神宮の杜ルートにEVバス2台を配備
渋谷区が東急バス株式会社に運行を委託しているコミュニティバス「ハチ公バス(渋谷区公式サイト)」の「神宮の杜(もり)ルート」に、EVモーターズ・ジャパン(関連記事アーカイブ)のEVバス2台が導入されることになり、2月13日にメディア向け導入セレモニーを開催しました。
ハチ公バスは「地域の人々の足や、観光やショッピングなど、様々な用途でご利用いただける公共交通機関」として、1乗車100円のワンコインで利用できます。神宮の杜ルートは、渋谷駅を起点に原宿、表参道、千駄ヶ谷、参宮橋、代々木などを循環する一周およそ15kmの路線で、運行開始は3月1日(水)からを予定しています。
現在、この路線では7台の小型バスが走っているそうですが、今回、そのうちの2台が車両の交換時期を迎え、渋谷区や東急バスとしても脱炭素社会実現に向けた取り組みの一環として、EVバス導入を決めたとのこと。3月1日以降、この路線を利用してEVバスに巡り会う確率は「2/7=約29%」ということになります。車両の点検などで運行しない日がある場合もあるということですが、EVバスの運行時刻などの問い合わせは受け付けていないのでご注意ください。
【路線図】
東急バスの古河卓社長はセレモニーの挨拶で、東急グループが策定した「環境ビジョン2030」への取り組みの一環として、今後はEVバスを本格的に導入していく計画であり、今回のハチ公バスが初めてのケースとして実現したことを説明。脱炭素へのアクションというだけでなく、住宅地などを走るコミュニティバスにとって走行時の騒音が低減するEVバスのメリットへの期待を示しました。
東急バスの担当者によると、今回の導入は2台だけであるものの、2025年頃までに交換時期を迎える車両を順次EVにしていくために、ハチ公バスにおける実際の運用でさまざまなノウハウや知見を蓄積していきたいということでした。
採用されたのはEVM-Jのコミュニティバス
今回、ハチ公バスに採用されたEVバスは、福岡県北九州市を本社とするEVベンチャー企業であるEVモーターズ・ジャパン(以下、EVM-J)のコミュニティバス用車両『F8 series4-Mini Bus』(以下、F8)のダブルドア(前後に2カ所のドアを装備)タイプです。主要諸元を、同程度サイズのevバスであるBYD『J6』のダブルドアタイプと比較してみました。
『F8 series4-Mini Bus』 ダブルドア | BYD『J6』 都市型Ⅱ |
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全長×全幅×全高(mm) | 6990×2105×3100 | 6990×2060×3100 |
車両重量(kg) | 5670 | 6270 |
車両総重量(kg) | 7265 | 7865 |
座席数(乗客用) | 10 | 11(2席は跳ね上げ席) |
乗車定員(座席+立ち) | 28(10+18)+運転席 | 28(11+17)+運転席 |
バッテリー容量(kWh) | 114 | 105.6kWh |
航続距離(km) | 290km(※1) | 約200km(※2) |
最高速度(km/h) | 80 | 70 |
車両価格(税込 ※3) | 約2400万円〜 | 約2150万円〜 |
(※1)定速40km/h、負荷重65%、エアコンオフ | ||
(※2)乗車率65%、エアコン不使用 | ||
(※3)ベース仕様の基本価格 |
車両価格は、以前の取材で確認した両車種ベース仕様の基本価格です。今回、ハチ公バスに採用された車両は「約2600万円」に架装費、また充電設備費用が掛かっているとのことでした。
F8の方がバッテリー容量は10kWh近く多いのに、600kgほども車重が軽いのは、車体の一部に高強度複合材CFRP(Carbon Fiber High-Strength Composite Material)を採用したり、ステンレスのシャシーとともに、アルミハニカム構造の床材を採用するなど徹底した軽量化を追求した成果でしょう。軽量化に加え、ECM-Jが誇る低消費電力システムにより、J6に比べて約8%のバッテリー容量増加で、約45%増の航続距離を実現しています。
神宮の杜ルートでは1日の走行距離がおおむね120km程度ということなので、満充電近くでスタートすれば営業運転終了まで充電の必要はありません。真夏や真冬にエアコンフル稼働した際の実質的な航続距離がカタログスペックの約7割として「約203km」ですから、運行時に消費する1日の電力はバッテリー容量全体の約60%程度で足りる計算になります。
国内の大手バスメーカーはまだ量産EVバスを発売していません。今、日本でEVバス導入を検討する場合、今回のようなコミュニティバスにしろ、もっと大型の路線バスや観光バスにしろ、「EVM-JかBYDか」という、ほぼ二択の状況です。今回、EVM-JのF8を採用した理由は、「優れた電費性能と、日本国内のメーカーであること」(東急バスご担当者)ということでした。次年度も、国土交通省所管でEVバス導入に大きな補助金の予算が組まれる見込みになっています。国内バスメーカーのEVシフト立ち後れはかなり切ない状況といえるでしょう。
充電設備は拠点の営業所に設置
2台のEVバスの拠点は、渋谷駅に最寄りの車庫である淡島営業所(世田谷区三宿)になるとのこと。すでに出力40kW(2口の充電ケーブル対応)の急速充電器設置が完了しているとのこと。2口器なので、4台が同時に充電する場合の最大出力は各20kWとなります。
114kWhのバッテリーに、20kWとか40kWの急速充電器は非力ではないかとも思いましたが、EVバスの充電は毎晩21時頃車庫に戻ってから、翌朝7時頃の出庫までのおよそ10時間を掛けて行うことになるので実用的な問題はありません。また、少し驚いたのは、展示されていたF8の充電口を確認すると、チャデモ規格の急速充電口しか備えていなかったことでした。普通充電のように、まったりと低出力の急速(DC)で充電するのがルーティンになる、ということですね。
さらに「そうなんですね!」だったのが、F8はシステム電圧が高く「550V以上の急速充電器でなければ充電できない」とのこと。EVM-Jではチャデモ2.0規格(最大出力400kW=400A×1000V ※関連記事)に準拠した急速充電器を自社製品として用意しており、淡島営業所に設置されたのも当然EMV-J製の急速充電器です。現在、日本国内に設置されている充電器のほとんどはチャデモ1.2規格(最大出力200kW=400A×500V)以下、定格電圧は高くて450V程度なので、F8は公共の急速充電器では充電できないことになります。
普通充電不可や、100kWh超えのバッテリーに20kWで急速充電とか、乗用車EVの常識では想定外の運用です。でも、ルートや1日の走行距離が決まっているEVバスなら「これでいいじゃん」ということにも納得できます。EVを社会で活用するためのノウハウとして、またひとつ「発見」できた気分なのでした。はたして、実際に運用上の利便などはどうなのか。運行開始してしばらくしたら、改めて取材してみたいと思います。
ディーゼルエンジンの小型バスの価格は「2000万円弱程度」(東急バスご担当者)ということですから、今回のEVバスは600万円ほど高いことになります。軽油代と電気代の比較とか細かいことは割愛しますが、運行のためのエネルギーコストだけでなく、交換部品が少なくて済むEVバスはランニングコストが抑えられる(おそらく年間数百万円規模)のもメリットのひとつ。バスの償却期間は10年ということなので、脱炭素社会実現へのアクションということを含め、トータルではむしろEVのほうがいろいろお得です。
日本を代表する街で電気のバスが走り始めるのをきっかけにして、ハチ公バスの他の路線、そして東急バスの全路線、全国のバス会社で、EVバスの導入が進んでいくことに期待しています。
取材・文/寄本 好則
EVバス
日野自動車=中身トヨタさん(笑)
内燃機関車の車両販売が禁止されてるから!
いっそEVバスを開発販売すれば良いのに?(汗)