3社アライアンス「EVシフトに本気」のロードマップ発表/日産は『マイクラ』後継の新型コンパクトEVを開発

ルノー・日産・三菱自動車の3社が「Alliance 2030」と銘打つ2030年に向けた共通のプロジェクトと実行計画を発表。電気自動車シフトへの本気を示しました。共通プラットフォームを活用して多彩な新型EVをラインナップすることとともに、日産が『マイクラ(Micra)』の後継として新型コンパクトEVの開発を発表したことなどがポイントです。

3社アライアンス「EVシフトに本気」のロードマップ発表/日産は『マイクラ』後継の新型コンパクトEVを開発

EVシフトへの「本気」が印象的な共同会見

2022年1月27日、ルノー・日産・三菱自動車の3社が、「Alliance 2030」と銘打つ2030年に向けた共通のプロジェクトと実行計画を発表する共同記者会見を行いました。

YouTubeの日産自動車公式チャンネルには記者発表の中継動画がアーカイブされています。

【中継】アライアンス記者発表 2022年1月27日(木) 17:30 – パリ、東京、横浜

質疑応答を含めると約1時間50分と映画並みの長さなので、ポイントを紹介しておきましょう。

会見では各社の経営トップがリレー形式で2030年に向けた方針や具体的な計画を説明しました。電動化を加速するため、アライアンス全体として今後5年間で230億ユーロ(約3兆円)を投資すること。5種類のEV専用共通プラットフォームをベースにした35車種の新型EVを投入。2030年までにグローバルで年間220GWh(1台100kWhとして220万台分)のバッテリー生産能力を確保することを目指し、共通のバッテリー戦略を強化することなど、全体として「電気自動車シフトへの本気」を具体的に示す内容でした。

2021年12月にトヨタが「バッテリーEV戦略に関する説明会」を開催したように、最近は世界の自動車メーカー各社が電動化戦略をアピールする機会が多いですが、ユーザーとして「それで、結局どうなるの?」と感じることも少なくありません。

今回のアライアンス会見では、ルノーのジャンドミニク・スナール会長が3社の強みを活かして電動化を加速していく決意を表明したのに続き、ルノーのルカ・デメオCEOが「CMF-EV」「CMFA-EV」「LCV-EV FAMILY」「KEI-EV」、そして今回発表のポイントとなるコンパクトEV用の「CMFB-EV」という5種類のEV専用共通プラットフォームによる、各社の個性を活かした多彩な車種を展開していく計画を示しました。

会見動画より引用。

具体的な市販車種についての説明は豊富とはいえなかったものの、90%に共通プラットフォームを採用しながら35車種以上の新型EVを開発し、2026年までに年間150万台強の販売を目指す方針です。

日産が欧州で『マイクラ』後継となる新型コンパクトEVを開発

ルカ・デメオCEOは、5種類の共通プラットフォームの中でも、コンパクトセグメント用の CMFB-EV が「ゲームチェンジャーになる」と強調しました。今、欧州メーカーを中心とした新型EVはC〜Dセグメントの高級車が中心ですが、本当の勝負はより多くのユーザーが購入できるコンパクトEVであるという見方を示したということです。

ルカ氏から説明のバトンを受けた日産のアシュワニ・グプタCOOは「世界最高のコンパクトEVプラットフォーム」であるCMFB-EV で、欧州における日産の中核車種である『Micra(マイクラ)』の後継となる新型コンパクトEVを開発することを示しました。質疑応答の中では、このマイクラ後継車種にエンジン車仕様はなく、BEVのみで展開するということも明言しました。

会見でも紹介された新型EVの紹介動画。YouTubeなどには公開されていなかったので、広報用動画をEVsmartブログチャンネルにアップしておきました。

具体的な想定スペックや価格などはほとんど説明されなかったものの、ルカ・デメオCEOの説明によると「一充電航続距離は400km以上」「ルノーZOEと比較して電力消費を10%削減」ということなので、電費を8km/kWhと甘めに見積もって50kWh程度のバッテリーを搭載するものと思われます。

紹介動画の冒頭に登場するのは、同じ CMFB-EV を採用して開発することがすでに発表されているルノー5 EVのプロトタイプです。このプロトタイプ発表時にも、ルカ・デメオCEOが「ZOEよりも33%安価に提供」できる旨の説明をしており、今回の説明とも合致します。ちなみに、イギリスでのZOEの価格は2万7595ポンド(約426万円)〜なので、33%安いとすると約285万円〜。マイクラ後継車種もこのあたりの価格帯での発売を想定していると予想できます。

Renault 5 Prototype

『マイクラ』はもともと日産『マーチ』の欧州車名。日本では未発売のモデルです。今回の新型EVもフランスにあるルノーのエレクトリシティセンターで生産されると発表されており、当面、日本への導入はなさそうです。

2021 NISSAN Micra

アシュワニ・グプタCOOは会見の中で「急速な電動化は大きな課題であると同時に効率的かつ効果的にEVにシフトする好機でもある。エキサイティングで競争力が高くクリーンなEVを提供したい」と強調しました。日産や3社アライアンスにとって、まずは欧州市場が重要であることは理解しますが、「エキサイティングで競争力が高くクリーンなEV」を待ち望んでいるのは日本のユーザーも同じこと。200万円台でバッテリー容量50kWh程度の新型コンパクトEVは、ぜひ日本でも発売してくれることを期待しています。

今回の会見の中では、充電インフラをはじめ、バッテリーマネジメントシステムや、バッテリー残存容量(SOH)証明発行システムの検討をはじめ、V2Xなどの付加価値、バッテリーリユース&リサイクルなど、EVに関わる多様なポイントについて言及されていました。これもまた、ルノー、日産、三菱のアライアンスが、EVシフトに本気で向き合っていることの表れだと感じます。

ルノー5プロトタイプは2024年発売予定と伝えられているように、マイクラ後継EVをはじめ、新型EVが実際に続々と発売されるのは、2〜3年後からということになりそうですが。世界の電気自動車シフトが着実に進展していることを実感する発表会でした。

(文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)6件

  1. 新聞で読みましたが日産の影が薄くなったような・・
    同日に発売されたはずのアリアはどうなっているのかな?

  2. トヨタの全固体電池のような新しい技術革新は3社アライアンスにあるのでしょうか?

    1. 森真様、コメントありがとうございます。

      >>全固体電池ですが、日産も発表しています。
      https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC301AX0Q1A131C2000000/
      ただ当サイトとして、全固体電池は量産効果含めて懐疑的に見ており、世界の専門家も同様に考えています。そのため、全固体電池による差が付くとは考えられないほうが良いと今は考えます。
      こちらの記事もご参考までに。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/all-solid-state-batteries/

  3. Micraがリーフの後継になるんですかね。
    良くも悪くもEVを世に知らしめた名前を捨てるのは勿体ない気もしますが、いつまでも過去の遺産に拘らない姿勢もまた良し。
    他社に押されて影が薄くなってますが、挽回して欲しいです。

    1. マイクラといえばマーチですから、ミラージュと併せて期待しちゃいますね。
      軽EVに対してどの程度の差別化がなされるか、によりますけど。
      リーフの後継はアリアがベースではないかと思います。

    2. マイクラ=マーチは周知の事実、そしてマーチとミラージュは同一クラスのコンパクトカー。
      車幅1.7m未満の日本ガラパゴス向け電気自動車、日本のガラパゴス道路事情に相応しいから出てほしいのは山々ですが…いかんせん日本人は価格に五月蝿いからなかなか売れないかもしれませんよ!?電気軽自動車i-MiEVが売れなかったのが証左ですから。
      今後出たとしても問題は電力スポット単価の上昇。実は太陽光発電固定買取価格制度(FIT)と温室効果ガス抑制問題で石炭火力発電所の停止などが響き、JEPX(卸電力取引市場)の価格は5年前より相当上がっており経営体制が悪化した新電力会社も出てきているんです!何百社とある新電力が統廃合されていくともいわれていますが。
      電気自動車普及云々より将来の電力確保へ真剣に取り組んでほしいですが、かといって原発再稼動も放射能問題があり危険といわざるを得ません。
      ちなみにJEPX電力卸単価が一番高いのはなんと18~22時の夜間!!!日没から就寝までが他の時間帯の倍以上になってます。すでに当家は蓄電池導入で十分回避できる体制ですが。
      ※こんな話は電力会社社員か電気主任技術者しか知らないと思います。

      ここは自宅太陽光発電+蓄電池設置(EV+V2H含む)など、卒FITに悩む戸建家庭にマイクラEVが普及することを祈るしかないですね…電池容量30kWh程度ならイケそうですが(想定:ホンダeと同程度)
      航続距離信奉は捨ててシティコミューターへの理解を深めることが第一。コロナ禍で遠出が憚られる今が普及のチャンスとみてますよ。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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