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トヨタが欧州で新型電気自動車続々投入を発表/EVのシェア獲得に本腰か?

トヨタが欧州で新型電気自動車続々投入を発表/EVのシェア獲得に本腰か?

トヨタは今年夏以降に、ヨーロッパで新型『bZ4X』、『C-HR+』、『アーバンクルーザー』、レクサス『RZ』シリーズと、新たなEV車種を続々と発売することを発表しました。欧州EV市場のシェア獲得に本腰を入れ始めたようです。

目次

欧州市場に続々と新型EVを投入

2025年3月12日、トヨタはベルギーのブリュッセルで開催した事業戦略説明会で、今年の夏以降にトヨタから3モデル、レクサスから1モデルの新たなEVを発売することを発表しました。また2026年までにさらに3車種のEVを追加することも明らかにしました。今年から来年にかけて、6車種のEVが欧州で登場することになります。

新たに発売が決まっているEVは、トヨタから新型『bZ4X』、SUVタイプの『C-HR+』、Bセグメントのエントリーモデル『アーバンクルーザー』の3車種と、レクサスの『RZシリーズ=RZ550e F SPORT、RZ500e、RZ350e』です。

いずれも今年後半から順次、欧州市場で販売が始まります。

2025年後半以降に発売予定の新型EV

【トヨタ】

新型bZ4X バッテリー容量57.7〜77kWh 航続可能距離445〜573km

C-HR+ バッテリー容量57.7〜77kWh 航続可能距離455〜600km

アーバンクルーザー バッテリー容量49kWh〜61kWh 航続可能距離約300〜400km

【レクサス】

RZ550e F SPORT バッテリー容量76.96kWh 航続可能距離450km
RZ500e/350e バッテリー容量76.96kWh 航続可能距離500〜575km

bZ4Xは小容量バッテリーモデルが追加

2022年に発売された『bZ4X』は、バッテリー容量などをアップデートして発売予定です。これまで欧州では71.4kWhだけだったバッテリー容量は、FWDでは57.7kWhと73.1kWhの2種類になります。AWDは73.1kWhの1種類です。

余談ですが、アメリカでは従来モデルでも、バッテリー容量がFWDでは71.4kWh、AWDでは72.8kWhと微妙に差をつけていました。バッテリー容量に差をつけた今回のアップデートモデルを北米でいつ発売するのかは発表されていません。

ドライブトレインの最高出力は、小容量バッテリーでは123kWなので従来の150kWより出力を抑えていますが、73.1kWhタイプはFWDが165kW、AWDが252kWで、それぞれ従来の150kW、160kWから向上しました。とくにAWDの出力向上が著しいです。

トヨタによれば、インバーターを一体化した電動アクスル(eAxel)にシリコンカーバイド(SiC)半導体を採用したことで出力、効率がともに向上しています。ハイパフォーマンスのGRシリーズ以外では、トヨタで最もパワフルな車になっているようです。

出力だけでなく、認証申請中のWLTPモードの航続可能距離は最大で573km(FWDモデル)になると予想しています。現行モデルでは最大約511kmなので約12%の延伸です。

bZ4Xのバッテリー容量の実用域は搭載容量の約9割程度というデータもあるのですが、公式データは非公表なので単純に搭載容量から電費を考えると、現行モデルでは7.16km/kWhなのが、新型の73.1kWhモデルは7.84km/kWhに改善しています。約9%の効率アップです。車の開発では1%の改善を狙うこともあるのに、10%改善することの意味は大きいです。

急速充電はCCS2対応です。受け入れ可能電力は、急速充電は150kWで変更はありませんが、車載充電器を使用した普通充電は従来の11kWから最大22kWにアップしました。

トヨタ 新型bZ4X 主要スペック

FWDAWD
全長×全幅×全高4690×1860×1650mm
ホイールベース2850mm
駆動FWDFWDAWD
モーター
最高出力123kW165kW252kW
一充電航続距離445km573km520km
0-100km/h加速8.6秒7.4秒5.1秒
駆動用バッテリー
総電力量57.7kWh73.1kWh
急速充電対応電圧---
発売時期2025年後半
※データは開発目標値や社内測定値などで変更の可能性あり

bZ4Xの兄弟車、C-HR+が新登場

bZ4Xより少し全高を低くした新型SUVが、兄弟車の『C-HR+』です。同じ名前のSUV『C-HR』は日本では2016年から2023年まで販売されていました。今回、EVになって戻ってくることになります。

bZ4Xの兄弟車ですが、バッテリー容量は少し異なります。小容量の方は57.7kWhで同じですが、大容量モデルは77kWhと若干、多くなっています。バッテリー容量の違いとともに、全高が低くなっているためか、航続可能距離はbZ4XよりC-HR+の方が少し長いです。モーター出力は、兄弟車でまったく同じです。加速性能も変わりません。充電性能も同じです。

マイナーチェンジしたbZ4Xや、新登場のC-HR+が日本に入ってくるかどうかの情報はありません。ただbZ4Xは日本でも現行車なので、導入しない理由はないのではと思います。

トヨタ C-HR+ 主要スペック

FWDAWD
全長×全幅×全高4520×1870×1595mm
ホイールベース2750mm
駆動FWDFWDAWD
モーター
最高出力123kW165kW252kW
一充電航続距離455km600km525km
0-100km/h加速8.6秒7.4秒5.2秒
駆動用バッテリー
総電力量57.7kWh77kWh
急速充電対応電圧150kW
発売時期2025年後半
※データは開発目標値や社内測定値などで変更の可能性あり

レクサスRZシリーズが全面改良

レクサスからは『RZ550e F SPORT/500e/350e』の『RZ』シリーズ3車種を発売することが発表されました。現行モデルからBEVシステムを全面的に改良し、モーターの高出力化、航続距離の延伸、充電時間の短縮を実現したそうです。

駆動方式はAWDとFWDで、AWDの最高出力は現行モデルの150kW+80kWから最高350kWと大幅にアップしています。

現行モデルの『RZ300e/450e』はプラットフォームに、BEV専用でbZ4Xと共通の「e-TNGA」を使用していましたが、新型RZではその記載がありません。ただし、FWDモデルはモーターの出力が同じなので、基本的な部分は共用しているのではないかと考えられます。

とはいえAWDモデルは、前後ともに最高出力167kWの同じモーター(おそらく同タイプのeAxel)を搭載するシステム構成なので、プラットフォームを共用しているとしても限られた部分になるのでしょう。

航続距離も大きく性能向上しています。欧州WLTPモードでの現行のFWDモデル「RZ300e」で295〜297マイル(475〜478km)だったのが、新型RZ350eでは575kmを目標値にしています。

バッテリー容量は8%程度増えただけなのに、20%以上も距離が伸びています。bZ4Xはモデルチェンジで航続可能距離が約12%伸びそうですが、さらに倍です。素直に驚きました。SiC半導体を採用したことのほかに電子系で大幅な効率向上があったことがうかがわれます。

仮想ギアを操作する機能はICE車への郷愁?

EV的な改良点のひとつは、バッテリーのプレコンディショニング機能の搭載です。ナビ設定か手動で充電前にバッテリー温度を最適化できます。レクサスは高級車ブランドなのだから現行モデル『RZ300e/450e』に搭載していてしかるべきだったと感じましたが、まずは先進他社に並んでよかったです。

ちなみにバッテリーの温度管理は水冷式です。いつか日本で試乗会などがあったら、開発担当者の方に液冷ではなく水冷にした理由も聞いてみたいです。

EV的という点では他に、トップグレードの『RZ550e F SPORT』にパドルシフトでマニュアルトランスミッションを操作する感覚で駆動力を操作する「インタラクティブマニュアルドライブ(Interactive Manual Drive)」という機能を採用しています。

8速の仮想ギアをパドルシフトで操作し、アクセル開度と車速に応じて算出した出力を組み合わせて駆動力を出すことができます。それに合わせて合成音とともに駆動力も変化させるようです。

音に加えて出力まで演出することの魅力は、正直、よくわかりません。EVはリニアに出力が出るのが特徴で、かつ気持ちがいい点だと思っているので、加速時の出力制御までICE車に近づけるとは思ってもみませんでした。

ICE車が忘れられないユーザーをターゲットにしているのはわかりますが、同時にシンプルなICE車への郷愁にも感じられます。郷愁を求めるためにも手間はかかるわけで、開発にどのくらいの工数をかけているのかが気になってしまいます。

<ステアバイワイヤはEVと相性が良いかも>

また、レクサスでは初めて『RZ550e F SPORT』に、ステアリングホイールと前輪が機械的に接続されていない、ステアバイワイヤのシステムを搭載しました。RZにステアバイワイヤを採用する話は、現行モデル発売前の2020年4月にもアナウンスがあったのですが、市販車への採用はありませんでした。

ステアバイワイヤを搭載するモデルでは、ハンドルは円形ではなく、フォーミュラカーなどのように円形の上下をカットした形状になります。舵角は中立から左右200度の範囲で操作できます。車速に応じてギア比を変えるだけでなく、反応速度も変化させて高速走行時の安定性向上も狙います。

EVの精緻なトルク制御技術とステアバイワイヤの組み合わせは相性が良さそうです。路面状況に応じたステアリングとトルクの精密な制御ができるとしたら、運転者の技能に依存しない姿勢制御ができそうです。

などなど、様々な新機能、新機軸を搭載した新型RZシリーズは、2025年後半に欧州で発売したあと、順次、地域を広げる予定です。日本でもすでに専用サイトを開設しているので、欧州からそれほど遅れない時期の導入も期待できそうです。

新型RZ特設サイト

レクサス 新型RZ主要スペック

RZ550e F SPORTRZ500eRZ350e
全長×全幅×全高4805×1895×1635mm
ホイールベース2850mm
車両重量2135〜2180kg2100〜2155kg1995〜2050kg
駆動AWDAWDFWD
モーター
最高出力前167kW/後167kW167kW
システム最大出力300kW280kW165kW
最大トルク前268.6Nm/後268.6Nm268.6Nm
一充電航続距離450km500km※575km※
電費184Wh/km(5.43km/kWh)166Wh/km(6.02km/kWh)144Wh/km(6.94km/kWh)
0-100km/h加速4.4秒4.6秒7.5秒
タイヤサイズ20インチ18/20インチ18/20インチ
駆動用バッテリー
総電力量76.96kWh
発売時期2025年秋以降順次
※データは開発目標値や社内測定値などのため変更の可能性あり
※18インチタイヤ装着車

スズキからの初のOEM供給

3月12日の発表ではもうひとつ、『アーバンクルーザー』の詳細発表もありました。アーバンクルーザーは欧州では2008年に発売された都市型SUVで、10年ほど前に絶版になっていましたが、EVになって名前が復活しました。C-HR+と似ています。

【関連記事】
トヨタ『アーバンクルーザー』への期待とエール/日本がEV戦争で負けないように(2025年1月5日)

電動ユニットとプラットフォームはスズキ、トヨタ、ダイハツの共同開発で、生産はインドのスズキ・モーター・グジャラートで行います。スズキからトヨタへの初めてのOEM供給モデルになります。

サイズはヤリスクロスより若干大きめのBセグメントです。幅が1800mmあるので日本では3ナンバーになり、コンパクトサイズとは言い難い大きさになります。

モーター関係は、アイシン、デンソー、トヨタがそれぞれ45%、45%、10%を出資するブルーイーネクサス(BluE Nexus)と、アイシン、デンソーが共同開発した電動アクスル(eAxel)を搭載しています。

アーバンクルーザーがICE(内燃機関)モデルだった時にはFWDだけでしたが、EVになって後輪に小さなモーターを追加したAWDも用意されました。スズキのリリースによれば、四輪駆動の制御技術はスズキが開発しました。

バッテリーはLFP(リン酸鉄)タイプで、容量は49kWhと61kWhの2種類です。価格は未発表ですが、LFPバッテリー搭載のインド生産であることなどを考えると、比較的安くなる可能性はあります。そもそもOEMには、たいていコスト低減に伴う低価格化の狙いがあります。

アーバンクルーザーが日本に導入されるというアナウンスはありませんが、スズキe VITARAは日本でも発売予定であることが発表されています。トヨタもぜひ、日本のEV車種拡充に参加してほしいなあと思いますが、本家のe VITARAと本国で競合することになるので、どうでしょうか。日本のユーザーとしては期待したいところです。

トヨタ アーバンクルーザー主要スペック

FWDFWDAWD
全長×全幅×全高4285×1800×1635mm
ホイールベース2700mm
駆動FWDFWDAWD
モーター
最高出力106kW128kW前135kW/後48kW
一充電航続距離300km400km350km
0-100km/h加速---
駆動用バッテリー
総電力量49kWh61kWh61kWh
急速充電対応電圧---
発売時期2025年夏以降
※データは開発目標値や社内測定値などで変更の可能性あり

都市型マイクロモビリティーも登場

最後になりましたが、説明会では都市型マイクロモビリティーのコンセプトカー、『FT-Me』も発表されました。全長2.5m未満のコンパクトなEVです。爆売れしたルノー『アミ』と同じ「L6e」と呼ばれる規格で、欧州の一部地域では14歳でも運転ができるクラスです。ティーンエージャーとプロフェッショナルの両方にカスタマイズできるオプションを提供するそうです。

屋根には太陽光電池を設置して、1日あたり20〜30kmの走行距離であれば充電の必要もなくなるとしています。まだコンセプトカーなので発売は未定ですが、ぜひ、出してほしいクラスです。心配なのは価格で、アミのような低価格になるかどうか。

ソーラーパネルやコネクティビティをアピールしているので、高くなってしまうのではないかと心配です。アミがヒットしたのはデザインとともに、価格の魅力も大きかったと思うのです。

超小型モビリティーは、若者だけでなく、日本なら高齢者にもマッチする乗り物です。残念ながら日本では規制の関係で2人乗りという汎用性の高い車を売ることができないのですが、ここはぜひ、欧州並みの規制緩和を期待したいところです。

トヨタ独自の魅力的な新型EVにも期待

今回の発表では、『アーバンクルーザー』と『C-HR+』で、過去のICE車の名称が復活しました。確かに名前が増えすぎると車のイメージもしにくくなるので、カローラ、セリカ、スターレットなど「昔の名前で出ています」は、アリではないかと思います。

トヨタのチーフ・ブランディングオフィサー、サイモン・ハンフリーズ氏は事業戦略説明会で、「トヨタのマルチパスウェイ戦略は非常に幅広く、各地域にふさわしい在り方があり、進化をしていく」と話しました。

その一環として、今回の新モデルの発表がありました。マルチパスウェイという言葉はさておき、トヨタも、欧州市場で一定数のEVが必要と考えているのは間違いありません。

今回のアーバンクルーザーはOEMですが、トヨタ独自のEVにも期待したくなります。オリジナルの小型EVが出てくれば、市場拡大の足がかりになりそうです。それが昔の名前への郷愁ですが、「27カローラレビン」とかだったりするとワクワクします。まあこれは個人的な好みですが、そんな日が早く来てほしいと思うのです。

文/木野 龍逸

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この記事を書いた人

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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