佐川急便が小型電気自動車をベンチャー企業と共同開発する理由とは

佐川急便が電気自動車ベンチャーのASFと「小型電気自動車の共同開発および実証実験を開始する基本合意」を締結したことを発表しました。国内EVベンチャーであるFOMMの技術協力を得て、宅配利用に特化した軽自動車規格の電気自動車開発を目指します。

佐川急便が小型電気自動車をベンチャー企業と共同開発する理由とは

自動運転も視野に入れて開発をスタート

2020年6月16日、日本の宅配大手である佐川急便株式会社が、ASF株式会社と「小型電気自動車の共同開発および実証実験を開始する基本合意」を締結したことを発表しました。リリースによると「両社によるプロジェクトチームを立ち上げ、試作車を製作するとともに、新たな安全機器の開発、温室効果ガス削減および業務作業や車両における課題を検証する実証実験を行います」ということです。

開発を目指すのは、軽自動車規格のキャブバンタイプの小型電気自動車。「将来的な自動運転も視野に入れた開発」を計画しています。

宅配の仕事に使いやすい軽自動車規格の電気自動車が登場するのは、物流の脱炭素化を進める上でも素晴らしいことです。とはいえ、リリースの情報だけではわからない点があったので、佐川急便広報部にメールで質問してみました。

なぜ、ベンチャーと組んで独自開発するのか?

広報部宛のメールを送信した翌日、回答の電話をいただきました。ありがとうございます。いくつも質問したうちのポイントを、順に紹介していきます。

開発する車両の詳細は未知数

まず、試作や実証実験のスケジュールや、電池容量、1台当たりの価格、想定いている導入台数など、開発車両の詳細については「まだ研究開発の基本合意を締結したところで、詳細は未定」であるとの回答でした。

写真の車両はFOMMが製作したプロトタイプ

リリースで紹介されていた「車両イメージ」写真。

これから開発する車両の詳細が発表段階にないのは当然といえば当然。でも、佐川急便からのリリースには見たところかなり完成度の高い「車両イメージ」の写真が添えられています。いったい、これはどういう車両なのか? それともCG?

回答によると、この写真はもちろん実車で、技術協力でプロジェクトに参加する株式会社FOMMが製作したプロトタイプということでした。

FOMMといえば、川崎市内のEVベンチャー企業。水に浮く電気自動車『FOMM ONE』や『AWD SPORTS Concept』などを2019年の東京モーターショーやCESに出展していたので、EVsmartブログでも注目しているメーカーです。『FOMM ONE』はすでにタイで量産も始まっています。

ただ、佐川急便のリリース写真にあった軽自動車バンタイプの車両は見たことがなかったので、FOMMのウェブサイトを探索してみたのですが、過去のモーターショーなどに出展された車両ではないようです。

FOMM ONE カタログより引用。

この件とは別に、2020年春にもと発表されていたヤマダ電機とパートナーシップを組んだFOMM ONE、もしくは低価格の小型電気自動車発売開始の動向も気になっているので、近いうちに取材をお願いしてみたいと思います。

ASFをパートナーに選んだ理由は?

共同研究を進めるASFは、公式ウェブサイトの会社概要を確認すると、2020年6月に設立されたばかりのベンチャー企業です。事業内容は「電気自動車の企画、開発、製造及び販売。バッテリーリース事業。上記に附帯又は関連する一切の業務」で、いわば電気自動車メーカーですが、リリースに「ファブレスメーカー」とあるように、自社工場はもっていません。

物流大手の佐川急便は、どうしてまだ実績のないスタートアップ企業との共同開発を選択したのでしょうか。回答によると、まず「大手自動車メーカーと組むと宅配以外への汎用性も重視されて佐川急便として求める車両開発が困難であること」がひとつ。そして「ASFであれば、荷室の広さや使い勝手など、宅配に特化した開発の要望に応えてくれること。さらに、自動運転も視野に開発を進めることにしており、ベンチャーならではの迅速な対応に期待している」のがポイントでした。

考えてみれば、昨年3月、同じ国内宅配大手のヤマト運輸が導入したEVトラックも、ドイツDHLグループ傘下のEVベンチャー企業と共同開発した電気自動車でした。この時の記事でも書いたことですが、こうしたニュースに接する度に「日本の自動車メーカーは何してるんだ?」というじれったさを感じます。まあ、ベンチャーが日本企業であるなら、プレーヤーが入れ替わるだけ、とも言えるのですが。

ヤマト運輸が導入したEVトラック(ヤマト運輸ニュースリリースより)

なぜ、ベンチャーと組んで独自開発するのか?

宅配に特化した自社独自開発の電気自動車。研究開発の成功を応援しています。ただ、軽自動車規格ということは、ナンバー取得のためには衝突実験などを行って型式認定を得ることも必要なはず。

土曜の朝っぱらからそのあたりの事情に詳しい友人に電話して確認したところ「年間100台程度であれば組立車としてナンバー取得も可能」ということですが、全国の佐川急便に大きく導入するためには、やはり型式認定は必要でしょう。佐川急便では「現段階では型式認定取得を含めて検討中」とのことでしたが、ハードルは低くはないでしょう。

ヤマダ電機と組んで軽自動車規格の電気自動車発売を計画しているはずのFOMMには、ノウハウや成算があるのでしょうか。そのあたりも、改めて取材してみたいと思います。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)8件

  1. 日本のメーカーとは具体的には三菱自動車なんでしょうが、
    郵便局向けの生産すらやっとの状態では仕方ないでしょうね。
    ダイハツ(トヨタ)、スズキ、ホンダの各社はやる気があるのか無いのかわからないし、
    今からだと4~5年は確実にかかる。
    唯一量産している三菱自動車でもベースになっているミニキャブの基本設計は20年も前。
    もとになったガソリン車は歩行者安全対策の為の設計変更を放棄、何故かMiEVはそのまま生産が許されているというナゾ。
    ベンチャー企業が開発するのは良いとしても、大量生産できますかね?
    どっかの大企業の工場ライン買い取りますか?
    日産自動車なら工場余ってますよ、三菱の水島工場なんて最高ですが。
    なんにしてもテスラモーターズが立ち上がった時の馬鹿にしたような対応はやめてほしいものですね。
    軽自動車運送業者としても応援してます。

    売ってね!

  2. 私は日産リーフに乗る 48歳 自宅は太陽光発電を二台持ちしてリーフに蓄電。水は井戸を掘りポンプを自家発電でバックアップ、冬の暖房と給湯を薪ストーブと薪ボイラーでまかない。蓄電在庫に配慮。最高のオフグリッドライフを過ごしています。いつしかそれをみなさまにセミナーして廻る サバイバルハウス の社長になりました。
    再生可能エネルギーで生きるライフスタイルはとても楽しいです。くぬぎの森 薪ストーブ。

  3. トヨタのPHVのRAV4が「好評につきバッテリーの確保のめどが立たないため」受注停止という発表、ほんとかいなと思うけど、正直EVよりはずっと少ないバッテリー容量で済むのでそれを確保できないのならそれはそれで大問題です。

    月額目標が300台…日本じゃそんなに売れるサイズじゃないとはいえ
    目標が小さいだけ?

    1. ando様、コメントありがとうございます。
      今回の目標からすると日本国内300×12=3600台、米国でZEV州のみ5000台と報じられています。バッテリーは18.1kWhなので、掛け算すると計156MWh程度。ちょっと規模が分かりづらいですが、パナソニックの大阪工場(テスラ向け)が約8GWh=8000MWhですから、その50分の1以下という規模感になります。つまり現時点では、バッテリー工場が立ち上がっていないとみるのが一般的な見方かと思います。恐らく既存のバッテリー工場ではそのくらいしか製造できず、もしこれ以上増産・他のラインアップを増やすなら、これから建物やラインを増設する予定なのではないでしょうか。

  4. あからさまにやる気のない8000万円もするくせに数十キロの航続距離しかない電気バスをしり目にBYDを導入する程度に、日本側でもユーザー側はEVを求めてるのにかたくなに対応しませんよね。

    ごく正直な話、ウェルトゥーがどうとか小難しい話以前に市場に向き合ってない。客に向き合ってない。バッテリーは重いから近距離向けというのも、企業側の発想でしかない。ユーザーは「EVがいい」んですよ。

    スマホはバッテリー持ちが悪いと叩かれても普及した。後から大容量化や急速充電などの技術が発達した。そう、実は逆なんです

    なぜなら空気を汚さない。これはやや観念的な地球温暖化よりも、直接排ガスの嫌な臭いで直感的にわかる。振動や騒音が少ない。これもすぐにわかる。
    コストすらメンテナンスを考えれば抑えられる見込みもある。(これは直感的ではないが、メリットはメリット)

    ただ、日本ベンチャーは資金力がない(VC市場も未成熟、銀行も金を貸さない)
    既存メーカーの圧力と部品メーカーの忖度、といういばらの道が待っていると思います

    日本のメーカーが少なくとも00年代までは半導体メモリや液晶ディスプレイのシェアですでに韓国や台湾に負けていたとはいえある程度の以上の技術力があったのに国内キャリアへの忖度と下請け化したことでスマホ時代にほぼ絶滅した。
    いつまでも家電の王様はテレビという発想もあったのでしょうが。

    そういう、技術のトレンド、時代の風潮の変わり目のたった1つの選択ミスで産業ごと滅んでしまう気がしてなりません。アナログ時代ならまだ1つのミスくらいいつでも取り返せたんですけどね。

    1. ando さま、コメントありがとうございます。

      >>時代の風潮の変わり目のたった1つの選択ミスで産業ごと滅んでしまう

      仰るとおりだと感じます。ことに今回の新型コロナ禍で痛感したのは、社会やライフスタイルは一気に変わるということでもありました。個人的に、日本メーカーからも電動モビリティの魅力的な提案が続々と登場することに期待、しているのですが。。

    1. nario さま、コメントありがとうございます。

      ゼロスポーツの契約解除、破綻は気の毒な出来事でした。改造EVで、既存メーカーからの車体調達計画のはしごを外された、感じでしたね。
      今回の佐川急便とASFの共同開発はオリジナルなので、実際の部品や電池調達能力、みたいなことが試金石になるのでしょうか。

      わりと短期間でうまく開発と納入に成功すれば、自動車業界にとってはかなり刺激的な出来事になるのでは、という気もします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

執筆した記事