ステランティスが急進的電動化を発表/『 EV DAY 2021』解説レポート

プジョーやフィアット、クライスラーなど14のブランドを傘下に持つステランティスは、2021年7月9日に今後の電動化戦略に関する発表を行い、2025年までに300億ユーロを投資することや、全ブランドに電気自動車を投入すること、欧米で260GWhのバッテリーを調達することなどの目標を明らかにしました。

ステランティスが急進的電動化を発表/『 EV DAY 2021』解説レポート

※冒頭写真はカルロス・タバレスCEOのプレゼンテーション(ライブ配信動画からキャプチャ)。

300億ユーロの投資でEVなどを開発

ステランティスは2021年7月9日に、『EV DAY 2021』と銘打ったオンラインイベントを実施し、中期的な電動化の目標を発表しました。全世界に生中継されたイベントは2時間半に及び、車種の投入計画、電気自動車(EV)に特化したプラットフォームの開発計画、バッテリー調達の方法など幅広い計画が明らかにされました。発表された電動化への道筋を見ていきたいと思います。

【プレゼンテーション動画アーカイブ】
●Stellantis: EV DAY 2021 [LIVE]

まず、ステランティスは2025年までに、商用車を含む全14ブランドのすべてにEVやプラグインハイブリッド車(PHEV)を投入します。新たに開発するEVや、EVに関するソフトウエア開発のために、2025年までの5年間に300億ユーロ(約3兆9000億円)を投資します。

また2030年までにステランティスが低排ガス車(LEV)と位置付けているPHEVとEVの販売構成比率を、アメリカでは40%以上、ヨーロッパでは70%にすることを目指します。PHEVとEVとは言うものの、割合としてはほとんどがEVになるだろうとしています。

EVの割合を高めるためにはコストの引き下げが必須条件ですが、ステランティスでは2026年までに、EVを所有するコストを、補助金や税金などの優遇策なしに、内燃機関(ICE)の車と同じ程度にすることを目指します。ここで言うコストには、保守点検費用や減価償却費、保険なども含むそうです。

4種類のプラットフォームで全サイズをカバー

ステランティスはEVのラインナップ拡充のために、プラットフォームを独自開発し、14のブランドで使っていきます。プラットフォームの種類は4種類で、次のように使い分けていくことも発表がありました。

● STLAスモール:航続距離500km バッテリー容量:37kWh~82kWh
● STLAミディアム:航続距離700km バッテリー容量:87kWh~104kWh
● STLAラージ:航続距離800km バッテリー容量:101kWh~118kWh
● STLAフレーム:航続距離800km バッテリー容量:159kWh~200kWh以上

『STLA』は、オンライン発表会では『ステラ』と発音していました。また『STLAフレーム』は、DODGE(ダッジ)の『RAM』のようなフルサイズトラックや商用車などを想定したプラットフォームになります。

『STLAスモール』のバッテリー容量は現行のAセグメントからCセグメントくらいでしょうか。というか、スモールより上のミディアムとラージのバッテリー容量はかなり大きいので、中心はスモールということになるのかもしれません。それにしても『STLAスモール』のバッテリー容量の幅が広いですね。市場にどのような形で出てくるのか、今から楽しみというか興味津々です。

それぞれのプラットフォームは、前輪駆動(FF)、後輪駆動(FR)、全輪駆動(AWD)、4xe(フォー・バイ・イー=電動4輪駆動)のいずれのパワートレインにも対応しています。

パワートレインはモーター、ギアボックス、インバーターで構成する『EDM』(エレクトリック・ドライブ・モジュール)を3タイプ用意します。

● EDM #1 モーター出力:70kW 電圧:400V
● EDM #2 モーター出力:125~180kW 電圧:400V
● EDM #3 モーター出力:150~330kW 電圧:400/800V

ステランティスはリリースで、どのタイプのEDMもコンパクトで柔軟性が高く、拡張も容易だとしています。

それぞれのEDMの電流は、400Vの場合は450~750A、800Vの場合は350~600Aになるようです。コントローラーやソフトウエアは内製化し、コストダウンを狙います。またユーザーが車を長く乗り続けることができるよう、オーバー・ジ・エアー(OTA)によるアップデートにも対応します。

これらのプラットフォームやEDMを使って、ステランティスでは現在、8種類のEVを開発中で、今後3年から5年で市場に投入していくと、オンライン発表会で説明がありました。

充電については、よりパワーアップした急速充電の実現を目指しています。なんと、1分の充電で32kmの走行ができるようにするそうです。10分で320km、20分で640kmですね、単純計算ですが。このくらい早ければ、5分~10分の短時間充電を繰り返して長距離を走るのも苦痛ではなくなるかもしれません。また、バッテリーの容量アップに伴って一カ所の滞留時間が長くなりそうな公共充電設備も、使い方が変わっていくかもしれません。ひとまず、ヨーロッパやアメリカでの話ではありますが……。

公共充電設備のネットワークについては、ステランティスはすでに『Free2Move eSolutions』および『Engie EPS』と覚書を締結していて、ヨーロッパ全土に設備を作っていく予定です。

バッテリーコストは2024年までに大幅削減

オンライン発表会ではバッテリーについての発表もありました。まず要点を列記すると次のようになります。

① ヨーロッパと北米に5つのギガファクトリーを建設するなどして、2030年までに260GWhのバッテリーを確保する。
② バッテリーは高密度、高エネルギータイプと、ニッケル/コバルトフリーの新型バッテリーを2024年までに開発する。
③ 2026年までに全固体電池を搭載した車を導入する。

ステランティスは、バッテリーの調達に関しては垂直統合を基本にするようです。また、電動化によって必要になるバッテリーの量が急増する見通しを立てていて、まず2025年までに130GWhを確保し、2030年までにそれを倍増させる計画です。

2025年までに確保する130GWhのうち、80GWhは合弁会社のACC(Automotive Cells Co.)を通じてヨーロッパに手当てします。残りの50GWhは北米向けです。CATLやBYD、LGなどと協力して調達する予定です。オンライン発表会では、契約の最終段階にあるとしています。

2030年の230GWhは、EVの搭載量を1台あたり100kWhとすると230万台分に相当します。これだけ作ればコストも下がります。

ステランティスではまず、2024年には2020年と比べてバッテリーコストを4割削減し、さらに2030年までに2割削減するという目標を明らかにしています。つまり2020年比では5割以上も安くすることになります。これが実現すれば、100万円で航続距離100~150km、200万円で200~300kmっていう車も実現するかもしれません。ここまで下がれば、前述したようにICEの車と真っ向勝負もできそうです。もっとも、このくらいの勝負ができないと先々の不安が大きいので、是非にもがんばってほしいところです。

コスト削減の要因はいくつかあるようです。例えばセルからパックへのインストール工程の見直しや、独自のセパレーターなどを例示していましたが、このあたりは実際にモノが出てこないとなんとも言えないところです。コバルト/ニッケルを使わないバッテリーは資源問題への対応でもあると説明しています。

2026年に導入としている全固体電池は、正直、よくわかりません。全固体電池への期待感を示すのはステランティスだけではないのですが、現在の開発状況は決して楽観できるものではないので、結果を見るしかありません。目標を達成できれば、EVにとって大きなプラスの要因となるはずです。

このほか、資源問題への対応という部分ではバッテリーのリサイクル、リユースの事業も進めていきます。リサイクルは、フランスのSAFTと協力することで、大幅なコスト削減を狙っています。リユースは、家庭用蓄電池などを想定していて、グリッドと連携していきます。またグリーン調達が課題のリチウムなどについては、外部機関の評価も実施していく予定だそうです。

加えてバッテリーについては、『E リペアセンター』を年末までに、全世界21カ所で稼働させる計画だそうです。この中には日本や韓国も含まれています。

ここまでで、もうお腹いっぱいという感じなのですが、もう少し発表がありました。

14ブランドの戦術や温室効果ガスのクレジット

ステランティスは、FCAとPSAが合併して誕生したため、商用車を含めると傘下に14のブランドを抱えています。ではそれぞれの電動化はどのように進むのでしょうか。

リリースでは次のように紹介されています。

● Abarth – “Heating Up People, But Not the Planet”
● Alfa Romeo – “From 2024, Alfa Becomes Alfa e-Romeo”
● Chrysler – “Clean Technology for a New Generation of Families”
● Citroën – “Citroën Electric: Well-Being for All!”
● Dodge – “Tear Up the Streets… Not the Planet”
● DS Automobiles – “The Art of Travel, Magnified”
● Fiat – “It’s Only Green When It’s Green for All”
● Jeep® – “Zero Emission Freedom”
● Lancia – “The Most Elegant Way to Protect the Planet”
● Maserati – “The Best in Performance Luxury, Electrified”
● Opel/Vauxhall – “Green is the New Cool”
● Peugeot – “Turning Sustainable Mobility into Quality Time”
● Ram – “Built to Serve a Sustainable Planet”
● Commercial Vehicles – “The Global Leader in e-Commercial Vehicles”

キャッチフレーズなので、なんだかよくわかりません。アルファロメオについては、2024年からは『Alfa e-Romeo』になるとしています。まさか名前が変わるわけではないでしょうが(もし名前が変わったら衝撃的です)、ブランド名として『Alfa e-Romeo』を使っていく可能性は大きいですね。

それはともかく、オンライン発表会では一部のブランドについて、今後の計画の説明がありました。

まずオペル(OPEL)です。オペルは1971年に『エレクトロ』というEVを作ったことがあって、京都議定書の頃にもアピールしていました。その後は会社そのものが斜陽になり、GMグループから外れて今に至るですが、EVの老舗という意味があるからなのか、オンライン発表会のブランド紹介ではトップバッターを務めていました。

オペルは現在、EVを含めて9つの電動化モデルがあり、EVの『コルサe』によるワンメイクのラリーも実施しています。今後は2024年までにポートフォリオを電動化に振っていき、2028年には電動化モデルに特化した自動車メーカーになることを目指します。中国では完全な電動メーカー、つまりEVメーカーのことだと思うのですが、そんな進出の仕方を考えているようです。そういえば『コルサe』が日本に入るような話もあった気がしますが、どうなるのでしょうか。

次はダッジ(DODGE)です。『チャージャー』や『チャレンジャー』に代表されるマッスルカーを扱うダッジは「私たちは電気自動車を売りません。アメリカン・マッスルを売ります」というキャッチーな言葉で計画を紹介していました。まあ、そういう気持ちはわかります。電気になってもブイブイ言わせられないと、ダッジの存在意義がないということでしょう。

今やアメリカの人口の4分の1を占めるミレニアル世代に向けて、EVをアピールしていくそうです。ミレニアル世代は、アメリカでもっとも購買力があり、EVに対する許容度が高い世代だと、ダッジは認識しています。この世代に向け、ダッジは2024年に“世界初の”EVのマッスルカーを市場に投入する計画です。426HEMIを超えるEVを出すという気力満々のようです。840馬力だそうです。いっちゃってますね。

次はプジョー(PEUGEOT)でした。すでに『e-208』『e-2008』を出しているプジョーはステランティスが標榜するLEVの先駆者という位置づけになります。プジョーは、ヨーロッパでは70%のモデルが何らかの形で電動化しているそうです。車に限らず、プジョーには電動モペットや電動バイクもあるので、確かに電化率は高そうです。この比率を、2023年までに85%、2025年までに100%にするそうです。

お次はRAM(ラム)です。ラムは2024年までに、EVの『RAM 1500』を市場に投入する計画です。とうとうアメリカンなフルサイズのEVが登場するわけです。大きい車はEVには向かないという声も多かったと思いますが、ラムはこのEVで、フルサイズのセグメントを再構築すると意気込んでいます。ちなみに急速充電は最大出力150kWに対応するようです。

ラムはまた、2025年までに電動車をブランドのマジョリティーにし、2030年以降はすべての車を電動化するそうです。こんなこと、数年前には考えられませんでした。

さらにフィアット、ジープ、商用車が続きます。フィアットもすでに『500Electric』を販売していますが、今後は電動化の流れをさらに拡張させていきます。2022年末には燃料電池車を発売し、2023年から2024年にかけては『攻撃的』にEVを投入するそうです。「驚け!」みたいな感じで、フィアットのCEOは電動化の目標を強調していました。また『500』はEVだけになりそうです。そんな急進的な選択をするフィアットから目が離せません。

ジープは2025年までにゼロエミッションを達成するとしています。つまりEVを発売します。もともとオフロードの車はEVと相性が良いので、ジープのEV化は自然な流れにも見えます。商用車についても、ステランティスのグループではEVを出しているので実感があるのでしょう。今後は2021年に燃料電池車のバンを発売する計画を発表しています。

こうしてみていくと、ステランティスはグループとして電動化をかなり急激に進めているように見えます。実際の台数がどうなっているのかは不明ですが、もう売っているEVも少なくないですし、これから数が増えれば狙ったコストダウンもなんとかなるのかもしれません。

また最後のQ&Aの中で、ステランティスのカルロス・タバレス最高経営責任者(CEO)は、欧州のCO2クレジットについて聞かれて、今はもうヨーロッパでは規制に準拠していると答えています。そして今後はアメリカでも、コンプライアンスに準拠するという見通しを話しています。コンプライアンスに準拠というのは、おそらくカリフォルニア州のZEV規制のことだと思われます。

ヨーロッパのCO2規制については、テスラとのプールを解消したことで罰金の額がどうなるのかとも思いましたが、課題をクリアしているのかもしれません。詳しい分析が必要とは思いますが、少なくとも、テスラの協力が必要という認識は、ステランティスはもっていません。

ヨーロッパを中心としたEV化の流れは確定的になっています。ステランティスの14ブランドが電動化していくことで、動きはさらに早まりそうです。うかうかしていると(もうしている感じですが)、日本の立場はどんどん弱くなってしまいます。ステランティスの発表をひとつひとつ見ていたら、祈るような気持ちになってきたのでした。

(文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)3件

  1. | 2030年の230GWhは、EVの搭載量を1台あたり100Whとすると230万台分に相当します。

    単位が Wh になっていますが、100kWh ですね。

  2. 凄い勢いですね。少し前まで、アメリカ人はV8が好きなんだ!って豪語してメーカーもありましたけど、もはや関係ないですね。EVでもマッスルカー作ってやるぜ!に切り替わりましたね。ゲームチェンジを楽しみ始めているようにさえ見えます。それに引き換え日本のメーカーは…仕事で関わる先々でコスト一色で…なんだか全然面白くないんですよね。日本のEV事情は

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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