(IPO)をする予定でした。しかしルノーは今年になって、アンペアのIPOを中止しました。

直近のEV販売が伸び悩んでいることや、IPO後に期待通りの伸びをしなかった新興EVメーカーがあったことから、EVに陰りという見方もあります。

一方でルノーは、株式市場の状況から今の時期に公開してもアンペアの利益にならないために中止したが、開発資金は提供し続けて創造的発展を目指すとしています。複数の報道によれば、最近はIPO後の株価が上がらない企業が多いようで。

ともかく、ルノー5Eテックはアンペアを活用して開発されています。欧州内にあるリソースを使ってEVを開発、生産するという目標に沿ったものです。

デメオCEOはルノー5Eテックの発表時、記者団に対して、今後の欧州でのEV開発や生産は、飛行機のエアバスのように各社、各国が協力してあたる可能性があると述べています。中国メーカーによる低価格攻勢に対抗するためです。

実際にEV版エアバスが実現するかどうかはわかりませんが、興味深い発言なのは確かです。ルノーは、次期小型EVのトゥインゴの開発をフォルクスワーゲンと共同で行うことを検討しているという報道もありました。

デメオCEOは、これまでも複数の欧州メーカーが日米の自動車メーカーと協力をしてきたので、エアバスのような共同開発は可能だと述べました。飛行機よりはるかに種類が多い自動車で実現するためのハードルは高そうですが、今後の動きには注目です。

加えてデメオCEOは、ジュネーブ国際モーターショーの場でも、小型車を優遇することを優先すべきという趣旨の発言をしています。フランスは今年2月、EVをリースする際の低所得者向け補助金を中止しました。デメオCEOは、こうした補助金ではなく、バッテリー容量の少ないEVについて、駐車場無料化や付加価値税の引き下げなど、社会政策による優遇策を実施していくほうが普及につながるとしています。

【関連記事】
軽自動車規格が世界のEV普及のお手本になる?〜欧州自工会会長の発言を読み解く(2024年2月17日)

納得感は高いです。日本で言えば、ホンダがEV版『N-ONE』を出すタイミングで、こういう話が盛り上げるといいのですが。

そんなわけで、ルノー5Eテック・エレクトリックの周辺にはまだまだおもしろそうな話題が埋もれていると感じています。日本市場はルノーにとって極めて小さいので後回しになるかもしれませんが、いつか実車が出てきたら、日本でも大きな話題になるのは間違いないでしょう。そんな日が来るのが、今から楽しみです。

文/木野 龍逸

この記事のコメント(新着順)2件

  1. Honda e もせめてこれくらいの航続距離があったらよかったなあ。
    欧州の排ガス・CO2規制対策として販売したんだろうけど。

  2. 「永久磁石を使わない交流同期モーターです。いわゆるACモーターでしょうか。」
    回転子の構造が三相かご誘導電動機(誘導モーター)と異なり又励磁は直流ですので永久磁石を電磁石へ置き換えた物でブラシ式DCモーターの固定子磁石を交流で制御するのでACモーターです。同期モーターですので特性は良いのですがブラシの耐久性や発熱への対処が成されていて高速回転時の逆起電力に依る効率悪化も無ければ良いのですが...

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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